ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

126 / 260
第121話: ???「30分も撮影?? 十数分でも限界だったんですけど???」

 

 

 

 ──千賀子にとって、その映画が売れようが売れなかろうが、大した違いはなかった。

 

 

 千賀子が撮影を承諾したのは、土師田のあまりにも無鉄砲で若さに任せた情熱に眩しさを覚えたからだ。

 

 別に、有名になりたいわけではない。お金目的でもない。

 

 女優どころか、そもそも、そういう世界には欠片の興味もない。

 

 その業界にて上を目指している人たちが知れば、100回はぶん殴られそうな話だが、それが千賀子にとっての本音であった。

 

 だから、渾身の、魂を削るかのように心血を振り絞って撮影した土師田の作品がどうなろうが、千賀子にはどうでもよかった。

 

 撮影をされた、撮影をした、その時点で、千賀子の役割は終わったからだ。

 

 

 ただ……さすがに、まったく見向きもされないというのは、可哀想に思った。

 

 

 それは、せっかく己が承諾したのに……という話ではない。売れて当然だろうとかいう、自意識の高さからくるものでもない。

 

 見て、酷評されるのならば良い。それが、土師田の作品の評価だから。

 

 革新的な技術、革新的な撮影方法、練られた脚本、それらが揃った良い作品であっても、評価されない時は評価されず。

 

 使い古された技術、ありふれた撮影方法、陳腐な脚本、内容的には凡作でしかなくとも、評価される時は評価される。

 

 映像作品に限った話ではないが、そういうものなのだ。

 

 鳴かず飛ばずの作品が10年後に脚光を浴びることがあれば、10年後には『今になって見ると、凡作でしかないね』と酷評されることもある。

 

 

 それを、千賀子は否定しない。

 

 決めるのは、見る側だから。

 

 

 しかし、見られないまま、何も知られないまま、見る価値すら無いと暗に思われて、そのまま終わってしまうのは……少々、思うところがあるわけで。

 

 気が早過ぎる……と言えばそれまでだ。

 

 なにせ、撮ったそれはまだ上映されていない。

 

 いや、それどころか、上映を承諾してくれる映画館すら見つかっていないのが、現状であった。

 

 ネットで配信するのが当たり前な現代人の感覚からすると想像しにくいかもしれないが、この頃は映画館以外に、個人制作の映像作品を見てもらう場所など皆無である。

 

 映写機も大型で、種類によっては相当な熱を発するので送風する必要があり、個人で映写機を用意出来たとしても、使用出来る場所までは中々……といった具合であった。

 

 その代わり、この頃は現代とは比べ物にならないぐらいに個人経営の映画館が多く、また、映画館の数も現代に比べて数が多い……が、しかし、だ。

 

 映画館が多いとは言っても、結局のところ、商売である事には変わりない。

 

 何も映さないよりは、何でも良いから映して客を入れた方が良い。黙っていても、経費が積もっていくだけである。

 

 なので、当時としても異例の短さである、たった十数分しかない『釣りをする女』の上映に、普通ならば、少しぐらいは耳を傾けてくれるところがあるはず……だったのだけど。

 

 

「すまんね、あんちゃん。俺としては手を貸してやりたいんだけど、俺んとこみたいな小さいところが配給会社から睨まれちまえば、あっという間に廃業なんだわ」

「……あんた、なにやったんだ? 詳しくは知らねえけど、あんたの事を名指しで『関わるな!』ってお達しが出ているぞ……悪いが、そういう事だから……」

「短編ねえ……別にこっそりやってもいいけど、20分もないんでしょ? さすがにそれは……せめて、30分、40分、それぐらいのモノにしてくれんとなあ」

 

 

 とまあ、そんな感じで、まさかの全敗であった。

 

 これには土師田も予想外だったのか、目に見えて落ち込んでいた。

 

 映画人としては、己の作品を見てもらいたいと思うのは当然である。その点に関しては千賀子も理解しており、落ち込むのも当然だろうと……いや、うん。

 

 

 ……まあ、うん。

 

 

 落ち込む土師田を尻目に、千賀子は『あれ? 私ってば何かやっちゃいましたか?』という感じで、気付かれないよう素知らぬ顔をしながらも、内心ではけっこう焦っていた。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 前者二つに関しては、想像するまでもなく千賀子が要因の一つであるからだ。

 

 既に道子を通じて、『もう解決したので』というふうに圧力は止まっている。しかし、それで、はいそうですかとならないのが、人の心というものだ。

 

 いくら上が『もう気にしていないから』と言っても、それを言葉通りに受け取れる者などほとんどいない。

 

 特に、トカゲの尻尾切りという形で全部おっ被せて切り捨てた者がまた業界に戻って……個人活動とはいえ、だ。

 

 また睨まれるのを危惧して土師田が業界に入ってこないよう、映画人として活動しないよう動くのも……非常に不本意な形ではあるが、理解は出来た。

 

 

 ……三つ目? 

