ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第133話: 意外と当てはまる部分が多くて地味に凹む主人公

 

 

 

 乳房というのは、大きさに関係なく構成している組織は同じである。

 

 まず、乳腺。

 

 母乳を分泌する乳腺葉が乳頭を中心に放射状にあって、乳管という母乳の通り道があり、それらをひっくるめた組織のことだ。

 

 次に、脂肪組織。

 

 乳腺を保護する。けっこう誤解されがちだが、乳房のサイズは脂肪の量だけではない。乳腺の発達に合わせて、脂肪の量が増える傾向にある。

 

 次に、じん帯組織など。

 

 乳房の形を維持しあり、乳房そのものを支えている。いわゆる、クーパーじん帯と呼ばれる組織が、これだ。

 

 これに、違いはない。細かく言うともうちょっと増えるが、主な組織構成は先天的な障害などが起こらない限りは、全員同じである。

 

 つまり、大きかろうが小さかろうが、特別な組織があるわけでもないし、ナニカが欠けているわけでもない。

 

 違いは、乳腺の発達具合と、それに合わせてどれぐらい脂肪が付いたか、それだけ。あとは、筋力の有無で見た目が変わる……という程度のことである。

 

 

「──という話をね、お友達のお知り合いのお医者さんから聞いたのよ」

「は、はぁ……そうっすか」

 

 

 そして、そんな話を母親の口から直接聞いた千賀子は、やはりますます困惑するしかなかった。

 

 とりあえず、電話口では埒が明かないと思い、エマを伴って実家に帰省した千賀子は、改めて母の話を聞いた……わけなのだが。

 

 

 まず、母の話を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 母の知り合い……林田さんというらしいのだが、件の胸が大きい女教師というのは、昔から付き合いのある町内会の友人の娘さんである。

 

 つまり、正確には母の知り合いではなく、母の知り合いの娘さんから相談を受け、困り果てたけどもあまり他人様に相談できるような内容でもなかったので、千賀子に電話をかけた……という流れだ。

 

 ちなみに、娘さんの名前は香里(かおり)と言うらしいが……正直、なんでそれを私に持ってきたのか……という疑問しか千賀子にはなかった。

 

 母の知り合いに林田という人がいる……という程度の関係性であり、その娘さんと顔を合わせた事はおろか、娘さんがいるという事も初耳だったからだ。

 

 

 だがそれは、母も同じ気持ちである。

 

 

 いくら知り合いとは、その娘さんとの付き合いなんて、せいぜい買い物の時の顔合わせ程度。年齢が違い過ぎるから、まともにお喋りしたことすらない。

 

 実際に相談しに来た時だって、名乗られても『あら~、立派になったわね~』と社交辞令を述べる程度の間柄でしかなかった。

 

 

 そんな間柄の母に、なぜ相談したのか? 

 

 

 それはどうも、消去法の結果らしい。

 

 あと、林田さんには色々と良くしてもらった恩があったので、その娘さんからの相談を断ることができなかったらしい。

 

 

 ……これ以上はさすがに長くなるので省略して、先に進める。

 

 

 件の香里さんは昔から頭が良くて勉学に秀でていたらしく、学生運動の最中でも一切相手をせず、ちゃんと卒業して、教職に就いたらしい。

 

 そこまでは、良い。問題は、その後だ。

 

 教師としては新米で転んだり足をぶつけたりでドジなところはありつつも、とても愛嬌があるらしくて生徒たちからの評判は良くて、これまで問題らしい問題は起きなかったのだが……そこに、とある保護者が苦情を入れたらしい。

 

 

 それが、件の『巨乳の人は頭が悪いから、教師を変えろ!』である。

 

 

 教職に就いているし、それ以前に大学も出ているので立派な学歴もある彼女に対して、胸が大きいからと……まるで、意味が分からない。

 

 学校側も最初は同じ意見だったらしく、色々な意味で丁重に送り返していたのだが……どうも、どんどん過激になってきているらしい。

 

 直接的な暴力までは振るってはいないけど、平日にやって来ては『教師として如何なものか?』とか、『ふしだらな人を教壇に立たせて良いのか?』とか、とにかく授業妨害に近しい行為を行うまでになってきているのだとか。

 

 

 ……それなら、警察にでも連絡すれば……学校側としては警察沙汰にしたくないという気持ちに加えて、他にも問題が二つある。

 

 

 それは、『噂話』という体で香里さんの悪評をばら撒いていること。そして、どうも、教師たちの中にも賛同している者がいるらしいこと、この二つである。

 

