ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第124話: 千賀子「?????????」

 

 

 

 さて、千賀子のやる事は色々あるが、最初にやらなければならないことがある。

 

 それは、被害の弁済なり修繕だ。

 

 千賀子が原因ではないが、千賀子のとばっちりを受けたのは事実だ。人的被害こそ微々たるモノだが、己には関係ないと思えはしなかった。

 

 まあ、幸いにも、千賀子に対して怒りを向ける者がいなかったのは、救いである。

 

 冷静に考えたら、通り魔に因縁を付けられたというような話だが、実際に被害を受けた者が冷静でいられるとは限らない。

 

 今回はあくまでも壊れたのが物だけだし、修理費用などは払うと謝罪と共に明言してくれたのもあって、

 

 ちなみに、明美の場合は、修理費用もいらないと話したが、これから何かと入用になるという千賀子の説得を受けて、渋々費用を受け取ったという……長くなるので、話を終えよう。

 

 

 そうして、しばらく。

 

 

 ラジオのニュースに耳を傾けつつも、新聞の端っこに小さく『地滑りにより、3万人の犠牲者!』という見出しを見て、だ。

 

 ふ~ん、と、終わった事に興味を失くしている千賀子は、もういいかと新聞を折りたたんで4号からエマを受け取ると……日に日に成長を感じられるエマの重みに、にんまりと笑みを浮かべた。

 

 

 ──1972年の7月……世間は、総理が入れ替わって田中角英内閣が発足したことが持ちきりになっていた。

 

 現代(千賀子の前世の話)では想像しにくいかもしれないが、この頃はまだ、政治への関心が国民の間にはあった。

 

 度重なる左翼のテロ行為、御大層な大義名分を経てやるのが暴力、2月頃の『あさま山荘事件』も、関心を高める一因になっていたのだろう。

 

 加えて、去年(1971年)のアメリカより発表された大事件、『ニクソン・ショック』……ではなく、この世界では『ニークヨン・ショック』と呼ばれているソレによって、日本に対しても相応のダメージが生じていた。

 

 

 この事件を簡潔に超簡単にまとめると、だ。

 

 

 それまで『金』はドルでしか交換できず、アメリカもまた何時でも交換できるようにしていた。

 

 しかし、ベトナム戦争を始め、様々な要因によってアメリカ経済が疲弊したことで、徐々にドルへの不安が増してゆき、合わせて、『金』の保有高が減少していった。

 

 その結果、アメリカは自国の経済を回復させる目的も理由の一つとして、金とドルの交換停止を突如(いちおう、臭わせてはいたらしい)発表したのである。

 

 この世界では不思議な事が起こって、過程こそ違っているものの、千賀子の前世の世界と同じ道(場合によっては、少し悪い)を辿り、似たような経済政策をアメリカが発表した、という流れである。

 

 幸いにも、日本の場合は巫女服を着た女性の影響によって、他国に比べて経済的なダメージは少ない。

 

 だが、それでも超大国アメリカですら屋台骨が揺らぐのだという衝撃は大きく、皮肉にも政治への関心を集める結果となった。

 

 

 まあ、しかし、だ。

 

 

 千賀子としては、ニークヨンだか何だか知らないけど、『あ、あのオジサンだ……』という感じでしかなく、見覚えのある人が総理の座に就いたという驚きの方が大きかった。

 

 だって、思い返したら小学生時代(だったような……と、千賀子は首を傾げていた)からの付き合いだし、ずいぶんと出世したんだなあ……という感想しかなかった。

 

 

 あとは、アレだ。

 

 

 今の千賀子はそっちよりも、つい先日……7月9日に行われた東京優駿(日本ダービー)の結果の方が、はるかに関心があった。

 

 理由は、己が所有している『ロングエース』が無事にレースを走り終えただけでなく、なんと1972年のダービー馬になったからなのと、もう一つ。

 

 それは──道子(正確には、道子パパ)が所有している馬が、そのレースの2位になっただけでなく、実はその馬の購入に関して相談された事があったからだ。

 

 経緯は、そう複雑ではない。

 

 競走馬を買おうと思ってコレはと思った馬を3頭見付けた道子パパだが、予算の都合上、買えるのは1頭だけ。

 

 

 ──ランドプリンス。

 

