「特別なシミュレーション?」
「あぁ、なんでもソルジャー用のシミュレーションをバージョンアップして、それをセフィロスにも試して欲しいんだとよ」
少し前にルーファウスも、俺が訓練で使う専用シミュレーションを用意するつもりだと話していたな。
最近の訓練相手はもっぱらザックスで、それもかなり楽しめていたのだが。
いつの間にか俺とザックス専用となってしまったシミュレーター。
ソルジャー部門専用に用意されたのだが、いつの間にか俺とザックスが使うシミュレーターはどんどんと改造が施され、超高難易度のシミュレーションとなってしまっていた。
ルーファウスが科学開発部門や兵器開発部門に依頼して、俺の腕が鈍らないようにと、日々シミュレーターのプログラムをバージョンアップしていく。
その結果2ndのソルジャーではクリアすることも出来ないほどになり、いつの間にか俺とザックス専用機となったのだ。
ニヤニヤしながら俺の背中を押して、急かすザックス。
シミュレーターが置いてある訓練室に入ると、普段はここに入ることもない意外な人物が二人。
ルーファウスと、科学開発部門のチャドリーだ。
本来ならここで顔を合わせることがない組み合わせ、俺の感じた違和感に対して口を開くよりも先にルーファウスが楽しそうに語り掛ける。
「すまんなセフィロス、ちょっとしたサプライズを用意してね。今回は科学開発部門のチャドリー君に協力してもらい、専用のシミュレーションを受けてもらうことにしたんだ」
「セフィロスさん、今日はよろしくお願いします」
無邪気な顔で俺に頭を下げるチャドリー。
ルーファウスはその光景をニヤニヤしながら眺めている。
「どうした、お前を慕う若者にファンサービスの一つでもしてやったらどうだ」
「ルーファウス、わかっててやってるだろ」
どうしても科学開発部門という場所に、もっと言えば科学者という人種にあまりいい記憶がない。
そんな子供みたいな理由で、目の前の少年を避けている自分が大人げないと思うのだが、どういうわけか目の前の少年、チャドリーに対してどうも柔らかくなれない。
「すまんな、その……科学開発部門にあまりいい思い出がなくて」
「いえ、宝条博士が苦手なのはわかりますよ、正直他のソルジャーの方々も避けてますし、あっここだけの話で僕が言ったことは内緒ですよ」
人差し指を唇に当てながら、チャドリーは苦笑する。
どこからどう見ても人当たりの良い少年だ、礼儀正しく、科学開発部門という場所に似つかわしくない。
宝条は苦手だが、そんな宝条に気に入られているこの少年は一体何者なんだろうか? 俺の疑問を察してか、ルーファウスが口を開く。
「チャドリーは宝条博士が作り出したサイボーグだ、おっと誰にも言うなよ、一応機密扱いだからな」
「サイボーグ?」
「俺もさっき初めて言われたけど、全然そんな風に見えないよな。握手しても手は柔らかいし温かみもあるし、人間にしか見えないよな」
「ふふっ、企業秘密ですが、僕のボディはほぼ人間と変わりません」
ザックスは明るい声色でチャドリーの頭を触り、髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。
「ちょ、ちょっとザックスさんやめてくださいよ」
「ははっ、わりぃわりぃ、なんだかちょうど撫でたくなる位置に頭があるもんでよ」
俺がチャドリーに対して苦手意識を持っているのは、ザックスもわかっているのだろう。
だからこうしてわざと明るく振る舞って、俺の態度を軟化させてくれようとしているのがわかる。
後輩に気を使われてばかりではいけない、俺もどこかでこのモヤモヤした気持ちにけりを付けなければ。
「セフィロスさん、あなたが宝条博士のことを嫌ってることもわかります」
「その生まれについてのことだ。もっとも、お前も薄々は気付いていると思うが」
ルーファウスの手元には小さな資料が握られている。
今どき任務の指令などすべて端末でやり取りするというのに、どうやら持ち出し厳禁の紙媒体でまとめられた資料のようだ。
「これは俺が社内の協力者とタークスを使って調べ上げたセフィロスの出生のすべてだ、此処にはお前の父親、そして母親について書かれている」
「それを俺に?」
「そうだ……と言いたいが、これを手に入れるのに相当骨を折ってな、欲しければシミュレーションをクリアしろ」
「ってことで頑張れセフィロス! 俺も調整に付き合わされたけど、今までで一番きついから覚悟して挑みなよ」
そう言ってルーファウスとザックスは訓練室から出て行ってしまう。
