崩壊:スターレイル二次   作:出力用

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2024年に書いて飽きて放置してたら一年熟成されてたやつです……






殉教者の日

 

 

 ウキウキした様子でなのが前日からお菓子作りをしていたので、今日がなにか特別な日とはわかっていた。

 

 

「──はいこれ、あんたの分!」

 

 

 自室でベロブルグ式ゴミ箱に綺麗なゴミを補充していた私の元へやってきたなのが、そう言って可愛らしくラッピングされたチョコレートを差し出してくる。

 あいにく両手がゴミで塞がっていたから、受け取ろうとしても受け取れない。

 でも、あろうことかなのは綺麗なゴミを奪い取ってゴミ箱へ投げ入れると、まるで汚いものでも触ったかのように手を払い、再度チョコレートを差し出してきた。

 結果的に補充が済んだのでなにも言えず、私は渋々なのからの贈り物を受け取った。

 

 

「これは……パム?」

「そうだよ。よくできてるでしょ? ウチの自信作なんだから!」

 

 

 パムを象ったそれはなのの部屋にあるパム型ぬいぐるみ同様、部位によってきちんと色分けがされていた。

 部位といっても可食部とかそういうことではなく、耳とか顔とかそういうものだけど。

 しかし、チョコレートとはいえ車掌を食べるのはどうなのかと疑問に思うより先に、なぜこんなものをわざわざ部屋に押し掛けてきてまで渡してきたのかが理解できなかった。

 

 

「今日って私の誕生日だっけ?」

「え、違うけど……」

 

 

 そういう記念日でもないのに丁寧に包まれたお菓子をもらう意味がわからず、なのと同じタイミングで首を傾げていた。

 

 

「あんた、もしかしてバレンタイン自体知らなかったりする?」

「うん」

 

 

 響きからすると女性の名前だろうか。

 しかし、自分が見当違いなことを考えていたとすぐに知らされることになった。

 

 

「バレンタインっていうのはあれだよ、大昔の偉い人が恋人たちを祝福して、王様に処刑された日」

「……人が殺された日じゃん」

 

 

 どう考えてもそんな日に楽しく過ごそうとは思えなかった。

 眉をひそめる私を見て、なのが焦った顔になっていた。

 

 

「ち、違うから! だからその人を偲んで、恋人たちの日になったの! で、なにをどうしたのか好きな相手にチョコレートを贈る日になったってわけ。わかった?」

「なのが説明下手だってよくわかった」

 

 

 言い返せないのか、なのは無言で私の頬を引っ張ると自分は大きく頬を膨らませていた。

 可愛い。

 チョコレートがなければこのままボルダータウン式ダストシェルターに連れ込んで、いろいろしたのに。

 なのは途中から趣旨が変わってきたらしく、「よく伸びるなー」とか言いながら私の頬を堪能していた。

 私は表情筋をあまり動かさないため、頬がよく伸びる。

 多分、ヘルタもルアン・メェイも同じだと思う。

 後者はともかく、ヘルタなら頼めば引っ張らせてくれるかもしれない。

 

 

「それはそうと、なの」

「んー?」

 

 

 なのの手つきは乱暴ではなく、頬を伸ばされていても別に痛くはなかった。

 猫のフェイスマッサージをしているような感じだ。

 

 

「私の分、ってことは……他にも好きな人がいるんだね?」

 

 

 無駄に悲痛な声色と眼差しを向けられたなのが、見るからに呆れた様子になっていた。

 

 

「はいはい、どうせウチは、あんたと違って浮気者ですよー」

 

 

 若干本音が混ざっている気がしたけど、怖いから追及しないでおこう。

 

 

「丹恒って甘いの好きだったっけ?」

「別に好き嫌いないんじゃない? 普通に受け取ってくれたし」

「先に渡したのか、私以外のやつに……」

 

 

 それは本当にショックだったのでいつもの声色で伝えると、なのはわずかに目を伏せて小声でこう言った。

 

 

「あんたを最後にしないと、他の人に時間取られちゃうじゃん……」

 

 

 次の瞬間には、体が勝手に動いていた。

 私はチョコレートをゴミ箱に投げ入れ、その行為にぎょっとしたなのを抱き上げた。

 

 

「ちょっと、星!?」

「二人だと狭いけど、やるのはそこのダストシェルターの中でいいよね」

 

 

 姫子たちとは違う車両にいるとはいえ、声が洩れるとまずいし。

 なのは私を殴るために拳を振り上げたけど結局実行に移さず、徐々にその手から力を抜いていった。

 その視線がちらりとゴミ箱ゾーンとは反対側に向けられる。

 普通の家具が並んだスペースの中で、宇宙ステーションのイスが寂しげに佇んでいる。

 

 

「今日はヘルタ、いないんだね」

 

