ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第129話: 魔の4歳の壁を知らない千賀子さん

 

 

 

 ──千賀子の予測していたとおりの9月13日、どデカい白煙と共に、大量の火山灰が空高く舞い上がった。

 

 

 火山灰は空気の流れに乗って、広く薄く広がった。薄いとはいっても、それは一瞬だけではない。

 

 元々、火山灰は岩石ではあるが、とても軽い。

 

 マグマの熱気が生み出す上昇気流によって断続的に、かつ、不規則ながらも黙々と立ち昇り続ける火山灰は、かなり広範囲に降った。

 

 ただ、事前に『噴火の予兆が強く出ている』という専門家の意見が出たらしく、何時でも批難できるよう呼びかけがなされたことでこの時の死者が出なかったのは、せめてもの救いであった。

 

 

 さて、死者は出なかったが、最初は作物が駄目になった。

 

 

 桜島の火山灰は非常にサラサラとしたモノが多かったのだが、有毒性であり、水に触れると硫酸や塩酸に変化しやすい成分であった。

 

 また、断続的に降り続けるので洗ってもキリがなく、また、粒子が細かいので洗浄しきれず、売り物にすることはできなくなった。

 

 

 次に、健康被害を訴える者が続出した。

 

 

 灰の粒子が細かいので、肺の奥深くに入ってしまい、呼吸に合わせて気管支にダメージを与えてしまうせいだ。

 

 これにより、喘息に似た症状を訴える者が続出し、鼻水やせきが止まらない者、日常的に息苦しさを覚え、痛みを覚える者が続出したのである。

 

 また、この灰は亜硫酸ガスを含んでいたために、灰が降るに合わせて目の痛みを訴える者が現れ、周辺の病院は一時パニック状態に陥ったのであった。

 

 

 作物の次は、漁業に林業、水面に浮かんだ波紋のようにダメージは広がり、市外に避難し、あるいは県外に移住した者もいた。

 

 

 この噴火は一ヶ月や二ヶ月では終わらず、翌年、そのまた翌年、そのまたまた翌年と、長らく続いた。

 

 この噴火が契機となり、翌年の1973年(昭和48年)に活動火山対策特別法(略称:活火山法)が制定された。

 

 これにより、避難施設の設備、農林漁業被害への補助、降灰(こうかい)除去事業発足、火山灰による土石流対策の砂防(さぼう)工事、火山観測や研究などの対策が強化されることになった。

 

 それは、地元民たちの長い闘いの始まりでもあり、苦難の始まりでもあった。

 

 ……ちなみに、千賀子の前世ではこの活火山法が制定されたのは7月だが、この世界ではもう少し早く制定されることになった。

 

 理由としてはまあ誰も知る由もないことだが、当時の総理大臣である田中角英総理が、制定に向けて精力的に動いたとか……まあ、それだけである。

 

 

 

 

 

 ……そうして、時は流れて1972年の年末。

 

 

 九州の方では桜島噴火という大事件によって連日ニュースに流れるぐらいに被害が生じ、事業を廃業せざるをえない者が出ているという話がある中で。

 

 北の方は、北の方で、中々に色々と事件は起こっていた。

 

 たとえば、北海道大学内の施設や開拓記念碑が爆破されたり、北海道の石狩炭鉱にてガス爆発が発生し、30人以上は生き埋めになり、多数の死傷者が出たり。

 

 北陸トンネル内で急行「きたぐに」にて火災が発生し、死者と重傷者を合わせて700人以上に及んでしまったり、大学生が山で遭難し、5人死亡したり。

 

 そして、北と南に挟まれた中は中で、事件はいっぱい起こっていた。

 

 たとえば、羽田空港発福岡空港行きの日航機がハイジャックされる事件が起こったり、日本航空446便墜落事故が起こったり、八丈島東方沖地震が発生したり……さすがにこっちは数えだすとキリが無いので省くが、けして本州は穏やかな年にはならなかった。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 光あるところに影があれば、影あるところには必ず光があるものだ。

 

 痛ましい事故や事件が影あらば、この年には後々にもその名などが伝わり、あるいは残り続ける偉大な作品や生き物が産声をあげた年でもある。

 

 まず、小説関係……は、省くとして、特にこの年に大躍進を見せたのが、子供向けのと言われたサブカルチャーだろうか。

 

 たとえば、週刊マーガレットという少女向け雑誌にて連載が始まった、フランス革命のベルサイユを舞台にした『ベルサイユのばら』。

 

 同じ月に、週刊少年チャンピオンで連載が始まった、野球漫画の金字塔、『ドカベン』。

 

