「あっ、見えた見えた、あれが先輩の故郷のニブルヘイムですね」
「魔晄炉が有る以外これといって特徴もない田舎だろ」
「先輩ってシティボーイのイメージありましたけど、田舎に居た頃からかっこよかったんだろうな……女の子がほっておかなかったでしょ、彼女さんとか当時いたんですか?」
「口下手でコミュ障だったから、全然友達の輪に入れなかったよ。幼馴染の女の子はいたけど俺が村を出る時に少し話したくらいで、彼女なんて影も形もなし」
「へぇ、その幼馴染さんも見る目がないですね。クラウド先輩ったらこんなにイケメンで頼りになるのに、おまけにこんなかわいい彼女も都会で作っちゃって」
ヘリを操縦する隣でイリーナが俺の故郷、ニブルヘイムを双眼鏡越しに発見した。
そこからニブルヘイムに居た頃の俺のことを聞かれ、素直に答えたら余計な口も挟んできて、俺を揶揄ってくる。
いつの間にか俺の彼女はイリーナということに社内でなってるらしく、どうも先日の一件が広まってるらしい。
広めてるのは俺のファンクラブのようで、イリーナがわざわざ内容を教えてくれた。
いや、お前も入ってるのかと突っ込んだが、スカーレット様も入ってるらしく。
社内のファンクラブの中では上から数えたほうが早いらしい。
なぜ俺はそれを知らなかったんだろう、いや、こういうものは普通本人の許可を取るべきではないだろうか。
「誰が彼女だ、まったく、お前のせいで俺がどれだけ迷惑を掛けられたと思ってるんだ」
「あれ、迷惑なんて掛けてましたっけ? むしろ私のおかげでラブレターとか言い寄ってくる女の子が減って助かってません?」
「うっ、そ、それは結果論で……」
「それに、プライベート二人っきりで食事も奢ってくれるし、仕事中だってずっと一緒にいるじゃないですか。もう彼女みたいなもんでしょ」
違うと言いたいが、思い返せば強く否定できない気もする。
一度スカーレット様にイリーナが彼女というのは誤解だと説明したのだが、その時は笑いながら。
「いいじゃないの、イリーナが頑張り屋さんでいい子なのは知ってるでしょ。それとも何か不満でもあるの?」
「いや、仕事仲間なだけで、そもそも職場に恋愛を持ち込むなど……」
「別に社内恋愛禁止じゃないわよ、それで不利益を与えたら消えてもらうだけだし、クラウドならそんな心配もないでしょ」
どうもスカーレット様の下で長く働いていたせいか、女性に言い負かされることが日常化したというか。
今も年下の後輩にいいように言われっぱなしな気がする。
「それよりも、どうだ双眼鏡でなにか見えるか?」
「全然見えませんね、モンスターが暴れた様子とか、急に地形が変わった感じとか。まぁ、上空から雑に見てるだけなんで、やっぱり実際に山に入らないと詳しいことはわかりそうにないですね」
ニブルヘイム魔晄炉にアバランチの残党が集結してる可能性が高い。
そして奴らを集めているのはジェノバと呼ばれる存在。
スカーレット様が不要と判断し、未来に危険をもたらす存在だ。
「でもなんで私たち実験部隊が先に行かなくちゃいけないんですかね、ソルジャー部門も動員すれば楽なのに」
「ソルジャーはジェノバの細胞を移植されてるから、今のジェノバに不用意に近づくと操られる可能性があるらしい。俺たちが魔晄炉に行くのが一番効率的だ」
ソルジャー部門が使えないとなると、少数で戦えるチームというのが実験部隊とタークスの二択になるのだが、俺たちの方が適任だと判断された。
「それに俺たちが突入したと同時に治安維持部門で村の人たちを避難させてもらえるようになったからな、そっちの指揮をタークスにはやってもらう」
ソルジャー部門が使えず、タークスの人員だけでは大勢の避難誘導は手が折れる。
そこでハイデッカー統括が、以前俺が指揮した治安維持部門の部隊を派遣することを提案してくれた。
「とりあえず村に着いたら山で不審な影を見たっていう村のガイドに話を聞いて、それから魔晄炉に行くぞ」
「了解です、クラウド先輩の実家には顔を出さないんですか?」
「あぁ、任務だからな」
「嘘つけ、実家に顔を出すくらいの時間はあるだろうし、一度顔を出せとスカーレットに言われてるだろ」
ここまで無言を貫いていたヴィンセントが、余計な口を挟んできた。
確かに任務のついでに実家に顔を出すくらいはできるだろう。
「あっ、きちんとお母様に会えるじゃないですか、私もご挨拶に行きますよ」
「いらん、そもそもなんだご挨拶って。上司ならまだしも後輩が挨拶することなんてないだろ」
「ありますよ、いつもお世話になってますってお礼を言いたいですし」
絶対に母さんにイリーナを紹介したら面倒なことになる。
