「ツォン主任代理お待たせ~実験部隊の内部調査完了したぞ、と」
「レポートにまとめましたが……ここまでの訓練はタークスでもやってませんね。一部うちでも取り入れることは可能でしょうか?」
兵器開発部門の調査を頼んでいたレノとルードが戻って来た。
副社長がタークスの実権を握ってから、離脱者もいなくなり、人員が減ることもなくなったおかげで、社内に目を向けるリソースを確保出来たのは良いことだ。
今まではアバランチに掛かりっきりだったが、内部の裏切者を探すのと並行して、各部門の現状を把握する必要がある。
科学開発部門と兵器開発部門はその特性上扱う機密も多いが、わかる範囲で内部の状況をしっかりと把握しなければ。
「しかし、俺たちが兵器開発部門の担当で本当によかったのか? お姉ちゃんが恨み節を言ってたぞ、と」
「しょうがないだろ、身内がいると公平さに欠けると第三者から思われかねん。まさか妹がタークスではなく、実験部隊に行くとはな」
学校での成績も優秀だと聞いていたので、ゆくゆくはタークスに入ってくる可能性も考えていたのだが、まさかクラウド君の部隊にスカウトされるとはな。
ルードが用意した報告書に目を通すと、そこにはタークスの新人に受けさせる訓練内容よりも濃密で、実戦的な内容になっていた。
「確かにかなり過酷な内容になってるようだな……うちでもシミュレーションとして導入できないかヴェルド主任に相談してみよう」
「うげっ、主任代理はやってるとこ見てないから良いと思えちゃうんだって、こんなのしてたら訓練で死んじまうぞ、と」
タークスは部門交流の模擬戦も不参加だったが、他所の部門の持つ戦力が年々向上してるからな。
うちだけが遅れを取るわけにもいかない。
「日々の仕事ももちろん大事だが、出来るうちに訓練を重ねることも大事だぞレノ」
「ったく、ルードは真面目なんだから」
アバランチ関係が少し落ち着いてきたとはいえ、タークスの人員は決して多くない。
であれば、負傷して離脱者が出ないように、各々の質を上げれる時に上げるべきだろう。
「そんな二人に朗報だ、来月から特別強化プログラムを順番に受けてもらう。実戦さながらの模擬戦だ」
「げっ、少しは休めると思ったのに、模擬戦って誰と戦わせんの?」
「俺たちと戦えるとなると、ソルジャー部隊……いや、実験部隊でもいい経験が出来そうだな」
タークスは全員がスカウトされ、高度な訓練を課されている。
その相手になるとしたら、やはりそれなりに腕のある者となってくるが。
「喜べ、元タークスの先輩が直々に扱いてくれるそうだ」
「元タークス? なんだそれ、怪しさ全開だぞ、と」
タークスが仕事を辞める時は、殉職と決まっている。
しかし、何事にも例外があるようだ。
「副社長が認めてらっしゃる特例だそうだ、それにヴェルド主任と同僚だったらしく、主任よりも強いそうだ」
「主任よりも……」
私も訓練の参加が義務付けられてるが、このところ潜入捜査や各地を飛び回る任務が多かったからな。
実戦の勘を取り戻すためにも、先輩に揉まれるのは歓迎できるところだ。
神羅も新しい時代の風が吹き始めてる、後輩たちに無様な姿を見せぬように気を引き締めなければ。
「ちょっと主任代理! 聞いてください」
「どうした、何かあったのか?」
腰に愛用の銃を下げて、噂になってる妹の姉が部屋に入って来た。
「私の妹、イリーナなんですけどね」
「あぁ、実験部隊にスカウトされたんだろう。今報告書を読んでるが中々優秀な妹さんじゃないか、タークスに入ってもらえなくて残念だったな」
仕事は少し落ち着いてきたとはいえ、優秀な追加人員は欲しい所だ。
イリーナをクラウド君の所にとられたのは少し痛手か、どうやら直属の上司に似て人を見る目があるらしい。
これは神羅学校だけでなく、もう少しスカウトの幅を広げてもいいかもしれんな。
学校だけに拘っては、兵器開発部門やソルジャー部門とスカウトで競合する可能性が高い。
その後あまり任務に関係ない雑談を延々聞かされる羽目になった。
イリーナが訓練を受けるのは良いが、教官役のクラウド君の距離が近すぎるとか、プライベートで食事をするシーンがたびたび目撃され噂になってるとか。
妹が心配なのはわからんでもないが、悪い虫が付くよりもマシだろとレノが不用意に発言したおかげで、実験部隊との模擬戦は出来ないかと打診されてしまった。
アイデアとして面白いし、一度クラウド君と話してみるか。
おそらく向こうも無下にはしないだろうし、もし必要ならソルジャー部隊も巻き込めるかもしれん。
副社長に直接頼んでもいいが、ここは友達のコネクションというのを使ってみるか。
あいつも部隊長まで出世してるんだ、多少の権限は持ち合わせてるだろう。
「スカーレット統括。初めまして、科学開発部門研修生のチャドリーです。以後お見知りおきを」
あいえ!?
