ヘリの中でスカーレットの代名詞と呼べるワインレッドのドレスを脱ぐ。
ド派手な服で最初の頃はこんな服を着て仕事をするのにものすごい抵抗があったが、代名詞と呼べる衣装だし、強烈なイメージってのも使いようによっては必要な武器だと思いしぶしぶ着こなすことにした。
元が男だったせいで、最初は女装してるみたいで変な気持ちだったし、足や胸元はスースーして心もとない。
若い女の子が寒い日でもスカートで生足を出してるのを見て寒そうだと思っていたが、まさか自分がそんな恰好をする立場になるとは夢にも思わなかった。
それに百歩譲って神羅の中ではともかく、ミッドガルを出ればモンスターが出る大地や、砂ぼこりが激しい砂漠地帯。
今後魔晄炉が建設予定のコレル村だって、山の中にある砂っぽい場所なのだろう。
まさかあんなところにもドレス姿で行かなくてはならないのかと思うと少し憂鬱な気もする。
今更服装を変えるのも変だろうし、ド派手な格好がある意味ハッタリを利かせているとも言える。
あんまり女子社員で上の立場の人って少ないんだよな、女性だと男と比べて出世が厳しいとか耳にするが、周りの男たちに埋もれないインパクトとしてスカーレットの服装や言動はある意味正しいのかもしれない。
「ドレスも慣れたけど、久々のスーツは何か落ち着くな」
仕事着と化したドレスを脱ぎ、今はタークスが来ているようなスーツに着替えた。
派手派手ドレスでニブルヘイムみたいな田舎にいれば嫌でも目立つし、たぶんハイヒールて悪目立ちすると思うんだよね。
スカーレットはハイヒールで颯爽と歩くのが好きだったようだが、俺としてはやっぱり普通の靴の方がいいなぁ。
動きやすい革靴も久々だ。
俺が前に履いていたような安物じゃなく、どんな動物の皮かわからないが足にすぐフィットした。
実はハイヒールのかかとに俺しかわからない秘密があり、小さなマテリアとスタンレイに使われている重力制御装置が応用されている。
おかげで思ったよりも歩きやすく、おまけにかかとの細い部分が金網や足場のくぼみに引っ張られるなんてことがないのだ。
ちょっと感動したね、魔晄炉の内部なんかもろに作業現場であんなところハイヒールじゃ入れんだろと思っていた疑問が解決してしまった。
他にも技術職ならではのちょっと変わったガジェットも色々あってびっくり。
早い話がスカーレットって技術屋だもんな、元々俺も最新アイテムとか新しい物好きだし、案外今の環境を楽しめている。
「これこれ、中々この格好も似合うじゃん」
鏡を見て確認するが、スカーレットの見た目はけして悪くない。
細い足に、出るところは出て引っ込むところはきちんと引っ込んでスタイルは良いと思う。
スーツでボディラインがはっきり分かるし、一言で言うと歳の割にはナイスバディである。
もしこれが彼女とかなら全然大歓迎なんだけど、自分がなるってのはちょっと違うよな。
そんなことを考えながら、変装用のサングラスをかけるとあら不思議。
これならどこからどう見てもスカーレットだとわかることはないだろう。
普段のイメージが強すぎて、今の俺はぱっと見タークスの一員っぽい。
タークスには女性社員も少なからずいるし、これなら兵器部門統括だとバレることもないだろう。
そうこうしてる間にニブルヘイム付近の飛行場にヘリが着陸した。
飛行場などとは名ばかりで、ただ整備してある広場だ。
ミッドガルなら夜間飛行も出来るが、こんな田舎に夜間に訪れることもないし、万が一夜間飛行が必要なら、現地の社員がライトを片手に誘導するようにマニュアルがあるみたいだ。
宝条のフライト記録も調べたが、すべてが昼間の飛行のみだったし、ここ最近本人は神羅屋敷に訪れていないみたいだ。
でも時たま科学部門の人間が行き来してる記録はあったから、まだ実験場として機能しているはず。
ヘリから降りると先に降りていたクラウドとツォンが周囲の安全を確認している。
「お待たせ、何もないどころかモンスターさえいないのね」
「ここは、村からも少し離れていますからね魔晄に当てられたモンスターも少ないようです。お似合いですよ、タークスの制服」
「あら、ありがとう、ちょっと胸の辺りがきついんだけど、これしかなかったの?」
無茶苦茶スーツを用意してくれたのはありがたいんだけど、ちょっとだけ胸周りがきついんだよね。
それだけこの体の胸が大きいってことなんだろうけどさ。
「申し訳ありません、急遽用意したものなので、同僚が使っているサイズしか手に入らず」
そうだよね、じっくり用意できる時間なんてなかったから、思い付きでタークスの衣装を用意してくれって頼んだからこれもしょうがないよね。
俺も少し窮屈だと思うけど、別に見た目はそこまで変じゃないし、むしろかっこいいと思うんだけど。