前回スカーレット様を紹介した時も、恥ずかしい目に合った。
あの時はまだ上司の紹介だったからよかったが、イリーナを紹介したら間違いなく彼女だと思われる。
そして俺を置き去りに二人が話し始めることが分かってる。
「さっき話に出た幼馴染が今回協力者のガイドだろ、どの道少しの間村にいるんだ。顔位見せてやれ」
「それ聞いてないですよ! 私というものがありながら浮気ですか?」
「浮気じゃない、そもそも付き合ってないだろう」
「じゃあ、その幼馴染さんのこと好きなんですか?」
「ティファとは昔の幼馴染だ、ただそれだけだ」
思えば仕事の忙しさにかまけ、ティファとも何の連絡も取ってなかった。
前に来た時も会う機会はなかったし、俺がミッドガルに行くことも純粋に応援してくれた彼女に対して、手紙の一本も送らないのは薄情だったかもしれない。
そして仮に今イリーナをティファに合わせたら絶対にイリーナが煩いと確信をもって思える。
「ねぇ、クラウド先輩は私が彼女じゃ不満ですか? 私自分で言うのもなんですが結構可愛いと思いますよ」
「確かに可愛いのは認めるが……」
「きゃー、クラウド先輩ってば正直者ですね」
イリーナが嬉しそうに腕に抱き着いてくる。
確かに顔は可愛いし、性格も悪くはない……ただ少し距離が近いというかスキンシップが多いのは気になる。
それに胸を押し付けてくるのはやめろと言いたいが、それを言うとセクハラになるのだろうか? ヴィンセントに助けを求めてもニヤニヤ笑うだけで何も言ってくれない。
「頼むからやめてくれ、今操縦中だ!」
「大丈夫ですよ、クラウド先輩の操縦技術信じてますから」
「イチャイチャするのはいいが、墜落だけはやめてくれよ」
仕事をする時のイリーナはもちろん信頼してるし、可愛い後輩に間違いない。
それにしてもなんでこんなに懐いているのだろうか。
「イリーナがそこまで好意的になったのはお前が原因だからな、まったく、あの女の悪い所を真似して年頃の女相手に関わればそうなる」
私が兵器開発部門の実験部隊に配属され初めて大きな任務が決まった。
今までも地獄のような訓練と、いくつもの暴徒鎮圧や、時に魔晄で狂暴化したモンスター退治など、任務は様々だった。
でも今度のジェノバ討伐は違う、正真正銘私たちが負けたらおしまい。
実験部隊が中核を担う、もし失敗した時は私たちの会社での居場所も危ういし、何より先輩の故郷が危機に晒されてしまう。
クラウド先輩には本当にお世話になってる。
私が今こうして神羅で働けているのも、あの窮屈な学校生活から抜け出せたのも、お姉ちゃんやタークスに抱いてたコンプレックスを払拭出来たのも、全部先輩のおかげだ。
今度の任務に伴い、私は遺書を書くことになった。
元々タークスでは万が一任務で命を落した場合、家族に遺書を書くのが義務づけられている。
社員が亡くなった時に遺族に支払われる見舞金は、任務の危険性を会社側が認識してる証拠だ。
私は遺書なんて書いたことはなかった。
だって死ぬつもりなんてないから、だから書く必要もないと思っていたけど、今は違う。
生きて帰ってくるために私は遺書を書くのだ。
帰ってきたらこの遺書は処分する。
そして笑い話にしてしまおう、先輩への気持ちも全部。
「スカーレット様! 遺書の用意出来ましたんでよろしくお願いします!」
「はい、こんなの受け取っといてなんだけど、中身を誰にも見せないようにしなさいよ」
「もちろん、きちんとクラウド先輩・ヴィンセント先輩と一緒に帰ってきます!」
統括のスカーレット様もいい人だ。
この人がクラウド先輩を引き抜いて、そしてクラウド先輩に私が引き抜かれた。
私みたいな学生にも気を使ってくれるし、特別に期待もしてくれる。
「帰ってきたら兵器開発部門のみんなで盛大にお祝いしましょうね」
「えぇ、もちろんよ」
「遂に来たな、すべての始まり、ジェノバを始末する日が」
「今まで準備は進めて来たけど、まさか向こうでも動きがあるなんて思わなかったわ、完全に私のミスね。油断してた」
個室の豪華な椅子に腰かけたスカーレットがため息交じりに呟いた。
長い会議を終え、疲れ切った雇い主に俺はコーヒーを手渡す。
「あら、珍しいわね、私に気遣ってくれるなんて。タークスでは上司の気遣いも仕事のうちだったの?」
「ルクレツィアにも徹夜明けに良くコーヒーを淹れていた。インスタントをお湯に溶かしただけのコーヒーだがな」
この女の下で贖罪のために働くことになり、気づけば数年が過ぎてしまった。
ただ棺桶に引きこもっていた日々と比べ、なんと充実した日々であったか。
かつての同僚と会い、こんな俺でも慕ってくれる優秀な後輩に出会えた。
