星がクラーラに一般常識を教えようとする話。
『靴が一足……紙切れには守護会って書いてあります。お姉さんは知っていますか?』
クラーラから送られてきたメッセージを見て、まず私は、ある連中に呆れていた。
靴を贈られて他人の好意に実に嬉しそうにしているクラーラを危うく感じる一方で、それを贈った連中──つまりは『守護会』を自称するヤバい集団にも別の意味での危うさを抱かざるを得なかった。
開拓先を調べるのは基本なので、その連中のことはクラーラより私が知っていると言っても過言ではない。
ほとんどが流浪者に占められた『守護会』は、クラーラの善意によって救われた人々のうち、彼女を崇拝する狂信的な輩が群れて形成された集団だ。
彼らは「上層部のやつらは大守護者を崇めていればいい、俺たちにはクラーラさんがいる!」という謎の対抗意識を燃やしているらしい。
……つらい状況にあるとき、手を差し伸べてくれた相手を過剰に慕ってしまうのは無理もないけど、こいつらが作ったチラシを目にしたときの私は…………うん、包み隠さず言おう、気持ち悪いと思った。
いわゆるアイドルに対する心構えのような事項はいいとして、どこで手に入れたのか謎な足跡の拓本を売るなんて所業に気持ち悪さを覚えない人間などいるのだろうか?
おそらくはそれから足のサイズを測って、皆でせっせと貯めた資金からその靴を選んでクラーラに贈ったんだろうけど、サイズも知らないのに靴を贈ってきたことを疑問に思わないクラーラの危機意識が足りていないことや、警備兼父親なスヴァローグが特になにかしている素振りもないので、余計に危険だと感じる。
もしかしてクラーラは靴を履かないから、サイズなんてものが存在すると知らないのか。
ともかく、今までに出てきた全員が一般常識に欠けていると判断し、適切な教育のために、クラーラに会いに行くことにした。
*****
クラーラは機械集落に住んでいるから、別に彼女がそこにいるのは不思議でもなんでもない。
ただ、スヴァローグの代わりにクラーラの隣にいたのはナターシャだった。
──そういえば機械集落を巡回中ってステータスになってたっけ。
どうでもいいけど、botのナタ先生はヘルタのオート返信より優しくてユーモアに富んでいる。
本来であれば下層部の深刻な医師不足は大守護者たるブローニャが取り組むべき案件なんだけど、十年に渡って隔絶された溝は思ったより深いようだ。
ナターシャが母親に頼んで応援を呼んでいるなら、そのうち改善されるかもしれない。
邸宅の入口にクラーラを憧れの眼差しで見つめる幼女がいたのでその後ろに張りつきつつ、私も二人を眺めてみる。
会話の内容までは聞こえてこないけど、どうやらクラーラが脚に怪我をしてそれをナターシャが治療しているようだ。
なんで靴を履かないのか疑問に思っていたのは、先ほどのメッセージの内容で解消された。
ただ、挫かなくてもああして怪我をしているようでは意味がない。
守護会の連中も、今の私と似たような気持ちで靴を贈ったのだろうか。
しばらく待っていたら、治療を終えたナターシャより先にクラーラがこちらに顔を向けたので完全にバレたと気づき、おとなしく二人のところへ向かった。
「こんにちは、お姉さん!」
「こんにちは」
クラーラは今日も純粋無垢な笑みを向けてくれる。
そういうところは、どこかのだれかとは比較にならないほど可愛らしい。
端的に言って、天使。
──それならヘルタは堕天使か、いやあれは小悪魔か。
私たちを見ながらナターシャがほほえんでいる。
「今日はこの辺りを回ってたんだね」
「ええ。クラーラのおかげで昔よりは改善しているとはいっても、治癒者が足りていないことに変わりはないもの」
困ったようにしているだけで、ナターシャは疲れた顔はしていない。
生活必需品なんかを配るクラーラと一緒に機械集落の人々の治療に当たっていたのなら、負担は少し軽減されていたのかもしれない。
「ところで、その傷……」
覗いていたときから気になっていたクラーラの脚の怪我をじっと見つめる。
雪よりはあたたかい白の素足を隠すように、包帯が巻かれている。
