ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第122話: 常識的に考えたら、そう思うよな……な、話

 

 

 そもそも、知事が変わったこともそうだが、最初の呼び出しの時点で、なんか怪しい予感はしていたのだ。

 

 と、いうのも、だ。

 

 『春木競馬場』の関係者ということで、これまでは形だけとはいえ、表向きは意見交換会という名目で擦り合わせは行っていた。

 

 ぶっちゃけると、関係は良好であると周りへのアピールだ。

 

 表向きの肩書はただの一般人でしかない千賀子だが、分かっている人は、ちゃんと分かっている。

 

 千賀子がダービー馬を所有する、中央と地方、両方の馬主資格を持つ人物であることを。

 

 他にも、資産価値こそ低いものの広大な土地をいくつも所有していたり、最近では北海道の方でなにやら投資していたり。

 

 千賀子が春木競馬場存続の重要人物(キーマン)であることも、程度の違いはあるけれども、分かっている。

 

 そして、億単位の現金を容易く動かせる経済力に加え、様々な方面と繋がりがあり、噂では次期総理大臣が確定している田中氏とも繋がりがあるとか……分かる人は、ちゃんと分かっていた。

 

 そして、千賀子も直接明言はされてないにしても、だ。

 

 己との意見交換会を行うことで、佐東ギセン知事は利を得ていたのだろう。それぐらいは、千賀子でも察していた。

 

 ただ、これもまあ交換条件みたいなものかと判断していたので、あえてそこには触れなかった。

 

 千賀子としてはそこまで神経質にならなくてもと思わないでもないが、政治の世界ではそういう細かいところが重要なのだということも、分かっていたから。

 

 それに、初対面こそ一悶着(女神基準)あったものの、千賀子が他者に秘密を一切口外しない人であると察してからの佐東知事との対談(という名の愚痴)は、中々に面白かった。

 

 なんというか、千賀子としては……上の人は上の人で色々しがらみもあるし、本当に色々あるんだなあ、である。

 

 

 ……それに、だ。

 

 

 春木競馬場の件が決着して、何度か意見交換会を開いて交流したからこそ分かってきたことなのだが、けして悪い人ではないのだ。

 

 人間、良い面もあれば悪い面があるように、ある人たちにとっては良い人に見えても、ある人たちにとっては悪人に見えるというのは、よくあることだ。

 

 

 ……あくまでも、この世界では不確定な未来の話で、これは千賀子の前世で過去の話だが。

 

 

 政治家以外にも、後に女学校の理事長を務める事になったり、実は僧侶として教えを守る者だったりする者として、物事を見れば。

 

 競馬というモノがもたらす経済効果を理解してはいても、『よろしくないモノ』と考えるのは、なんら不思議な事ではない。

 

 ……この世界の佐東知事(元、だけど)が今後はどうなるかは分からないが、思った結果はそこまで変わらないだろう。

 

 ましてや、当時の競馬民たちのマナーは、一切擁護出来ないぐらいに悪かった。こればかりは、千賀子も一切擁護するつもりはない。

 

 春木競馬場が特に駄目だったというわけではない。

 

 あそこは経営的に黒字なのにという前提があったからこそ目立っただけで、当時の競馬民のマナーの悪さは、どんぐりの背比べ……アソコよりはまだマシ、というレベルでしかなかった。

 

 そんなのを見て、元々競馬というものに良い印象など持っていない佐東知事が存続させようと思うだろうか。

 

 しかも、当の競馬民たちが反省して、自戒するならともかく。

 

 周辺住民から不満が高まり続けている最中だというのに、『お偉方は引っ込んでろ!』みたいにナメた態度をとる競馬民がチラホラ出てくれば……そりゃあもう、冷たい態度になるのも必然であった。

 

 ……まあ、それでも、開催を止めることで路頭に迷う者が出てくる事や、生活が苦しくなる者がどんどん出てくることに、思うところはあったのだろう。

 

 あくまでも結果論に過ぎないが、千賀子の前世においても、その迷いはあったのかもしれない。

 

