ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第117話: 祖母「ひ孫が、二人も!?!??!(ビクンビクン)」

 

 

 

 ──とある国は、選択を迫られていた。

 

 

 ただ、それが『致命的な選択』であることに、国は……いや、関係者どころか、無関係ではあるけど政府に関わる者たちや、莫大な権力を有する者たちは気付いていなかった。

 

 まあ、当たり前だ。なにせ、その選択は正式な手順で成されたものではないからだ。

 

 そのうえ、置かれていた場所にも問題があった。

 

 それが、様々な場所に、気付けば置かれていた。

 

 とある新聞社の奥深い場所にある社長室、武装した兵士やボディガードで警備されたホワイトハウス、国の中でも有力な資産家の自室の机の上。

 

 枚数は、不明。分かるのは、誰にも気付かれる事なく、それは置かれ、それ以外の痕跡は何一つ残っていなかった。

 

 当然ながら、どこもかしこも蜂の巣を突いたかのような大騒ぎとなった。

 

 これもまあ、当たり前だ。

 

 民間人の家に置かれていたのとは、ワケが違う。

 

 厳重に守られた国家の中枢、そこへ一人として気付かせずに成したという事は、見方を変えれば、何時でも気付かせずに暗殺が可能であるという証拠でもある。

 

 当然、当然、当然、必死になって犯人を捜した。

 

 しかし、見つからなかった。当たり前だ、痕跡がまったく無いということは、手掛かりがまったく無いということ。

 

 例えるなら、ヒントも無しに砂漠の中から、小指の爪サイズの特定の石を見付けるようなものだ。

 

 それこそ、国民全員を1人1人を入念に捜査し、それが置かれた当時のアリバイやら何やらを確認し、容疑者を割り出す必要が……何度目かの当然だが、現実的な話ではないのだ。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 その、置かれた物体なのだが、それは一通の手紙であった。

 

 内容は、そう複雑ではない。ちゃんとした英文になってはいるが、英語を書き慣れていないのがわかる筆跡で。

 

 

『私利私欲のために、日本の民間人を国ぐるみで暗殺しようとした事を公表せよ』

『その際、吸血鬼という化け物と協力関係にあったことも公表せよ』

『広く市民に公表し、国民の採決を取れ。その結果次第で、私は振り上げた拳を下ろそう』

『無関係な者などいない。大なり小なり、おまえたちはもう恩恵を受け取っているのだから』

 

 

 そのように記されていた。

 

 まあ、うん、うっとうしさを覚えるぐらいの当たり前だが、誰も本気にはしなかった。

 

 いや、正確には、吸血鬼と繋がりがあったり、その存在を知っていたりする者は僅かばかり反応を示したが、それだけであった。

 

 関係者ですらそんな反応なのだから、事情を知らない者からすれば、手紙の内容など『薬物でイカレタ狂人が書いた代物』にしか思えなかった。

 

 もちろん、ただの狂人ではありえない事を起こしているので、手紙の中身について考えようとした……が、それを、事情を知る者たちが邪魔をした。

 

 

 なにせ、事が露見すればスキャンダルなんて話ではない。

 

 

 ただでさえ、ベトナム戦争による反戦運動によって政府はダメージを受けていたし、戦争に従事していた軍人の一部からは、根深い反政府意識が生まれてしまっていたのだ。

 

 可能性としては低くとも、こんな目に見える爆弾に火を点けるわけにはいかなかった。

 

 そして、皮肉にも、国の情勢は、そんな者たちに味方した。

 

 簡潔に言うなれば、由々しき事態であるとはいえ、実害がない以上は、そのような些事に拘っている場合ではなくなったのだ。

 

 

 理由は、国の経済に陰りが見え始めたから、である。

 

 

 そう、この世界のベトナム戦争は、とある世界よりも早く終結したが、それでも受けたダメージはけして無視出来るものではなかった。

 

 戦争終結に合わせて電撃的に引退して行方が分からなくなった女性モデルのおかげで、多少なり回復してきてはいたが……それでも、だ。

 

 また、表から裏から共産主義からの圧力やら何やらだけでなく、徐々に重しに変わりつつある『アポロ計画』の莫大な負債も、悩みの種だ。

 

 宇宙開発というのは、まさしくフロンティア。

 

 上手く行けば、不動の王として世界の頂点に君臨し続けることが可能……と、思われていた。しかし、未だそうはなっていない。

 

 

 理由は、言うまでもなく、費用だ。

 

 

