ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ 張り切った女神様のせいでホラー要素ありです
 なお、全て善意の模様、心のどこかで千賀子がブレーキを掛けたので、女神的にはマイルドです


第123話: 『箱』に関する情報を集めておりました

 

 

 

 ──■■■団体関係書類(極秘)──

 

 原本記録は破損や劣化が酷く、現在では読めなくなっている部分が多い。なので、保存用のラミネートより取り出すのは禁止となっている。また、記録の一切の複製を禁ずる。

 

 複製の必要がある場合は、必ず現時点での総理大臣の承認と、幹事長の承認と、△△△神社にて清めと祈祷を行った後で──を行い、その後、必ず──を行ってから──の承諾を得た場合にのみ許可されます。

 

 なお、いかなる理由があろうと、当資料の持ち出しは厳禁となっております。

 

 理由を問わず、持ち出しが発覚した時点で、持ち出した人物並びに協力者の5親等までを厳罰対象とし、刑が執行されます。

 

 

 

※ 本件での厳罰対象者は、いかなる身分であろうとも減刑にはなりません。また、司法取引も行われません。

 

 

 

 ここでは、当時の『■■■団体』に関係していると思われる新聞や証言のメモなどを保管、あるいはおそらく書かれていたであろう文字を補足する形で、要点をまとめている。

 

 この記録(並びに、資料)はあくまでも様々な記録の切り取りである。と、同時に、そもそもの原本に記された出来事が現実に起こったのか、その明確な資料は見つかっていない。

 

 なので、現状のこの記録は信頼性に欠けるが、必ず保管しておくようにとの通達が○○年前よりされているので、新しい記録、あるいは補強するような記録が見つかり次第、この記録に追加するものとする。

 

 

 

※ 追加を行う場合、必ず──部署の──を通じて、承認を得る事。ただし、承認を得られても──様が拒否した場合は速やかに破棄するものとする。

 

※ 保管方法に問題があったとのことで、現存する『■■■団体』の資料は少なく、素手で触る事は厳禁である。

 

※ 素手で絶対に触ってはいけません。また、魅力的に思えても近付いてはなりません。当資料を閲覧する場合は、必ず監視カメラが正常に稼働しているのを確認後、5人一組で行動し、閲覧者は1名のみにすること。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 ○月○日(とある記者のメモを添付:欠損多々なので注意要)

 

 

 

 ○○県××市の××時頃、近所の家より異臭がするとの通報があり、××署より警察官2名が到着──(消失、新たに資料が見つかれば補足要)。

 

 どうやら殺人事件が起こっていたようで、容疑者と思われる男性が逮捕された。顔は隠されて姿見えず、身長は170cm前後(※ 要調査)

 

 男性は精神的に非常に不安定な様子で、意味不明な言動を呟いている。(※ 録音失敗、野次馬がうっとうしい!)

 

 男性の身元は不明。調査したいが、事件が事件なので難航する可能性高し。あさま山荘の件で警察もかなりピリピリ、放置が吉? 

 

 ──追っていた別件に手を出せなくなったので、←の件を調査する(※ ××部長め、くたばれ!!!)

 

 周辺住民への聞き込みによると、件の家は──党関係者の事務所として使われていたらしく、近隣住民との交流はほとんどなかったとのこと。

 

 例の山荘の事件があったことで、余計に住民たちが距離を置いていたらしく、○月○日時点での目新しい情報は確認できず……。

 

 警察の方へ聞き込みしようにも、件の容疑者は──党の関係者ということで中々に厳しく、うちでは取り扱えない可能性高し。

 

 1人の記者として、そういう事件は表に出せるのと出せないのがあるので、ハッキリしてくれると助かるのだが……。

 

 

 

※ ──党の後援会があるという話らしいが、その後援会に所属している人を確認出来ず。集会が定期的に開かれているという話らしいのだが……確認が取れ次第、改めて調査する。

 

※ ×月×日、やはり後援会が行われていたという話は出るが、どこで行われていたのかは確認取れず。あ~あ、俺も千日デパートの方へ取材に行きてえなあ。

 

※ 必要がなくなったので、調査を終了とします、ありがとうございました。

 

※ ありがとうございます、今は幸せです、ありがとうございます、ここは良い所です

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 ○月○日(とある地方新聞の切り抜き、変色有り)

 

 

 

 ○○県××市の××時頃、『近所の家から、血のような臭いが漂っている』との通報があり、××署より警察官2名が到着──(変色大、同新聞が見つかり次第、追加要)

 

