「どうだ、親父さんのこと何かわかりそうか?」
「私のお母さんと出会う前の研究資料に名前は出てくるけど、その後のことは全然……」
あの後チャドリー君が許可を取ってくれて、科学開発部門の資料室に入ることが出来た。
この部屋はきちんと申請すればある程度のランクを持つ社員なら入ることが出来るみたいで、ザックスやセフィロスも入れるはずなんだけど、二人とも一度も利用したことないんだって。
「二人とも勉強とか苦手なの?」
「勉強は嫌いじゃねえけど、資料室とかってなんか苦手なんだよな」
「俺はそもそも興味が無いだけだ……大して面白い物は無いからな」
二人に聞いてみると、まるでスラムの勉強嫌いの子供たちみたいなことを言う。
まあ、ザックスの言いたいこともちょっとわかるかな。私も本を読むのは好きだけど、資料室とかって何となく堅苦しいイメージがあるし……。
その点ここで働いてるチャドリー君は暇なときはここに入り浸ってるらしく、どこに何の資料があるのかを全部覚えてるんだって、すごい!
クラウドもたまに資料を読んで勉強することがあるから、私の知りたい資料探しに二人が大活躍してくれる。
「この資料室に保管されているのはガスト博士が神羅に在籍していた時の一部です、なのでエアリスさんのお母さんに関することはほとんど調べられないかもしれません」
「そっか……でも文字だけだけどお父さんの名前をあちこちで見つけられて、なんだか身近に感じるわ」
私はそう言いながら、一つ手に取った資料に目を通す。
知識がないから内容はよくわからないけど、どの資料にもお父さんの名前があるってことは、それだけお父さんが研究を頑張ってたってことだよね。
「お父さん……」
「エアリス、こっちだ」
急にセフィロスが私を隠すように前に立った。
どうしたの? と聞こうとしたけど、その前に違う声が聞こえた。
「おやおや、資料室にこれだけお客さんが来るのは珍しい」
「なぜ貴様がここにいる!」
「変なことを聞くものだ、科学開発部門統括である私が資料室にいるのが不思議かね? むしろ部外者の君たちがこれだけ大勢いることの方が珍しいことだろう」
話してることは正論だが、どうも嫌味ったらしい話し方だ。
「待てよセフィロス、そんな高圧的になるなって。すいません宝条博士」
ザックスがすぐに頭を下げる、追加でなにか言われるかと思ったが俺たちに興味はないらしく。
すぐに視線を外してしまう。
「構わんよ、許可を取って入室しているのだろう。もっとも君たちが閲覧できる資料に大したものなどないと思うがね」
「へっ、ここ以外にも資料ってあるんですか?」
「当然だよ、ここはあくまでうちの部門の人間なら誰でも入れるし、一部他の部門の人間でも許可さえ出れば入れるからな。重要な機密なんかは置かれとらんよ」
そう言いながら眼鏡をくいっと上げ、俺やエアリスに興味など初めからなかったかのように俺たちの間をすり抜ける。
「宝条博士はなぜここに?」
「古い資料の確認だよ、約束の地についてプレジデント相手に一度状況を説明しなくてはいけなくてね。まったく、いくら前任者から引き継いだとはいえ、なぜ私がこんなことを……」
「博士、よろしければ資料室の約束の地について書かれた論文をお持ちしましょうか?」
「そうだな……大したものは残ってないと思うが、プレジデントが納得出来そうな資料を適当に集めてきてくれ」
チャドリーが資料を集めに行く姿を見送る宝条。
その様子に違和感を感じざるを得ない、こんなに物腰が柔らかかっただろうか。
もっと陰湿で、嫌味ったらしい人間だったはずだ。
だが今の宝条からはそんな雰囲気を感じない。
いや、見るからに神経質そうな見た目は特に変わらないが、どこか余裕のようなものを感じる。
「君たちも何か探しに来たのかね?」
問いかけに俺とザックスは一瞬戸惑ってしまう。
エアリスの父親であるガスト博士について調べていたが、宝条がガスト博士にコンプレックスを抱いていたことは確かだ。
それに古代種の生き残りでもあるエアリスのこともある、ここで彼女の存在を明かすのは得策ではない。
「あっ、あの、少しお聞きしたいことが!」
「エアリス!?」
エアリスが後ろから飛び出して宝条の前に出てしまった。
とっさに腰の正宗に手を掛けるが、クラウドとイリーナが宝条をカバーできる位置に無言の内に移動する。
