仕事をしてると時たま無茶なことを言われることがある。
そもそも出来ないことだったり、対費用効果がなかったり、ノウハウがない、前例がないなど、とにかくあまり聞き入れたくないような奴。
基本的に現場をわかっていない上司や顧客が言ってきたりするから、そんなときは適当に上手い事出来ませんって伝えるんだけど、今回はちょっとわけが違う。
「というわけで何とか神羅学校で兵器開発部門に来たがる学生向けの訓練プログラムをカリキュラムに入れることは出来ないでしょうか?」
クラウドが相談してきたのは、神羅学校から兵器開発部門、もっと言えば実験部隊に人を呼ぶためにこんなこと出来ないでしょうかという話。
たしかに技術者としての枠は持ってるんだけど、戦闘できる人員ってタークスに成れそうな人が優遇されて、その後ソルジャー部門が持ってくもんね。
んで、それに溢れたのを全部治安維持部門が持っていく。
うちとしても実験部隊に人が欲しいから、それ専用の枠が欲しい所ではあるけど、学校のカリキュラムにねじ込むとなると色々と調整が必要だな。
「誰かいい人材でもいたかしら?」
「はい、何人かうちに興味を持ってくれた学生がいますし、中には優秀そうな人材も」
そう言ってクラウドが渡してきたのは、学生のデータ。
中を見ると個人成績や、教官の評価などが書きこまれており、その中に一人見覚えのある名前を見つける。
「いきなり制度は変えられないけど、一人位ならスカウトの名目で優遇出来るわよ。どの子がクラウドのお気に入りなの?」
「それでしたら、彼女を候補生として訓練させてもよろしいでしょうか?」
案の定俺が名前に反応した生徒を指定する。
うん、才能あるのは確定だし、今のうちに味方に出来たらいい感じかも。
俺の権限でとりあえずハイデッカーの方には話を通しておくかな。
「おい、イリーナ。あとで職員室の方へ来てくれ、進路のことで相談したいんだ」
はぁ~またか。
一度断ったのだが、タークスに入るための専用訓練プログラムを受けないかと教官に言われている。
そりゃ、今の訓練以上に専門的な戦闘訓練を受けられるのは魅力的だけど、お姉ちゃんと同じタークスに入らなきゃいけないなんて嫌だ。
「来たな、おっ、そのむくれた面はタークスの話なんか聞きたくないって顔だな」
「当然です、教官もわかってるなら答えは知ってますよね」
この教官は比較的クラスで浮きがちな私にも話しかけてくる。
お世話になってるし、教官の顔を立てたい気持ちはあるがそれとこれとは別問題だ。
「ちがうちがう、良いニュースだ。ずっとタークスプログラム以外の訓練を受けたいって言ってたろ。兵器開発部門からお前を名指しで研修生として教育を受けさせたいって話が出てる」
「えっ、兵器開発部門ってこの前クラウド先輩が来てたところですよね!?」
「そうだ、話だけでも聞いてみないか?」
とりあえずタークス関係じゃないことはわかった。
話だけでも聞いてみよう。
「わかりました、是非聞かせてください」
「よかった、実は先方を来客室に待たせてるからさっそく移動しよう」
「えっ!? クラウド先輩が来てるんですか!」
「そうそう、隊長直々にいらしてくれたんだぞ。しっかり聞きたいことがあれば質問しろよ」
来客室に移動すると、訓練で着ていた服じゃなくて、ビシッとしたスーツに身を包んだクラウド先輩がいた。
私一人のために特別な教育と言われて、喜びもあるがそれ以上に緊張感が勝ってしまう。
柄にもなく胸の鼓動が落ち着かなくなっていると、資料を取り出したクラウド先輩が優しく声を掛けてくれた。
「あぁ、そんなに緊張しないでくれ。今日は俺の部隊にスカウトをしに来たんだ、まずはその話から始めさせてくれ」
机の上に資料が並べられる。
どうやら学生でありながら、神羅の一社員として扱われ、本社でトレーニングを受けさせてもらえるらしい。
給料も出るし、学校の単位も訓練や仕事内容で学校側から認定してもらえる。
「学生のうちからこういった待遇に前例はないんだが、テストケースとして始めたいと思ってる」
「これって卒業後は兵器開発部門に内定ってことですか?」
「あぁ、そのまま俺の実験部隊に入ってもらう。イリーナの努力次第では副隊長として部隊に所属してもらうことも考えてる」
「どうしてそこまでしてくれるんですか? たしかに私実技の成績は良いですけど、主席ってわけじゃないですし、タークスの方を断ってる変わり者ですよ」
自分は優秀な方だと思うけど、総合成績で言えば上はいるし、兵器開発部門なら武器の扱いに関してはもっと適任な子がいる。
それにタークスプログラムを断ってる生徒というのは普通いないらしく、そう言った意味でも私は浮いている自覚はある。
「そうだな……イリーナならきっと今以上に結果を出せると思ったから、今のうちに才能ある人材を青田買いしてるって感じかな」
クラウド先輩は、ちょっと照れくさそうにしながら答える。
「私……そんなご期待に応えることが出来るでしょうか?」
正直今の私の実力じゃクラウド先輩の足元にも及ばない。
たぶんこの人はタークスよりも強い、そんな人に期待を寄せられてるのはうれしいけど、そんな風になれるとは思えない。
どうせならお姉ちゃんみたいな人が相応しいんじゃないかと、柄にもなく思ってしまう。