 また、後の様々な作品に影響を与えたSF漫画の『超人ロック』の名が知られるようになったのも、この時期らしい。

 

 他にも、前年に続いてさらに人気が爆発しているモノ、この年になって人気に火が点いたモノ、それはもう、壺の中に爆竹を放り込んだかのように、次々に生まれていった。

 

 これから先、何十年にも渡って子供たちの心を掴んで放さない『仮面ライダー』と『ウルトラマン』の人気はますます高まるにつれて、偽物(いわゆる、パチもの)商品が出回り。

 

 テレビアニメでは、制作会社を変えて新しく作られた『ムーミン』に、当時では珍しいメディアミックスの、後の様々な作品に多大な影響を与えた『デビルマン』。

 

 個人的に、内容がめっちゃシリアスだけどなんかネタ枠な扱いをされている『アストロガンガー』に、人が巨大ロボットに乗って操縦して戦うという画期的な世界観を生み出した『マジンガーZ』が生まれたのも、この年である。

 

 他にも、テレビドラマの『太陽にほえろ!』、いくつものシリーズが作られる『必殺仕掛人』、平成になっても歌われ続ける有名歌謡曲も生まれたが……話が脱線してきているので、戻そう。

 

 これらの作品は、あくまでも千賀子の前世の話だが、千賀子の生きる今生でもまた同じく作品は生まれていた。

 

 ただ、タイトルとか登場人物とかあらすじが、微妙に違ったりもしていたが……とにかく、けして暗いばかりの1年ではなく、それでもまだそれまでの経済成長期の熱はそこかしこに残っていた。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、1972年の最後の月だが、千賀子は何をしているかというと……死んでいた。

 

 

 ……あ、いや、違うのだ。

 

 

 本当に死んでいるのではなく、比喩的な意味である。まあ、実際に心臓が何度か止まりかけたり止まったりしているので、あながち間違いではないが……ん? 

 

 意味が分からない、病気なのではないかって? 

 

 いや、いや、いや、違うのだ、別に病気とか事故があったわけでもないし、女神様がナニカをしたわけでもない。

 

 

「え、エマちゃ~ん、ご飯食べましたし、一緒にお昼寝しましょうね~」

「やぁ!」

「……っ! (心臓が激しく鼓動する)」

「本体の私、落ち着きなさい。深呼吸、深呼吸よ、誰もが通る道なのだから」

「わ、分かって、分かっているわ……じゃ、じゃあ、ママと一緒に広場に行こうね?」

「んやぁ! やっ! やっ!!」

「……っ! (瞬間的に気絶しかける)」

「マスター、脈拍に異常が見られます。横になって安静になることを勧め──いえ、横になりましょう、さあ」

 

 

 ただ、もうすぐ2歳になるのを目前に控えたエマの反抗期……後に、『イヤイヤ期』と名付けられる時期に突入したからである。

 

 そう、ついに、恐れていた時期に突入したのだ。

 

 このイヤイヤ期というのは、2歳~4歳(個人差あり)までの時期にほぼ必ず迎える、子供の成長段階の一つである。

 

 自我が芽生え、自分の意思を主張し始める精神的発達が起こり始めている証であり、医学的に見たら正常に成長できている証でもあるので、とても喜ばしいこと……なのだが。

 

 

 そこに、落とし穴があったりする。

 

 

 というのも、大人とは違って、2~4歳の子供は欲求を抑える脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)という部分が未発達なために、本能的な欲求を抑えられないのだ。

 

 つまり、自我が芽生えて様々な事に対して強い興味を抱き、好奇心のおもむくままに動くけれど一切我慢ができず、欲求が通らないと泣き喚く時期なのだ。

 

 

 これがまあ、非常に大変である。

 

 

 昭和に限らず平成令和に至ってもなお、『子育てで一番大変な時期は?』とアンケートを取った際に。

 

『数時間ごとに授乳が必要な新生児期』と。

 

『何をするにも嫌がって言う事を聞かないイヤイヤ期』。

 

 この二つが熾烈な1位争いをしているのだから、いかにこの時期が大変なのかが窺い知れるというものだろう。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 勘違いをしている者が多いかもしれないので訂正しておくけど、別に千賀子はエマがイヤイヤすることが辛い……辛いけれども、致命傷というわけではない。

 

 ご飯をイヤイヤ(デザートの果物だけ食べる、デザート抜くと超大泣き)、甘やかそうとする千賀子を分身たちが総出で止めて。

 