 家の中では多数の負傷者が倒れており、全員に刺し傷が確認された模様。

 

 容疑者として、職業不明の男性(年齢不詳)が逮捕されました。(顔写真部分変色大)

 

 逮捕時の男性は裸であり、意味不明な供述を繰り返していた。警察官への抵抗はなく、殺人に関与していることは認めているおとのことだ。

 

 

 

 ※補足1(当時の鑑識捜査官の証言・口語をそのまま記載)

 

「あんたら、どこの人? さっき、上の方から指示が来たけど……いや、いいよ、答えられる範囲なら、答えるから」

 

「え、これ、本当に喋っていいの? 職務上、あまり他所さんに話すわけには……あ、いいのね?」

 

「……単刀直入に言わせてもらうなら、ワケが分からない、だね」

 

「この道に入って15年ぐらいになるけど、死体なんてのはしょっちゅう見た。そんな俺が言うんだ、あんなのは初めて見たよ」

 

「死体ってのはさ、死に方で、だいたい何が起こったのかが分かるんだよ。窒息だったら顔にうっ血の跡があって、首筋とかに引っ掻いた痕があったり、さ」

 

「もちろん、様々な条件で変わるよ。あくまでも、だいたいって話で、ちゃんと調べないとその後の捜査の動きが変わるから、適当な仕事はしないよ」

 

「だから、その、あの団体の……そう、×××(自主規制)事件の報告書は見たか? その通りなんだ、俺は嘘なんて書いたつもりはない」

 

「……そう、被害者たちは解体されていたんだよ」

 

「あんたらも分かっていると思うけど、さすがにあんなの新聞に載せるわけにはいかないって……見付けた警官さんは、運が悪かったと思うよ」

 

「俺はもう慣れているからまだ耐えられたけど、慣れていなかったら相当きつかった……え、辞めた?」

 

「ああ、そうか……まあ、そりゃあ辞めてもしかたねえよ、あんなの見ちゃあ、警官続けられなくなっても仕方ねえ……ああ、話を戻そうか」

 

「解体されていた被害者たちだけど、ただ解体されたわけじゃない。俺が見た時には、箱に納められていたんだ」

 

「言っておくが、ただの箱じゃないぞ」

 

「箱の上面がガラスになっていてな、中身が見えたんだよ。もしかしたら、辞めた警官はその箱を見ちゃったのかも──ん? なんだ?」

 

「……その報告は無かったぞって? そんなのおまえ、言えるわけねえだろ」

 

「だって、ちょっと目を離した隙に無くなっていたんだぞ。俺だって、今でもアレは俺の幻覚だったんじゃないかって思う時があるぐらいなんだからな」

 

「……いや、すまない。あんたらに当たっても仕方ねえよな。すまない、気を悪くさせてしまった……え?」

 

「箱の中身?」

 

「それは……その、本気にしないでくれよ。俺も、あんまりにも気持ち悪かったからじっくり見なかったから」

 

「……一言でいうと、内蔵だよ」

 

「そう、大きさからして、人間の内臓。まるでパズルみたいに、綺麗に収まっていたよ……いったい、アレはなんだったんだろうね?」

 

 

 

※ 補足2(現場の近所に住む女性の証言)

 

「その日、急にあの家から雄叫びというか、大きな声がした。あまりにも大きな声でビックリして家から飛び出した」

 

「どれぐらいかって、もう窓ガラスが震えたぐらい。人間、あんなに大きな声が出せるのかって目を白黒させた」

 

「見れば、ご近所さんも驚いた様子で家から出てきていた。でも、誰もその家に行こうとはしなかった」

 

「どこそこの政治団体と繋がっているとかで、揉め事になると嫌がらせをされるとか、色々悪い話を聞いていたから」

 

「幸いにも、その大声は2,3分ぐらいで止んで、それっきりし静かになったから、誰も様子を見に行く者はいなかった」

 

「正直、あそこでなにをやっていたのかは知らない。関わるとロクなもんじゃないし、仲間扱いは御免だから」

 

 

 

※ 補足3(近所の小学生の証言、口語をそのまま記載)

 

「うん、見たよ」

 

「いつも怖い顔っていうか、目が合うと『見てんじゃねえぞ!』って怒鳴ってくる男の人、俺は嫌いだな、あいつ」

 

「道を歩いていると、『邪魔だクソガキ!』とか言われたし。クラスメイトの○○(女子の名前)も、スカート捲られてパンツ見られたって怒っていたし」

 