「実は俺も最初はソルジャーを目指したんだが適性が無くて、兵器開発部門に拾ってもらったんだ」
私の不安に対して、クラウド先輩は自身のことを話してくれた。
ソルジャーを夢見て田舎から出てきたこと、でも適性がなく夢破れたところを兵器開発部門の統括に拾われたこと。
最初は武器のテスターとして働いて、そこから実力を示し、今の地位にいること。
「そう言った意味じゃ、当時の俺なんかよりも今のイリーナの方がずっと優秀さ。それに一人で出来ることに限界を感じてるんだろ」
たしかに今のまま学校で訓練をしても、現状は変わらないだろうし、いい機会なのかもしれない。
「そのお話お受けします! クラウド先輩よろしくお願いします!」
私は立ち上がり頭を深々と下げる。
ちょっと恥ずかしいけど、クラウド先輩の下でゆくゆくは副隊長なんて夢のような話だ。
こんなチャンスは二度とないかもしれない。
私はこの話を受けることに決めた。
それからというもの、兵器開発部門に出向して訓練漬けの毎日が始まった。
最初は座学や実技など一般的なカリキュラムだったものが徐々に専門的な物になり、次第に実戦的な訓練も始まったのだ。
シミュレーションを使って様々な仮想敵を相手にしたり、時に兵器開発部門で開発中の新兵器の相手もさせられた。
「神羅の兵器を相手にするのって意味あるんですか? アバランチや対人戦はともかく」
「そうだな、一部の兵器は敵に鹵獲されて使われることも多いし、テロリストが新しく作る兵器もうちのものをベースに研究されてることが多いんだ。今のうちに癖や動きを覚えておいて損はないぞ」
とにかく経験を積んで損はないと、色んな相手と手合わせさせられた。
学校ではありえないレベルの高さ、でも私が出来るギリギリのラインを突いてくるし、訓練中はクラウド先輩が付きっきりで指導してくれる。
「格闘が得意なのはわかってたから、次は武器の扱いも一通り覚えよう。自分が使いこなせるようになれば相手にした時の動きもわかるし、もし他に適性があればサブウェポンとして戦術に組み込むことも考えてみよう」
「これだけの種類全部試すんですか!」
「俺も全部やった、適性が分かればオーダーメイドでスカーレット様に装備を作ってもらえる。相手してやるから一つ一つ試すぞ」
「も~終わったら甘い物ごちそうしてください!」
「わかった、食堂で好きなだけ食べさせてやる」
「やった! その言葉忘れないでくださいよ」
ほぼ毎日顔を合わせてるうちに先輩ともだいぶ打ち解けた。
神羅の若手で一番の出世頭と呼ばれているけど、偉ぶったりは全然しないし、私が過ごしやすいように気を使ってくれてる。
兵器開発部門トップのスカーレット統括にもお会いしたけど、私のことは全面的に先輩が責任を取る形で今回のスカウトが実現したと聞かされた。
そのことを先輩に聞いてみたら。
「俺の時はスカーレット様がそうやって引き上げてくれたんだ、俺はイリーナなら付いてこられると確信してるからな」
も~なんて人のことを喜ばすのに慣れた先輩なんだ!
訓練から勉強、それに社会人としての何たるかも叩きこまれた。
あまり自分とばかり訓練して癖がついても良くないだろうと、ソルジャーの人にも協力してもらってる。
「おっ、ついにクラウドにも後輩が出来たか。俺はザックス! よろしくな」
まさかソルジャー部隊を率いる隊長格を呼ぶなんて思わなかったけど。
なんでも、入社した時からの仲らしく、今でもライバルとしてお互い高め合ってるとか。
「クラウドが自分で選んでスカウトしたって聞いたからどんな奴かと思ったら、こんなかわいい子だったとはな」
「えっ、いや~いくら本当のことだと言え照れちゃいますよ」
「見た目で侮るなよ、俺の自慢の後輩だ。もちろん中身もザックスの所の部隊に引けを取らないぞ」
そんなわけでソルジャーさんたちと合同で訓練することもしばしば。
試しにザックス先輩の後輩さんたちと戦った時には……。
「おい、クラウド……一体どんな訓練させてんだ」
「俺がやって来たものを彼女向けに改良したやつだな」
「あぁ……OK理解した。そりゃ強くなるわ」
「ザックスの所と違って一人しかいないからな、付きっ切りで訓練出来るし、リソースを全部イリーナにつぎ込める」
かなりギリギリだったけど、勝ち抜き戦で5人まで倒せてしまった。
私自身もこの結果に驚いてる。
「あの手榴弾蹴り飛ばして当てるのってお前が教えたのか?」
「俺が剣で弾くのをイリーナなりにアレンジしたんだ。センスもいいし努力家だ、ザックスの後輩を可愛がりたくなる気持ちが今ならよくわかるよ」
「今、私のこと可愛いって言ってませんでしたか!」
「そうだな、自慢の後輩だって話だ」
今の私、無茶苦茶訓練を楽しんでる。
自分の限界をずっと更新してる感覚があるし、クラウド先輩の下ならもっと上を目指せるような気もする。
学校で停滞して、お姉ちゃんのことを気にしてたのが嘘みたいだ。
「それじゃ最後に俺とザックスの模擬戦をみんなに見てもらおうか」
「おうよ、集団戦じゃ負けたが、一対一ならまだ負けないぜ」
「ふっ、どうだかな」
「おっ、可愛い後輩にいい所見せるつもりかもしれないけど、手は抜いてやんないかんな」
ザックス先輩もすごいけど、やっぱりクラウド先輩はすごい。
二人の戦いはまるで次元が違う、でも……私もいつかクラウド先輩と肩を並べて戦えるようになりたい!