ナターシャが大袈裟に包帯を巻くわけがないから、わりと深刻な傷を負っているようにしか見えなかった。
そこを見られていることに気づいたクラーラが精一杯笑みを作っているのが、酷く悲しかった。
「ちょっと擦り剥いただけなんです! ナターシャさんが張り切って手当てしてくれて、だから……本当にそんなに深い傷じゃなくて……」
「今の話本当?」
ナターシャは緩やかに首を振った。
クラーラが肩を落とす番だった。
涙目に見上げられたナターシャは優しくほほえんでいるけど、目が笑っていなかった。
フックとかが怖がっているのって、この笑顔をしたナターシャだと思う。
「怪我人が強がってはダメと教えたわよね?」
「で、でもお姉さんの前なら」
「そう、余計心配させることになるのよ」
クラーラが珍しく不服そうにしているのは、相手が気心知れたナターシャだからだろう。
目が笑っていない以外は叱り方も優しくて、私からすれば効果がないように思えるんだけど、子どもであるクラーラはそれが逆に怖いようだ。
結局クラーラは頷くことしかできず、その後に私に頭を下げてきた。
「嘘つきなクラーラで、ごめんなさい」
「私は別に気にしてないけど……」
けなげだと思ったくらいだ。
ナターシャは治療器具を片づけている最中で、それ以上はなにも言ってこない。
「クラーラ、セーバルお姉さんみたいなカッコいい大人になりたくて、強がってしまいました……」
クラーラがセーバルのどの辺りをカッコいいと思ったのかわからないけど、外見の話をしているなら全力で止めたいところだった。
内面に関しては、カカリアとのことで自分がまだまだ幼稚だったことを知らされた様子だったし、守護会なんぞが存在するクラーラの方が大人なのでは。
「ところで今日はクラーラに用があって来たんですか? それともナターシャさんを探しに来たんでしょうか……?」
「クラーラに会いに来たんだよ。ナターシャがここにいるのは知らなかった」
重そうな鞄を持ち上げて立ち上がったナターシャが苦笑している。
「君は、相変わらず素直ね」
その言葉に含まれた別の意味を察してしまい、無意識に目を逸らしていた。
やましいことはなにもないはずなのに、本人を前にするとやはり気恥ずかしいものがある。
そんな私を見て、ナターシャが声も出さずに笑った。
あの夜明け前に見せた顔を再び目にする機会は、果たして訪れるのだろうか。
「あの、二人ともどうかしたんですか?」
クラーラに言われて頭を切り替えた。
そうだ、私は守護会の件で来たんだった。
それじゃあね、とだけ言ってあっさり戻っていくナターシャに、軽く手を振ることしかできない。
隣で大きく手を振っているクラーラの純真さが羨ましい。
こちらに向き直ったその赤い瞳に、なんの表情も浮かべていない自分の姿が映っている。
こんな顔をしていてもクラーラは好意的に接してくるのが不思議だった。
「メッセージの内容が気になって、直接会いに来たんだけど」
クラーラは最初なにを言われたのかわからなそうにしていたけど、数秒経ってからこくんと頷いた。
「あれですね。なにか変なところがありましたか?」
「今はそれよりその脚の方が気になる」
靴を履いていれば防げたのではなかろうかという位置にその包帯は巻かれている。
だから、大きく話題を逸脱しているとも言えない。
クラーラは笑顔のまま眉を下げて、笑っているのか泣いているのか判断できない表情を作った。
「怪我しているところをお姉さんに見られちゃうなんて、カッコ悪いなぁ……」
クラーラも強がりたい年頃になったのか、ナターシャには従っていたけど私の前では普通にそんなことを言っている。
本人がやりたいようにさせるのが良い教育ではあるものの、無理をさせるのはよくない。
だから私は「抱いていい?」などと唐突に言い放ち、クラーラに力強く何度も頷かれたものだから、その小さな体を抱き上げた。
横抱きにしたクラーラの体は心配になるほど軽くて、もしかしてヘルタのリモート人形の方が重いんじゃないかと思えた。
