「クックック、セフィロスが敵……ふむふむ、なるほどなるほど、確かに可能か不可能かで言えば可能だろう……実に面白い」
宝条がルーファウスに言われた一言をきっかけに、手元の資料に再び目を落とす。
エルフェが盗み出した資料を暗号通信でもらい、わざわざ印刷して他所に漏洩しないように気を遣った物だ。
すると何か面白い仮説を閃いたのだろう、いつものように気色悪い笑い声を漏らした。
「うひょひょ、何々、セフィロスが離反しちゃったの!?」
能天気なパルマーが口に手を当てながら笑う。
いや、万が一セフィロスが裏切ったら神羅としても大ダメージ必須だし、会社が傾くんだが!?
「若、ひとまず情報共有として事実だけ話しては? 宝条博士にもその後しっかり説明してもらわないと」
一応こういった仕事に慣れているハイデッカーがまともなことを言っている。
まったく、緊急時以外もしっかりとこういった対応が出来れば、もう少し部下からの評判も変わるだろうに。
「キャハハ、とりあえず無駄な話は置いといて簡単に説明するわね、現在ニブルヘイム村でタークスがセフィロスと交戦中。ついでに魔晄炉に向かった実験部隊もセフィロスと交戦したと連絡があったわ」
「セフィロスが二人!? どういうことですか?」
常識人のリーブが驚きの声を上げる。
無論、パルマーと違いセフィロスが離反した時の危険性をきちんと認識出来てるゆえに、そして複数という言葉の意味が分からないがゆえのリアクション。
「言葉のとおりよ、セフィロスが二人もいて神羅に敵対してるんですって」
ここまで自分で話していて意味がよくわからない。
最初にクラウドから、そして同時期にルーファウスに向けてタークスも同じような報告をしたみたいで、二人して顔を突き合わせては首をかしげてしまった。
こんなこと言うのもあれだが、俺は相当間抜けな顔をしていたに違いない。
なぜならルーファウスの顔も、理解が追い付かなくてせっかくのイケメンフェイスが台無しになるくらいだったからな。
俺も正確には理解してないが、セフィロスの偽物が複数いるということなのだろう。
さっきから資料を見てぶつぶつと自分の世界に引きこもってる宝条。
そろそろ戻って来て説明してもらわないとこっちが困る。
「仮説でも何でも思いついたなら早いとこ説明しなさい、早くしないと黙ってるプレジデントがあんたに直接問いただすわよ」
一言も喋らず、この場をルーファウスに任せていたプレジデント。
宝条に目を向けると一つ咳ばらいをし、一瞬で騒がしかった会議室の空気を引き締めた。
流石は大会社の社長、カリスマ性は抜群だな。
少しずつ副社長のルーファウスに会社を任せてはいるが、いまだ権力を持っているし、一言ですべてを決定づけることが出来る。
さて、プレジデントが説明しろといわんばかりに宝条を睨み付けると、一呼吸置いてから宝条が口を開いた。
「そもそもジェノバとは遥か星の彼方からやって来た宇宙生物だ。星から星へと移動し、万一その星に自分の天敵になりえる生命体が居れば細胞から己を分離させ、天敵の姿形を真似、油断したところを近づいて自身の細胞を埋め込みモンスターに変異させる侵略者といったところか。かつて化石として発掘されたこいつは古代種の女に姿を真似ていた、それでガスト博士はこいつを古代種と間違えたのだよ」
すべての始まり、古代種を現代に蘇らせるジェノバ・プロジェクト。
しかし、そもそもの始まりから間違えていたのだ。
「ジェノバは古代種でこそなかったが、その遺伝子が持つ特性は非常に面白いものがあった。その力は我々の手で解析され、今のソルジャーたちを生み出したのだ。彼らの並外れた戦闘力はジェノバの細胞が持つ力の一部を受け継いでいるからだよ」
ソルジャーの身体能力が一般兵と比べてけた外れに高いのは、ジェノバ細胞の恩恵。
もっとも、適合した人間しかソルジャーにはなれず、それ以外の人間に細胞を埋め込み魔晄を浴びせても廃人が出来上がるだけだ。
そして、困ったことに、ソルジャーになれたとしてもそこから魔晄中毒に近い症状を発症し、廃人ルートへ行ってしまう数もそれなりにいるんだよね。
「ジェノバ・プロジェクトから生まれた細胞は二つ、私が担当したS式細胞とホランダーが担当したG式細胞。今ソルジャー化に使われてるのはS細胞を変化させた改良型S細胞だけだ、G細胞は先ほども触れたが重要な欠陥があり、すぐに使われなくなった。もっとも、閑職に追いやられたホランダーは独自にG細胞の研究を進めていたようだがね」