なんでチャドリーが目の前にいるわけ?
「クックック……最近タークス連中の目が煩くてね、痛くもない腹を探られるのも面倒なので、私の代わりにクラウド君のシミュレーションデータを解析する人材をこちらで用意した。そちらに出向という形にするから好きに使ってくれたまえ、一応一通りの科学知識や解析技術は教えてあるから、フィールドワークでのデータ採取にも同行させてもらえるとありがたい」
応接室に急な来客が来たと思えば、宝条だしその横にはなぜかチャドリーがいて声を出して驚かなかった俺を誰か褒めて欲しい。
一応渡された経歴に目を通すが、明らかに経歴が綺麗すぎる。
普通に見れば特に問題ないが、俺や宝条のように色々弄る側からすると、逆に怪しく感じる。
さては隠す気もないなこいつ。
「クラウドさんのお手伝いを宝条博士より仰せつかりました。どうぞお見知りおきを」
一緒にいたクラウドとイリーナにも礼儀正しく挨拶するチャドリー。
クラウドも特に疑ってないし、イリーナに至ってはうちの部門では珍しい年下ということもあり、さっそくお姉さんムーブをかましたくてしょうがないように見える。
「実験部隊隊長のクラウドだ。シミュレーション関係でこれから世話になる」
「同じく副隊長候補のイリーナです、私も入ったばかりだから気軽に何でも相談してね」
うん、傍目には何の問題もないね。
「若者同士すぐに打ち解けてくれて助かるよ、面倒な窓口申請もこれからは必要ない、全部チャドリーを通してもらえれば私の方に報告がいくようにしてある」
なんてことないように話を纏めようとする宝条。
いや、そうはいかんぞ!
俺はリメイクのハードモードもしっかりクリアしてるんだからな。
「相変わらず技術力の高さに驚かされるわね、機械系はうちの専門だけど、こんな精密なサイボーグ作れないわよ」
クラウドとイリーナはいまいち言葉を飲み込めてないようだし、チャドリーは一瞬固まる。
宝条は不気味に無言を貫くかと思えば、急に笑いながら話しだす。
いや、すげぇ怖いんだけど。
「クァックァックァ!!! はぁはぁ、さすがだなスカーレット統括。まさか一目見ただけで正体を見破るとは……そう、このチャドリーは私が作り出したサイボーグだ! クラウド君の実験データは貴重でね、部下のぼんくら共に任せたくなかったからね、私の技術でしっかりとデータ収集出来る助手を作り出したのだよ」
狂気に満ちた笑い声を響かせながら、自分の作品を自慢するように語る姿にドン引きである。
「こ、この子が機械ってことですか!? 嘘、肌だってこんなに柔らかいのに」
「イ、イリーナお姉さん、あんまりほっぺたを抓らないでください」
「見た目では全然人間と見分けがつかない……素晴らしい技術ですね宝条博士」
イリーナはチャドリーをペタペタ触りながら信じられないという表情だし、クラウドはサイボーグを作り出した宝条の技術力の高さに驚きながら褒めたたえている。
「そうだろう、私の専門は遺伝子工学だが少し思うところがあってね。以前神羅屋敷で私が用意したAIが管理しながら事故の原因を解明出来なくてね、不完全なシステムなど不要だ。クラウド君用にシミュレーションを新たに構築しながら、プログラミングの方も弄る時間が増えてね、その集大成として今回試作してみたのだよ。分解は容認出来ないが、人間と変わらず溶け込みながら情報収集出来るかも課題だから、是非忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
チャドリー自体は好きなキャラだし、クラウドの味方になってくれるから良いんだけど、完璧にスパイを送り込むって宣言だよねこれ。
どうするか……正直リスクも高いけどリターンもありそうだし、変にここで断ったら今度はどんな手を使われるかわからない。
それだったら、今俺の知識である程度分かる相手のうちに付き合った方が得か……。
「いいわ、研修生チャドリーをクラウドのサポート役として認めてあげるわ」
「流石は兵器開発部門統括、理解が早くて助かるよ」
何かしら意図があってのことだろうけど、俺のことを舐めてもらっては困る。
そっちは専門外の全力だろうが、こっちは専門分野なのだ。
とりあえずシミュレーションに接続してる時にそれとなく調べてみよう。
「つまりチャドリーは宝条博士のお子さんみたいなものということですか?」
何も知らないイリーナがものすごい爆弾発言を投下しやがった!?