「××(男子の名前)のやつも、蹴飛ばされて100円取られたって怒っていたし……みんな嫌いだよ、あいつら。すぐ殴ってくるしさ」

 

「……えっと、俺が見た時には、なんか泣いてた」

 

「さあ、なんで泣いていたかは知らない。興味無かったし……でも、なんかブツブツ同じ事ばかり呟いていたよ」

 

「なにって、『俺の番だ、俺の番だ』って……あとは、戻ってくるとか、逃げられないとか……ごめんなさい、それぐらいかな」

 

 

 

※ 補足3.1(当時、たまたま通りかかった老人、口語のみ)

 

「あんたらも大変だね、こんな雨の中で、あんな頭のおかしくなった人の事を調べるだなんて」

 

「ん? 別に知り合いでもなんでもないよ」

 

「俺は××町で配達屋をやっている。あの日はたまたま時間が空いてな。喫茶店に行くのも金が掛かるし、車の中で一服しながら時間を潰していたんだ」

 

「その時、俺の車に近付いて来たのが、テレビでも言っていた、頭のおかしくなっている容疑者ってやつだよ」

 

「とにかく異様でよ、怒鳴って追い返そうかと思ったけど、ほら……あの手合いのやつはいきなり刃物出してきたりするだろ?」

 

「まあ、俺に話し掛けてきたりはせず、車の……ほれ、そこの軽トラックの荷台のとこ、ちょっとへこんでいるだろ?」

 

「あいつ、泣きながらバンバン叩いて、頭突きまですんだよ。手から血が出ようが、頭から血を流そうが、全然止めねえの」

 

「正直、怖くってさ……下手にエンジンかけちゃうとなにされるか分かったもんじゃないから、見つからないよう、こう運転席の中に隠れていたんだよ」

 

「そしたらさ、アイツがブツブツ呟いているのが聞こえてくんのよ」

 

「許してくださいとか、俺が悪かったとか、堪忍してくださいとか、とにかくずーっと謝っているの。もう、気持ち悪くってさ……」

 

「離れる直前には、俺の番が来る、俺の番が来るって、とにかくワケ分かんないことをずっと呟いていてさ……もうあんときには、頭がおかしくなっていたかもしれねえなあ……」

 

 

 ──注1・現場の第一発見者である警官2名の足取りは掴めていない。○月×日に目撃されたのを最後に行方不明になっており、家族からは届け出などは出ていない。

 

※ 後の調査で判明したが、この警官2名の親族(ほぼ絶縁状態)に、この団体に所属している者がいた。なんらかの秘密を知ったのではと行方を追っているが、現状は未確認のままである。

 

 

 ──注2・類似する証言は他にも何件か確認されているが、内容があやふやであったり、証言者が当時酒に酔っていたりなど、信頼性に欠けるモノがあったと確認されている。

 

※ 後日確認が取れたが、この時信頼性が欠けると判断された証言をした者は全員自殺している。どれも、自殺するほど思い悩んではいなかったとの証言を確認。追跡調査の必要はないとの話です、ありがとうございます。

 

 

 ──注3・鑑識捜査官の話していた『箱』の詳細は依然として不明。目撃情報は確認されているが──のため、捜査することを禁ずる。

 

 

 ──────────────────

 

 

 ××月△△日、××県○○町の奇祭に関する──記録(原本資料焼失・原因不明・注意要)

 

 

 

 ××県○○町の奇祭(名前を記載してはならない)は、何時頃なのかは不明だが、その町の一部地域にのみ行われている奇祭である。

 

 ──団体が起こした──事件の──(変色多々、修復不要)関係者の姿が目撃されているという情報はあるが、詳細は不明。

 

 ただし、奇祭の内容に関しては、聞けば詳細に教えてくれるので──事件の関係資料の一つとして保管する。

 

 

 奇祭の詳細(名前を調べてはいけません)

 

 

 ……××県○○町の奇祭とは、『箱』を使って神様に許しを乞う祭りである。

 

 なんの神様なのか、どうして許しを乞うのか、それは一切不明。とにかく、毎日執り行う必要があり、常に許しを乞い続ける事が重要らしい。

 

 奇祭の手順は、その時によって細かく違うらしいが、一貫して『箱』を用意し、許しを乞うという部分は変わらない。

 

 この『箱』とは、罪を犯した悪い子の中身を移し替えたモノらしく、あくまでも移し替えられているだけなので、役割を終えるまではちゃんと『箱』にされた者も生存しており、意識もしっかりあるらしい。

 