 ──タイテエム。

 

 ──ポンポコマグナム。

 

 

 選ぶ道子パパからすれば、どれも甲乙つけがたく、なんと一ヶ月以上も真剣に……それこそ夜も上手く眠れないぐらいに悩んだらしく。

 

 最終的には、『どれを選んでも後悔しそうな気がするから、千賀子さんの意見を聞きたい』と、道子を通じて相談が来たのである。

 

 

 その際、千賀子は正直に言ったのだ。

 

 『ポンポコマグナムだけは、やめておけ』、と。

 

 

 直感的な話だが、その馬は1着かビリかの二つに一つ。下手に熱を入れると落差で胃に穴が開くかもよ……と、いちおう忠告した。

 

 結局、悩んだ末に『タイテエムは顔もそうだけど、予算をオーバーしてしまう……』とのことで、ランドプリンスに決まった。

 

 そして、その馬はなんと、今年(1972年)の皐月賞馬である。

 

 道子パパからすれば久方ぶりのG1馬、それも皐月賞馬だ。道子パパの喜びは相当なモノだったらしく、機嫌が良い日が続いているらしい。

 

 また、東京優駿で2着に終わったとはいえ、『レコードタイムを出されては、誰も勝てんよな』と、あまり気にした様子もないようで。

 

 千賀子としても、せっかく相談に乗ったからには……という気持ちがあったので、丸く収まっているのであれば、もうそれで全部OKな気持ちであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とまあ、そんな前置きを挟んで、だ。

 

 

 話は最初辺りに戻り……最初の頃より重みを感じるようになったエマの温もりに、千賀子はデレデレと頬を緩める。

 

 1歳5ヶ月になるエマももう、おぼつかない足取りながら、1人でテチテチと立って歩けるようになっている。

 

 子供の成長は、早いものだ。

 

 つい昨日まで乳を飲んでいた……そう錯覚してしまうぐらいに、すくすくと大きくなってゆく。

 

 千賀子としては、世間一般の関心事よりも、だ。

 

 自分の馬が勝利し、友人たちも勝利し、何事もなくエマも成長し、明美のところも営業を再開し、実家もまた平穏に日常を送っていて……それで十分であり、今のところはそれ以上を求めてなどいなかった。

 

 

「マスター、報告します」

 

 

 さて、そんな中で、だ。

 

 基本的に用が無い限りは話し掛けてこないロボ子が、話し掛けてきた。

 

 つまり、そうするだけの理由があるわけで、おほん、と一つ咳をして居住まいを正した千賀子は、ロボ子へと視線を向ける。

 

 

「改まって、急にどうしたの?」

「はい、このたび大阪府知事選を勝利したことになったので、ロボ子府知事になりました、そのご報告をと思いまして」

「???? なんて??」

「中々の激戦となったらしいのですが、無事に達磨に目玉を描けました。あ、これ、お祝いとしてもらったカルピスです」

「あ、これはご丁寧に……いや、そうじゃない、そうじゃないんだよ、ロボ子?」

「ご安心を、貴女様のお世話は今までと変わりません。かねてより用意していた、府知事ロボット『Roboko』が府政を頑張りますので!」

「そうじゃねえっつってんだろ、話聞けよポンコツロボ」

 

 

 すると、とんでもない爆弾発言がロボ子の口から飛び出した。

 

 一瞬ばかり、聞き間違いかと思った千賀子は悪くない。

 

 いや、だって、なんか畏まった様子で話し掛けてきたと思ったら、『大阪府知事になりましたので~』なんて、いったい誰が想像出来るだろうか? 

 

 少なくとも、千賀子にはできなかった。というか、さすがの千賀子でも無理である。

 

 

『え、何それコワっ……知らんよ、コワっ……』

『は? ロボ子が? 本体の私、どうしたの、夢でも見た?』

 

 

 思わず分身たちに聞けば、そんな感じの感想が返ってきた。

 

 正直、自分が分身たちの立場だったら同じ事を言っているだろうなと思ったから、分身たちの反応に対して納得しかできなかった。

 

 と、とにかく、そう、兎にも角にも、だ。

 

 千賀子は率直に府知事になった経緯……とにかく、私にも分かるよう優しく噛み砕いて説明してくれと、ロボ子にお願いした。

 