この場で宝条の息子がセフィロスだということを知ってるのは、当人と原作知識がある俺だけだ。
クラウドにもセフィロスの親に関しては伝えてない。
少し考えるそぶりをしてから宝条がゆっくりと口を開く。
「私が作り出した作品という意味ではそう言う見方もあるのか……私に子供がいたとなればアホ共の余計な詮索を招きかねん、あくまで研修生として扱ってくれたまえ」
そう言うと何事もなかったかのように部屋を後にする宝条。
うん、無知ってすげぇな。
「とりあえずクラウドの権限で兵器開発部門を案内しなさい。その後のシミュレーションには私も顔を出すわ」
クラウドとイリーナに連れてかれるチャドリーは年相応の少年にしか見えない。
とても宝条が作り出したサイボーグだとは思えないな……。
「息子か……」
あのイリーナというサンプルは戦闘データは申し分ないのだが、クラウド君と違い少々無駄口が多い。
それにしても、第三者から見ればそのような考えに至るとは考えもしなかった。
科学者としての視点が強すぎて、一般人の感覚というのはどうも理解しがたいものだ。
「そのうちバレるとは思っていたが、まさか一目見ただけで気が付くとは、それだけ私のことを警戒していたということだろう」
下らぬ考えは一度頭の隅に置き、予想よりも早くチャドリーの正体がバレたことを整理する。
予想ではシミュレーションを何度かこなしてるうちに気づかれるものと思っていたが、やはり専門外の分野だ。
あの女の目は誤魔化せなかった。
尤も別に問題もない、バレることを前提で、情報を自動でリークするようなプログラムはしてないし、チャドリー自身が自主的にデータを提出するようにしてある。
それであれば特に人間の工作員と変わりはないだろう、それどころかそこらのぼんくらよりもよほど情報処理能力が優秀なのだ。
クラウド君の強化を考えるなら、必ず役に立つように計算してある。
「私を利用してるつもりだろうが、こちらも利用させてもらおう、貴様のサンプルは私のセフィロスのテスターにふさわしい」
クラウド君をこちらに出してるのも、セフィロスを超えるためなのはわかる。
適度に育ってくれた方がセフィロスにとっても都合がいいから協力しているが、おかげで他の研究も捗っている。
副社長やソルジャー部門も、こちらの要望をかなり融通してくれるが、やはり科学者として理解しやすいのは似た系統の技術者だな。
「私があれほど精巧なサイボーグを作り出したことを一つも疑問に思ってなかったな、やはりあの女見る目だけはあるようだ」
私の高尚な学説や科学実験は中々凡人共には理解されない。
同じ重役に多少理解力がある者がいたほうが私としてもやりやすい。
「もっとも、理解力という面ではルクレツィアの方が数段上で……?」
歩きながら思考を纏めていると独り言が自然と多くなる。
それらは無意識のうちに口に出すこともあるのだが、ここ数年口に出していない女の名前が飛び出した。
精神に異常をきたし、治療中に行方不明になった同僚。
自分の息子のこともわからなくなり、母親とも名乗ることも出来ず、消えた女。
私の研究を多少理解し、それなりに助手として優秀だった科学者。
「いかんな、ここ最近あまりにも順調に実験が進みすぎている。余計なことを考える余裕が出来てしまった」
戸籍上私の妻だった女……。
リメイクから新キャラ登場です。
明日は日曜日なのですが、ちょっと遠方に出かける予定があり。
誤字脱字の訂正や返信が遅れる予定です。
次回更新についてですが、ストックを使い果たし、絶賛次の話も制作中なので、次回更新予定は未定とします。
毎週水曜日更新を心がけてきましたが、間に合えば7/10に、もし間に合わなければ一週間お休みを挟み7/17を目途にしたいかなと思います。