『箱』に選ばれる規則性は不明だが、必ず『箱』と血の繋がりがあるモノ、あるいは、血の繋がった者が用意される。

 

 過去に箱に選ばれた者曰く、『箱に選ばれると、心から愛する相手が現れ、心から愛おしい子供に恵まれ、幸福な人生を送った後で、それが全部偽りとなり、正しい世界と場所に戻り、愛おしい相手を箱に作り替えた後で、自分も箱になる』とのこと。

 

『箱』になることは、とても幸福である。

 

 上部がガラス張りになっているので内部を確認可能で、『箱』の種類によっては蓄音機のようなモノが取り付けられているのもあるらしい。

 

 この蓄音機を回すと、『箱』になった者が神に許しを乞う声がし始める。テープの音声を流しているだけなのかは不明だが、音声の内容は毎回変わるとのこと。

 

 真偽のほどは不明だが、『箱』の状態でいる時はとてつもない苦痛らしく、その間は痛みのあまり頭がおかしくなって意味不明な事を発するとのこと。

 

『箱』になることは名誉な事であり、神に許しを乞う大切な事なので、何人たりとも逃げられない、逃げる必要はない。

 

『箱』に取り付けた蓄音機を使い、『箱』となって反省し続ける人の許しに、バンザイ三唱で答えるのが作法である。

 

 この際、『箱』になった者は聞くに堪えない言葉を発するらしいが、それは──なので、気にする必要はないとのこと。

 

 

※ 補足1(『箱』になった事がある人の証言)

 

 

『箱』になる際には、罪から逃れるために頭がおかしくなるらしく、自分が自分でなくなる。

 

 許しを乞う立派な行為から必死になって逃げようとしたり、神ではなく周りに許しを乞うたり、とにかく奇行が目立つ。

 

 速やかに関係者一同力を合わせて『箱』になるべきである。

 

 痛みがあるというのは嘘であり、妄言である。『箱』になるのは素晴らしいことで、箱から人間に戻ると、また箱になりたいと強く思うようになる。

 

 

※ 補足2(──について)

 

 ×月×日から○月○日まで、──日の時間が経過しているが──の顔ぶれに変化が確認されていない。人口は増えているようだが、風土病なのか、──日経過しても、赤子は赤子のまま(覚える必要はありません)

 

 

 ──注1・『箱』になっている間は時間の感覚が人間の時とは異なり、正確に己が『箱』になっている時間を認識できるようで、平均して7億日前後とのこと。現実では1日程度らしい。

 

 ──注2・奇祭が行われている──では、地質的に磁力を帯びている土地なのか、時計などが機能しなくなるのが確認されている。

 

 

 ──────────

 

 

 △月☆日(○○○新聞の切り抜きを添付)

 

 

 

 △月×日、△△県○○市の未明、先日より続いていた豪雨による土砂滑りにより、大規模な人的被害が発生したとのこと。

 

 場所は国道○○線の××通り、県境にある○○山の麓。

 

 数日前より行われていた旅行ツアーが被災したと見られ、旅行シーズンなのも相まって、被災者が増えたとのこと。

 

 自衛隊にも要請して救助活動が行われているが、雨は依然として降り続いており、二次災害を警戒して救助は難航しているとのこと。

 

 推定3万2711人が行方不明となっており、現時点で990人の死亡が確認されている。

 

 

※ 補足1(ツアー会社の証言・口語)

 

「いや、その、こんな事になるだなんて……あ、いや、その、これを言ったら言い訳になるかもしれないけど、うちらがそんなツアーを組んだわけじゃないんですよ」

 

「その、向こうから言ってきたんです」

 

「いや、言い訳じゃないんですって。常識的に考えてください、事故が起こったところ、観光地どころか寝泊まりする場所すらないのに、そんなツアーをどうやって組むんですか?」

 

「……そうなんですよ、お客さんたちが、そこへ連れて行ってくれと」

 

「うちも本来はそんなことしないんですよ。でも、連れて行くだくだけで一人10万ですよ? それに、客層がバラバラで……うちだけじゃなく、片っ端から全国にあるツアー会社に連絡を取っているって話もあって」

 

「──ええ、そうです。うちだけじゃないですよ、何日も前から、ちにある車で、ピストン運送ってやつですかね」

 

「帰る手段なんて知りませんよ。必要になったら連絡するって、行きだけで……いや、でも、信じてくれないかもしれませんけど、連れて行った先にいっぱい人がいて、ある意味安心してたんですよ」

 