 実際、開催中止を決定した後で、競馬廃止の資金確保などの措置として1968年~1970年の3年間だけ、再開を継続してもよいと許可を出していたのだから。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、話を今生の世界に戻して、と。

 

 

 新しく府知事に就任した黒十口府知事との対談をほぼ一方的に打ち切られた千賀子は、とりあえず、帰ることにした。

 

 この一方的にとは、比喩でもない。

 

 本当に、『話すことは以上。不服があるならば、警備員を呼ぶよ?』と言われ、ほとんど犯罪者のような扱いで追い出されたのである。

 

 あまりにも人をナメた態度である。というか、普通に失礼。

 

 とはいえ、昭和のこの頃なんて、格下扱いされるとこんなものである。

 

 ただ、あまりにも露骨すぎるというか、佐東知事とは違う対応のされ方に、ちょっとばかり苛立っていた気持ちも吹っ飛んでしまった。

 

 アレだ、怒りは怒りとしてあるけど、あまりにも唐突過ぎて怒るタイミングが分からなくなった、あの感じ。

 

 まあ、そんな感じで、対談というよりは一方的な宣告でしかなかった対談を終えた千賀子は、とりあえず神社に戻った。

 

 下手に食い下がると本当に警備員&警察を呼ぶつもりであるのを、察知していたからだ。

 

 

 

 そうして、ひとまずお茶でも飲んで一休み……してから、改めて分身たち(と、ロボ子も)を集めて、対策会議を開いたのである。

 

 

『 ──帰って来た、千賀子会議(回数は忘れた!)── 』

 

 

 そんな文字が書かれた立て看板を背後に、千賀子たちは仕舞うのに悩んでいる巨大コタツに集まると……さて、と居住まいを正した。

 

 

「──なに、アレ?」

「さあ? 私たちが知るわけないじゃないの、本体の私」

 

 

 普通の会議であれば、よほどの事でない限りは、ある程度は事前に色々と打ち合わせを行い、進行をスムーズにするのだが……こういう時、分身相手だと非常に楽である。

 

 なにせ、言葉等で説明をしなくても、リアルタイムで情報を共有できるから。

 

 

「ロボ子?」

「マスター、困ったら私に聞く癖がついていませんか?」

「だめ?」

「いいですよ、マスター。既に調査は終えてありますので、賢いロボ子ちゃんを褒めてください」

「いよ! 太っ腹!!」 

「それ、褒めているのですか?」

 

 

 そして、分身ではないロボ子にいたっては、分身たちとは違う方向性に振り切った諜報力である。

 

 ロボ子の場合は機械による物理的な調査であるため、条件次第では能力を発揮しない。

 

 しかし、ひとたび噛み合えば、その諜報力は分身たちに比べて桁違いであり、場合によっては昨夜の自慰のオカズも調べる事が可能なのである。

 

 ……で、今回はバッチリ条件が噛み合ったおかげで、短時間できっちり調べ終えたロボ子は、黒十口知事がどうして廃止に動いたのか、その説明を始めた。

 

 

 内容を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 要は、『黒十口知事を含めた一派にとって、公営ギャンブルである競馬は資本主義の象徴であり、これを潰す事を試金石とした』、である。

 

 つまり、当選したからには、手始めとして目に見える形での実績なり、この人を選んで良かったというアピールポイントを作ろうというわけで。

 

 ナニカを新たに作るよりも、ナニカを壊したり廃止させたりする方が何百倍も楽であり、競馬場廃止という実績は、支持者たちのウケが良いから……とのことだ。

 

 そう、なんとも奇妙奇天烈な話だが、黒十口知事は社会主義と共産主義の支持を受け、弱者救済などを公約に掲げて当選した人物である……らしい。

 

 大勢の人々から仕事を奪うことになるのに弱者救済とはコレ如何にという話だが、実はこれ自体、そこまで不思議な事ではない。

 

 社会主義はそうでもないが、共産主義はギャンブルを嫌う……というより、思想からして相容れないのだ。

 