 つまり、悪評をばら撒かれて情報操作されているうえに、教師の一部がそのクレームに賛同しているせいで話がややこしくなってしまったのだ。

 

 また一部保護者からも、新たに『そんな面倒な教師はクビにしてしまえ!』と面倒臭がって問題を早く終わらせようと訴えがくるせいで、余計に終わる話が終わらなくなってしまった。

 

 

 そこに加えて、思春期真っただ中な生徒たちも感化されてしまったようで。

 

 

 香里さんの胸を『ボイン先生』とからかう生徒と、それを注意する生徒で喧嘩になったり、第三者に見せかけて、流れてきた噂を面白おかしくさらに周りへ広める生徒がいたり。

 

 教師たちが一致団結していたならともかく、その教師たちですら……なせいで、収集が付かなくなってしまい。

 

 これにはもう、さすがに香里さんとやらは困り果て、精神的にとても辛くなってしまい……その果てで、千賀子の母に相談しに来た……という流れとのことだ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………正直な感想を言おう。

 

 

「……なんでそこで母さんに相談が来るの?」

 

 

 煽りとかではなく、私たちまったく関係なくないか……と、千賀子は思ったことをそのまま口に出した。

 

 色々とこんがらがり過ぎてしっちゃかめっちゃかで、母からの説明がいまいち要領を得なかった理由がようやくわかった。

 

 千賀子が母の立場だったなら、どこから話せば良いのか困惑しっぱなしで、同じく母を混乱させていたのがすぐに想像できてしまった。

 

 なお、その点に関しては母も同意見ではあるようだが、「そうよねえ……でも、なんとなく気持ちは分かるのよ」それだけではないようだった。

 

 

「林田さんはけっこう厳しい躾をする人でね……悪い人ではないのだけど、若いうちのオシャレは良くないって考えの人で……」

 

 

 スッと、視線を天上へと向けた母は……なんとも言えない様子で、溜め息をこぼした。

 

 

「他所様の話だからあまり言えないことだけど、アレは同じ女として可哀想だったわ。髪型も長さもキッチリ決められていて、買い食いとかも絶対にさせなかったし、可愛い服とかはふしだらな女への一歩だからって地味な恰好ばかりさせていて……」

「あ~……相談すると、逆にふしだらな恰好をしているおまえが悪いとか言っちゃう人なの?」

「そうそう。それどころか、あの人の事だから『男好きな性根が身体に現れているだけ、気にする貴女が考え過ぎよ』とか言いそう」

「えぇ……む、娘に?」

 

 

 思わず目を瞬かせる千賀子に、「林田さんのお姉さんがね……」母は曖昧な言い回しで誤魔化すと……おほん、と一つ咳をした。

 

 

「それでね、胸のせいで問題になっているだなんて恥ずかしくて周りに相談できないし、母親にも相談できなくて……それで悶々と考えている時に、私の事をポッと思い出したらしくて……」

「それで、お母さんに?」

 

 

 母は、小さく頷いた。

 

 

「些細な事なんだけど、昔に香里ちゃんと秘密の約束をしてね。大人から見たら取るに足らないことだけど……たぶん、その約束を守っているから、香里ちゃんは私を信用したんだと思う」

「そうなんだ……」

 

 

 そうして、ようやく母に相談が来た理由が判明し……改めて、千賀子は母から尋ねられた。

 

 

「なんとかならない?」

「無茶を言わないでよ」

「そうよね、やっぱり無理よね」

「私に直接言ってきたとかならともかく、血縁関係にもない他人の話にしゃしゃり出て行っても、余計拗れるだけだよ」

「そうよね……分かってはいるんだけど、子供の頃をちょっとばかり知っているから、どうにもねえ……」

「……お母さんの気持ちも分かるけどさ。こればかりは私が部外者過ぎてどうにもならないよ」

 

 

 対して、改めて千賀子は無茶だと首を横に振った。

 

 

 ……いや、まあ、冷静に考えなくても当たり前である。

 

 

 これまで色々な事に首を突っ込んだり、逆に突撃をかまされたり、生死の境をさ迷ったり、世界最後の日に直面したり、本当に色々な事があった。

 

 ……いや、思い返すと、本当に色々な事があったなと思うが、それは置いといて、いちおう、それらは千賀子から首を突っ込む事が可能だった。

 

 しかし、今回はこれまでとは明らかに勝手が違う。

 

 規模とか権力とか、そういう話ではなく、そういうゴリ押しをすると色々な意味で逆効果というか、長く後を引きかねない。

 