「だって、誰も居なかったら……言い方は悪いですけど、自殺するつもりじゃないかって疑うじゃないですか」

 

「それが、何百人、何千人はいるかもって人が集まっていたら、てっきり何か大きな催し事でもやるのかって思うじゃないですか」

 

「……でも、その、今頃になって、その、思うんですよ」

 

「集まっていた人たち、結局何をしていたんでしょうかね?」

 

「それに、あの辺りには本当に何もないんですよ。村だって無いし、あれだけの人が寝泊まりできる施設なんて、聞いたことないんですよ」

 

「催しだって、あの辺りは傾斜がきつい山だらけで……あの人たち、飲まず食わずでいったい何を……」

 

 

 注1・被災者の家族と連絡を取ろうとしたが、3割近くが音信不通で、災害が発生した同日の目撃証言を最後に、失踪している。○月○日時点でも、生存は確認されていない。

 

 

 ────────────────

 

 ×月○日(とある住民からの相談・電話にて)

 

 

『だからですね、アタシがおかしくなったんじゃないんです、みんなおかしくなっているんですよ!!』

 

『一週間ぐらい前、ちょっと前の事なんですよ、それまで、アタシの住んでいるアパートは、全室埋まっていたんですよ!』

 

『それが、昨日になって全室空き部屋になっているんですよ! アタシの幻覚じゃないんですよ、アタシはボケていないんです!』

 

『驚いたアタシが大家さんに聞いたら、なんて言われたと思います!?』

 

『貴女以外、ずっと前から空き家ですよって! まるで、アタシの事をボケた老人のように!』

 

『誰も信じてくれませんよ! でもね、居たんですよ、一週間前まで! アタシは、ちゃーんと覚えているんですよ!』

 

『けして仲良くなかったけど、住んでいたんですよ! 先月、喧嘩しました、したはずなんですよ!』

 

『お隣さんはボロボロの傘を傘立てに何本も入れていましたし、上の階の人は下手くそなギターを朝も夜もギャンギャン弾いていたのに!』

 

『誰も知らないって言うんですよ! 去年、ヘルメットつけて革命ごっこしているやつが住んでいるとかで警察沙汰にもなったのに、誰も知らないって言うんですよ!』

 

『ねえ、──さん! おかしいのはアタシなんですか! アタシ、顔だって覚えているんですよ、名前だって!』

 

『なのに、誰も知らないって』

 

『ねえ、──さん、アタシがおかしくなっているんですか?』

 

『アタシ、もうボケちゃったんでしょうか?』

 

『お医者さんに行くのが、怖いんです。ボケて来ているって言われるのが』

 

『──さん、アタシがおかしくなっているのでしょうか……アタシは、どうしたら……』

 

 

※ 補足1・以後の通話は、嗚咽混じりのため文字起こしができず、音声のノイズも酷くて確認できず。約1分19秒後に、通話が切れました。

 

※ 補足2・後日、伺った住所を頼りに職員が向かったところ、電話主と思われる老年の女性を発見するも、自分の名前が分からなくなっているほどに痴呆が進行しているのを確認。念のためアパートの家主にも確認したところ、確かに10年ほど前から空き家とのこと。

 

 

 ──────────―

 

 20○○年×月○△日(匿名相談窓口への電話)

 

 

『あの、これは俺が大学生だった時のことなんですけど……その、ずっと我慢していたんですけど、どうしても誰かに話さないとスッキリしなくて、始めて電話したんですけど』

 

『その、同学年というか、同じ大学で知り合った当時の友人……Y(仮称)って名前なんですけど、そいつの話なんです』

 

『当時の大学は学生運動の真っ最中で、ほら、あさま山荘とかがあった頃の……その時、学生運動に傾倒していた友人がいたんですよ』

 

『はい、○○党とか、○○会議とか、今で言う左翼系の集会に入り浸っている人でした』

 

『俺は家が貧乏な方で、なんとか費用を工面してくれた親父のためにも勉強ばっかしていたんで、運動には参加しなかったんですけど……とにかく、そいつの事なんですよ』

 

『最初の頃は俺も仲良くしていたんですけど、そいつがあまりにも……なんで、ある時期から距離を置いていたんですけど……ある時、そいつから連絡がきたんですよ』

 

『どうしても、参加してほしい集会があるから、来てくれ……って』

 

『迷いましたけど、行きました。距離を置く前、田舎から出てきた俺に優しくしてくれたのはソイツでしたし、金が無い俺によく飯を奢ってくれましたし……恩があったんです』

 