 

 ……そうして語られたロボ子の話をまとめると、だ。

 

 

 まず、つい先日千賀子に喧嘩を売った(?)人たちが、女神&千賀子という奇跡のタッグによって返り討ちにした、後のこと。

 

 1万人、2万人、3万人……まあ、人数はどうでもいい。

 

 それぐらいの人間が亡くなり、それに合わせて存在がこの世界より消え去り、始めから存在しなかった者、なんか死んでいる者、その他色々といった感じで、主に女神様が女神的基準で帳尻を合わせたわけだが……そう、実はそこで問題が生じていたらしい。

 

 それは、あくまでも女神様基準の雑な振り分けによって、微小とはいえ歴史に空白というか、不可思議な事態が発生したということ。

 

 例えるなら、東京ドームぐらいの一等地が、どういうわけか50年ぐらい所有者不明のまま一切手続きがされずに放置され続けたのに、誰もその事に気付かなかった……といった感じだろうか。

 

 色々な途中の部分が、ぽかーん、と存在しないままになっているわけで、露見しても誰も気に留めないが、中には違和感を抱く者がいるらしい。

 

 女神的には『……えっと、石ころの位置が悪かったのかしら?』といった程度なのが……で、だ。

 

 前提を覆すように思えるが、別に、放置しても問題はない。

 

 雑な女神様の手で、ジワジワ水を吸い上げるティッシュのように、自然に周囲に溶け込み、気付けば誰かの土地として収まり、記録もそのようになるからだ。

 

 つまり、問題は生じているけれども、そのうち勝手に解決する……といった類の問題であり、そこまでなら、別に千賀子に報告することでもない……のだが。

 

 

『──閃いた!』

 

 

 そこで、どうやらロボ子は閃いたらしい。

 

 内容はまあ、うん。

 

 有り体に言えば、他所様に行くぐらいなら、こっちで美味しいところをつまみ食いしてしまえ……てな感じである。

 

 幸いにも、空白部分はその名の通り、因果のレベルで空白になっている。

 

 だから、そこにロボ子的なインターセプトでちょちょいっと偽造した書類やら何やらをスルリと滑り込ませれば、あら不思議。

 

 

 ──そこの部分は、もうずっと前から○○○所有だった。

 

 

 という結果を残す事ができるわけで、これにより、ロボ子は美味しいところを片っ端からつまみ食いしたらしい。

 

 それに合わせて、ついでにロボ子は表向きの立場……肩書きというか、表から堂々とやれる立場を手に入れておくべきだと考えた。

 

 今回の……そう、『春木競馬場』の騒動も、表向きの権力というか、分かりやすい『力』を周囲に見せていなかったのも、大事になった要因の一つではある。

 

 結局のところ、使わないにしても、一つぐらいは分かりやすい位置に牙でも生やしておかなければならなかった……というわけだ。

 

 やろうと思えば、だ。

 

 裏からいくらでも手を回せるが、やはり、そういうのは正式な手順を踏んだ方がはるかに強力であり、一般市民から認知されたうえでの方が、より強固である……と、ロボ子は考えたのである。

 

 

「タイミングよく府知事の椅子が空白のままでしたので、するっと私が入った次第であります!」

「??? どういうこと?」

「でないと、どういうわけか、いつの間にか立候補していることになっていた力道三が、府知事になっていた可能性がありますから」

「いや、マジでどういうこと???」

「力道三、どうも弟子から訴えられて大変みたいで、起死回生を狙って立候補していたっぽいです」

「違う、私が聞きたいのはそっちじゃ──いや、そっちも聞きたいけどね???」

 

 

 その結果、府知事になった──という話に、千賀子は首を傾げた。

 

 

「府知事のところに私の名前を入れましたら、あら不思議、私は府知事となったのです」

「?????」

 

 

 やっぱり、首を傾げ──あ、いや、女神様が原因ね、と嫌な納得をした千賀子は、スン……と真顔になった。

 

 

「ちなみに、私が一切製作に関わっていないうえに関与すらしていない、謎の収支報告やら選挙ポスターやらが出現し、人々に認知、記録としても残されております」

「??? はい???」

「正直、原理が分からなさ過ぎて怖いであります。怖すぎて存在しない生殖器から小水が零れ出そうであります」

「だろうね、私も意味が分からなさ過ぎて怖いよ」

 