 寒いのに裸足で外へ、霜焼けになって大泣き(靴を履くの超嫌がる)、履かせようとしてイヤイヤ嫌い嫌い言われて大ダメージ。

 

 他にも数え上げるとキリはないけど、とにかく何をするにもイヤイヤと千賀子の手を跳ね除けて動こうとする。

 

 それでエマが痛い思いをしたりお腹を空かしたりしても、千賀子は耐えられる。

 

 呼吸が乱れ、冷や汗が出て、動悸が激しくなり、脈拍も乱れて視界がグニャグニャしてくるけど、我慢はできる。

 

 それはエマが成長している証であり、誰しもが通る道だと分かっているし、分身たちと交代しながら事に当たれるので、あの手この手でなだめすかしたりする精神的疲労は許容範囲であった。

 

 

 ……が、しかし(Part.2)。

 

 

 ここで、千賀子の持つ巫女的なシックスセンスが邪魔をした。

 

 そう、千賀子はダイレクトに感じ取ってしまうのである。

 

 エマからの、『イヤッ!』と、『きあい(嫌い)!』の言葉の内に隠れる、拒絶の意思を。

 

 もちろん、分かってはいるのだ。

 

 2歳の放つ言葉なんて、自身でも理解していない。風見鶏のように右に左に向きを変えるだけで、次の瞬間には忘れているぐらいに、浅い意味しかないのだということを。

 

 

「……ノイローゼになる母親の気持ちが分かる。これ、キッツイ」

 

 

 それでも、未熟でまともに定まっていないにしても、可愛くて愛おしくて堪らない愛娘(エマ)からの拒絶は、グサッと千賀子の心に突き刺さるわけで。

 

 

「まぁ、まぁ、だっ、だっ!」

 

 

 だが、同時に。

 

 

「だっこ! まぁ! だっこ!」

 

 

 死にかけた芋虫のように畳の上で虫の息である千賀子に。

 

 

「まぁま! だっこ! まぁま!」

 

 

 たった今までプンプン怒って嫌がっていたエマが、プンプン怒りながらだっこを求めて小さな両腕を伸ばしてくる、その姿に。

 

 

「~~っ!! 勝てねぇよ、この可愛さにはよぅ……母性本能がくすぐられまくるんじゃ~……」

 

 

 色々な意味で情緒をグズグズに崩されながらも、抱き上げたエマへの愛おしさにふにゃりと頬を緩めながら……私って、ちょろいなあ……と、内心にて笑うのであった。

 

 

 

 

 

 ──で、まあ、親子の触れ合いは、置いといて。

 

 

 年末が近づいている最中、千賀子は今年……忙しくて、里帰りは年明けになるかもという話になった。

 

 忙しかった理由は、挨拶回りと、競馬関係である。

 

 

 まずは、後援会になった『穂高部屋』への挨拶。

 

 さすがに金と土産だけ渡して退出するのは失礼……というか、それはちょっとどうなんだという話なので、しっかり稽古を見学し。

 

 

 続いて、北海道にある千賀子の牧場への視察。

 

 まあ、視察とは言っても堅苦しいものではなく、なにか困っている事が起こっていたり、良からぬ考えの者が近付いてきていないかを見やり、土産も渡して。

 

 

 続いて、ロウシの墓がある『双の葉牧場』への挨拶。

 

 お土産を渡したり、雑談をしたり、ロウシの墓にお参りしたり、『春木競馬場』のオーナーになった事を伝えたり、等々など。

 

 

 それが終われば、競馬関係の挨拶回りやら何やらだ。

 

 基本的に他の馬主さんと交流はない千賀子だが、さすがにダービー馬を所有し、競馬場のオーナーともなれば、話は変わってくる。

 

 公営競馬ならばまだしも、私営競馬だと、文字通り千賀子の一存でレースに出走できるかどうかが決まる。

 

 もちろん、千賀子にはそんなつもりはない。

 

 馬の年齢や戦績、出走数や賞金額、前回出走からの間隔を顧みて、従来通りの選別を経て決めると話している。

 

 しかし、それでも、顔を売って損はない……というのは極々当たり前の話であり、それ以前に、一言ご挨拶に……というのもまた、当たり前の事であった。

 

 

 というか、だ。

 

 

 馬主席で応援に行ったりはするけど、あまり口取り式には出ない。どうしてかって、不特定多数に顔を覚えられたくないからだ。

 

 しかし、さすがに『8大レース』で勝利した時や、久しぶりに勝った時、あるいは所有馬が引退する時には顔をベールで隠したまま姿を見せる。

 

 最近では、12月17日の第17回有馬記念で8着で無事に走り抜けたロングエース号の引退式に。

 