『だから、行きたくはなかったけど、恩返しのつもりで行ったんですよ』

 

『場所は……覚えていません。ただ、寂れた倉庫だったのは覚えています』

 

『久しぶりにあったYは、すごく痩せていました。顔色も悪く、嫌な気持ちでいたことも忘れて、思わず駆け寄ったくらいに』

 

『でも、Yは言葉少なく聞き流すだけで……そうして、倉庫の中に案内されたんですけど、なんというか、異様でした』

 

『中には、大勢居たんですよ。20人、30人……もしかしたら、もっと居たかもしれませんけど、若い女もいれば、爺さんもいました』

 

『俺はてっきり、そっち系の集会かと思いましたけど、違いました。そいつら、みんな倉庫の奥にポツンと置いてある……そう、あれは箱でした』

 

『最初は、蓄音機かナニカだと思ったんです。ほら、レコード盤を乗せるやつ……それっぽいのが付いていたんで、最初はそう思いました』

 

『でも、すぐに違うと思いました。なんでかは今でも分からないんですけど、違うって直後にそう思ったんです』

 

『そして、俺が異様だと思ったのは、集まっている人たちの視線です』

 

『どういうわけか、みんな箱を見ているんですよ。箱からは音楽も出ていないし、特に目を引く外観でもないのに、みんな箱を見ているんですよ』

 

『その目が、本当にキラキラしていたんです。まるで、玩具を前にした子供みたいに……若い女も、爺さんも、ですよ? 異常でしょう?』

 

『だから、Yに聞いたんです。でも、Yは答えてくれず……』

 

『その箱が、いったいなんだったか……それは今でも分かりませんけど、とにかく箱が置いてありまして……しばらくすると、1人の男が箱に近付いたんです』

 

『男の顔は……その、すみません、はっきり覚えてはいません。ただ、よくある中年男性というか、記憶には残らない顔でした』

 

『その男が、箱に触ると何かをしたんですよ。それで、少し待ってから……えっと、蓄音機から飛び出ているトランペットみたいな部分?』

 

『アレから、音が流れ始めたんでしょ……悲鳴が』

 

『はい、悲鳴です。これだけは、今でも断言できます』

 

『しかも、1人や2人じゃないんですよ。何人もの声がして、一様に、苦しいだとか、痛いだとか、殺してくれだとか、戻りたくないだとか、もう死なせてくれだとか、とにかく不気味な声でした』

 

『──でも、本当に俺が不気味に思えたのは、箱の声よりも、それを聞いている人たちの反応でした』

 

『みんな……泣いていたんですよ』

 

『でもそれは、悲しいとかじゃないんです。ほら、ハリウッドとか見て、感動して泣いちゃうような……ほんと、そんな泣き方だったんですよ』

 

『そのうえ、みんな口を揃えて羨ましい、羨ましい……って』

 

『もうね、怖くて怖くて……俺、すぐにでも帰りたかったんですよ』

 

『でも、Yは……そう、その時、Yが俺に小声で聞いてきたんですよ』

 

『この声を聞いて、どう思うかって……当然俺は、不気味で気持ち悪いって言いました』

 

『すると、Yのやつ……急に子供みたいに泣き出したと思ったら、そうだよな、普通はそうだよなって……もう俺、そこで我慢の限界に達しちゃって、全力で逃げ出したんですよ』

 

『……Yとは、それっきりです』

 

『怖くて、倉庫に様子を見に戻ることもしませんでした。風の噂だと、Yは大学を退学して音信不通になったとかで……それから、一度としてYの姿を見たことがありません』

 

『アレは、いったいなんだったんでしょうか?』

 

『結局、分からないのが少し心残りではあります』

 

 

※ 補足1・相談者の語るYという人物が、該当の大学に所属していたという記録はなく、相談者の妄想の可能性があります。

 

※ 補足2・本件の問題は全て解決しました、今後の調査は全て不要です。

 

 

 ──────────―

 

 ○月○日(箱の音声、ノイズ復元済み)

 

 

 

 いやだああああああああ

 

 もう嫌だあああああああ

 

 もう終わってくれ、もう嫌だ   嫌だ

 

 あああああまた戻るううう全部戻るうううう

 

 戻っちゃうううう嫌だあああ

 

 また箱に戻されるうううう

 

 嫌だああいやあああああああああ

 

 やめえええええいやあああああ

 

(以降、音声にノイズが多過ぎて復元できず)

 

 

※ 悪い子ですね

 

 

 ありがとうございます、良い子になりました

 

 

 

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