神羅はやはり利用価値のあるスポンサーだ。
多大な資金に研究設備、何より手に入るサンプル数が非常に多い。
それらはすべて申し分ないのだが、唯一の不満は社長の持つ約束の地などという幻想を追い求める姿勢だ。
正直ガスト博士が提唱した古代種のプレゼンは、科学に疎い一般人に夢を持たせるだけの魅力があるのは認めよう。
まさかその夢物語にこれだけの企業のトップが心酔するなどバカげているとしか言いようがない。
金を出してもらってる手前、正面から文句は言えないが、私のソルジャー計画がどれだけの結果を出したとて、いつも追及されるのは約束の地へ至る道を探すことだった。
理解力のない人間に物事を教えるのは苦労する。
その風向きが変わったのは、副社長がソルジャー部門の統括になってからだ。
副社長はソルジャーの出来に……最も一番評価してるのはセフィロスだろうが、科学開発部門の功績を大いに理解している。
約束の地など後回しにして、魔晄とソルジャー研究の優先順位を高めることを良しとした。
現場から上がってくるデータも良質なものが増えたし、捕まえたサンプルを相当数こちらに回してもらっている。
以前は兵器開発部門にも実験台と称していささか取られていたのだが、自前のテスターを用意してから割合が大幅に減ったことも関係してるのだろう。
おかげでホランダーが大量に作り出した失敗作も解析することが出来て、G細胞の培養も成功した。
これがあればソルジャー化における魔晄中毒者を減らすことは容易に可能だろう、その代わり質は下がってしまうがね。
あまり答えがわかりきったくだらない実験をするのは好きではないのだが、どうも凡人たちにはこういったことの方が受けがいいらしい。
いつだったかのガードハウンドを少し改造した時もそうだ、私自身はこれといった価値を見出せなかったが、あれらを口実に予算やサンプルの確保も出来た。
少なくとも私にとってプレジデントを相手にするよりも、副社長を相手にした方がずっと研究効率がいいことは明白だ。
科学開発部門としても副社長の後ろ盾になってやったが、他の部門も手懐けて上手くやってるらしい。
私を取り巻く環境は改善されつつあるだろう。
「宝条博士、G細胞を投与し魔晄照射時間を短くした新型ソルジャーの実験データが出ました」
「ふむ……まぁこの程度だろう」
「それにしてもソルジャー計画の改善を求められて、これほど早く仮説を実証させるとは流石は宝条博士ですね」
頓珍漢なことを聞いてくる男だ。
こういった奴を実験台にしづらくなったことに少し不満を覚えるが、改善されつつある面が多いのだ、多少のことには目を瞑ろう。
「君ねぇ……こんなの当たり前のことだよ、そもそも魔晄中毒者というのは過剰な魔晄をその身に浴びることで起こる現象だ。浴びせる魔晄の量を減らせばかかる負担が減るのなんて子供でも分かる。それに私が失敗作から培養したG細胞は細胞のコピー能力を殺しているから劣化が起こることもない、それらを組み合わせれば確かに魔晄で強化した兵は出来るが、ソルジャーの劣化品しか生まれないよ。本来ならソルジャーと名付けるのもおこがましい。凡人たちに理解しやすいようにその名を付けたが、あれを既存のソルジャーと同一視されても困るのだよ」
ホランダーの奴はG細胞のもつ他者に自分の情報をコピーする能力、これをG細胞の優位性などと思っていたようだが、私に言わせればこれは優位性などではなくただの欠陥だよ。
コピーをするたびに自分の細胞情報を流失し、本体が急激に劣化していく。
ジェネシスとアンジールというソルジャーは確かにセフィロスを除いたソルジャーの中で結果を残していたが、一度劣化が始まればもう元の力は取り戻せない。
治療を試みたとの話だったが、結局のところ欠陥を優位性などと見誤ったばかりに問題点を解決することはついぞ出来なかったようだ。
正直な話劣化を止めるだけなら大したことはない、能力を使わなければ劣化は急激には進まないし、その間に能力を抑えてしまえば対策は容易だ。
しかしそれをしてしまえば、ソルジャーとしての身体能力の向上という恩恵を手放すことになる。
ホランダー、結局のところお前は最初から見誤ったのだ。
偽物を本物と科学センスのなさゆえに間違え、その事実を認められない。
ガスト博士もそうだ、センスは誰よりもあったが、古代種とジェノバを間違えた。
「これから量産されるソルジャーは既存のソルジャーの完全な劣化品だ。まぁ、完璧なソルジャーたちのためのサンプル、ソルジャー部門でも部隊編成にはやはり安定して数の供給が必要ゆえに、無価値ではないだろうが、科学的にはこれといった価値もない」
