「ねぇ、セフィロス、私の可愛いボウヤ……」
「下らん、母の体を操って何を企む、ジェノバ!」
あれがルクレツィア、俺を産んだ女。
本来であれば感動の再会とでも言えるのだろうが、彼女は今ジェノバに操られている。
まさか俺のコピーを生み出して人類に反逆しようなどとは、なんとも迷惑な宇宙侵略者だ。
そして何よりもイラつくのはコピーの出来が良いこと、そして母親面するジェノバの演技!
「確かにこの体は貴方を産んだ女よ、でもね、貴方は私の細胞から生まれたソルジャーでもあるの。他のソルジャーたちは貴方の細胞を使ったけど貴方だけは違う。私の細胞を分け与えられた正真正銘私の分身、私の愛する子供なのよ」
俺に母の記憶はない、しかし、ルクレツィアの見た目にどこか懐かしさを感じるのも事実。
「ほら、素直になって、私と一緒に暮らしましょう……」
「いい加減母の振りはやめろ、そしてその演技が刺さるのはクラウドの方だぞ」
どんな人物だったが知りもしないが、少なくてもこんな女らしく妙に色っぽい母親ではなかったはずだ。
こんな自信に満ち溢れ強気な女が、コンプレックスの塊の宝条と結婚など出来るものか。
どちらかというと性格はスカーレット統括に似せているな、直前まで話していたのがクラウドだったからか?
「人の母親の体で後輩を口説くな、そんなにクラウドが好きなら別の女を乗っ取れ」
「貴方の好みがまだ測れてないのよ、もし母じゃなくて女が欲しいなら、これからいくらでも好みの女になってあげる。私に触れて身を任せたらすぐに心まで読みこむわ」
会話をしながらも偽物は俺に対して攻撃の手を緩めない。
まるで鏡を見てるように刀捌きから何から全て同じ、コピーの精度が高すぎる。
俺が次にどんな行動を起こすのか、完璧に動きをトレースしてくる。
「すごいでしょ、私が作ったセフィロス・コピー・SYNTHESIS。四体のコピーの中で一番出来が良いのよ。あなたの戦い方を完璧にトレース出来るの」
いちいち行動が色っぽくて、見ていて嫌な気持ちになる。
母の体を好き勝手されるというのが気に障るのか、それとも見知った後輩直属の上司の影がちらつくせいなのか。
すぐにでも目の前の偽物を打ち滅ぼしたいが、俺のコピーだというだけあり強い。
それに俺の癖や動きまで完全にコピーしているため、攻撃が読めているとはいえ攻めあぐねる。
一撃が重く鋭い、戦ってみてわかるがこんな奴相手にザックスはいつも訓練を強請って来たのか、ソルジャーじゃなければ精神科を勧めるところだぞ。
同じ角度、同じ力の入れ方、同じフェイント、同じ太刀筋。
俺のコピーと言えどここまで似せられるものなのか。
まるで鏡写しのように繰り返される攻撃の応酬、隙を見つけ切り込むことも、無理やりこじ開けることも出来そうにない。
「なるほど、良くできたコピーだ。神羅のシミュレーションでもここまでは再現出来ないな」
「そうでしょ、なんたって貴方のコピーなんだから」
「だが、俺を倒すことも出来まい。時間を掛ければ他で戦ってる奴らが集まってくるぞ」
「あら、コピーたちが勝ち残って合流するとは考えないの?」
これだから科学者という人種は苦手だ、自分の計算がすべて正しくそれ通りに動くと勘違いしてる。
母の顔で俺の嫌いな宝条のように、人を見下しサンプルとしか見てない目。
「貴様もセンスのない奴だ。他のコピーが倒されることを考えないのか?」
「全然いいのよ倒されても、所詮出来が悪い順に足止め目的で使ってるだけだから。私の本命はこのリユニオン個体、他のコピーが戦ったデータをリアルタイムで学習させることが出来る特別な個体。仮に他のコピーがすべて倒されたら、そこでセフィロスに対して勝てる戦力との戦いを三回も経験させられるのよ」
なるほど、こうしてる間にも目の前の個体は学習してるというわけか。
コピーと戦ってる俺と同じ剣士は三人、少し借りてみるか。
エルフェの速度重視の剣技、ザックスの威力重視の剣技、クラウドの技巧重視の剣技。
クラウドの剣技は直接戦った経験がなく、いつかのロケット村で少し見ただけの猿真似だが、嫌というほど訓練をせがんでくるザックス。
そして戦場で互いに本気の戦いを繰り広げて来たエルフェの技は、ほぼ完璧と言っていいくらい再現できる。
「あら、すごいわね。他の人の技もコピー出来ちゃうなんて、さすが私の子。コピーの難点はあくまで一番強いあなたの技しか再現出来ないことなんだけどね……」
