「ここが神羅軍事学校か……」
神羅本社ほどではないが、それでもかなり立派な建物だ。
まさか今更学校に来るようなことがあるなんて思いもしなかった。
「クラウド・ストライフ隊長ですね。ハイデッカー統括よりお話は伺っております、どうぞこちらへ」
入り口で待っていた男の教員に案内され、俺は中へ入っていく。
「生徒たちと模擬戦をして欲しいと伺っているのですが……」
「そうですそうです、生徒たちに本物の戦場を経験している方々の戦い方を教えて欲しいんですよ。学校の教官も元戦士の方々なんですが、やはり今の現場を知る方のほうが実戦的でいいでしょうし」
目の前の教員もスーツで隠れてはいるが、筋肉の付き方や足の運びが訓練した人間のそれだ。
男は少し苦笑いをしながら、さらに口を開く。
「実はですね……今年の2年生に優秀な子がいるんですが、優秀すぎて私たちでは持て余してしまっているんです」
「優秀なのに持て余してるんですか?」
教員の男は少し声を潜めながら、その生徒がいかに優秀かを話し始める。
「総合成績では主席には届かないんですが、実技の方で素晴らしい生徒がいましてね。成績優秀者に渡すエンブレムも3つほど獲得してますし、座学もしっかりしていい子なのは間違いないんですが……」
「何か問題でもあるんですか?」
成績が優秀で他の生徒とも問題がないのであれば特に悩むこともないように思えるが……。
「えぇ、実は彼女のモチベーションを私たちでは維持することが出来ていないんです。彼女に座学こそ教えることは出来ますが、実技に関しては学校で教えられることはもうないんですよ、後は実戦経験を積んでもらうか、もっと上のプログラムを受けて欲しい所なんですが」
詳しい話を聞くと、その生徒のお姉さんがタークスとして神羅で働いていて、そのことにコンプレックスを抱いてるらしい。
本人が望むなら在学中からもっと上のプログラムを受けることも出来るのだが、そのプログラムを受けて突破すると、ほぼタークスへの配置換えが決まるようだ。
「生徒の大半は特別なプログラムを受けることを目標にする子もいるくらいです、彼女はその資格は十分あるのですが、本人のやる気がないのでは受けさせるわけにもいきません」
さらに悪いことに、そんな彼女の有能さに嫉妬した他の学生から嫌がらせを受けているらしい。
その嫌がらせをなんとかしたいが、本人の希望がないとプログラムを受けさせることも出来ないため、教員達は手をこまねいているとのことだ。
「なので、今回みたいに外部から人を招いて訓練させるのはいい機会なんです。嫌がらせをしている生徒にはいい薬になるでしょうし、いまいち上を目指すことを望んでないイリーナ君には刺激にもなるでしょう」
手加減無用で思い切り戦ってくださいと念を押されてしまったが、生徒たちと交流するといっても一日の訓練時間の短い期間だけだ。
その時間で俺は一体何を伝えることが出来るだろうか……。
「今日の特別訓練楽しみだねイリーナ!」
「そうね、治安維持部門でもなく、タークスでもない人が来るなんて珍しい物ね」
友達に明るく声を掛けられたが、私も今日を楽しみにしていた。
普段の訓練では物足りなくなってきたし、かといってタークスになるためのプログラムを受けるなんて嫌。
私はお姉ちゃんみたいに主席で卒業なんて出来ないし、あんな真面目一辺倒な姉を見返すため、あえて姉が得意な銃ではなく、格闘に力を入れて来た。
おかげで格闘に関して言えば、上級生相手にしたって負ける気がしない。
まぁ、そのおかげで、一度上級生も訓練で叩きのめしちゃったし、教官からも実技で教えられることはもうないと言われてしまった。
これより専門的な訓練を受けるにはタークス候補生として、タークス専用プログラムを受ける必要があると言われたが、お姉ちゃんがいるタークスに行くつもりはない。
もしも行くならソルジャー部門だろうか?
簡易検査では適性が認められたし、より強くなれるというならそっちで結果を残し、お姉ちゃんに私のすごさを見せつけてやりたい。
今日は治安維持部門でも、タークスでもない外部の人が招かれると生徒たちの間ですでに噂になっていた。
つまり、ソルジャーの人が来る可能性が高いのだ。
ソルジャーといえば英雄セフィロスをはじめとして、最近ではソルジャー部隊としてザックスさんという人の部隊が功績を上げているとニュースでしきりに流れている。
そんな人たちに教えてもらえる絶好の機会だし、あわよくば先輩方に私の名前を憶えてもらいたい。
いずれソルジャーになった時のためにも。
「みてみて、無茶苦茶かっこいい人だよ、ソルジャーさんかな?」
「多分そうね、見て、背中に背負ってる武器。タークスは色んな武器を持つけど、ソルジャーの人たちは基本的に剣を持つことが多いから」
訓練室に入って来た金髪の人は、私たちよりも少しだけ歳が上に見える。
背中には神羅の広報で最近よく見る、ザックスさんが背負ってるものと同じ形状の剣を背負っていた。
もしかするとソルジャーでもエリートの人たちに配られる、特別な装備なのかもしれない。
「皆さん初めまして、神羅兵器開発部門から来ましたクラウド・ストライフです。皆さんとは歳も近いので少し上の先輩だと思って気軽に接してください」
えっ、兵器開発部門?