ザックスからも肩に手を置かれ、俺は正宗から手を離した。
「これはこれは古代種のお嬢さん、こうしてお会いするのは何年ぶりだろうか……私に何か用かな?」
「私のお父さんやお母さんについて色々探してるんです、宝条博士はお父さんと一緒に働いていたんですよね」
一瞬怪訝な表情を見せたが、すぐにエアリスの質問の意図に気づいたのか。
宝条は興味深そうに笑みを浮かべる。
こいつのことだ、自分の研究対象である古代種に父親や母親のことを聞かれたら、それはいい実験台が来たと思うに違いない。
そんな俺の予想を裏切り、宝条は意外にも口を開いた。
「ガスト博士が残した資料の大半は神羅屋敷に置きっぱなしにしてきたからな……それらを閲覧したければニブルヘイムまで行かねばならん」
「ニブルヘイムってどこにあるんですか?」
「ここから結構離れたとこになるな、俺の故郷だが休みさえ取れたら案内しようか?」
たしか魔晄炉を最初に設置した場所で、少し前に科学開発部門が管理する神羅屋敷で事故があったはずだな。
事故はもみ消されたが、恐らく宝条の実験生物絡みだろう。
しかし、クラウドがそこの出身だったとは。
「今神羅屋敷は都市開発部門の連中が管理してるからな、ほとんど価値などないと思って放置していたが……たまにはあれの様子も見に行ってみるか。実験部隊に護衛は頼めるかね? 私とチャドリーを神羅屋敷まで送り届けてくれたら後は自由にしたまえ」
「あ、あの私もご一緒してもよろしいですか!」
エアリスの勢いに宝条は面食らったような表情になる。
「まぁ、部外者ではあるが会社が管理する古代種か……一人荷物が増えても問題ないかね?」
「はい、宝条博士とチャドリーの護衛は俺とイリーナで責任をもって遂行します、エアリスに関してもザックスが参加すれば問題ないかと」
「わかった、それじゃあ後で私のスケジュールを送るから、調整を頼むよ」
そう言うと何事もなかったかのようにチャドリーを引き連れ、部屋から出て行こうとする。
「あ、あの、ありがとうございます!」
エアリスが慌ててお礼を言うが、宝条は振り返ることなく部屋を出て行く。
「よかったなエアリス!」
「うん、思ったほど悪そうな人じゃなかったね」
安堵するザックスに答えるエアリスは呑気に宝条を語るが、奴はそんな男じゃない。
むしろ宝条からこの条件を引き出したのは……。
「ずいぶん奴に気に入られてるようだなクラウド」
「つまり、エアリスを連れてみんなでニブルヘイムに行くことになったってことね」
「はい、科学開発部門からは正式に護衛としての同行を依頼されました」
「ザックスが同行するのなら問題ないとソルジャー部門からも許可は取れました」
なんかすげぇ困ったことになっちゃったぞ。
出来たらニブルヘイムにセフィロスを近づけたくないんだけど、たぶん流れ的にセフィロスも付いてきそうだよね。
ニブルヘイムにセフィロス・エアリス・宝条……この三人が一堂に会するわけだ、いくら神羅屋敷に行くのが目的だとは言え、宝条のことだから魔晄炉のジェノバを確認したいと現地で言い出してもおかしくない。
ニブルヘイムの魔晄炉の管理は都市開発部門が担ってるが、奥に存在するジェノバのことは神羅でも把握してる。
その危険性は重々承知しているが、現状ソルジャーの研究のためにその細胞が必要だし、目立った被害も出ていないから放置されている。
俺の認識からすると今のうちに消し炭にしたいのだが、会社からすると貴重なサンプルであり、ひいてはソルジャー量産のきっかけになったのも事実。
つまり、一役員である俺の独断で処分なんて出来ないし、問題も起こしてないのだから、神羅としては今後も所有物として管理していく方針だ。
「全員の日程を合わせたらいつ頃になりそう?」
「そうですね……宝条博士の日程が空くのが一週間後の統括会議の後になりそうですね」
つまり一週間後ジェノバとセフィロスが最も近づくってわけね……。
その間にヴィンセントも呼び戻さなきゃいけないし、最悪のことも考えて準備しなきゃダメかな。
「もしもだけど、今クラウドが全力でセフィロスと戦って勝てる見込みってある?」
イリーナは俺の質問がいまいち飲み込めないようで、首を少し傾げる。
対してクラウドは頭の中で現状の戦力とセフィロスのデータを照合したのだろう、少し間をおいてから口を開いた。