先ほどは使う技もすべて同じだったから鏡合わせのようになったが、こちらが違う技を使えばそうもならない。
俺の技を真似するというなら、俺以外の人間の技はどうだ。
「あら、面白いわね、三人の技をそれぞれ組み合わせて一つの個性みたいに扱ってる。さすが私のコピー能力を受け継ぐだけあるわ。器用なことは良いことだけど、それだけじゃこの子は倒せないわよ」
先ほどより攻めに転じられている。
しかし、どれも届かない。
少しばかり攻めのリズムは変えることに成功したが、すべてが完璧に対処されていく。
いや、俺もきっと同じように処理するだろう。
そして、俺が反撃するだろうタイミングでしっかり反撃してくる。
少し押され気味だな、見様見真似で合わせた三人の技も悪くはないが、俺を相手にするには押し切れないか。
「……残念だったわね。確かにコピーはすごいけど、真似する相手を見極めないとダメよ。貴方は最高の戦士なんだから変に真似なんてしなくてもいいのに」
「確かに、戦った相手のことはすぐに覚えてしまう。さっきのも一度も練習したことのない動きだったが、それなりの形にはなったな」
「そうでしょ、貴方が私から引き継いだ素晴らしい力。私と一緒に来なさいセフィロス、もっと素晴らしい世界を見せてあげる」
両手を広げて俺を誘うジェノバ。
「なぜ俺をそこまで求める? これだけのコピーを生み出せるなら俺の存在など執着しなくてもいいだろう」
「決まってるでしょ、私の子供ですもの、貴方は世界で一番私だけの特別なのよ。貴方も本当はつまらなかったでしょ、誰も理解してくれる人がいない寂しさ。でも私と一緒になれば違う。どんな人の心も、どんな優れた点も、全部自分の物に出来る。独りぼっちになることなんてない、私が貴方の競い相手をいくらでも産んであげる」
なるほど、これほど害悪なものが存在するとは、認識を改めねばなるまい。
先ほどから話しかけてくるのは俺の心の隙間を探るためか?
ジェノバを見てから、頭の中に問いかけてくるような気持ちの悪い声が止まない。
「喋るのか頭の中に語り掛けるのかどちらかにしろ! 同時に話しかけられるのはいい気分がしない」
「声に身を委ねてくれたら楽になるのに、本当に強情ね。でも、そろそろ限界が近いんじゃないの? さっきから攻撃のキレが落ちてるわよ」
「それはそうだな、人のを真似してるだけだから芯がなかった!」
使うならここか、一気に行くぞ!
「ここはどこだ?」
チャドリーの調整した仮想空間。
辺りを見渡すと、そこは見慣れた光景が広がる。
空は限りなく青く、少し先の水平線は白く霞む。
空の解放感と裏腹に足元は固く、鉄の匂いと忙しなく吹き出す蒸気。
ここはジュノン、神羅が戦争に勝ち自治権を得た港。
そして本来であれば人が立つことのない魔晄キャノンの上に一人佇んでいた。
「懐かしいな」
ここはジェネシスやアンジールと訓練するときの定番のフィールドだった。
訓練出来る場所の中で一番見晴らしがよく、この景色を見た後入り組んだ市街地戦を何度もしたものだ。
特に砲身の先端はジェネシスお気に入りの場所で、訓練中あまりにもここに立ってることが多かったので、良く俺も砲身を切り刻んだものだ。
「懐かしいだろ、お前が立ってる場所はジェネシスお気に入りの場所だ」
「……アンジール?」
そこにはかつて共にこのフィールドを駆けまわり、剣を振るった男が立っていた。
ザックスが最後の引導を渡したらしいが、その姿は記憶に焼き付いたまま。
唯一の違いといえば、いつもの訓練用の剣を手にしてないこと。
「あまり趣味の良い対戦相手じゃないな」
「チャドリー君に苦情は言うなよ、俺とジェネシスから頼んだんだ」
「なに?」
「俺たちが最後どうなったか知ってるよな、モンスター化した個体をサンプルとして宝条博士が保管してる」
ザックスと共に離反した二人を斬った。
俺はジェネシスを、ザックスはアンジールを、そしてモンスターとなった二人は原型を留め科学開発部門へと送られた。
最初は奴らに身柄を渡さず、どこかの土に埋めようかと考えたが、ザックスがせめてモンスターではなく人間としての姿を取り戻してやりたいと話し、科学開発部門に直談判をしたのだ。
「俺たちの体は神羅の科学開発部門にあるらしくてな、何を思ったのか宝条博士が脳波を読み取ってシミュレーションに反映させる実験をしたらしい」