かつてジェノバ・プロジェクトを主導していたガスト博士が突如いなくなり、科学開発部門統括の座を巡り、宝条とホランダーは権力争いをした。
結果は宝条が勝ち、ホランダーは負けて科学開発部門での立場を追われただけでなく、重要機密を知りすぎてしまっていたため、神羅を抜けて別の組織に合流することも出来ず、ただただ会社に飼い殺しにされて、日々個人研究に明け暮れていたという。
この辺りがブラック企業なんだよな。
一応仕事は出来たし、ジェネシスやアンジールに使ったG細胞の研究者だったから、治療なんかを担当してたけど、これが見事裏目に出て二人とソルジャーたちを引き連れて離反しやがった。
「ホランダーのことは皆さん知っての通り、離反した奴らとアバランチに合流。神羅から持ち出したS細胞やソルジャー化の技術を元に、アバランチの科学者が作り出した改造人間に手を加えていたらしい」
科学者の話は長くて困る。
と、一喝してもいいのだが、俺も技術者だし自分の説明は長い方だからあんまり突っ込めないんだよな。
パルマーなんかもう興味なさそうに紅茶を飲み始めてるし。
「ここでポイントになってくるのは二つの細胞の違いだ。S細胞は極端に言ってしまえばオリジナルのジェノバにより近い特性を持つ。他者に己をコピーする能力はないが、それゆえに細胞が劣化する心配はないし、ジェノバの持つ他者を模倣する能力に長けている。最高傑作のセフィロスの強さもそこにある」
「模倣する能力が強さに直結してるのですか?」
リーブの質問に宝条はセフィロスのことを自慢するかのように答える。
「一を聞いて十を知るという言葉があるだろう? セフィロスは一つの訓練、一つの実践、一つの経験、それだけですべてを理解し十へと昇華できる」
白衣の胸ポケットから端末を取り出すと、片手ですさまじい速度で操作する。
フリック操作そんなに手慣れてるんだと変な方向で感心する。
割と最近幹部が使う最新型の端末はスマホ型になったが、前世で慣れた俺はともかく、他のみんなはまだ慣れ切ってないのに。
若いルーファウスが一番すぐに対応して、逆にプレジデントなんかは息子に使い方を教わってたらしい。
会議室の天井からプロジェクターとスクリーンが下りてくる。
何が始まるのかと思ったら、宝条がスクリーンに映し出したのは最近のセフィロスのシミュレーション訓練の映像とグラフだ。
「一般的なソルジャー、そして現在ソルジャー部門で二番目に成果を上げているザックス、そしてセフィロスの訓練結果をグラフにしたものだ。参考までに治安維持部門にも同じ訓練をさせたこともあるが、そもそもクリアに至らなかった」
余計な一言を付け加えたもんだから、ハイデッカーがぐぬぬと唸り声を上げる。
それに構わず宝条は説明を続けた。
「見てわかる通り、セフィロスの強さとは単純な肉体のスペックではない。異常なまでの成長速度、そしてそれを実現するのは何かを学び完璧にこなす再現力、ソルジャーという枠組みから外れ世間一般的なチープな言葉で表現するなら、特別な才能を持つ天才といったところか」
グラフは一般的なソルジャーは少しずつ右肩上がりに数字を伸ばしているのに対し、ザックスのものはそれらを上回る右肩上がりのグラフ。
しかし、その上を圧倒的に上回るとんでもない伸び方をしているのがセフィロスのグラフ。
このグラフを見るだけでもわかる、セフィロスの異常な強さが。
「このグラフはそれぞれいつ頃の物だ?」
ルーファウスが何かに気づいたようで、宝条に問いかける。
宝条は待ってましたと言わんばかりに、スクリーンの画面を切り替えた。
「流石副社長、今のは同じ訓練を受けた物をグラフ化したものだが、それぞれが訓練を受けた日が違う」
「ザックスがこれらの訓練を受けたのは最近の物だな? セフィロスはいつこれらの訓練を受けた?」
「セフィロスがこれらの訓練を受けたのは15になるときの物だ」
「信じられん、その時からこれほど過酷な訓練を受けて、なおかつこのような結果を残していたのか!?」
ハイデッカーの驚きも仕方がない。
正直、この訓練内容自体が過酷極まりなく、クリアすること自体厳しいのだ。
よく見たら一般的なソルジャーのデータも、最近の物だから、恐らくザックスの下でここ最近急成長してる部下たちが意地を見せた結果なのだろう。