タークスにいた時と同じように各地を旅したが、その中で生きている実感を得られた。
やはり人との関りというのは、人間に変化をもたらすのだろう。
「あまり気に病むな、お前は時折一人で抱え込みすぎている。未来に何を見てるか知らんが、一人で抱え込む必要もなかろう」
俺の言葉にスカーレットは目を見開く。
そして少し困ったように笑い、再び椅子に腰かけた。
今度は足を組み、背もたれに体重を預ける。
その姿は統括というよりも、女王という方が相応しい風格だが、こっちの自信に満ちた方が彼女らしい。
「あら、色男は良い女に優しいのね」
「ふん、目の前で悩まれたり懺悔されるよりよっぽどいいからな……少なくとも俺を棺桶から連れ出してくれたことには感謝してる」
思えばクラウドが周囲に与える影響はすさまじい。
神羅という巨大な組織が、一人の青年を中心に少しづつ変わってるように感じる。
若き才能と積み上げる結果で注目されているが、その才を拾い上げたのはこの女だ。
世の中には若くして才能に溢れ、結果を残す人間もいる。
努力を怠らず、常に上を目指す向上心を持ちながら、人を引き付けるカリスマ性まで持ち合わせている。
クラウドばかりに注目してしまいがちだが、目の前の女も俺が勤めていた当時、まだ少女と呼べる歳であった。
親子ほど歳が離れた二人だが、ある意味世代のバトンを渡し合う二人なのかもしれない。
「決戦前に色々語るのはフラグを立てるっていうのよ、まったく縁起でもないわ」
「勝手に言ってろ、仕事をしてくるのは現場の人間だ。お前はその椅子に座って俺たちの報告を待っていればいい」
俺はそう言い残すと、スカーレットに背中を向けて部屋から出ようとする。
すると背後から声がかかった。
振り返るとさっきまでの疲れた顔ではなく、いつもの自信に満ちた表情で俺を見ている。
「恩を感じてるのなら絶対に帰ってきなさい、これが終わったらルクレツィア探しのために長期休暇を認めてあげるから」
「へぇ、ここで先輩が育ったんですね」
「何もないのどかな村だろ、魔晄炉と神羅屋敷を除けば特に見るところもない村だ」
「そんなことないですよ、ほら、あそこの給水塔なんていい感じのオシャレスポットじゃないですか」
まさか任務でまた故郷に帰ってくることになるとは、人生何が起こるかわからないものだ。
「とりあえず神羅屋敷に出向してる社員に話を聞いて……」
「それは俺の方でやっておこう、三人も聞き取りに必要ない」
「いいのか?」
「お前は村のガイドとやらに話を聞いておけ、俺の方も終わったらお前の実家に集合する」
「うわっ、ヴィンセント先輩優しいですね」
イリーナが茶化すと、ヴィンセントは何も言わず神羅屋敷へと歩いて行ってしまう。
元々神羅屋敷にいたわけだし、前回この村も少し見て回ってたから実家の場所も把握してる。
「それじゃちゃちゃっとガイドへの聞き取りを終わらせて、クラウド先輩の実家で休憩しましょう! ガイドさんのお家ってどこにあるんですか?」
「実家のすぐそばだ、そんなに広い村でもないから、ここから歩いて数分だな」
「ちぇ、それじゃデートがすぐに終わっちゃいますね」
「何がデートだ、しっかり仕事しろ」
「はいはい、わかってますよ」
まったく、調子のいい奴だ。
実力はわかってるし、いざ仕事となればすぐに切り替えも出来る。
このいい意味で気が抜けるというか、ムードメーカーな所がイリーナの長所だ。
「任務……信頼してるからな」
厳しい訓練にもずっと付いてきてくれたし、俺が走り続けてる後を追いかけてくれる。
他人に何かを教えるというのは自分にも返ってくると聞くが、イリーナのおかげで俺も自分に自信が持てた。
俺を引っ張ってくれたのは間違いなくスカーレット様だが、走り続ける背中を押してくれたのは案外イリーナなのかもしれない。
「あっ! 先輩が珍しくデレた」
「早くティファの下に行くぞ、実家に着いたらヴィンセントが来るまでお茶位出してやる」
お部屋が暑いよ呟いたところ、たくさんの対策方法を頂きました。
とりあえず試せるところから色々取り入れてみます。
今首に巻く涼しい奴が個人的にヒットしてます、もっと早く取り入れたら良かったとプチ後悔。
天井からの水漏れも、一応は直して貰いました。
次回いよいよティファの出番がありますよ!
本来のメインヒロインが出るまで長かったですね(エアリスはザックスの彼女になったのですんなり出てきましたが)
次回更新日は8/14水曜日19時予定です。
これからも暑い日が続きますが、何とか乗り切りましょう。
暑さで書く気力とかも削られてましたが、おかげさまで何とかなりそう。
夏コミに参加する方も多いと思いますが、健康に気を付けて素敵なコミケを!