 加えて、想定していたよりも宇宙で得られる利益が少なく、国民の期待よりも……有り体に言えば、『地味だった』せいで、徐々に不満が出始めていた。

 

 最初こそ、もっと調べるべきではという声も上がったが、毎日やってくる仕事を前にして、何時までもソレを気にする暇はなく。

 

 新聞社なども、自らの恥を晒す話になりかねない以上は、表だってソレを公表するわけにはいかず……黙殺され、最終的には誰の記憶からも忘れられてしまった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ゆえに、気付けなかった……いや、違う。

 

 

 そうでなくとも、誰も気付く事などできなかった。

 

 誰一人として、違和感を覚えることもなく、結果だけを過去から続くモノとして認識していた。

 

 

 ……最初は、くだんの関係者の中でも、最も深く長く関わっていた者とその近辺が姿を消した事から始まった──が、誰も気付けなかった。

 

 

 何故ならば、周りの者たちの記憶はおろか、あらゆる記録媒体、あらゆる場所にも、その者たちが存在していた証が何一つ残っていなかったから。

 

 そう、始めから存在していなかったかのように、その国から……いや、世界からその者たちは姿を消し、代わりに、違う者がそこに納まっていた。

 

 だが、それは全てではないし、元通りというわけでもなかった。

 

 とりあえず数だけ合わせたと言わんばかりに、あまりにも雑に宛がわれたソレの過程に対して、誰しもが当然のモノと思い……その結果もまた、誰しもが疑問を抱かなかった。

 

 

 ……結果とは、なにかって? 

 

 

 先ほども述べたが、人が存在した痕跡は家や写真ばかりではない。その人が保有していた車や、なんてことは無い趣味の道具、果ては金融資産その他諸々全てが、痕跡である。

 

 そう、それらの痕跡が消えるということは、その国から、その者が所有していた資産が跡形も無く消滅するということ。

 

 そして、消えたソコには、人と虫との違いにピンと来ていない、人知を超えた存在の見えざる手によって、雑に諸々が埋め込まれ、帳尻を合わせられた。

 

 

 ──たとえば、だ。

 

 昨日まであったはずの工場が消え、昨日までそこに何百人と働いていた者たちが一夜にして仕事が無くなっていた

 

 それなのに、全員が何カ月も前から無職で生活が苦しいという状況になっていて、昨日までは太り気味だった者が、今日は痩せ細っていて……なのに、誰もそれを疑問に思っていない。

 

 

 ──たとえば、だ。

 

 昨日までは国中に潤沢に回っていたお金の流れが、どういうわけか滞っていた。

 

 まるで、何年も前から負債の返済に苦しんでいるかのように、何年も前に終わったはずの戦争をずっと続けていたかのように、景気が悪くなっていて。

 

 

 ──たとえば、だ。

 

 昨日まではまだまだ国家に余力があり、まだまだドルは強くて世界最強として君臨できていた……が、しかし。

 

 今日、まるで以前から積み重ねられていたかのような負債に、いよいよ決断を迫られた政府が……金とドルの交換停止の発表を行った……等々など。

 

 

 誰一人、気付かないし、気付けない。

 

 

 それは、その国に留まらない。その国と敵対関係にある国も、漁夫の利を得ようと企んでいた国も、逃れられない。

 

 何故なら、気付いていないから。

 

 1人の例外もなく、『終わった事』として処理されたソレに目を向けず……その結果を、誰もが当然の、過去の続きとして受け入れるだけであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、そんな感じで、つい先日まで表向きは平穏であった大国が中々に大変になっているのを他所に、だ。

 

 

 予定通り問題なく出産を終えた明美と道子は母となり、千賀子たち3人は新米お母さんとして育児に……いや、少し違う。

 

 新米なのは道子だけで、実は明美はある程度だが経験していた。具体的には弟妹の世話である。

 

 さすがに乳をあげた経験はないが、オムツの取り換えや着替え、あやしたり、遊んであげたりと、既に予行演習はバッチリだ。

 

 ぶっちゃけてしまえば、『ガチャ』による恩恵が無ければ千賀子よりずっと赤子の機嫌を取ったり機微を察知するのが上手いのは明美だったりする。

 

 対して、道子は……実質末っ子であるがゆえに、自分よりも年下の……それも、赤子の面倒を見た経験は皆無に近かった。

 

 ……千賀子は、って、いや、千賀子の場合は、かなり勝手が違う。

 

 なにせ、千賀子の場合は基礎体力が違うし、なにより出産によるダメージがない。回復力もまあ桁違いではあるけど、アドバンテージがある。

 

 そのうえ、実家以外に分身という、世のお母さまが知れば嫉妬のあまり憤怒のビンタをかましそうな反則技が……え、冴陀等村? 