残されたのは突然の出来事に頭が追い付かない俺と、すべてを知っているであろうチャドリーだ。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「はい、なんですか?」
「君の製作者は宝条だ、ある意味で父親のようなものだろう。嫌ではなかったか?」
チャドリーは俺の質問に対して、少し驚いた顔を浮かべる。
しかしすぐにその表情を変え、ニコリとほほ笑むと俺の質問に答えてくれた。
少年のはずなのに、どこか大人びた雰囲気を醸し出す。
「僕は全然嫌じゃないですよ、素敵な人たちに出会えたのもこの世に僕を作ってくれた博士のおかげなので、たくさんの人たちに出会えて、僕は自分の人生を楽しんでます」
「そうか、君は俺よりもずっと強いらしい」
父親である宝条は嫌いだ、そして母のことは名前しか知らぬ。
それでも今自分が生きている人生が楽しいのか苦しいのかわからない時がある。
ジェネシスやアンジールを失い、ルーファウスやザックスと出会った。
出会いと別れを繰り返しながらも、俺は俺の生まれた意味を、人生に理由をどこかで欲していた。
しかし、目の前の少年は同じ父親を持つというのに、俺よりもずっと強い。
「僕はクラウドさんやイリーナさんと出会えて、人生を楽しむことが出来るようになりました。きっとセフィロスさんのことを思ってくれる人たちもいるはずですよ」
「あぁ、そうだな」
ルーファウスやザックス、俺を慕ってくれるソルジャーたち、彼らはきっと俺のことを思ってくれる人たちなのだろう。
しかし、心のどこかで彼らを信じられないでいる。
俺を残してどこかに行ってしまうのではないか、名前だけ聞かされた母親のように。
「さぁ、そろそろシミュレーションを始めましょうか、今日のためにたくさんの人が手伝ってくれたんですよ」
そうだ、今はシミュレーションに集中しよう。
恐らく、俺が心の中に抱えていた闇をルーファウスは見抜いている。
それを払拭させるためのシミュレーションと、景品の餌というわけか。
「悩んでいても仕方がないか……しょうがないこんな時は身体を目いっぱい動かすに限る」
「おや、気持ちの切り替えがお早いですね」
「後輩の受け売りだ、どれだけへこませてもこの理屈で訓練をせがまれる、今日くらい真似してもいいだろう」
さぁ、ルーファウスやザックスが一枚噛んだ高難度シミュレーション。
果たしてどんなものが出てくるか……。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「えぇ、きっと今のセフィロスに必要なのはこれだと思いますよ」
ジェノバが人類に牙を剥く可能性を話すと、クラウドから今回の計画を提案された。
「最初から敵対するより、セフィロスを味方に出来れば心強い」
「なにそれ、ルクレツィアに対する贖罪のつもり? そんなので巻き込まれるなんて私嫌なんだけど」
「まぁまぁ、スカーレット様、クラウド先輩を信じましょ! 先輩が必要だって判断してみんな協力してくれましたし、きっと成功しますよ」
どうしてもセフィロスを敵として認識してしまう俺に対して、クラウドが提案したことは出生の秘密をすべて打ち明けてセフィロスを味方にすることだ。
ジェノバに関する資料はすべてルーファウスと共有してるし、誤解なく打ち明けることは確かに出来る。
でもそれは、セフィロスが不用意にジェノバに接触しないようにするためだったし、俺のプランではクラウドをはじめ、ヴィンセントやイリーナを鍛えたのも来るべきセフィロスとの戦いのためだ。
しかし、クラウドが戦う前に出来ることがあると声を上げてしまった。
そしてそれはルーファウスを始め、なんと宝条の奴にも今回のプランに協力を仰いだ。
こうなってしまっては、もう俺が掌握できるレベルを超えている。
この世界に転生してスカーレットなんて悪役になり、己が悲惨な未来を辿らないようにすべてを利用してきたつもりだ。
クラウドだって、そりゃゲームで憧れた主人公だから、近くに置いておきたい気持ちもあったが、本来の目的はセフィロスと戦わせるためだったはず。
でも、俺という異物の影響ですべてが変化し始めている。
すでにFF7という物語は、ゲーム開始時のようにクラウドが元ソルジャーとして魔晄炉爆破に関わることもあり得ない。
俺は驕っていたのだろうか、原作知識があるからすべてをコントロール出来るような錯覚に陥っていた。
しかし、この世界で人は生きている。
それぞれが自分に出来ることを日々こなし、今日まで神羅は変わり続けて来た。
仕方がない、俺も腹をくくろう。
