ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第111話: いつの時代も順序は大事で、赤子の笑顔は最強なのだ

 

 

 古来より、母親が子を想うあまり凶行を働くといった逸話は数多くあり、それは神話や伝説とて例外ではない。

 

 日本で知られているそういった神話と言えば、鬼子母神(きしもじん)伝説が当たるだろうか。

 

 

 鬼子母神伝説の中身はと言うと。

 

 

 人を食らう女鬼は、1000人の子を持つ母であり、人間の赤子を攫ってきては自分の子供たちに与えていた。

 

 そのおかげで女鬼が住む周辺の人間たちはたいそう女鬼を恐れ、夜も眠れぬような日々を送っていた。

 

 そんな中で、女鬼の所業に怒ったお釈迦様は、女鬼の子供の中でも末子を連れ去った。

 

 気付いた女鬼は気が狂ったように探し回り、大粒の涙を流して、お釈迦様にも縋らんばかりに嘆いた。

 

 それを見て、お釈迦様は言った。

 

『1000人の子を産んだおまえですら、その内の1人を失っただけでもそれだけ嘆き悲しむのだ。1人や2人しか子を成せない人の夫妻が我が子を失うその辛さがどれほどのものか、今ならば分かるだろう』

 

 それを聞いて、鬼子母神は己の所業を理解した。

 

 そして、お釈迦様の説法により心より悔いて改心した鬼子母神は人の赤子を攫う鬼ではなく、安産や福をもたらす神になって、人々を見守り助けるようになった。

 

 

 ……と、いうのが、鬼子母神伝説の大まかな内容である。

 

 

 なんとも恐ろしい話だが、鬼子母神はまだ悔い改めただけ、マシな方である。悔い改めるどころか、最後まで我が子第一で欠片の罪悪感も抱かない母親は少なからずいる。

 

 実際のところ、鬼子母神ほどはいかなくとも、それに近しい行為を母親が行うことは古来より様々な形で知られている。

 

 ただ、勘違いをしてはいけないのが、後世まで語り継がれるぐらいに母親が固執するのは子供ではない。

 

 母性のスイッチが入った母親にとって特別なのは、一番大事なのは、生物学的な幼体のことではなく、血の繋がった我が子である。

 

 なにせ、母親は約10ヶ月かけて、文字通り血肉を分けて胎の中で育てるのだ。例外はあるにせよ、大なり小なり思い入れが強くなるのは当たり前である。

 

 しかし、その反面、我が子に固執しない時もある。それもまあ、当たり前の話だ。

 

 母親で居ることよりも女で居たいと無意識に思っている者もそうだし、新しい男との間で邪魔になったからと邪険に扱う者もそうだし、自分が社会的な居場所が欲しいから母親という役割に固執する者も少なからずいる。

 

 全国のいたる所に善意《ボランティア》の孤児院や施設が作られ、生活苦でもないのに子を捨てる母親が後を絶たないのは、それだけの数があるということなのだ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なので、だ。

 

 公的にも私的にも、孤児の預かり先がとにかく不足している(足りていた時期なんて無いけど)状況で、親が不明の捨て子(それも、赤子)の面倒を見ると手を挙げてくれる人が現れたら、そりゃあもう是が非でもとお願いされる……わけなのだが。

 

 

「ええ、っと、その……再々に渡る確認にはなりますけど、本当に良いんですか? 今ならまだ、ギリギリ身元不明の捨て子が放置されていて、一時的に保護しているだけ……という事にはできますけど……」

 

 

 そう、恐る恐る言葉を選びながら確認を取ろうとしているのは、警察官。あと、民生委員を名乗る見知らぬお婆さんが1人。

 

 千賀子の実家に、『いちおう、確認のためと、今後の手続きのため……』という名目でyってきた。

 

 目的は、千賀子が引き取ると決めた金髪碧眼(まだ、目は開いていない)の捨て子の確認……というか、調書を取るためである。

 

 事前に道子に話を通しているが、それはそれとして、公的に捨て子であり親がいない(所在の確認が取れない)ことを確認しなければならないからだ。

 