たしかに兵器開発部門の人が来ることもあるが、ほとんどが座学における講演会なんかで、訓練室に来ることはなかったけど。
少しみんながざわざわし始めたところに、担当の教官が口を開く。
「こら、静かにしろ! クラウド・ストライフ隊長はこの若さで兵器開発部門実験部隊の責任者の地位についている人物だ。今日はお前たちに特別訓練をしてもらうために来てもらったんだ」
実験部隊? つまり新しい兵器のテストなんかをしてる人たちってことよね……。
もしかして新兵器や装備を使った演習なのかしら?
困ったな、私の得意科目は格闘術なのに。
違う子が手を上げて質問する。
「はいはい! つまり今日は武器や兵器の扱いなんかをするんですか?」
「いいえ、皆さんと模擬戦して、その後個別で質問などがあれば受け付けていく感じですね。訓練では中々味わえない経験を皆さんにはしてもらいます」
模擬戦。
つまり、この人と戦えるってこと?
たしかに鍛えてそうだけど……。
「兵器開発部門って技術士官の人がいく部署ですよね、本当に戦って大丈夫なんですか?」
実技に自信がある同期の男が胡散臭い目でクラウド先輩を見る。
全然私に勝てない癖に、実技の成績がクラスで上から数えたほうが高いというだけの男だ。
たしかに神羅で作られているスイーパー相手の訓練なんかもさせられるが、はっきり言って今では物足りなくなってしまった。
歯ごたえのある新兵器が相手なら面白そうなんだけどなぁ。
「時間も惜しいですので、さっそく始めましょうか。皆さんの好きなタイミングで攻撃して頂いて結構ですよ」
この一言にクラスの雰囲気が変わる。
去年来た治安維持部門の人たちは一対一の試合形式だったし、来てた人も複数人いて、交代交代相手してた。
ある意味挑発的な発言だが、私たちを子供扱いしているならその鼻っ柱を叩き折ってやる。
そう思っていると、誰かがいきなり銃で発砲する。
しかし、弾が当たることはなく、いつの間にか構えた剣で弾かれる。
「理解が早いみたいで助かるよ。徒党を組んでもいいし、隙を狙ってもいいから時間いっぱい挑んでみてくれ」
そこからはすごかった。
クラウド先輩相手に隙を作れた子は一人もいなかったし、誰かがマテリアのファイアを放ったが、剣で一刀両断されてしまった。
私もクラウド先輩に向かって全力でダッシュし、上段から思いっきり蹴りを入れる。
しかし、私の攻撃は簡単に見切られ、半歩後ろに下がり剣の柄で私の蹴りを受け止める。
そしてそのまま足を掴んで投げ飛ばされてしまう。
なんとか受け身は取ったが……強い! 今まで戦ってきた人の中でもトップクラスに強いかもしれない!
私はすぐに体勢を立て直す。
すると他の生徒たちが徒党を組み、一斉にクラウド先輩に襲い掛かるが、すべての攻撃は当たることなく、攻撃は捌かれていく。
そして一人ずつ、確実に戦闘不能にしていく。
「くっ、一斉に遠距離攻撃を打ち込め!」
誰かがそう叫ぶと、手持ちのマテリアや遠距離武器を持っている子たちが、一斉射撃を始める。
これはもう訓練のレベルではない、大怪我どころか死人が出る可能性もある、危険な攻撃だ。
さすがにこれはヤバいと思い、止めに入ろうとするがクラウド先輩は全ての攻撃を華麗に躱しながら、集団の中に紛れ込み、一人ずつ確実に戦闘不能にしていく。
そして、気が付けば立っているのは私たち二人だけになっていた。
クラウド先輩は息一つ切らしていないが、私は肩で息をしている状態だ。
悔しい……こんな強い人がいたなんて!