神羅学校からイリーナをスカウトして正解だったな。
見る見るうちに力を付けてくし、俺との訓練も積極的に取り組んでくれる。
タークスプログラムを蹴ったのも、俺が声を掛けたからと噂になってたし、イリーナが優秀だと証明できただけでも大きな収穫だ。
「先輩私の装備っていつ出来上がるんですか?」
「今スカーレット様がデータを解析して試作品を作ってくれてるから、近いうちに出来上がるはずだ」
「そうですか! 本当にうちの統括は優秀ですよね。同じ女として憧れちゃいます」
スカーレット様への接し方も良いし、女同士だからか話も合うようだ。
これなら俺がいない時の護衛も任せられそうだし、部隊運用の時も彼女がいれば心強い。
少し無理を言った自覚もあるが、スカーレット様が後押ししてくれて助かった。
少しイリーナに肩入れしすぎてしまってるのではないかと思ったが、スカーレット様もそうして俺を拾い上げてくれたんだ。
きっちりと結果を出せば周りも認めてくれるだろうし、それまでは俺が彼女の防波堤になろう。
人を育てるのは大変だが、学ぶことも多い。
まさか手榴弾を蹴り上げて相手に投げつけるなんて発想は俺からは生まれなかった。
ザックスやヴィンセントが良く訓練を付けてくれたのは、こういった意味もあったんだな。
ハイデッカー統括が部下を育てろと言った意味もよくわかる。
「そうだクラウド先輩! 今度ミッドガルに美味しいケーキ屋さんが出来たらしいんですけど一緒に行きませんか!」
「ケーキ屋……」
あまりそう言ったものを食べに外出はしないのだが、休みの日は自主トレ以外にも少し休むようにスカーレット様に言われてる。
たまの休日はザックスの彼女さんの手伝いなんかをしていたが、後輩とコミュニケーションをとる日があってもいいだろう。
「わかった、ついでにレストランで食事でも取ろう。ちょうどお食事券を余してるんだ」
「おぉ、これってカップルに人気の予約が中々取れないところのじゃないですか! まさか先輩、私のために!」
「部門対抗で交流戦した後治安維持部門の宴会に参加してな、ビンゴ大会でもらったんだ」
スカーレット様を誘ってみたが、自分の金でいつでも行けるから、せっかくなら誰かを誘えと言われてしまった。
イリーナが喜んでくれるならちょうどいいだろう。
「その代わり、今日の訓練はもう少しレベルを上げていくぞ」
「おっす、実験部隊期待の新人。どこまでもクラウド先輩のお供しますよ」
元気いっぱいでザックスとはまた違ったタイプの人懐っこさだ。
なんだか、一緒にいると故郷にいた時を少し思い出す。
ティファは元気にやっているだろうか?
連続更新第二弾。
イリーナの立場は学校の席はそのまま、研修生として神羅兵器開発部門実験部隊に所属してます。
教育係はもちろんクラウドなので、基本的に彼女が何かしたら責任はクラウドが背負います。
スカーレットからするとネームドキャラで、クラウドをスカウトした時のように才能があるのがわかりきってるからのごり押しです。
後輩を持つことで先輩としての自覚が出てくる作用も期待してます。
一方クラウドからすると、頼りになる副官が欲しいのと、イリーナを見てるとなんだか過去の自分を見てるみたいで、少し情が湧いてます(もちろん才能も見抜いてること込みですが)
クラウドのイリーナへの接し方は、敬愛する上司スカーレットや、コミュ力お化けのザックスを手本にしてるので、好感度を稼ぎまくってます。
ちなみにザックスとクラウドどっちが強いのかは問題は、どっちも強く、どちらが勝ってもおかしくないです。
模擬戦で勝った描写はありますが、あくまで集団戦の結果なので、次戦えばどうなるかはわかりません
ザックスはクラウドとの訓練に加え、セフィロスとも積極的に訓練してるので原作より強いです(武器に関してもスカーレットの影響でやや高スペックになってます)
一応訓練の勝敗的には、ややザックスが勝ち越してる、しかし今後逆転される可能性も大いにあるイメージ。
イリーナもクラウドブートキャンプで改造されてます。