「セフィロス一人を相手取ると想定して、俺とイリーナとヴィンセントのチームであれば、可能かと思います」
うん、何とかは出来そうかな。
思えばゲームプレイ時のセフィロスといえば、ライフストリームに落ちてほぼモンスターみたいになった存在だったし人間ではなかったもんな。
そういう意味ではいくら強くてもまだ強化された人間の枠組みに収まるのか。
それはクラウドも同じだが、ソルジャー化を施されてない代わりに時間をかけて強化しまくったし、装備の方も兵器開発部門の技術を結集した自信作。
イリーナに関してもクラウドブートキャンプのおかげで、格闘のスペシャリストになってるし、恐らくゲームのティファよりも強いんじゃないかって思う。
ヴィンセントも引きこもり期間を短くし、訓練に加え各地のテロリストや反神羅相手に経験を積んだから、正直強い。
いつの間にかゲーム開始時のパーティ三人組みたいに、上手い事役割をカバーできるメンバーが揃った。
ティファの代わりに近距離戦のイリーナ、バレットの代わりに遠距離戦をこなせるヴィンセント。
しかもゲーム開始時の三人組みたいなテロリストではなく、三人とも神羅のタークスを凌ぐ凄腕エージェントだ。
これなら護衛の最中、宝条とセフィロスの監視も出来るだろうし、何かあってもカバーできるかもしれない。
「ちょっと一週間の間特別シフトを組むわよ、チャドリーに連絡してシミュレーションの調整も頼みなさい」
「スカーレット様はニブルヘイムで何かトラブルが起こると予想されてるんですか?」
イリーナが疑問に思うのもわかる、だって明らかに変な命令だもん。
一度神羅屋敷に潜入したクラウドやヴィンセントはともかく、何にも知らないのにそんなこと言われてもね。
いつまでもセフィロスとジェノバのことを隠すのも難しいし、そろそろ話せることを話さなきゃいけない時が来たかも。
まだセフィロスは何も問題を起こしてないし、ジェノバだって会社としては管理する資産だ。
最悪ジェノバの討伐も視野に入れなければいけない、そうなった時は俺が全力で会社から守らなきゃならない。
結構長いことこの世界で暮らして来たけど、戦えないとはいえどこかで覚悟を決めなければいけない。
「ちょっとみんなに大事な話があります、これは会社関係なく、私の個人的な話です」
さぁ、いよいよジェノバと向き合わないといけない時が来た。
出来るならやってやろう、俺が集めて用意した環境で三人とも本当に強くなってくれた。
物語の主役になんてなれないが、裏方サラリーマンの底力を運命に叩きつけてやる。
「これはね、エアリスの父親、ガスト博士が神羅で行っていたプロジェクトから始まってるの」
最悪ニブルヘイムが原作みたいに燃えちゃうかもしれないよな。
それも出来たら防ぎたいけど、使える人員はもういないし、何とかルーファウスに頼み込んでタークス貸してもらえないかな。
どのみちジェノバの処理に関しても、まずはルーファウスを説得するところから始めないとだめか。
会社としてジェノバの処理を見て見ぬふりをしてもらうように何とか持ち込まないといけない。
とりあえず俺が築き上げて来た地位や諸々を全部総動員して、ジェノバを叩かないといけないかもしれない。
「リーブ統括、こちら先月の魔晄炉の稼働状況をまとめた物です。新型の安全装置を各魔晄炉に組み込んでから初めての数値になります」
「あぁ、ありがとう。ふむ……おおむね問題ないようで何より、おや? ニブルヘイムの魔晄炉が……」
「どうかされましたか?」
「変だな、吸い上げた魔晄とエネルギーに変換してる数量がズレている。にもかかわらず今までと同じ量のエネルギーが供給されているということは……過剰に吸い上げた魔晄が漏れているような報告もない。これは妙ですね、すいませんが兵器開発部門のスカーレット統括に繋いでください、それと科学開発部門が申請してる現地確認を一度保留に、そしてこのデータをまとめた物を届けてください」
お久しぶりです。
予定してた投稿日よりも一週間多く休んでしまいました。
そろそろ物語も佳境を迎えますので、完結まで頑張って書き続けたいですね。
次回投稿予定日は7/31
本当は一週間連続投稿を今日から考えてましたがストックが間に合いませんでした。
暑さに参りそうですが、何とか生きてます(部屋に窓がなく、エアコンもない)
何かいい暑さ対策ありませんかね?