ツォンは立場上こちらを立てて褒めてくれるけど、さっきからクラウドが何も反応を示してくれない。
無理に褒めろとは言わないけど、無言の反応もすげぇ怖いよな。
「クラウド、さっきから何も言わないけど、あなたからみてどうかしらこの格好は?」
「は、はい、普段と印象がガラッと変わってますが、そ、そのなんというか、お綺麗だと思います」
無茶苦茶テンパってるな。
しまった、急に上司に服装どうのこうの聞かれたらそりゃ焦るよな。
俺も昔、全然似合ってないブランドスーツを新調した上司に感想を聞かれしどろもどろになり返答に苦労した記憶がある。
もしかしてあんまり似合ってないのかも……。
考えてみたら元々の感性が男だけど、今の体は女だから、きちんとこの体に似合う服装を選べてないのかもしれない。
この体になってから、スカーレットが持っていた服を着まわしてたし、同じような服装を意図的に選んでたからこんなこと起こらなかったけど、もし自分なりのオシャレを楽しもうと考えたら注意しなくちゃいけない。
クラウドの反応に少し調子に乗っていた自分が恥ずかしくなる。
「まぁいいわ、別に私だとバレなければいいわけだから」
まだ慌てながら何か言おうとするクラウドだが、横にいたツォンが肘を突く。
これ以上はやめておけと言う合図だろう。
クラウドもそれに気づき、それ以上何も言ってこなかった。
そうそう、きちんとフォローしてくれる先輩は貴重だから、きちんと従っておいた方がいい。
俺も別にこの話はこれ以上広げないようにすれば、これ以上気まずい思いをお互いしなくてもいいのだ。
こうやってなぁなぁの空気でお茶を濁してくのも必要なんだクラウド。
「とりあえずクラウドもヘリの中でちゃちゃっと着替えて来なさい。さすがにその服装だと目立つからね」
今のクラウドはソルジャーの制服と同じノースリーブのハイネックシャツ、これは動きやすさを重視してこれがいいと本人が選んだものだ。
やはりソルジャーに少し未練があるのだろうか、ただし、ゲームのような紫紺の服でなく、FF7ACのような黒を基調としたものとなっている。
さすがにソルジャーと見分けがつかないのは困るし、歳が若いクラウドを少しでも大人っぽくみせたらどうだろうと考えてアドバイスしてみたら、素直に応じてくれたのだ。
ゲームとは少し違うが、これはこれでかっこいいし、装備のこともあり俺も服装に関して色々と手を加えたところクラウドもかなり気に入ってくれていた。
そこで自分のセンスを信じ切っちゃったのが今回の敗因だな。
男の服装は良いけど、女の服装に関しては俺も素人みたいなもんだし、でも他に相談できるような同性もいない困った問題だな。
「早いとこ着替えてこい、その間の警護は俺がきちんとしておく」
「す、すいません、すぐに着替えて来ます」
ヘリに慌てて乗り込むクラウド。
顔バレしないように一般兵の服とヘルメットを用意したから、これでクラウドも身バレすることもないだろう。
いつの間にかクラウドのファンクラブなんて出来ちゃってるしさ。
セフィロスやザックスのファンクラブもあって、一応何か情報が得られるかもと思い、俺もひそかに入会しているが、これが中々に面白い。
クラウドもかっこいいし、仕事も出来るからファンクラブが出来ても不思議じゃなかったが存在を知った時は驚いてしまった。
当然俺も入会しましたよ、だって面白そうじゃん。
みんなで見守る感じのファンクラブになってるし、殺伐とした人間関係が一切ない癒しなのよ。
年上にモテるんだよね、神羅の同い年の若手って男性の方が比率多いし、ある意味当然なのかもしれないけど。
「この後の確認だけど、ニブルヘイムに向かったら神羅屋敷の前に村で情報収集するのね」
「はい、そちらの方は私が担当しますので、少しの間お二人は村でなるべく人目に付かぬように時間を潰してください」
今回タークスがニブルヘイムを訪れた理由は、内部査定としてこの地の様子を調べることになっているらしい。
さすがに、科学部門の許可が必要なところには入れないが、そこに住む社員や、立ち入り可能な区域の調査。
他には近隣住民とトラブルがないかを確認するという名目なので、村で聞き込みをする正当性がある。
「私とクラウドは正体バレたら不味いから村人との接触はなるべく控えるわ」
「調査が終わり次第、神羅屋敷の方も一緒に確認しましょう。正面から私が訪れて研究員たちの気を引きますので……」
「裏からこっそり私とクラウドが侵入してくるわ。中のガードシステムは私が端末を操作して誤魔化すし、万が一変な実験体がいればクラウドにお願いしちゃうわね」
「なるべく痕跡を残さないようにお願いします、カバーストーリーを作るほどの人員はタークスから派遣できませんので」
もしミスったら、切り捨てられるパターンだこれ。