 

 あそこはまあ、うん……とても助けにはなっているのだけど……リスクがあるというか、なんというか……とにかく、千賀子たちはお母さんとして日常を送っていた。

 

 

 ……そう、どれだけ千賀子が悲しんだとしても、時は動き、流れ、赤子は育ってゆく。

 

 

 失った命があれば、生まれた命もある。終わった時間があれば、始まったばかりの時間もある。

 

 ロウシの事を想えば、悲しみは消えない。

 

 『双の葉牧場』の一角に用意してもらった(向こうの希望もあった)お墓の前に立つと、胸中より沸き起こる怒りが衰える気配はまるでなかった。

 

 けれども、寝て、お漏らしをして、起きて、乳を吸って、寝て、起きて、お漏らしをして、乳を吸って……その合間に笑って、泣いて、笑って、泣いて、笑って。

 

 そんな繰り返しの中でも、スムーズに寝返りがうてるようになったり、ハイハイが出来るようになったり、確かに育ってゆくエマの姿は……これ以上ないぐらいに、千賀子の心に力と安らぎを与えてくれた。

 

 

 そうなのだ、千賀子がエマを幸せにしているのではない。エマのおかげであって、逆なのだ。

 

 

 すくすくと育ってゆくエマの無邪気な姿が、千賀子の内より湧き出る怒りや悲しみを和らげてくれた。

 

 失った命ばかりでなく、育っている命へと……エマのおかげで、千賀子は狂気に身を浸しきることはなかったのである。

 

 その結果、いくらか許された者が……まあ、全員ではないあたり、それはそれ、これはこれ、というやつなのだろうけれども。

 

 

 ……話を戻して、だ。

 

 

 世界は世界で色々と大変なことになっていたが、日本は日本で、まあまあ色々と騒動が起こっていた。

 

 軽いモノでは、10月に東京都知事より『ゴミ戦争宣言』がなされ、当分の間は粗大ゴミなどの収集を中止するという通告が、豊島区民13万5000世帯になされた。

 

 理由を遡ると中々に深刻というか、当時の世相というものが窺い知れるのだが、簡潔にまとめると、だ。

 

 粗大ゴミ収集日を狙って、産業廃棄物(県外の物)を不法投棄する者が後を絶たず、回収できずに放置されっぱなしという状況が相次いだせいである。

 

 翌月の11月には、沖縄返還に関して反対運動を起こしていた様々な団体が暴動を起こし、東京渋谷にいたっては、『渋谷暴動』と言われるほどの大規模な暴動を起こし、警察官の死者まで出た。

 

 さらに12月には新宿にある派出所裏にて、クリスマスツリーに見せかけた爆弾が仕掛けられ、負傷者が十数人出るという大惨事も発生した。

 

 

 ……そして時は、1971年の年末。

 

 

 千賀子は今年、実家にて年末を迎えることにした。

 

 理由は、エマの成長を見てもらいたいのと、エマには冴陀等村以外の人達にも触れてもらいたいと思ったからだ。

 

 この頃になると、もうすっかりエマは秋山家では孫娘扱いであり、秋山家の小さなお姫様になっていた。

 

 経緯はなんであれ、千賀子があれだけ大事に大事に愛情を注いでいるうえに、元気に育ってゆくのを見ているのだ。

 

 泣いた赤子には勝てないという言葉があるけれども、いつの間にか、『エマの顔を見たい』という連絡がちょくちょく千賀子の下へ来るようになっていた。

 

 

 ……ちなみに、秋山家で千賀子ほどではないにしても、エマに甘い態度を取るのは……意外かもしれないが、祖母である。

 

 

 祖母から見てひ孫になるわけだが、最初の頃はまだしも今では……これがまあ、可愛くて堪らないのだろう。

 

 体力的に面倒を見続けることはできないが、千賀子がエマを連れて実家に来た際には、それこそ暇さえあればエマの顔を覗きに行くぐらいで。

 

 さすがにお墓の方までは行かないが、仏壇の前に連れて行って祖父の遺影に顔を見せるのが、ある種のお約束みたいになっていた。

 

 おまけに、まだハイハイまでだというのに、もう外行き用の靴や服を用意したりしているのだから、かなり溺愛していると思っていいだろう。

 