セフィロスを超えるソルジャーなど、この先現れないだろう。
だからこそ、ソルジャーを部隊化し、運用方法自体を変える副社長の発想は実に合理的だ。
セフィロスの訓練相手に、ザックスとかいうサンプルが率いる部隊がそれなりに相手になってるようだが、セフィロス相手にはまだ足りない。
ならば私の方で退屈しない相手を用意してやってもいいだろう。
セフィロスの相手を無理にソルジャーに拘る必要もない、ソルジャーの最高傑作はセフィロスという存在が証明している。
「宝条博士、クラウド君が来ましたよ」
別の研究員が声を掛けて来た。
下らぬことをいちいち説明して喉が渇いてしまったよ。
ちょうど優秀なサンプルも来たことだし、少し飲み物を飲んでクールダウンするとしよう。
「今一服をしようとしてたところだ、おい、コーヒー」
先ほど私が丁寧に説明してやった研究員は、一目散にコーヒーサーバーへと向かっていく。
せめてこれくらいの雑用もこなせぬようでは、実験台以外に存在価値がないからな。
データを取る前にこうして少し話し合う時間を設けるようになった。
目の前の金髪のサンプルは知能にも優れていて、会話のレスポンスが早い。
ヒアリングで新しい仮説が思い浮かぶことも多いし、こちらが提案した実験内容を正確に理解しようと知恵を働かせる。
時折サンプルとしての視点から、科学者にはない発想を出すこともある。
「宝条博士、今日もよろしくお願いします」
「あぁ、今日もよろしく頼むよ、コーヒーもすぐに出るから、座ってくれ」
いつもならすぐに座るのだが、隣にもう一人いるな。
「紹介します、同じ部門のイリーナです。今は研修社員という扱いですが、ゆくゆくは実験部隊の副官を任せようと思っています」
「紹介に与りましたイリーナです! よろしくお願いします!」
ふむ、ずっと彼一人の部隊だったが、ついに部下を持つようになったということか。
そして私に紹介するということは……。
「ここに連れてきたのは単なる顔合わせが目的じゃないんだろう?」
「はい、俺が今までやって来たプログラムを受けさせることは可能でしょうか?」
新しい戦闘データを提供するサンプルを連れてきてくれたというわけか。
ここに連れてくるということはそれなりに出来るのだろう。
「無論可能だよ、君の戦闘スタイルは?」
「は、はい、素手格闘を基本にし、武器も一通り扱えます」
「素手……ということはバスターソードを使うクラウド君とは攻撃力や手数がまた違ってくるな。使う装備やマテリアは?」
女のサンプルから手渡されたグラブにはマテリアを付ける場所が六つ。
見た目はその辺にあるレザーグローブと変わらんが、拳先に小さなクリスタルが埋め込まれ、強度はかなりの物だろう。
これもあの女が特注で作り出した物か。
「それじゃあ先に彼女の方のデータから取ってみるか、どの程度の相手がいいかね?」
「H0512のシミュレーションデータはありますか?」
「クックック……君は相当期待されてるらしいな、並みのソルジャーが一人で戦えば確実に命はない相手だというのに」
「い、命がない!? せ、先輩また今度にしましょ、可愛い期待の後輩がこんなところで死んじゃったら困りますよね!?」
「いや、イリーナの訓練もかなり進んでいる。そろそろ実戦さながらの命のやり取りをする経験をした方がいい」
訓練である程度までは強くなれるようだが、実際に命がかかった状況でどこまで戦えるかはまた別の話のようだ。
我々にはわからんし、ソルジャーたちもジェノバ細胞の影響か、戦うことに関してそのような問題は見られないが、そうじゃない戦闘員には必要な経験なのだろう。
「大丈夫だ、少なくとも俺は宝条博士の実験に付き合ってまだ生きてる」
「それはクラウド先輩が強いからですよ!」
「一応何かあった時のために各種ポーションや医療設備も完備している。命に関わる怪我をしてもすぐに手術も可能だ、安心したまえ」
「ひぃぃ、五体満足で出てこれなさそうじゃないですか」
「覚悟を決めろイリーナ、大丈夫だ、このくらい越えていけるだけの技量はある。あとは格上と戦う経験が必要不可欠なんだ」
研修生ということは本来ならあまり無理なことも出来ないし、怪我などさせたらあの女が黙ってないだろう。
しかし、直属の上司に当たるクラウド君がこう言ってるなら、万一の時にこちらの責任がないわけだ。
この若い女を潰すのが目的なら協力してもいいが、恐らくそう言った要因はないだろう。
仕方がない、少しこちらが融通を利かせるか。