 

 

 その点に関しては、純粋に土師田の落ち度である。

 

 何故ならば、この頃の短編映画は、30~40分ぐらいの作品を2本立て3本立てで上映するのが当たり前であったからだ。

 

 つまり、十数分というのは、短編映画としても短すぎるのだ。

 

 いくらショートムービーだとか、短編映画だとか、『時間よりも質!』という目で見てくれる人がいるにしても、限度がある。

 

 そんな中で、だ。

 

 20分もない映画なんて、まず相手にしてもらえない。上映してくれる優しいところでも、せめて30分は欲しいと難色を示すのは、当たり前であった。

 

 

 ……では、どうするか? 

 

 

 答えは、『千賀子が直接出向いて、自分を撮影した作品であり、一目見てから判断してほしい』と交渉した、である。

 

 普通ならば相手もされず追い出されるところだが、スタイル込でとんでもない美女の千賀子を撮影したと当人から聞いて、興味を抱かない男は少なくない。

 

 現代では感覚がマヒしている人が多いけど、『美女』というのは滅多に出会える存在ではないし、その顔を拝むことだって早々怒らない。

 

 そんな時代で、テレビや雑誌でもお目に掛かれないレベルの美女から『お願い』されて、果たしてどんな気持ちになるのか。

 

 

 ……結果はまあ、想像するまでもない。

 

 

 十数分で終わるとなれば、とりあえず見てから判断しようかな……といった流れで、とりあえずは視聴してからと考えを改めてくれて……そうして、だ。

 

 

「──あんちゃん、これは凄いよ。是非とも、うちで上映させてくれ!」

 

 

 ちょっと腰が引けている経営者より、そんな言葉が飛び出したあたり、千賀子の説得は非常に有効なのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じで二か所、三か所、四か所と、うちでも是非にと声が上がる。

 

 千賀子はダビングの類は許可しなかったので、順番に上映することになったわけだが……それでも、売り上げとしては相当に良かったらしい。

 

 

(土師田も借金を返せて溜まっていた家賃も払えて一安心って言っていたし……私としても、一安心……)

 

 

 今は新しい構想を練っているとかで電話連絡だけだが、最初の頃にあった焦燥感の影が消えていることに、千賀子は密かに安堵の溜め息をこぼしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ──さて、そんな流れで1972年の4月も半ばだが、ここらで番外編というわけではないが、少しばかり時は遡る。

 

 

 実は、今より2ヶ月前の2月に起こったとある事件の前に、コソッと、ある事を道子や実家に伝えていた事がある。

 

 それは──カップヌードルが売れるよ、という話である。

 

 そう、実は千賀子の前世において、1972年の2月というのは教科書にその名が残った、『あさま山荘事件』が発生した月である。

 

 あさま山荘事件とは、いったいなにか? 

 

 詳細に説明すると長くなるので簡潔にまとめると、新左翼組織連合赤軍と呼ばれた極左テロ組織の一つであり、その組織の残党が人質をとって軽井沢の山荘に立てこもった事件である。

 

 立てこもり発生から解決まで約10日間掛かり、クレーン車に鉄球を吊るした破砕機を用意し、物理的に突破口を作りだした映像は、当時のお茶の間に多大な緊迫感を与えた。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 事件解決まで約10日間掛かったわけだが、その際に山荘を包囲する警察官などに非常用食料として配られたのが、カップヌードルである。

 

 カップヌードルが販売されたのは1971年9月。この頃はまだ物珍しさが先行しており、売れていたのだが、まだそこまでではなかったらしい。

 

 しかし、2月の軽井沢は吐く息が白くなるぐらいに寒く、雪もまたしっかり残るほどに冷え切っていた。

 

 そんな中で、湯気が立ち上るカップヌードルをすする警察官たちの姿が繰り返しニュースに流れたことで思わぬ宣伝効果となり、

 

 『アレはなんだ?』と人々の興味を引いたのだ。

 

 これによって、カップヌードルの手軽さと美味しさに気付いた国民たちの間で人気に火が点き、それこそ出した傍から売り切れが続出し、生産が追い付かないほどであった。

 

 

 そんな縁起でもない……と、思われそうだが、むしろ逆だ。

 

 