 

 2人(片方はロボだけど)揃って怖い怖いと震えるが、現実として、ロボ子は府知事になった。

 

 これ自体はまあ、千賀子にとっては良い事である。

 

 再び春木競馬場に対して口出しされても、行政のトップであるロボ子がいる以上、ひとまず安心……といったところだろうから。

 

 

「まあ、それはそれとして、マスター。せっかくですので、提案があります」

「うわぁ、いきなり冷静にならないでよ」

「すみません。それで話を戻しますけど、この際ですし、春木競馬場を正式に買い取りましょう」

「え?」

 

 

 そうして、唐突に真顔になったロボ子より、そんな話を持ちかけられた千賀子は、思わず目を瞬かせた。

 

 

「買うって……競馬場って、買えるの?」

「買うというと、少し間違いがあります。正確には、買う部分は買う、といった感じです。農水省の許可を貰った自治体や、自治体内の組合の下で開催するわけなのですが、許可さえあれば実質個人で組合作ってやれます」

「え、マジで?」

「色々と法律上の屁理屈がありますけど、そんなのは結局言い訳です。法律上は難しいだなんて話は、ただ難しくしているだけです。やろうと思えば、いくらでも恣意的に解釈次第で動かせるようにしていますからね、法律ってのは」

「はぇ~……」

「競馬でそれがやれない理由は、莫大な資金が掛かるうえに、ほぼ確実に赤字が累積するのが確定しているからです。毎月、とんでもない額で博打をするようなものなのですよ、競馬を主催するってことはね」

「ああ、そっか……確かに、利益を出さなきゃならん一般企業では絶対に出来ない構造だものね、競馬って……」

「やりましょう、マスター! いえ、社長!」

「誰が社長だよ、誰が……」

「人は立ち上がる時、必ず転ぶのです! 転んだのであれば、立ち上がる! 立ち上がれば、後は前へ進むだけなのです!」

「ロボ子、あんた漫画かナニカを読んだでしょ」

 

 

 想像すらしていなかった話にほえ~とため息を吐く千賀子に、ロボ子は──力いっぱい拳を握りしめて、宣言した。

 

 

 

 

 

 








 ――― 1972年・昭和の優駿:ポンポコマグナム ―――


 生まれてからわずか15分で立ちあがって乳を飲み始めたという、様々な人たちに多大な期待をもたせたポンポコ産駒の一頭。

 非常に人懐っこく、愛嬌があって、調教の指示もしっかり聞いて、我慢強く、負けん気が強く、土壇場になればさらに勝とうとする、調教師たちが聞けば涙を流して羨ましがる気性の馬。

 幼少期よりその能力の片鱗は見られ、食欲もたっぷり、回復力も早く、長く続く足と、剃刀のような切れ味の末脚を持つ、中距離では敵無しと言わんばかりの能力を持っている。

 が、しかし、忘れてはいけない。

 こやつは、ポンポコ産駒の馬である。

 それを、ポンポコマグナムの調教師も、ポンポコの血が入っていることを知っているはずの馬主も、本当の本当にすっかり忘れてしまっていた。

 そう、ポンポコ産駒の血の定めは、4歳馬(当時は3歳馬扱い)になってから、現れた。

 デビュー時にはなんとレコード勝ちをし、続いて2戦目、3戦目をレコード勝ちで勝利し、なんと後続馬を平均3馬身は離して勝利した、その馬は、なんと。

 ──50%の確率で、走っている最中にちん○をビンビンに勃起させるのである。なるほど、マグナムだ! 

 しかも、馬の中でも『御立派ぁ!?』と言えるぐらいの巨チンである。観客席からでもブラブラさせているのが分かるぐらいなのだから、そりゃあもう笑い話である。

 ……ん? 記録? 

 そんなの、競馬史上最遅記録更新ばかりである。ただ、奇跡的に全てが噛み合って有馬記念をレコード勝ちしたりするのだから、関係者の情緒はボロボロである。

 なお、このマグナム、そこからさらに50%の確率で発射(意味深)するのだから、そりゃあもうレースに出すだけで馬主の胃にダイレクトアタックを仕掛けてくるとんでもない馬だったりする。



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