 まずは、近隣の病院(産院など)や報道関係に協力して実親を探したり、聞き込み調査なども行って探したり……誰が捨てたのか、身元を割り出すわけで。

 

 そうでない場合……事件性があるなどして、もしも親から被害届なり何なりが出ているのであれば、本当の親なのかどうかの確認が必要だが、親元に帰す必要があるわけで。

 

 その二つから探してもなお実親の所在が確認出来ない場合は、自治体に氏名の作成や戸籍の編製を要請……それから紆余曲折を経る必要があるわけだ。

 

 ただ、この頃(1971年)の養子縁組は現代に比べて条件が緩く、また、普通養子縁組しかなかった事もあって、現代よりも手続きが楽であった。

 

 これが後に法的整備される特別養子縁組の場合になると、養親側にも様々な条件が課せられ、高いハードルとなってしまうわけなのだが。

 

 ちなみに、普通養子縁組と特別養子縁組の最大の違いは、実親との公的な親子関係を完全に終了するかどうかである。

 

 

 で、だ。

 

 

 その二人が来たのは、神社よりも実家(つまり、雑貨屋)を指定したのは、話を聞いた道子(に、アドバイスした人)より、その方が印象も良いだろうと言われたからである。

 

 いくら収入があるとしても、この頃は定職に就いていないだけで白眼視されていた時代だ。

 

 そのうえ、千賀子は女。新興宗教のトップという怪しさ満載だ。

 

 この頃は分業が当たり前であり、実家の関係も良好であると見せるだけでも良い結果に繋がるだろう……との事だ。

 

 

 ……ん? 千賀子の家族はどんな反応を示したのかって? 

 

 

 父親からは、『もしも、辛くなったからと子を手放そうとする生半可な事をしたならば、親子の縁を切る。二度と内の敷地は跨がせない』と真剣な眼差しと共に忠告された。

 

 父親の言わんとする事は、よく分かる。

 

 最初の1回は覚えていないにしても、二度も親から捨てられるという経験を与えるのだ。その辛さ、苦しみ、言葉で言い表せられるようなモノではない。

 

 半端に手を出すぐらいなら、初めから手を出すな。

 

 赤子はおまえの一時の本能を満たす道具ではないし、一時の感情で周りを振り回すぐらいならば……そう、言外に込められているわけだ。

 

 

 母親からは、『少しでも困った事や辛く思うことがあったら相談しなさい。和広も千賀子も、みんなで協力しながら面倒を見たのだから、1人で育てようと思っちゃ駄目よ』と、心配そうに言われた。

 

 母親の言わんとする事は、よく分かる。

 

 前世の記憶があり、幼少の頃から自覚していた千賀子は知っているが、実はけっこう母は育児でも家事でもうっかりミスを犯している。

 

 千賀子とて、ハイハイしているところを、洗濯物を持った母にうっかり蹴られたことがある。料理だって、砂糖と塩を間違え、その味に千賀子だって堪らず顔をしかめたことだって何度かある。

 

 だが、そんなモノなのだ。

 

 気を付けるに越した事はないが、事故は起こる時には起こるし、どれだけ油断していても起こらない時は起こらない。

 

 千賀子は、身を持ってそれを体感していた。

 

 

 ……で、祖母からだが、実は一番軽い。

 

 

 なにせ、両親から話を振られた時に返した言葉が、『そんなん、施設に行くよりゃあ良いでよ』とアッサリ千賀子が引き取ることに賛成したのだ。

 

 曰く、『戦前にも似たような施設はあったけど、その暮らしはとても貧しい。いつも腹を空かしていて、半年に一回は餓死者や病死者が出た』という姿を何度も目にしていたとのこと。

 

 あとは、『放っておいても子は勝手に育つ。間違った事、間違った道、日陰へ進ませないようにする、それで上等』という感じらしい。

 

 まあ、祖母の年代というか戦前の時代なんて、農村とかでは飢餓が起きたり餓死者が出たり、なんなら今よりも数段荒っぽいのが普通だった時代だ。

 