「わかったわよ、クラウドの企画にみんな賛成なのは、よくもまぁ私を最後にして、先にルーファウスやら宝条やらに根回ししたわね」
「申し訳ございません」
「まぁ、私がそういうのも教え込んだんだし、成長を見せつけてくれるのは上司としてうれしいんだけど……」
「あまりねちねち責めるな、スカーレットに引っ付いていたクラウドが自立したんだ、素直に上司として喜んでやれ」
「せ、先輩は無茶苦茶頑張りましたよ、私もずっとお手伝いしてたからわかります。それに全部スカーレット様のためを思ってのことなんですから」
ヴィンセントとイリーナがフォローを入れてくれる。
確かにクラウドが独り立ちしたのは喜ばしい、しかし俺としては複雑な心境なのだ。
「はぁ、まぁいいわ、セフィロスの件はいったん置いといて、ジェノバについても考えないとね。イリーナ!」
「はい! ニブルヘイム魔晄炉の吸い上げた魔晄と、エネルギーに変換した魔晄の数値にズレが生じています、都市開発部門の見解では魔晄が漏れた可能性は低いとのことです」
「次は俺だな、各地に散ったアバランチの残党についてだ、主だった活動を見せていなかったが、ホランダーが流失させたG細胞を移植したと思われる戦士たちの足取りがいまだに掴めない。潜入してるタークスの情報では、奴らはアバランチからある日を境に離脱し行方をくらませてるようだ」
つまり何者かがニブルヘイムの魔晄炉で魔晄をくすねてる。
そしてアバランチにいたはずの、ジェノバ細胞を移植された奴らが行方不明になっている。
やられたね、セフィロスにばかり気を取られてたし、アバランチ自体もテロを対応できてたから、ホランダーがアバランチに合流したことを甘く見ていた。
「ジェノバの奴、うちのソルジャーじゃなくて、アバランチの出来損ないソルジャーを操ってるわね」
「神羅屋敷を管理してる社員に確認を取りましたが、不審な人物は村に入っては来てないようです。ただ、村で情報収取してもらったところニブル山でガイドをしてる俺の幼馴染が山で不審な影を見たとの情報が上がってきました。奴ら村を経由しないで本来登山で使えないような道から魔晄炉に登ってると思われます」
「出来損ないとはいえ、魔晄を浴びせられてソルジャー化されたテロリストたち、モンスターをものともせず、登山位こなすだろう」
完全にそいつらジェノバに操られてるな。
しかもこちらに感づかれないように慎重に動いてやがる。
魔晄炉を点検してた都市開発部門の人間も気づけず、今回たまたま機械がもたらした数値の異常をリーブが見抜けたからよかったけど。
「それで、上層部としてはどうなってる?」
「今の所はアバランチ残党がニブルヘイム魔晄炉でテロをする可能性が高いってことになってるわ。事態収拾にはソルジャーとタークス、ついでにうちが出ることになってる」
アバランチ案件ならソルジャーとタークスで事足りるんだけど、裏にいるであろうジェノバについてルーファウスと口裏を合わせてる。
今回は会社に黙ってジェノバも始末する、だから過剰戦力に思えるけどうちからも実験部隊を投入することになった。
「でもまぁ、あのサンプルマニアがよくジェノバを手放す気になったわよね、何かしたのクラウド?」
「いいえ、宝条博士曰く、ソルジャー量産において、ジェノバ本体の細胞はもう不要とのことです」
そういや、セフィロスの細胞とアンジールたちの細胞を使って簡易ソルジャーの量産に取り組んで結果も出てるんだっけ。
ジェノバに固執してた宝条がジェノバを手放す、もしかすると宝条が固執していたのはジェノバではなく、ソルジャーのセフィロスだったのかもしれない。
すでにセフィロスが完成されたから、ジェノバは不要……。
「せめて父親ならもっと父親らしくしてくれたら私たちがこんなに苦労することもなかったのに」
「あの男に科学者以外の役割を求めるのが間違ってる」
「はぁ、それもそうね。良いみんな、ここが正念場よ生きて帰ってきなさい」
少しずつジェノバへと近づいてきました。
暑いことをここで話しましたら、感想でたくさんの対策方法を頂きました!
何とか夏を乗り切ろうと思います!
……そうかと思えばマンションの天井から水が浸水してきました。
火の後は水攻めです。
次回更新日は8/7水曜日19時の予定です
感想いつもありがとうございます、投稿後のお楽しみとして何度も読み返しています。
皆さんの反応を見ながら、あれこれ書き進めるのは楽しいですね。
ってわけで次回ではまだですが、そのうちティファも出ますよ、他のキャラも出ますよ。
なんて告知してみる