 名目上は、人民に富を均等に分散(あるいは、分配)する事を念頭に置いているから。均等を壊してしまう賭け事は、違法以外の何物でもないのだ。

 

 

「……で? 実際のところ、どうなの?」

「廃止には動いていますけど、支持派も一枚岩ではありません。昔ならいざ知らず、現状の春木競馬場を廃止するとなると……」

「反対派が増える、と?」

「それどころか、敵対者が増大します。かなり深刻な感じで」

「……それなのに、廃止する気なの?」

「廃止するのに損得は関係ありません。派閥の思惑はなんであれ、目に見える形でナニカをしなければ、すぐにでも分裂して瓦解し始めてしまいますので」

 

 

 続きを促せば、ロボ子はハッキリ答えた。

 

 あんまりと言えばあんまりな言い草に、千賀子は何とも言えぬ顔で唸った。

 

 そう、以前の春木競馬場のまま強引に開催し続けていたならば、まだそこまでではなかっただろうが……この世界では、違う。

 

 千賀子が用意した柵に加え、散歩コースや時間帯を徹底し、資金を出してレースの数を増やし、マナー向上に努めた。

 

 これにより、競馬場絡みの苦情報告は減少傾向にある。

 

 中には無理やり競馬場に結び付けようとしているような苦情もあったらしいが、真偽不明を除外すれば、全体的には確実に良くなっているのだ。

 

 他にも競馬場内外の改装や改築にも出資し、並びに周辺の工事や整備を行い……それによって、多数の仕事を生み出した。

 

 さすがに当初より数は減っているが、現在もそれは続いている。

 

 つまり、この状況で廃止すれば、それだけの人数が一気に職を失うわけだ、それも不可逆的に。

 

 加えて、加熱し過ぎた物価高を抑えるために行われた経済政策によって、日本全体の景気にブレーキが掛けられたばかり。

 

 この頃の経済成長率はマイナスに転じてこそいないものの、それまでと比べたら雲泥の差でしかない。

 

 佐東前知事も、『発端や過程はどうあれ、結果として継続してくれた方が良いと思っている人が主流になっている』と断言していたぐらいだから、千賀子も気に留めていなかったのである。

 

 ……そこにきて、コレだ。

 

 寝耳に水とはまさしくこの事であり、話を聞けば聞くほど、呆れを通り越して嫌悪感すら抱きそうだと千賀子は思った。

 

 

「……それで、向こうの要求はなに?」

「要求、ですか? 何も仰ってはいなかったと、私は記録しておりますが?」

 

 

 首を傾げるロボ子に、千賀子は深々とため息を吐いて、心底面倒臭そうに天井を見上げた。

 

 

「本当に潰すだけのつもりなら、いちいち私に声を掛けにきたりしないわよ。あそこは私の土地でもないし、私が権利を持っているわけでもないしね」

「そういえば、そうでしたね、マスター」

「潰さない代わりにナニカを求めているから、わざわざ事前に話してきたのよ。しかも、ナニカを私に言わないってあたり、これまたうっとうしい話だわ」

「どうしてですか?」

「向こうから要求したら、脅迫になるからよ。あくまでも私が自発的に厚意で寄付しているって流れで行かないと、責任の所在が私にならないから」

「人間とは、ずいぶんと回りくどい要求をするのですね」

「そうよ、面倒臭いところが多いのよ、人間ってのは……で、皆はどう思う?」

 

 

 苛立ちで刺激を与えないよう、部屋の隅でエマをあやしている4号……を見て、ちょっと気が安らぐ。

 

 そうしてから、4号を除いた2号と3号に視線を向ければ、2人はしばし考えた後……2号から手を挙げた。

 

 

「順当に考えるなら、お金しかないわ、本体の私。公約を本気で果たそうと思うなら、知事たちが求めるのは分厚い財布だと思う」

 

 

 次に、3号が手を挙げる。

 

 