 

 ヘルタのリモート人形の一体が模擬宇宙の通知もとい、開拓の旅に同行しているのは周知の事実だった。

 私だってさすがにリモート人形がいる状況でなのに手を出すほど馬鹿ではない。

 

 

「いないし、戻ってきたとしてもダストシェルターの中までは調べないでしょ」

 

 

 勝手気ままなこの部屋のリモート人形は、乗り込んできたときと同じく、いつの間にか行方をくらますことがあった。

 それはヘルタ本人が操作してのことだったり、ヘルタも把握していない挙動だったりする。

 いつだったか、寝ているときに二回くらいあのリモート人形が寄り添うように傍に来たことがあるから、もしかしたら他の人形と違って自我があるのではとは疑っていた。

 なんにしろ、ベースがヘルタなら私のゴミ箱の蓋を開けることはしないだろう。

 しかし完璧な理論だったにもかかわらず、なぜかなのは不満げにしていた。

 

 

「あのさ……あんたが必死で頼み込むからこないだ一回だけ入ってあげたの、覚えてる?」

「もちろん」

「じゃあお互い酸欠と汗だくになって、姫子にめちゃくちゃ怒られたの忘れたんだ?」

 

 

 そういえばそんなこともあった気がする。

 狭い空間に長時間いる危険性を説教してきただけで、姫子は他のことは指摘してこなかった。

 

 

「その後に一緒に入浴したことなら忘れてないよ」

「それでまた怒られたんじゃん! もう馬鹿!」

 

 

*****

 

 

 現実はいつも非情である。

 なのが脱兎のごとく逃げ去ったので、仕方なく私はパム型チョコレートを歯で砕きながらラウンジへ向かっていた。

 別になのは姫子と違って味覚がおかしくはないので、チョコレートは普通に美味しかった。

 ……それにしても、今日が好きな相手にチョコレートを渡す特別な日とは知らなかった。

 私の場合、好きな相手が大勢いるので、なの以上にたくさん作らないといけなくなりそうだ。

 しかし私が知らなかったということは、特定の文化を持つ人間にしかない記念日のようだ。

 とはいえヤリーロ-Ⅵにも信用ポイントが存在しているから、建創者経由で伝わっている可能性も考えられる。

 ベロブルグにも昔はコーヒーがあったらしいし、似たようなチョコレートも存在しているのかもしれない。

 それにしてもお菓子作りとはまた難易度が高い試練が襲いかかってきたものだ。

 大宇宙チャーハンを作るのならお手のものだけど、あれは料理というか合成だし、緻密な計算の上に成り立っているお菓子作りとは根本的に違う。

 どうするかなと考えてラウンジへ入ると、当然のごとくルアン・メェイがやってきていたので目が合う前に視線を遠くに逸らした。

 いつでもおいでと言った手前、なんでいつもいるのとか口にできない。

 観察が好きらしいルアン・メェイにじーっと見つめられながら、私は姫子の近くのソファーに腰掛けてまたチョコレートを頬張り始めた。

 口内の熱で溶ける前に噛みしめるチョコレートは独特の硬度があって、噛み砕くとなんともいえない快感に見舞われる。

 もう一つ食べるかとチョコレートを摘まんだら、ちょうど目の前を通りかかったパムが、自身の形をしたそれを見て震え上がっていた。

 なのはパムから承諾をもらわなかったのだろうか。

 気まずいのでそれ以上食べられず、口の中に残ったものを唾液と共に飲み込んだ。

 ……いまだにルアン・メェイの視線を感じる。

 今度はなにをしてくれるつもりだろうか、あのマッドサイエンティストは。

 今はみんなに贈るチョコレートをどうやって作るか考えていて、ルアン・メェイの相手をしている暇はないんだけど…………あれ?

 そういえば彼女のまともな方の趣味の一つにお菓子作りがある。

 もしかしてルアン・メェイは狂った実験さえしなければわりと多才なのではなかろうか。

 模擬宇宙でも、ヘルタやスクリューガムにバレないように独自のコードを埋め込むくらいのことはやってのけたし。この前バレていたけど。

 

 

「…………」

 

 

 ルアン・メェイは、まだ見てきている。

 いくら顔を伏せていても、さすがに気配でわかる。

 別に話しかけてほしいわけではなくて、彼女は本当に私の観察がしたいだけなんだろう。

 ──こんなあからさまに興味を持たれても困る。

 今度はなにをされるのか、期待する気持ちはない。

 むしろどんな非人道的なことを施されるのか、怖くてたまらない。

 例の虫のときは本気で死ぬかと思ったし、封鎖エリアの培養槽に閉じ込められたときは軽く気絶したし。

 ……なんていうか、なにを言っても無駄な相手だから文句も言えないだけなのではなかろうか。

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