 まあ、祖母がエマを溺愛してしまうのも、致し方ない面はある。

 

 というのも、エマは新生児の時から冴陀等村の女性たちの手を借りたり、分身たちが手伝ったりしているおかげで、他人の存在に慣れている。

 

 母親の腕の中以外にも安心できる場所がある事を本能的に理解しており、千賀子以外が抱き上げても、変な事をしなければぐずったり暴れたりしない。

 

 つまり、まだ1歳にしては相当に図太いのだ。

 

 抱き上げても嫌な顔一つせず、おとなしく、抱き方が上手ければ笑顔を浮かべ、場合によってはそのまま寝てしまう……そんなの、いったい誰が嫌おうとするのか。

 

 目の前で大切に大切に愛情を注いでいる娘の姿を見て、その愛情を嬉しそうに答えている姿を見て……胸中のわだかまりは別として、絆されてしまうのもまあ、不思議な事ではなかった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ただ、他に、副次的な効果なのかもしれないが、一つだけ。

 

 

(……もしかして、私ってお婆ちゃんと同レベルの溺愛っぷり? うぉぉ……自重せねば駄目だねこれは……)

 

 

 傍目にもわかるぐらい『ひ孫❤』みたいに猫かわいがりをする祖母の姿に、気を付けねばアカンよねこれ……と、千賀子が自戒する切っ掛けになったのは、皮肉な話なのかもしれない。

 

 とはいえ、油断すると母性が溢れだすので、あくまでも少しばかりの話だけれども。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 例年通りであれば、実家には両親と祖母と千賀子……今年はエマも追加されて、計5人での年越しになるはずだったのだが。

 

 

「──親父、母さん、突然戻ってきてスマン」

「それは、構わないが……いきなりどうしたんだ?」

 

 

 どういうわけか、兄の和広が戻ってきた。久しぶりに家族一同が揃うことを両親たちが喜ぶ半面、ちょっと困惑した様子であった。

 

 それも、当然だ……いや、戻るのは全然構わないのだ。

 

 和広の実家でもあるし、勘当されたとかそんな事はないので、戻りたければ戻ったらいいし、顔見せに来るのもまったく構わない。

 

 ただ……チラリと、家族たちの視線が、和広の背後……緊張した様子で顔を覗かされている、三つ編みの見知らぬ女性へと向けられ──いや、違う。

 

 千賀子だけは、知っている。

 

 兄の和広が連れてきた女性は、勤め先の酒屋の娘であり、和広に対して並々ならぬ……失礼、情熱的な視線を向けていた女である……が、それよりも。

 

 

(既成事実作っとるやんコイツ──っ!!???!)

 

 

 ゆったりとした服装なので傍目には分からないが、現時点で、千賀子だけは気付いていた。

 

 この女、やりやがった、と。

 

 相手は言うまでもなく、和広だ。

 

 傷心していた和広に押したり引いたり、アタックし続けて射止めて……説明すると長くなるので省くが、とにかく用意周到かつ念入りに絡め取ったようだ。

 

 

「──っ、──っ」

「──!? ──!!」

「──っ! ──っ!」

「──、──っ、──っ」

 

 

 呆気に取られている千賀子を他所に、和広の口から飛び出す結婚その他諸々の報告。当たり前だが、家族は驚き、事情を説明しろと騒ぎ出す。

 

 実は、和広……メジャーデビューというほどではないが、チラホラ業界の間で注目されつつあるようで、知る人ぞ知る……みたいな人になっていたらしい。

 

 ただ、子供を育てるとなると、仕事柄家を空ける頻度が多くなるのは明白。仕方ないにしても、そこらへんをどうするのかと不安視されるのまた、当然。

 

 けれども、結果は変わらない。何故ならば、既に和広が連れてきた女の胎には赤子がいるから。

 

 もしも話がこじれるような事になれば、彼女は確実に、それがもっとも有効なタイミングで切り出して来るだろう。

 

 一切の躊躇なく、涙すら容易く流して。

 

 喧騒というほどではないが、エマがぐずりだすかもしれない騒がしさを前に、そっと廊下へと出た千賀子は。

 

 

(う~ん、女って怖い……)

 

 

 以前にもうっすら感じ取っていたが、彼女の執念深さに……ゾクゾクっと背筋を震わせたのであった。

 

 

 

 

 

 






※ 次回より、激動昭和・鍋底不況(大嘘)編となります
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