崩壊:スターレイル二次   作:出力用

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ヘルタのチョーカーにぶら下がってる鍵って腹部の錠前のだよねって話。


ヘルタの鍵

 

「うーん……」

「……………………」

 

 

 宇宙ステーションに点在するヘルタのリモート人形のうち、妙な位置にいるこの一体を、私はしばらく前からじっと観察していた。

 ヘルタ本人はオフラインらしく、人形の頬をつんつん突いても五分くらい目の奥を覗き込んでも、反応はなかった。人間だと、そんなに長い間見つめ合っていたら発狂するらしいけど……。

 こんなわけわからない場所にいるんだし、ヘルタもこの人形の存在を忘れているか、あるいは切り替えのボタンが壊れている。

 そうだ、そういうことにしよう。

 ベロブルグのゴミ箱というゴミ箱を調べまくっても鎮まらない衝動が疼く。

 私には、リモート人形についてずっと気になっていたことがあった。

 チョーカーのところにぶら下がっている鍵は、もしかしてこの服の前面に取りつけてある錠前のものではないのか、ということだ。

 変なところに貞操帯みたいなものがあるなと思って先ほど床に這いつくばりそのスカートの中身を凝視しておいたが、なんということだろう、人形は紫のリボンがついたシンプルな下着をつけているだけだった。

 どうでもいいけどアスターは色違いの赤紫で、なのは青、姫子は無地の黒だ。

 丹恒とヴェルト? 知らないな……。

 上半身のガードが堅いのがなぜなのか、気になって仕方ない。

 服についた鎖で叩かれたら痛そうだけど、幸いなことにこの人形はずっとオフラインのままだ。

 

 

「よし」

 

 

 私は迷わずその鍵を手に取り、文字通りオブジェと化しているリモート人形の錠前にそれを差し込んだ。

 鍵を回すと、意外に呆気なく錠前は外れた。

 ──おおなんということか、神秘の門は今汝の手で容易く押し開かれようとしている!

 ──単純な解決法に人々は気づかず、選ばれし者こそ目の前の本質を見抜くのだ!

 ──いざ行かん、未知なる世界へ!

 ──それこそ開拓者の本懐、いや(さが)だ!

 というわけで、第一段階としてリモート人形の上着的なものを脱がせることに成功した。

 鎖がついているのでわりと重く、その辺に投げ捨てたら硬い音がした。

 脱がせてみると結構寒そうな格好をさせていることに気づく。

 なにしろネグリジェのようなものしか着ていない。

 人形なんだし寒さなんて感じないだろうけど、なんか居たたまれなくなってきた。

 特に信用ポイントとか隠されていないし、人形とはいえ自分より遥かに年下な外見の少女を辱しめる趣味もないため、上着的なものを手繰り寄せて元に戻そうとしていたときだった。

 

 

「なにをしているの?」

 

 

 人形が、微動だにせず、ただその目だけをこちらに向けて無機質にそう言い放った。

 しまった、ヘルタがオンラインになったんだ。

 ヘルタは、彼女の上着的なものを握っている私の手を一瞥した。

 しかしここで動揺を悟られてはいけない。

 

 

「宝箱って開けたくなるでしょ? リモート人形も鍵ついてるし信用ポイントとか隠されてるのかなって思って」

「今あなたは私からの信用を著しく失ったところだよ、気づいてる?」

 

 

 ヘルタは私の手から上着的なものを引ったくると、不愉快そうにそれに袖を通して元通り鍵をかけた。

 

 

「そんな目の前に鍵がぶら下がってたら開けてみたくなるよ」

「好奇心は猫を殺すって言葉を知らないの?」

 

 

 ヘルタは腰に手を当てて私を見上げていたが、それ以上どうこう言うつもりもなさそうだった。

 しかし、ボディーに特になにも隠されていないなら鍵までつけた意味がわからない。

 私はゴミ箱の底まで手を突っ込んで調べないと気が済まないたちだ、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

 

「ヘルタ」

「なに?」

「私が模擬宇宙にいる間、ヘルタが私の体になにをしてたか知らないとでも?」

 

 

 テキトーに言っただけなのに、その言葉を聞かされたヘルタは明らかにうろたえていた。

 体の中に星核とかなんとかいう謎物質が埋め込まれているのもそうだけど、それ以外でもヘルタは私の体に興味津々だった。

 だから、模擬宇宙で私が楽しく敵を倒してアッハを叩いている間にヘルタが私の体になにかしていることは当然予測できた。

 研究の(てい)でどこまでされているのかわからないけど、とにかくそれは事実らしい。

 ヘルタは目を逸らすことこそなかったが、その目には焦りの色を浮かべていた。

 

 

「過程を報告しなかったのは、確かに悪かったと思ってる」

「じゃあさっき失われた信用を元に戻してくれる?」

 

 

 どこまで下がったのか知らないけど、これでチャラにしてほしい気持ちがある。

 というか、ヘルタに信用されているというのが少し驚きだった。

 ヘルタは無表情に言った。

 

 

「ああ、あれは冗談だよ。気になって他のことが手につかなかったんでしょ? 私、あなたがこの人形になにかしてるのを結構前から観察してたから知ってる」

 

 

 ……ちょっと待って。

 つまりヘルタは今さっきの段階でオンラインになったわけじゃなくて、最初から見てたってこと?