 そんな時代を過ごし、戦中戦後を生きた祖母からすれば、『子を自分の思うように育てよう』なんて考え自体がおこがましい……といった感じなのだろう。

 

 

 ……とまあ、そんなわけで。

 

 

 千賀子が若いのは仕方ないにしても、お金の面での心配はなく、家族仲も良好、実家の『秋山商店』はけっこう知られており……決め手は、父の発言。

 

 ──もしも子供を捨てようものなら縁を切る……そこまで言い切ったのならば、大丈夫だろう。

 

 そう思ったのは警察官だけでなく、民生委員のお婆さんも同じなようで、何か困った事があれば私も相談に乗るからねと千賀子の両手を握って激励すると、2人はやる事だけをさっさと済ませて、帰って行った。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、蛇足ではあるが。

 

 

 警察官と民生委員に良い印象を与えたのは父だが、他にも、医師からの診断や報告の+αもあって、千賀子が引き取る方向で何事もなく進んだのであった。

 

 なお、その報告とは、『赤子のあやし方も実に手慣れた様子で、赤子もまた信頼しきっているように思える。引き剥がすのは赤子のためにも良くない』という趣旨のモノだったとか。

 

 

 

 

 

 ……そうして、後は正式に決まるまで、そのまま千賀子が預かる方向で話はまとまった……わけなのだが。

 

 

「……千賀子? 嬉しいのは分かるけど、いきなり母親になりましたって連絡はどうかと思うわよ?」

「あ、うん、それはごめん」

「冗談抜きで、『あの千賀子に男が出来ていたのか!?』って本気で驚いたし、そこから『え!? もう子供が生まれているの!?』と腰が抜けかけたのは間違いなく千賀子の言葉足らずが原因だからね?」

「本当にごめん、それに関しては私が全面的に悪かったから」

 

 

 合わせて、道子と明美にも事の顛末を話すついでに久しぶりに集まろうといった感じになった千賀子たちは、何時ぞやのように道子の家へ集まることになった。

 

 明美の家は銭湯で、家族が多いから邪魔がちょくちょく入ってくる可能性が高い。特に、明美の弟が近頃思春期に入っているらしく、言い訳を作って乱入してくるかも……とのこと。

 

 まあ、そうなるのも致し方ない。

 

 明美はまだ家族だから別としても、道子は美人だし、千賀子はとんでもない美人。加えて、共にスタイルが良く、この頃ではめったに見掛けないレベルの巨乳でもある。

 

 そりゃあ、思春期真っただ中の少年からすれば、チラチラと興味が引かれても致し方ないってもんだろう。

 

 そして、千賀子の家というか神社だが……まあ、これに関しては語るまでもないことだが、あえて語るとするならば。

 

 

 ── 女神様 ──

 

 

 これである。というか、これしかない。

 

 神社でなくとも四六時中常に千賀子の傍には女神様(常人には不可視状態)がいるわけだが、まあ、うん。

 

 もう普通に家として使っているわけだが、それでもどこに女神様が罠を張っているか分かったモノではないので、却下となった。

 

 

 ……なら、千賀子の実家なら良いのではって? 

 

 

 別にそこでも良いのだが、家の立地上、どうしてもプライバシーというか、そういうのは無い感じなので、3人の間だけの秘密ってのは出来ない。

 

 なので、消去法で道子の家が選ばれたわけだが、幸いにも道子からは問題ないとのことで、久しぶりに幼馴染が集結……と、なったわけである。

 

 

「まあまあ~、明美も今年中にはママになるわけだし、あんまり怒っていたらお腹の子供に悪いわよ~」

 

 

 そうして、だ。

 

 しばらく昔のようなじゃれ合いを眺めていた道子だが、頃合いを見て待ったを掛けた。

 

 千賀子も明美も言われるのを待っていたのか、軽く苦笑を浮かべると、サラッと先ほどまでの空気を流して茶菓子に手を伸ばし──ん? 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………今、聞き捨てならないこと……明美がママになるとか言わなかったかって? 