急に足場を失ったクラーラは咄嗟に私の首に腕を回し、なんとか体勢を整えていた。
そのせいで首筋にクラーラの息を感じる。
左手に抱いている上半身は温かいけど、右手に感じる膝の裏から下は案の定冷たかった。
「スヴァローグとは違う抱き方で、びっくりしました……」
首筋に当たる息が熱くて、くすぐったい。
「これが嫌なら別のやり方でやるけど」
この前、リモート人形をこうして移動させていたらオンラインになったヘルタに文句を言われたため、次に足首を持って引きずったら、模擬宇宙の目標ポイントを8000も増やされた。そんなに私と一緒にいたいらしい。
そんなツンデレと違って純粋無垢なクラーラはなにを言ってくるのか少し期待していた。
しかし、すぐに私は思い知らされることになる。
「──ナターシャさんにしていたみたいな抱き方を、してほしいです」
そう知らされた、少女が子どもで在る時間は少ないのだと。
なんの邪念もなしにぎゅっと抱きつかれたというのに、妙な後ろめたさがあってしばらくなにも言えなかった。
ナターシャを抱きしめたことは、一度しかない。
もちろんやましいことなんてなにもないんだけど、それをだれかに、ましてやクラーラに目撃されていたなどとは信じられず、わずかに鼓動が速くなる。
服以外に遮るものがないほど密着しているからか、クラーラがそれに気づいたらしく、私の心臓の真上に手を当ててきた。
「あの、鼓動が速くなっていますけど、大丈夫ですか? 具合が悪いならナターシャさんに診てもらった方がいいと思います」
「……大丈夫。クラーラの言葉に驚いただけだから」
それって、と呟いたクラーラが腕を離して見上げてきた。
その程度で揺らぐほど体幹は弱くないけど、いつもと違う色を浮かべた目で見られると……落ち着かなくなる。
「それって──お姉さんがクラーラのことを意識してくれたってことですね!」
なにがそんなに嬉しいのかわからず、当惑してしまう。
思春期に入ったらしきクラーラに適切な教育を施せそうなのは、私よりナターシャだと思う。
なんと返しようもなく曖昧にほほえんでみせたらさらに嬉しそうにされたから、罪悪感を抱かざるを得なかった。
「わかりました」
神妙な面持ちで頷いているけど、なにを理解したというのだろうか──などと考える間もなく、答えは明示された。
クラーラは身を乗り出しながら、私の首筋と言わず頭を抱きしめてきた。
落とさないように抱きしめるのが精一杯で、奇しくもあの夜明け前のナターシャとの場面を再現した姿になってしまった。
ナターシャと違ってクラーラにはうずめるほどの豊かさもなく、包み込んでくる体躯もないけど、顔に感じるその鼓動の高さは二人とも似ている気がした。
「クラーラ」
「はい」
「前、見えない」
抱きすくめられているから、息もしづらい。
それに気づいたらしいクラーラがすぐに体を離してきた。
クラーラは寂しそうな顔をしている。
ただ、その目はまっすぐに私を見つめていた。
「やっぱりナターシャさんみたいに大きくないとダメなんでしょうか……」
「クラーラにはクラーラにしかない良さがあると思う」
ふわっとした回答にもかかわらず、クラーラは徐々に笑顔を取り戻していた。
私がナターシャと親しくしていた現場を見てしまって、背伸びしたい気持ちになったのだろう。
そういうことにしておかないとスヴァローグや守護会になにをされるかわかったものではないので、保身のために自分を騙した。
「そういえばクラーラ」
「はい、なんですか?」
元のように腕の中に収まったクラーラは可愛らしく小首を傾げていた。
他人とのお喋りが好きなだけにも見えるけど、多分それは違うのだろう。
それを私はつい先ほど、身を以て知ったばかりだ。
「……そういう怪我をする可能性もあるし、今後の人生のことも考えて、今度一緒に靴を買いに行こう」
私にできる約束なんてそんな小さなものくらいで、それ以上はクラーラの人生に干渉する権利も義務もない。
そうでなければ、守護会の連中よりろくでもない存在になってしまう。
そう言われたクラーラはやはり靴を履くことに抵抗があるのか、難色を示していた。