 日本人は昔から流行に敏感で、話題のモノや人にはすぐ飛びつく。それこそ、江戸時代からそこらへんは変わらず、良くも悪くも熱しやす──さて、だ。

 

 それをすっかり忘れていた千賀子だが、同時に、巫女的シックスセンスでうっすら起こり得る可能性を感知していた千賀子は、売り切れが続出する前に山のように仕入れておいた方が良いかもと助言をしたわけである。

 

 熱しやすく冷めやすい日本人の気質からして、飛ぶように売れるのは最初のうちだけ。

 

 後になっても一定量は売れるけど、他の店も追随するし、その頃には工場が生産量を上げているので中々売り切るのは難しい……というのが、千賀子の弁であった。

 

 それを聞いた両親の行動は、早かった。

 

 すぐさま問屋を通じて大量の……それこそ、部屋二つ分と廊下がいくらかダンボール箱で埋まるぐらいに大量に仕入れた。単価は高くないので、可能であった。

 

 そうして──2月19日より始まった『あさま山荘事件』。

 

 これにより、『テレビで警官たちが食べていたやつはあるか?』と、普段はあまり顔を見ない人もカップヌードルを求めて来店し、仕入れたヌードル全てを綺麗に売り切ったのである。

 

 一個ずつの売り上げはそこまでではなくとも、定価で……それこそ、仕入れた分全て売り切ったとなれば、けっこうまとまった利益になった。

 

 それは、忙しなくてあまり顔を見せられない千賀子なりの親孝行の一環で……ん? 

 

 起こる可能性を少しでも感知出来ていたのなら、どうして事件そのものを止めるために動かなかったのかって? 

 

 

 ──そんなの、動く義理も理由も千賀子にはなかったからである。

 

 

 日本の法律は、起こってからでないと動けないのが原則。

 

 また、自分の周囲の人たちが巻き込まれる可能性や、分身たちから提案されない、あるいは全世界規模になる戦争ならまだしも、だ。

 

 局所的な事件のうえに、先手必勝でぶち殺すとダメなルールを前提に動かなくてはならない……なんて話ならば。

 

 千賀子としては、もう各々の職務を頑張ってください……としか思わないわけで、思想や政争のゴタゴタは嫌いなのである。

 

 

 ……まあ、それ以前に、だ。

 

 

 実は千賀子は千賀子で、映画撮影を了承する前の段階で、エマのお世話以外にも色々と忙しいというか、次から次に用事が入って来ていたのである。

 

 去年(1971年の暮れあたり)から、なにやら馬インフルエンザなる病気が流行し、千賀子はしょっちゅう持ち馬たちが病気にならないよう加護を与えに行っていたのだが。

 

 千賀子の特異性を知る『双の葉牧場』や北海道の牧場のみならず、噂を聞きつけたのか、藁にもすがる思いで千賀子と連絡を取ろうとする者が続々と現れ始め。

 

 中央競馬《J R A》の役員からも、『気休めでも良いので、安心させてやってくれ』と、菓子折りを持って何度も頭を下げに来たぐらいで。

 

 馬の事だけに限らず、とにかく色んな方面から連絡が来て、中には『お願いします、一目だけでも良いんで診てください……』と泣きながら電話を掛けて来る子供までいた。

 

 他にも、1月にて原油価格が上がった事で道子から相談の連絡が来たり、燃料費がそのまま経営を直撃する明美のところからも相談があり。

 

 同様に、燃料費の高騰やら事故死した牧場主が所有している馬や家畜などを引き取れないかと話が来たり。

 

 土師田の働いていた会社より、明らかに暴力も辞さない者たちが己を嗅ぎまわっていることに気付いた千賀子が、直々に動いたり。

 

 それはもう、毎日のようにやる事が有ったわけだった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、長々と続いた話だが、どうしてそんな話をしたのかと言えば、特別深い意味はないのだけど。

 

 

黒十口了承(くろじゅうくち・りょうしょう)知事、よく聞こえなかったわ」

 

 

 場所は、大阪の……とある料亭の奥まった位置にある、座敷にて。

 

 

「では、何度でも言いましょう」

 

 

 とりあえず、3期まで続いていた佐東ギセンをいつの間にか破って新たに府知事の座に就いたという、黒十口府知事は。

 

 

「貴女が何と言おうと、春木競馬場は廃止の予定です。大阪に、そんなものはいらないのですよ」

 

 

 1972年の4月半ば。

 

 とっくに終わっていたと思っていた話を再び蒸し返されようとしている現実に、千賀子は……ちょ~っとばっかし、苛立つのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。