「私も、可能性の高さで考えるなら資金援助かな。何をするにもお金が無ければ始まらないけど、お金って、特に現金となれば、そんなすぐに用意出来るものじゃないから」

 

 

 2号も3号も、同じ意見。ならばとロボ子を見やれば、ロボ子も右に左に首を傾げた後で……似たような意見を出した。

 

 

「佐東前知事の時に、即金で3億(※、現在価格で約10億前後)用意したあたり、動かせる金はもっとあると思われたのかもしれませんね」

「……常識的に考えて、会社を所有しているわけでもない個人が、そんなとんでもない額の現金を所有していると思うかしら?」

「常識的に考えれば、そもそも3億も動かせません。綺麗なお金か、仄暗いお金か、なんにせよ、向こうが誤解しても致し方ないかと」

「……はあ、やっぱりそうか。まあ、そうじゃないかとは思っていたけ──どうしたの?」

 

 

 二度目となる大きなため息を吐いた千賀子は……唐突に視線を虚空へと向け、きゅいんきゅいんと瞳のレンズを緩めては絞っているロボ子の異変に、背筋を伸ばした。

 

 

「──マスター、緊急事態です」

 

 

 そして、その言葉と共に分身たちも真剣な目を向ける。

 

 唯一、4号だけは、エマを怖がらせないためにそっと部屋を出た──で、だ。

 

 

「何が起こったの?」

「スパイカメラからのリアルタイム情報です。まず、マスターのお兄様である和広様が襲われました。場所は、和広様の奥様の実家の酒屋です」

「──はっ?」

「言動などから、件の関係者の可能性大。あくまでも脅しの意味合いだと思われますが、和広様が軽傷を負いました。犯人はすぐに逃走しています」

「……え?」

 

 

 率直に尋ねれば、ロボ子の口から信じられない言葉が……言われた千賀子は一瞬ばかり、思考を止めたぐらいであった。

 

 

「同様に、マスターの御実家もほぼ同時刻に発生。被害は窓ガラスが割れた程度で負傷者無し、犯人は車に乗って逃走しました」

 

 

 だが、ロボ子からの報告は終わらない。

 

 

「可能性を考慮し、明美宅も確認。どうやら同時刻に石を投げ込まれたようで、割れたガラスが散乱しています。負傷者は幸いにもいないようです」

「同様に、道子宅を確認。こちらは表向きにも有力者の家ですので、反撃を恐れて手出しはしていないようです。不審な車なども確認出来ておりません」

「ここへ、『山』の麓に不審な車を確認、入った形跡も確認しました。おそらく生存はしておりませんが、周辺の警戒レベルを上昇させます」

「また……『双の葉牧場』にも被害が確認されました。タイミング良く発見して大事には至っておりませんが、ロウシの墓に塗料のようなモノが散布──」

「  みなまでいわなくて、いいよ  」

 

 

 そして、それを最後まで聞く気は、千賀子にはなかった。

 

 

「……そう、平和的に脅したつもりなんだ? 協力しないなら、もっとするってわけ? いいよ、いいよ、それでいいよ、平和的に、そう、平和的にね?」

 

 

 何故ならば、千賀子の堪忍袋は爆発四散していたからで。

 

 

「……分かったわ、そちらの流儀に則りましょう、貴方たちが、そう望んだのであれば……ねえ?」

 

 

 ──ニッコリ、と。

 

 

 震える指先で、その顔に浮かぶ表情を、万が一にでもエマに見られないよう隠す千賀子の姿を……女神様は、それはもう心底嬉しそうに見下ろしていた。

 

 何故ならば、久しぶりに頼られそうな気配を感じ取ったから……。

 

 

 

 

 

 





※ 今回の敗因

人基準「得体は知れないが、権力と金は持っているようだ。だが、それはこちらも同じ。暴力で訴えられて、平静でいられるかな?(クックック・・・)」

女神様「愛し子からの無意識の欲望……(ビクンビクン!!!)愛し子、見ててね! 頑張っちゃうから!!!!!!」
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