つまりは、言い出しっぺなんだからこれくらいはやって見せろっていうルーファウスの指示ってことだな。
「お待たせしました、ヘリ周囲に散開させるスタンレイの準備も出来ています」
「あら、気が利くわねクラウド。兵器の扱い方も手慣れて来たし、戦わなくても私の助手としてやっていけるわね」
最初はただ単に強くする目的でクラウドに訓練をさせまくったんだけど、訓練以外のことにも一生懸命で真面目だし、今じゃ完全にうちの人間なんだよね。
簡単なメンテナンスや修理も出来るようになってるし、そのせいか機械系相手の立ち回りはソルジャーよりも上手いかもしれない。
ちなみにスタンレイってのは兵器開発部門で製造してる小型警備兵器。
重力制御により、高速飛行が可能で侵入者の追跡や迎撃にあたる。
そのほかにもカメラ搭載だから偵察にも使えるし、投影機を搭載してるタイプもいるから、映像を流すことにも使える。
ゲームだと序盤でよく出てくる雑魚なんだけど、まぁ何かと便利な存在だ。
「それじゃ道中の護衛よろしくね、お二人さん」
「お任せください、スカーレット様」
「クラウド君、君の方が土地勘があるだろうから先導は任せる。後方は私に任せてくれ」
「スタンレイを持ち込んだらバレちゃいそうだし、無人機を持ち込めないから護衛は二人だけなのよね。ツォンとも途中で別れるから、クラウドだけが頼りなのよ、しっかりエスコートお願いね」
ミッドガルならそこらに護衛や神羅の兵士、または俺が要請できる無人兵器が無数にあるが、こんな田舎だとそれらすべてがないもんな。
なので万が一モンスターや、神羅屋敷の実験体に襲われたら確実に死ねる自信がある。
だから、本当に頼むよクラウド、生身で戦闘とか俺には無理だし、こっそりシミュレーターで一番簡単な奴をやっても全然歯が立たなかったんだから!
護身用のマテリアを起動してる間に攻撃されて、すぐにゲームオーバーになった。
やっぱり殴られるのなんて無理無理。
村を飛び出して一年、その一年はものすごく濃くてあっという間に過ぎてしまったように感じる。
忙しさにかまけて、母さんに数回手紙を書いたことがあるだけ。
里帰りなんて考えてなかった。
俺を取り巻く環境はだいぶ変化したけど、久しぶりに帰って来た故郷は俺が飛び出した時と何も変わらない。
まるで時間だけ巻き戻ったようだ。
「どうだ、久しぶりの故郷に帰って来た感想は?」
「なんていうかあまり実感が湧きませんね、特に大きな変化もないですし」
「一年では風景もさほど変わらないか、だが、人は変わるぞ。君がこの一年で頭角を現したようにな」
ツォンさんの言う通り、景色は変わらなくても一年という時間は人が変わるのには十分すぎる時間なのだろう。
母さんは元気だろうか……。
手紙で元気だと伝えているが、まさかこんなにも早く会うことになるとは思わなかった。
都会で彼女の一人でも作ってくれたら安心すると手紙に書かれていたが、先ほどのスカーレット様との会話を振り返っても、自分に彼女が出来るのは当分先になりそうだ。
実際に自分も相当変化していると思っていたのだが、スカーレット様のスーツ姿に気の利いたことが言えずに、言葉が出なかったのを見るに女性とのコミュニケーションはまだまだ苦手と言えるだろう。
ザックスと話し始めてだいぶ人と話すのにも慣れたと思っていたが、異性との会話も考えてみたら事務的な物や仕事の話しかしてこなかったし、帰ったら相談してみようかな。
「ツォンは村の人相手に情報収集、その間クラウドの家で私たちは待ってましょう」
「わかりました、この時間なら母さんも家にいるはずなので、大したお構いも出来ませんがゆっくりしていってください」
「私のことはいいのよ、任務とはいえ久しぶりの実家なんだから、母親とゆっくり話しなさい」
スカーレット様も俺の家で時間を潰すことになっている。
なんていうか緊張するな、母さんにもお世話になってる上司としてきちんと紹介しないといけないし。
俺の恩人だと手紙で伝えているけど、実際に紹介するとなると少し緊張する。
ティファに会えないのは残念だけど、元気でやっているのだろうか?
後でこっそり母さんに聞いてみよう。
スカーレットのヒールに関してはオリジナル設定。
あのハイヒールで魔晄炉内部とか山道とか歩けなさそうだと思い、どこでも歩くのに不便しないようにしました。
リバースにて太ももに緊急時の通信装置などを仕込んでいたので、色々衣装周りにも凝ってるのではないかと妄想。
次回更新は同じく一週間後の水曜日19時を予定しています。
原作を担当してるCG集がひと段落して、次は他のサイト用の小説を書きたいので、そっちのストックが溜まればこちらの更新頻度も上げたいところ。
次はクラウドの実家からのスタート予定!
また一週間後にお会いしましょう!