「それなら、万が一の時はクラウド君をシミュレーション内部に送り込む手はずを整えておく、これなら少しは安心出来るのではないかね?」
「そ、それなら頑張れそうです!」
「ありがとうございます、宝条博士。ただし、本当に危ないと思わない限り手出しはしないからな。これを一人で倒せて一人前だ」
「わかりました! 自慢の後輩イリーナ全身全霊で先輩の期待に応えます! ただ……私が本当にピンチで困ってたら絶対助けに来てくださいね! 絶対ですよ!」
「わかった、約束する」
やれやれ、部下を持つと苦労するものだ。
こちらの意図をくみ取って動いてくれる者ばかりではないからね、初めての部下のようだし、多少こちらが気を使ってもいいと思えるくらいの結果を今まで出してくれてるからな。
君の上司に感謝したまえよ、新しいサンプル君。
「ついでにもし勝てたら晩御飯おごって欲しいです! 一人前祝いにパーッと」
「調子に乗るな、まぁ、俺の出来る範囲で考えとく」
「やった! 先輩の気前のいい所大好きです」
うるさい女だ、静かで必要なことを的確に話すクラウド君とは正反対だな。
セフィロスも寡黙だが、私のことを嫌ってるからか、余計に話などしない。
「早く準備しろ……お騒がせして申し訳ありません」
女をシミュレーターに移動するようせっつくと、クラウド君が頭を下げる。
「まったくだ、君がわざわざ用意したということは多少見込みがあるのだろう、後は結果で示しなさい」
「ありがとうございます」
「しかし、研修生か……。確かにその程度の立場なら後ろ盾さえあれば自由に動くことも出来るし、データを集めるには申し分ないかもしれんな」
このところ社内の仕事が多すぎて、中々フィールドワークに行くことがない。
ソルジャーも部隊での運用が多くなり、今までのように気軽に兵を借りることも出来なくなった。
そもそも治安維持部門もそうなのだが、自然界のサンプルを採取する段取りがなっていない。
かといって同行できるような部下や、きちんとした護衛を申請するのも毎回だと手続きが煩わしい。
「彼女がしているのは社内での訓練だけか?」
「いいえ、タークスプログラムと同じく、ミッドガル周辺のフィールドワークに加え、元タークスに付かせて自然界のモンスターとの戦闘も予定しています」
「ふむ……そうかそうか……」
今準備中のクラウド君をセフィロスの訓練相手として最適化するためのシミュレーション。
ジェネシスやアンジールに加え、セフィロス自身の戦闘データも用意した。
これらを使わせるために私が常時かかりっきりになるわけにもいかないし、他の者に任せるわけにもいけない。
「前に話していた元1stやセフィロスと疑似戦闘が出来るシミュレーションも調整が終わりそうでね、今月中には使わせてあげることが出来るはずだ」
「本当ですか! ありがとうございます。セフィロスと戦う機会が中々なかったので」
「そうだろう、副社長があまりソルジャー部門以外との模擬戦の場にセフィロスを出さないからな。私としては君がセフィロスのいい刺激になると期待しているからね、協力は惜しまんよ」
古代種の再生計画、ジェノバ・プロジェクトにおいて古代種は偽物だった。
しかし、ジェノバの研究において、ソルジャーとして私のセフィロスは本物だ。
古代種もジェノバも関係ない、私が研究し形にしたソルジャー。
その中でも私の息子は……。
「俺の個人的な夢のためにここまで骨を折ってもらい、宝条博士にはなんとお礼を言えばいいか」
「構わんよ、セフィロスが今以上に強くなるきっかけになるなら、競える相手は多い方がいい」
より高みを目指せる、最高傑作なのだから。
イリーナが装備してるのは、本来ならティファが装備出来るクリスタルグラブです。
店で買える中では一番性能のいいグローブ。
攻撃力+75・魔力+16・命中率+115・クリティカル率+2・マテリア穴6個・連結穴3組。
実はティファの装備はこれよりも強いものがありますが、他のアイテムとの併用前提だったりと癖の強いものが多いので、単品で考えるとこの装備が使い勝手としては一番使いやすい、最強装備入手後も手元に置いておいた人もいたことでしょう。
作中でコーヒーを部下に入れさせておいて、飲ませる描写がないのは、新しいサンプルを前に、早く実験したい気持ちが出てきてしまったからですね。
表面上人に取り繕う場面を多少見せても、本質的に自己中心的なマッドサイエンティスト気質は変わりません。
毎日更新も折り返しです、まだストックが溜まりきってないので書かねばなりません。
感想、誤字報告、いつもありがとうございます。