 

 

 そう、千賀子が赤子を引き取り養親として養母になるわけだが。

 

 

 実は、明美もまた今年中には母親になる。

 

 

 それを明言されたのは、つい先程。サプライズ……という感じではないけれども。

 

 せっかく集まったわけだし、先に二人には伝えておこう……といった流れで、明美が発表した。なんと、この場には母親が2人だ。

 

 今はまだお腹も膨らんではおらず見た目に現れていないが、既にハッキリと生理が止まっているらしく、何事もなければ夏頃ぐらいに出産になるかも……との事だった。

 

 なお、千賀子は今回ではなく、前に明美と顔を合わせた時に違和感を抱いていたが、あえてその事には触れず、気付いていないフリをした。

 

 その時はまだ、明美自身がまったく意識していなかったからだ。

 

 そういった部分は下手に触れると大変だし、よほどマズイ状態でなければ、自然の成り行きに任せた方が良いと思っていたからだ。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 さきほど仲裁した道子もまた妊娠(というか、着床)しており、当人もまだ気付いていない。明美と同様に、意識すらしていないっぽい気配がする。

 

 こちらに対しても千賀子は気付いているが、今のところは異常が起きていないので、あえて言葉にはせず沈黙を保ったままにした。

 

 なので、この場における真実は、母親が3人。なんと、3人ともが母親になるわけだ。

 

 1人は養母となり、2人は妊娠し、今年中にはどちらも出産するわけだが……そんな中で、千賀子はふと、お喋りを再開している明美と道子を見やった。

 

 

 ……思い返せば、だ。

 

 

 千賀子はもう21歳だ。今年の誕生日を迎えたら22歳になる。

 

 女として転生した事に気付いた(記憶が戻った)時にはフワッと想像することしか出来なかった、大人になった現在が目の前にはある。

 

 己よりも痩せっぽちで男勝り気が強くて口が達者、男子たちにも一歩も引かなかった明美が母親になる。

 

 今よりもどこかポケポケッとしていて暢気で大人びていて、女子たちの中でも背が高かった道子も、母親になる。

 

 そして、千賀子もまた……胎を痛めて産んだわけではないけれども、養母になるわけだ。

 

 

(……色々な事があったなあ)

 

 

 子供の頃にあった景色が変わり、子供だった自分たちは大人になり、想像の域を出なかった未来の中を、自分たちは生きている。

 

 ……なんとも表現し難い感慨深い感覚に、千賀子は不思議な気持ちになる。

 

 たぶん、これからも、何かの節目に同じ事を思うのだろう……そう、千賀子はいずれ訪れる未来に目を向けつつ……微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 ──まあ、それはそれとして。

 

 

「そういえば~、千賀子が引き取るって言っていた赤ちゃんは連れて来なかったの~? 別に良かったのに~」

「……ロウシが、ね」

「???」

「群れに馴染ませるためにも、時々は他の人に任せなさいって……連れて来るのを却下されちゃって……」

「……馴染ませるって、どういう事よ」

「朝から晩まで四六時中ずっと抱っこしたりほっぺスリスリしたりお腹ポンポンしたりキスしたりしていたら、程々にせいって怒られちゃって……」

「そ、そういうものなの?」

「両親からも、可愛いのは分かるけどあんまりベッタリするとお互いに良くないからって……お婆ちゃんからは、他の人に慣れさせるべしって、半日ほど実家預かりに……」

「う~ん、赤ちゃんが可愛いのは分かるけど~、千賀子以外の人にもある程度は慣れさせないとダメってのは分かるかな~」

「うん、ちょっとぐらいは慣れさせておかないと、少し離すだけで泣き叫んじゃう子になっちゃうような……」

「……し、仕方ないじゃん! あの子を見ていると、もうおっぱいが疼いて疼いて……母乳が滲んできちゃうんだもの!」

「えぇ~……そこまでぇ~……?」

「明美も道子も、実際に乳を吸わせたら分かる。頭の中がガラッと切り替わって、この子のためなら火の中にでも突っ込んだるわって気持ちになるから」

「そ、そういうものなのか……参考になるわね」

 

 

 気の置けない友人とのお喋りは楽しいが、それはそれとして、千賀子は溢れ出る母性を持て余し気味になっていた。

 

 

 

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