 だれも見ていないと確信していたからこそ私は床に這いつくばってまで人形のスカートの中身を確認していたというのに、実際はそれすらも観察されていたなんて。

 

 

「なんでそんなことを……」

「研究対象を観察するのは当然のことでしょ?」

「でも全然反応してなかったよね?」

 

 

 あんなに長く見つめていたのに、人形からの反応はまったくなかった。

 もしかしてヘルタって人間じゃないとか?

 ヘルタが少し馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 

 

「モルモットがこっちを見てるだけで笑えとでも?」

 

 

 相変わらず私を大切にしてくれないらしい。

 それに傷つくというよりは、報復してやりたい気持ちになる。

 とはいえ、リモートコントロールしているだけのボディーになにをすれば……。

 

 

「──あ。模擬宇宙の探索報酬でいいものくれるって言ってたよね。だったらこの人形くれない?」

「はあ……?」

 

 

 予備も三十数体あるらしいし問題ないと思ったのに、ヘルタはものすごく不快そうな顔になった。

 心なしか、私から距離を取っている気がする。

 

 

「もしかしてあなたって…………人形偏愛症(ピグマリオンコンプレックス)なの?」

 

 

 自分の肖像画を眺めて「本人には及ばない」とか独り言を言うナルシストには言われたくない。

 

 

「違う。ヘルタが可愛いから欲しくて」

「えっ……?」

 

 

 説明を端折りすぎて告白みたいなことになってしまった。

 ヘルタも人形のボディーのくせにどうなっているのか、やけに頬が赤くなっているし。

 

 

「──違う。本人は見た目が若返ってるだけで中身はかなり年寄りなんでしょ? そういう意味じゃなくて」

「ぶん殴られたいの?」

 

 

 ヘルタは既に拳を握り、羞恥とは違う赤で顔を染めていた。

 

 

「そういえば、七割似てるなら昔はもっと可愛かったってこと? それともそれが美化された姿?」

 

 

 なんで七割似せたのか、それも不思議だった。

 

 

「はあ……アビリティー操作できなくするよ?」

 

 

 ヘルタは説明するのが面倒だったのか脅しを口にしてきたので、私も黙るしかなく。

 しかも、めちゃくちゃ不機嫌そうに腕組みしてまたため息をついたし。

 

 

「で、リモート人形を手に入れてなにがしたいって?」

「部屋に飾って『ただいま』って言いたい」

 

 

 まずその部屋の確保からだけど。

 そんなことを言われるとは予想していなかったのか、ヘルタは片方だけ器用に眉をつり上げて毒気の抜けた顔になった。

 うん、そうしていれば可愛いのに。

 ……クラーラの方が可愛い?

 いやいや、この無愛想減らず口唯我独尊クソガキなところがいいんじゃないか。

 

 

「挨拶とかそんなの、姫子やアスターに言えばいいじゃない? なんで私のリモート人形がいいの?」

「見た目が好きだから」

 

 

 かなり最低なことを言ったつもりだったけど、ヘルタはどことなく嬉しそうにしていた。

 最初は性格悪いなこいつとか思っていたけど、付き合い方がわかれば少し面倒くさいだけのツンデレということが発覚したので、沸点ギリギリのところで攻めて落とすというテクニックも使用可能だった。

 ヘルタは組んだ腕の先の指で二の腕を何回か刺激していた。

 要は、思案するポーズをしている。

 

 

「決めた。やっぱり無理」

 

 

 結論が出るまでそう時間はかからなかった。

 しかし最初からわかっていたのでダメージはなく、むしろここまでの間に彼女の興味が失われずにいたことの方がすごいと思えた。

 

 

「わかった。じゃあ私、そろそろ周回してくるから」

 

 

 毎回溢れる樹脂を消費するだけの作業に戻ろうと方向転換したら、ヘルタが「待って」と呼び止めてきた。

 公然猥褻罪で訴えられるのかと身構えていたのに、ヘルタはなにやら目を細めて見つめてくる。

 

 

「これからはオフィスに来てくれたら……挨拶くらいは、してあげる」

 

 

 ──ご覧ください、これがツンデレです!

 ──地球の古き良きキャラクター性に染まっているのは、この宇宙ステーションの持ち主、ミス・ヘルタ!

 ──アーランはこんな彼女にいちいちストレスを感じているのだ!

 まあ軽口を叩けない上司だったら私もヘルタのことはストレスに感じるのかもしれないけど。

 

 

「容姿を褒められたことがそんなに嬉しかったとみえる」

「勝手に言ってなさい」

 

 

 こんな感じで返してくるヘルタは、天才とはいっても、普通に普通の少女にしか思えなかった。

 

 

*****

 

 

 数日後にヘルタのオフィスを訪ねてみても、特に声をかけられることはなかった。そもそもオンラインではないようだ。

 またいつもの気まぐれだったのかと落胆して模擬宇宙を終えた私は帰ろうかとしていた。

 

 

「待って」

 

 

 しかしその帰り際、突然オンラインになったヘルタがまた不機嫌そうに腕組みして、私を見上げて言った。

 

 

「──また明日」

 

 

 なんで不機嫌そうなのかとか、錠前とか鍵がぶら下がっていた謎は解けないままだったけど、少なくとも最初よりは親しくなれた気がして嬉しくて、思わず抱き上げたら、もちろん……殴られた。

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