「靴なら、この前に贈られたものが一足あります……」
「そんな匿名みたいな連中のものより、私が買った靴を最初に履いてほしい。クラーラの初めては私がもらう」
他に言い方はなかったのか、自分でもツッコミを入れそうになった。
そんな戯れ言を聞かされたクラーラはきょとんとした後、多感な時期らしく一気に紅潮した。
手のひらの方が冷たいのか、赤くなった顔を両手で覆って口から妙な擬音を発している。
見ていて可愛らしいけど、悠長にしていられるのは第三者だけだった。
「これってままごとじゃないんですよね?」
なんでままごとかと不思議に思って、そういえばクラーラはロボット相手にままごとをするような子だったと思い出す。
ままごとに付き合わされていたパーキンスが架空の客ではなく実際にそのへんの人間を連れてきてしまったように、ロボットというものはだいたい融通が利かない。
そんな相手ばかりだったクラーラが私の発言を疑うのは当然だった。
「ままごとじゃないけど言い方が悪かったのは認める」
「え? 全然悪くないと思います」
クラーラの反応を見る限り、適切な言葉選びではなかった。
これから成長していくこの純粋な少女に余計な思い出は与えたくない。
「うん……とにかく、靴を履く練習はした方がいいと思う。苦手なものって、できれば克服しておいた方がいいだろうし」
ヤリーロ-Ⅵが緑溢れる星になるのは、ずっと遠い未来のことだろう。
素足が芝生を踏むのは問題ないけど、機械集落とか大鉱区とかって地面に危険なものが落ちているから、毎回スヴァローグに運ばれている条件以外では怪我をするのも必至だ。
それ以上言うと無理強いになるので、口を閉じた。
クラーラはしばらく悩んだ後、頷いた。
「お姉さんが教えてくれるなら、上手くいきそうな気がします」
それは過信だと告げたかったけど、あまりにキラキラした目で見られたからなにも言えなかった。
とりあえず、靴を履いたらなぜ転ぶのかを突き止めないといけない。
了承の意味でもう一度抱きついてきたクラーラを抱えたまま、私はスヴァローグのいない邸宅の中へ入っていった。
*****
特筆すべき点もない内装を見回しながら、そういえばクラーラは脚を怪我しているから靴を履く練習なんてできないと気づいた。
それにまだ買い物にも行っていないから、守護会から送りつけられた靴しか用意できない。
「お待たせしました」
邸宅に入ってすぐに私の腕から降りてどこかへ行っていたクラーラが戻ってきた。
なぜか手にタオルを持っている。
掃除が行き届いているのか、室内にはクラーラの足跡一つない。
「タオル……?」
なぜそんなものを出されたのかわからず、首を傾げる。
向こうも同じだった。
「えっと、まずはお姉さんが脱ぐところを見せてくれると思って……」
多分『靴を脱ぐ』という意味なんだろうけど、クラーラもけっこう言葉足らずだった。
自分は先に拭いてきたのか、手招きされて一緒に座ったソファーでぷらぷら揺らしている足は汚れ一つない。
例の入浴施設は入浴目的だから抵抗はなかったけど、こういう場所で体の一部を空気に晒すのは恥ずかしい気もする。
額面通りに受け取っていたら、あられもない姿になってクラーラに偏った思想を植えつけそうだった。
いや、もうこの時点でだいぶ歪んでいるかもしれない。
「わかった。とりあえず脱ぐから見ておいて」
靴を。
隣にいるからか、クラーラがドキドキしているのが伝わってくる。
影響を与えないようにしたいはずが、どうしてこうなったのだろうか。
早くこの瞬間が思い出になって思い出せなくなる日が来ることを願う。
足をまっすぐにして靴から出したら、なぜかクラーラが驚嘆の声を上げた。
「お姉さんの、大きいんですね……!」
多分「自分より足が大きい」と言いたいのだろう。
この調子だと他の場面でも誤解を招く表現をしてそうだった。
訂正するのに勇気が要ったので放置していたら、クラーラはタオルの間に挟んでいたらしき紙を床に置いた。
「なにこれ?」
「この上に足を乗せてもらえますか?」
「なんで?」
「拓本を作りたいので」