クラウド先輩からは一切攻撃してこなかったし、きっと手加減されてる。
正直勝てる気がしない……でも! 私は全力でクラウド先輩に突っ込む。
渾身の蹴りを入れるが、剣の柄で受け止められる。
そのまま足を掴まれて投げ飛ばされるが空中で体勢を立て直し、着地と同時にもう一度クラウド先輩に突っ込む。
今度は拳で剣のガードを上から連続で叩きまくる。
剣を振る余裕を与えず、こちらは攻撃の手を緩めない。
相手が無理やり距離を離そうとしたり、攻撃しようとした瞬間を狙う。
「ここだ!」
拳の連続攻撃に相手が慣れたところで、カウンターを合わせてくる。
私はその瞬間、足で剣の持ち手を蹴り上げる。
「くっ……」
完璧なタイミングで蹴りを入れた。
このまま武器を弾いて、素手格闘に持ち込めば……。
しかしあまりにもあっさりと剣は空中を舞っていく。
ちがう、私が蹴り上げるタイミングで剣を手放したんだ!?
片足が上がりきってるうちに、軸足を捕まれ、そのまま体勢を崩される。
私は受け身を取ってすぐに立ち上がるが、目の前にクラウド先輩が迫っていた。
顔面に向けて拳が飛んでくるのが見え、咄嗟にガードしようと腕を動かすが……間に合わない!
しかし、顔に当たる寸前で止まる。
「これで訓練終了だな、みんなお疲れ様」
向けられた拳は開かれ、私の手を優しく取ってくれる。
体を起こされ、そのまま握手してくれる。
私が呆然としていると教官がクラウド先輩に声を掛ける。
「どうでした、学生たちを相手にした感想は」
「そうですね、皆さん良い動きをしていて驚きました。特に最後の子は本当に強かったですよ」
「それは良かった! では今の模擬戦を踏まえて、クラウドさんに戦闘の解説をお願いしましょう」
そこで個人の武器の使い方や、集団戦での戦い方。
逆に自分が一人の時に多人数を相手する場合の戦い方など、様々なことを教えてもらう。
「質問です、兵器開発部門の実験部隊っていったいどんなことをしてるんですか?」
最後の方には質問の時間が設けられ、誰かが質問する。
普段は新兵器や装備のテスター、またはそれらを効率的に運用する方法を考える部隊のようだ。
「と言っても、無人兵器を除けば俺一人だけの部隊です。他には治安維持部門から人を借りることもありますが、ゆくゆくはこちらの学生さんの配属先になる可能性もあります」
タークスなんて入る気はなかったけど、こっちの方も面白いかも。
それに新設されたばかりの部隊で人が少ないなら、仕事も回ってくるだろうし。
ソルジャー部門よりもいいかもしれない。
「私も質問いいですか!」
「時間もそろそろですから、イリーナさんの質問で最後にしましょうか」
あっ、いつの間にか名前も憶えられてる。
もしかして最後まで粘れたから好印象なのかも、これは聞きやすくなったわ。
「兵器開発部門の実験部隊ってどうすればなれますか? タークスみたいに特別なプログラムで内定みたいな制度ってできるんでしょうか?」
クラウド先輩は少し考えこむと口を開く。
「現状人員補充の予定はまだないんだ。それに特別プログラムのことは聞いてるけど、それはタークスと学校を管理する治安維持部門の管轄だからうちで何か学校にプログラムを組む予定も未定かな」
言われてみればその通りの答えだが、少し残念。
タークス以外に入りたいけどソルジャー部門にも訓練プログラムとかはないし、せっかくなら学生のうちにもっと色々学びたいのに。
もし可能ならクラウド先輩にもっと鍛えてもらいたかったけど、次に機会があるのは来年だろうし。
今日は有意義な時間だったけど、明日からの訓練との落差を考えると少し複雑な気分……。
7/3の更新を予定しておりましたが、せっかくの7月です。
急遽一人FF7祭りと称して、これから一週間7/1から7/7までの19時に連続更新してみようと思います!
実は第1話から7話まで一週間連続更新をしてたので、あの時の大量に投下される楽しみを、現在お気に入り登録して頂いてる皆様に体感して頂きたく、ちょっと頑張ってみたくなりました。
現在ストックがこの話を合わせて4つあり、随時書き上げていく予定です。
それに合わせて感想返信もなる早を心がけ、皆さんのお力をエネルギーに書き上げたいと思います。
感想返信でちょこちょこ、新キャラも近いですねと言ってた正体はイリーナでしたね。
年齢の公式設定がないのですが、原作初登場がタークスの新人で、一年前学生だったことから本編初当時を19歳仮定とします。
現在クラウドが19歳なので、二つ下の17歳の学生さんです。
毎日更新ですので、感想を送ってくださる方々にもご負担かけるやもしれませんが、連続でも、初見さんでも感想すべて読ませて頂き返信させて頂きますのでお付き合いよろしくお願いします。
誤字脱字のご報告もいつも本当にありがとうございます。
前回から誤字脱字のチェックにツールを導入しましたが、それでも抜けてくる誤字が出てきます。
毎日更新で、そのあたりも怖いのですが、頂いた報告もなる早でチェックして反映させて頂きます。