 そして、12月24日の第20回阪神大賞典で見事勝利したハマノパレードと騎手たちを称えるために。

 

 そんな、遭遇するだけでも激レアな千賀子を前にして、指をくわえているだけの関係者などいるわけもなく、そりゃあもう……話を戻そう。

 

 中央競馬だけでなく、春木競馬場でも、これがまあ忙しい。

 

 いくら従来通りのやり方とはいえ、どうしても勝手が違う部分が出てくるし、千賀子が挨拶に回る必要が時も多い。

 

 また、せっかく自由にできるようになったわけなので、『なんか特別なレースを一個作ってみる?』と思いついたのが、まずかった。

 

 千賀子は、うっかりしていた。日本人は、初物、というモノが大好きだということを。

 

 

 ──その名を、第1回『千賀子特別記念:3歳以上 ダート1600m(右)』、である。

 

 

 本賞金:1着2500万円/2着1200万円/3着800万円/5着500万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計220万円。

 

 恐ろしい事に、このレースは中央競馬ではない。

 

 地方競馬だというのに、中央レースにも全く引けを取らない賞金額が設定されたのである。

 

 ただ、これに関して一つだけ言い訳させてもらうならば、それは千賀子が地方競馬の相場を知らなかったから、である。

 

 なにせ、千賀子は競馬の賞金に興味は無い。

 

 参考としたレースも、なんか覚えがある『東京優駿(日本ダービー)』と有馬記念の二つで、賞金額もその二つより少なければいいだろうという安易な考えであった。

 

 

 つまり、千賀子はまたやらかしたわけである。

 

 

 分身たち(ロボ子からも)から注意されていたのに、うっかり賞金額を高くし過ぎてしまったのが悪かった。

 

 おかげで、『出走させてください! 後生です!』と土下座でお願いしに来る人が後を絶たなかった。

 

 まあ、これに関しては皆が見ている前で、くじ引きで選ぶという強引な力技で解決したが……とにかく、始めてから終わるまで、終わってからも色々と大変であった。

 

 そして、それらの合間に、冴陀等村の祭事への参加だ。

 

 参加するかしないかは千賀子が決める(立場的に、最上位なので)が、教祖である千賀子が参加しない……というわけにはいかず。

 

 千賀子が何一つ関与していない『女神信教』の祭事を練習し、披露し、ポーズだけでもと1人1人に祝福を与え……そんなこんなで、それはもう忙しかったのだ。

 

 ……一部、千賀子が余計なことさえしなかったら……と思う点はあるけど、まあ、終わりよければ全てヨシ、であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、これは関係ない話なのだが。

 

 

「──来たわよ、道子。なんか、どうしてもやってほしいって事があるって話だけど、どういう意味?」

「あ、千賀子、来てくれてありがとう~。早速だけど、ちょっとだけ付き合ってほしいの~」

「それは構わないけど……なにこれ、変なカードね。色が別々に付いた○に□に+に☆に~の波線模様……本当にこれ、なに?」

「これね~、超能力テストのカードよ~」

「超能力?」

「そうよ~。カードを伏せるから、裏面の記号と色を当ててほしいの~」

「なんでまた……」

「あのね~、アメリカの方で、超能力の研究があるらしくて~、千賀子はどうなのかなって~、気になって気になって気になって~……」

「ああ、うん、わかった。気持ちは分かるから……じゃあ、始めてよ」

「ありがとうね~。それじゃあ、いくよ~……」

「…………」

「…………」

「…………」

「……うわぁ、すごいわ~。正解率100%~全部当てちゃった~」

「そんなに喜ぶことかしら……?」

「それじゃあ、次はテレパシーテストね~。私が見たカードの記号と色を千賀子に向かって念じるから~、それを答えて~」

「うん、わかった。ハッキリ強く思い浮かべてよね」

「は~い、それじゃあいくよ~」

「…………」

「…………」

「…………」

「……すごい、すご~い、全部当てちゃったわ~」

「これで終わり?」

「うん! とりあえず、これで終わり~。付き合ってくれてありがとう~! 今度なにかお礼を送るね~」

「気にしなくていいよ、これぐらい。それじゃあ、またね」

「うん、また機会があったら3人でお茶しようね~」

 

 

 という一幕が、コソッとあったりしたが……それだけであった。

 

 

 

 

 

 






※ 千賀子レベルになると、箱からスプーンを取り出す前の段階で、スプーンが曲がっている



次回、激動昭和・鍋底不況(本当)オイルショック編、スタートです
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