戦慄した。
守護会の連中がおかしいと思っていたけど、クラーラからそうだったらしい。
こんな少女相手に身の危険を覚えるのも初めてだった。
「一応訊くけど、なんのために……」
クラーラは特に表情も変えず、いつものように穏和な顔をしている。
「尊敬する相手にはそうするのが普通だって、流浪者の人が教えてくれました」
──やっぱり守護会は潰すしかない。
そいつが守護会に属していようがいまいが関係なく、潰す。
さすがに破り捨てるのも残酷かと思いとどまり、言った。
「クラーラ、こういうことはよくない」
「え……よくないんですか?」
「よくない。たとえば私がナターシャとかの拓本を取ってたら変に感じるでしょ」
クラーラは俯いて黙り込んでしまった。
今まさに成長の過程を歩んでいるのだと知れて、嬉しいような悲しいような。
そんな感慨に耽っていると、クラーラがなにか呟くのが聞こえてそちらを見た。
「お姉さんはナターシャさんのことが大好きだから、変じゃないと思います」
薄々勘づいていた内心を晒されて、いよいよ私には退路がなくなっていた。
むしろここで逃げたら後々のクラーラに多大なる傷痕を残しそうだ。
「クラーラ、ちょっと聞いて」
「クラーラには他にやり方がわからないから、こうするしかないんです」
不穏な言葉を聞いた。
ただ拓本の紙を持って迫ってきているだけだけど。
「やり方がわからないなら私に聞けばいい。だから一旦落ち着いて」
その腕を掴んで止める。
意外に力が強くて驚いたけど、私より小さな体ではそもそも抗うことなど不可能だった。
「離して、ください……」
ソファーに押し倒されたクラーラの顔は真っ赤に染まっていて、目にも涙が滲んでいた。
「聞いて、クラーラのやり方はよくない。私がもっとまともな方法を教えるから、だから──」
「──脅威を確認。殲滅モードに移行」
言い終えないうちに、どこからか現れたスヴァローグの手から放たれたレーザーが頬をかすめた。
反射的に体を起こして命拾いした……あのままでいたら顔に風穴が空いていただろう。
存護の運命に切り替えて対処しようと試みるけど、一人でどこまでやれるか不安だ。
一触即発というか既に撃たれた以上は戦闘中なのに、危機感がまるでないようにぽかんとしたクラーラがそれでも間に入ってきたので、スヴァローグの手が下ろされた。
「やめてスヴァローグ、お姉さんは脅威なんかじゃないよ」
「先ほどの光景は婦女暴行の現場と類似。よって開拓者を脅威と認識した」
意味がわかるのか、クラーラがさっと顔を赤くさせる。
「お姉さんにそういうつもりはないから……誤解だよ。だから武器をしまって。あと、壁に空けた穴は補修しておいてね」
「了解」
スヴァローグは謝罪も文句も言わず、クラーラの指示に従った。
若干哀愁漂って見えるその大きな後ろ姿から視線を移し、ため息をついているクラーラを見つめる。
「クラーラの恋人になる人ってあのレーザーに対抗しないといけないんだよね? 大変そう」
「お姉さんなら、かわせたじゃないですか」
会話が噛み合っていないのは気のせいにしておこう。
「とりあえず今日のところは帰ることにする。今度一緒に靴を買いに行ってから履く練習をしよう」
「靴ならば先日クラーラ宛てに贈られてきたものが一足存在する」
会話に割り込んできたスヴァローグにクラーラがものすごく不満そうな顔をしていた。
「もうっ、スヴァローグは黙ってて!」
「沈黙」
スヴァローグの行為は、内気な娘が友だちを連れてきたときの父親の反応に見える。
──家族、か……。
星穹列車のみんなも家族のように感じているけど、私にもこんなふうに接してくれる家族がいたのだろうか。
名前以外なにも覚えていないのに最初に見たカフカに放り出されて、その後なのや丹恒たちと出会わなかったら、私はグレていたと思う。
クラーラのような妹がいたら、開拓先から疲れて帰ってきてもすぐに癒されるかもしれない。
──クラーラにはやることがあるから、旅に同行はしてくれないんだろうけど。
そう考えた何日か後、私の予想は半分外れていたことが発覚する。