 学校という世界はそれほどに特殊であり、閉じた世界でもある。ある意味、競馬の世界よりよほど特殊なのだ。

 

 せめて、エマが学校に通える年齢で、その学校に通っている当事者だったならば、まだ首を突っ込める口実が作れただろうが……さすがに、今の千賀子では部外者過ぎてどうにもならない話であった。

 

 

(……う~ん。そりゃあ、ほとんど繋がりはなくても、幸せに生きていてほしいって思うお母さんの気持ちは分かるけどさ)

 

 

 けれども、せっかくの相談なのだし、少しぐらいは考えようと……千賀子は大して良くない頭を回転させる。

 

 以前から千賀子がそういった方面に動いていたならともかく、さすがに道子たちも教育関係へのコネは少ないだろう。

 

 かといって、田中総理に……今は上がり続ける物価への対応やら何やらで忙しいっぽいし、こんな事で助けを求めるのは迷惑にも程があるだろう。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………う~ん、マジで取っ掛かりが一つも無い。

 

 口出しする以前に、その学校へ向かう適当な理由すら無いとか、もうこれ終わりでは……いや、待てよ

 

 

「とりあえず、どんな感じか様子を見に行くことにするよ。ちょうど、ロングエースが引退したところだから、しばらく散歩させて……流れで偶々って感じで行こう」

 

 

 ──ダービー馬を、それもこれから種牡馬《しゅぼば》(繁殖用の牡馬のこと)として調整していく馬を、何の対策もされていない町中にて散歩させる!? 

 

 仮に、この場にかつての調教師なり何なりが居たら、卒倒してもおかしくない暴挙であるし、他の馬主から見れば、気が狂ったのではと思うような話である。

 

 しかし、相手は千賀子である。一般的な馬主の常識のはるか外を鼻歌混じりに歩いている女である

 

 引退後はだいたい牧場側に権利が移ったりしているが、千賀子の場合は冴陀等村という面倒を見られる場所があるので、他とは違うのも理由としては大きい。

 

 それはまあ、『あの人だけは別、只者じゃないから好きにさせた方が良い』という、ある種の信頼のうえでの結果でもあるのだが……とにかく、千賀子はあっさり決めたのであった。

 

 

「相談した私が言うのもなんだけど、無理はしないでいいからね? こっちとしては、駄目で元々なつもりだったから……」

「いいよ、気にしないで。面倒臭そうならさっさと手を引くし、解決したら儲けものぐらいでいたらいいよ」

 

 

 そして、競馬にはとんと疎い千賀子母には、ダービー馬と言われてもいまいち分からず、あっけらかんとした様子でその日は終わったのであった。

 

 

 

 

 

 ……さて、翌日。

 

 

 いちおうしばらくロングエースを私用で使うので、種牡馬にするために色々と調整に動いていた牧場に話を通した際に。

 

 

『HAHAHA、御冗談を……え、冗談じゃない……ってこと!?』

 

 

 受話器越しにも分かる、信じ難いナニカを目撃したかのような牧場主の悲鳴を尻目に、千賀子は意気揚々とロングエースの手綱を持って、件の中学校へと向かった。

 

 馬を連れて慣れぬ場所を歩く時は、手綱の根元をしっかりと掴み、常時馬を落ち着かせながら行くのが基本とされている。

 

 というのも、馬は臆病な気質なので、人が常に『ここは安全だよ、傍に付いているよ』と安心させる必要があるからだ。

 

 

 しかし、千賀子の場合は違う。

 

 

 犬を散歩させるかのごとく手綱が弛んでいて、御世辞にもしっかり抑えているようには見えない。

 

 傍目にはとても危ないように見えるが、ご安心めされよ。

 

 ロングエースは本能的に分かっているのだ。

 

 この人が居ればまず己に危ない事は起こらない、と。

 

 あと、下手に暴れても絶対に勝てない相手でもある、と。

 

 それでも己に危ない事が起こる時はもう、この人も死んでしまうような、どうにもならない事態だと……察しているので、これで問題は起こらないのであった。

 

 なにせ、特に気性の荒いハマノパレードですら、千賀子が一言『めっ!』と注意するだけで、借りてきた猫のように……話が逸れたので戻そう。

 

 

(懐かしいなあ……なんだか昔に戻ったみたいだ)

 

 

 件の中学校……実は、かつて千賀子が通っていた学校でもある。

 

 母校ならわざわざ馬を使わなくても……馬鹿を言っちゃいけない。母校だろうが、部外者なのは同じである。

 