たしか二人の公式なデータはすべて処分されたはず、神羅のソルジャーを代表する二人が揃って離反したなど大衆に伝えられるわけもない。
二人とも表向きはウータイとの戦争で負った怪我が原因でソルジャーを退いたことになっていた。
「んでもって、チャドリー君の正体はお前も気づいてるな。あの子はサイボーグって奴らしく、精神を電脳世界にリンクできるんだとよ、そこで俺たちの脳波とシミュレーターをリンクさせ、こうやってお前と話せるようになったってわけだ」
「つまり精神を真似た偽物というわけか」
俺は正宗に手を掛け、親友の姿を再現したデータを相手に切りかかる。
しかし、背中に背負ったバスターソードを振り抜いて、俺の攻撃を受け止める。
「本物のアンジールはその剣を使わない!」
「そうだな、親父から貰った大切な剣だ、いつもお守りにして使わないことをザックスに揶揄われたよ」
何度か切り結ぶが、俺の攻撃に対して剣で受け流しては反撃してくる。
しかし、その一撃のどれもが重い。
思えばこの馬鹿力だけは俺たち三人の中でダントツだったな。
「消えろ亡霊、その剣はザックスに譲っただろう」
「あぁ、剣と俺のソルジャーとしての誇りはあいつが背負ってくれた。だがな、肉体を失って時間的に余裕が出来るといろんなことを考えちまう。おかげでこんなことも出来るようになった」
アンジールがバスターソードを構え直した瞬間、一気に踏み込んでくる。
しっかりと刀を構え防御したはずなのに、衝撃を受け流しきれずに吹き飛ぶ。
不味い、追撃が来る。
高く振りかぶったバスターソードが振り下ろされる。
この足場では避ける先がない、俺は渾身の力を振り絞って正宗でアンジールのバスターソードを受け止める。
「な、なんだこれは」
「どうだ、ずっとジェネシスと朝から晩まで訓練した、たまにクラウドやザックスにも付き合ってもらってな!」
受け止める手が衝撃で震える。
アンジールの一撃は、俺が今まで受けて来たどの一撃よりも重い。
「見せてやるよ、お前を超えるために鍛えなおした俺の技。ごちゃごちゃ悩んだ時は訓練で発散するのが俺たちのやり方だったよな」
「この脳筋め、普段細かく考えてるのはお前の方だったろ!」
「ジェネシスとお前は外に出さなすぎるんだ! そのせいでどれだけ俺が苦労したか」
それから何度も鍔迫り合いを繰り返し、何度も声を投げかけた。
不満も、悩みも、驕りも、すべて吐き出してしまった。
気が付けばあんなに青かった空は赤く染まり直し、互いに肩で息をしながら、地面に座り込む。
「どうだ、少しはすっきりしたか?」
「あぁ、負けたのにこんな清々しい気分は生まれて初めてだ」
「勝ったつっても判定勝ちだけどな」
「誰かが仕組んだわけじゃなく、お前の意思でここにいるのか?」
俺は立ち上がり、手を差し伸べる。
その手を掴み立ち上がったアンジールは俺の目を見て頷く。
「そうだ、ずっとリベンジもしたかったし、魂はザックスが受け継いでくれたが、こんな機会を与えられたらな。親友に技の一つでも送りたくなった、次はジェネシスが待ちかねてるからそっちとも語り合ってこい」
「何よその技……そんなのデータにない!?」
「俺は最強などではない、俺を超えた奴は二人いる。そしてこれからも俺を超えようとする後輩が居てくれる」
さらばだ、俺のコピー。
お前は俺に負けたんじゃない、俺の親友に負けたんだ。
「コピーしたわけじゃない、俺は二人から受け継いだんだ。それが人間らしさだとさ」
砕け散るコピーを信じられない表情で見続けるジェノバ。
「お前の能力などなくても人はリユニオン出来る」
長く続けて来たこの作品も次回最終回、明日19時更新予定です。
ここまで続けることが出来たのも読んで頂けた皆様のおかげです。
本当にありがとうございました、こんなコメント書くのも少し早いのですが先に打たせてもらいます。
いつも5,000文字を目安に書いてますが、次回最終回ということで少し詰め込んでます
具体的には7,000文字超えちゃいました。
読みやすい一話の目安が5,000文字くらいかなと思い、この文字数を定期更新していくのが今回の一つ目標だったので、それを頑張れたことも得難い経験でした。
本当は活動報告でも書こうと思ったのですが、やはり皆さんこの小説を読んで頂いてると思うので次回は後書きも少し多めになるかもしれません。