「つまり、セフィロスの本当のすごさはその成長率の高さってこと。逆に言えば張り合う相手や過酷な訓練がないと、その成長速度は伸び悩むってわけね」
セフィロス本人も自主的にトレーニングをこなしているのだろうが、一番強くなる起爆剤になるのは壁を乗り越えた時。
つまりライバルと呼べる存在がいる時に、その強みを自分の中に取り込み己の技に昇華する。
だから幼いころからとんでもない訓練を受けさせられた、過酷な任務も誰よりも受けて来た、肩を並べる優秀な戦士、ジェネシスやアンジールが居たことでそれらの強さも自身の物にした。
ここ数年急成長して強くなったザックスも最初こそセフィロスに食らいついたが、すぐにその強さの理由を解析し自分の中に取り込んでいる。
セフィロスの強さとは主人公のような圧倒的成長速度、そしてそれを支える本人が完璧に理解した経験の多さ、一度で倒しきることが出来なかったら、二度目に同じ人間にチャンスがなくなる。
だからこっちもセフィロスを倒すために色々準備してきたけど、直接対決は限界までしないようにして、シミュレーションでの模擬戦ばかりして、ここぞという時の一戦を勝てるように気を使ってたんだよね。
「流石はセフィロスを超えようとするクラウドの上司は理解が早い、いや、最初からセフィロスの特性をわかっていたのかな?」
「キャハハ、あんただってこっちの考えが分かりながら協力してきたでしょ? わざわざセフィロスを超えるように仕向けて、それを踏み台にセフィロスをより成長させようとした」
「クックック、どうもセフィロスに並び立てる壁というのがどこにもいなくてね。ホランダーの失敗作もダメ、よその国の戦士もダメ、後輩のソルジャーたちもダメ。一番見込みがあったのが実験部隊のクラウドという、兵器開発部門によって育て上げられた一級品の戦士だっただけだ」
まぁ、こっちは踏み台なんて素直になる気はないし、将来的にセフィロスを訓練で倒すのではなく、殺すことを念頭に置いてたから、あれこれ融通してもらったのは助かったけど、要するに息子のライバルを自分の手で用意しようとしてたってことだよね。
歪んだ親バカもここに極まれりだ。
「おい、いつもの自慢話をここでするな。セフィロスの強さのからくりはわかったが、それと今回の事態はどう説明するのだ?」
ルーファウスに二人して怒られた。
俺は内心少しやっちまった感を覚えているが、そんな事顔には一ミリも出さない。
宝条も悪びれず説明を再開したが、こいつは心の中でも反省なんてしてないな。
「以上がS細胞の特性を受け継いだセフィロスのスペックだ。一方G細胞の特徴としてジェノバの分離能力、いわば他者に自分をコピーする力を持っていた」
「つまりジェノバの擬態・分離能力のうちS細胞は擬態能力を、G細胞は分離能力を受け継いだということですね」
リーブがきちんと内容を理解しているようで、宝条も満足そうに次の話に移行する。
「そうだ、そして私の手元のホランダーがアバランチに行ってからも続けていた研究資料によると、G細胞のコピー能力をベースにS細胞の特徴を取り入れ、新しいソルジャーを生み出すことを目標としていたようだな。アバランチはマテリアを人体に埋め込む独特の研究もしていたようだし、失敗作とはいえこれだけのアプローチをすれば無能でもそれなりの結果を出せる」
「そろそろ科学に精通してない我々一般人にもわかるように要約してもらえないか宝条博士?」
ついにプレジデントが手を組みながら宝条に説明を求めた。
「そうですな、一言でアバランチの研究内容を纏めると、優秀な戦士を作るアプローチを変えたのです、ただやみくもにスペックの高い戦士を生み出すのではなく、世界最強の戦士を模倣しそれを量産する……私の手元の資料のプロジェクト名がすべてを物語ってますな」
エルフェがアバランチから持ち出した極秘資料、そこに書かれたプロジェクト名を会議室の皆に見せるようにスクリーンに映し出す。
「セフィロス・コピープロジェクト」
考えてみたら今日と明日はお休みの人が多いでしょうね。
なので続けて更新しちゃいます。
とりあえず明日19時にもう一度更新予定!
次回『セフィロス・コピー』
皆様からの感想で、色々楽しませてもらってるのですが、お一人セフィロス・コピーが出てくることを予測した方がいらっしゃいましたね。
感想返しでお答えは出来ませんでしたが、思わず唸ってしまいました。