 あの時とは少しばかり景色が変わっている事に何度か驚きつつも、千賀子はときおりギョッと驚いて見てくる人たちに挨拶をしつつ……無事に、学校へと到着した。

 

 

 すると──おお、なんという事だろうか。

 

 

 運が良いのか悪いのか、この日も件の集団は学校に押し掛けてきているようで、耳を澄ませばうっすらとだが、甲高い女性の声が聞こえてきた。

 

 内容は……まあ、うん。

 

 巫女的シックスセンスの応用で聞き取れたが、要は『乳デカ女は品が無い、大学出ていてもそれでは駄目、子供に悪影響』といった感じで、全否定である。

 

 話には聞いていたが、ここまでまっすぐ真正面から罵倒してくるとは……なんとも強気というか、なんというか。

 

 

(……おかしいな、私が言われたわけではないのに、心当たりが有り過ぎるのだが?)

 

 

 思わず、千賀子は胸を押さえた。

 

 むにゅ、と服の上からでも十二分にデカさがわかる膨らみによって、鼓動はまるで感じ取れなかった。

 

 

 ……コレのなにが滑稽《こっけい》なのかって、千賀子に限り、けっこう当たっているという点である。

 

 

 なにせ、千賀子には品が無い。

 

 巫女的なアレとガチャ的なアレでめたくそにバフが掛かっているとはいえ、淑女としての教育などまるで受けていない、雑貨屋の娘だ。

 

 今は時々しかしないが、幼少の頃は銭湯に行った際、火照った身体を覚ますためにグテーッと大股開きのままでいて、母から何度か怒られた思い出がある。

 

 

 なにせ、千賀子の学歴は高卒である。

 

 色々事情が重なって、けっきょく大学には行かなかったが……そもそも、地頭はけして良い方ではなく、ガチャによるプッシュが無ければ、どうなっていたことやら。

 

 

 なにせ、千賀子はもう存在自体が子供に悪影響である。

 

 思い出に浸るために『小川』に行けば、なにやらチラチラ見て来る子供が1人や2人ではない。偶然かと言えば、そんなわけもなく……目当ては、千賀子である。

 

 他にも、街を歩いていると子供(年齢問わず)から無遠慮にジロジロ見られるし、なんなら通りすがりにπタッチされて逃げられたことも……怒らないのかって? 

 

 いや、子供のやることだし……というのが、千賀子の正直な感想である。

 

 いちおう、素早く回り込んでゲンコツして、それで終わりだ……他にもいろいろあるけど、まあ、そんなわけで、だ。

 

 己に関しては、あながち否定出来ないかもと、不覚にも千賀子は思ってしまったわけである。

 

 まあ、だからといって、こちらが配慮する必要はまったく無いのだけど……とりあえずは、だ。

 

 おそらく、建物の奥の方では声が響いて授業の邪魔になる。外に聞こえるのも問題だが、まだそっちの方がマシ。

 

 ……とでも判断して、比較的外側に近く、生徒たちから距離のある部屋にしたのだろう。

 

 そのおかげで、千賀子の耳に届いてしまったのは、ある種の皮肉なのかもしれない。

 

 

「ロング、オシッコとかウンチは澄ませたよね?」

 ──ブフフン。

「しばらく、しちゃ駄目だよ。校庭を汚したら怒られちゃうから」

 ──ブフフン。

 

 

 とりあえず、なんか声が聞こえて来たので……という体で、千賀子はロングエースを連れて校庭へと進む。

 

 現代では信じられない話だが、この頃の学校はそこらへん、ものすごく雑なのである。良く言えば大らか、悪く言えば大雑把。

 

 現代なら一発で警察が呼ばれて大騒ぎになるような事だが、この頃は下校時に『不審者が出たので、気を付けてください』と生徒に直接言うか、各町内の回覧板や掲示板に張り紙されるか、連絡網(れんらくもう)にて各家庭に……ん? 

 

 ……連絡網とは、学校からの連絡を、A宅→B宅→C宅→D宅……最後の人がA宅に報告……という流れで行う、昭和から平成の間で行われた連絡のやり方である。

 

 ただし、電話による連絡は1980年代に入ってからで、この頃は先述のとおり……っと、その時であった。

 

 

『──あっ、馬が歩いてる!?』

 

 

 校庭をのんびり進んでいると、2階の教室にいる生徒たちが気付き、千賀子を指差した。

 

 そうなればもう……騒がしいものである。

 

 牛や猪を見たことがある子はいても、馬を間近で見た子供はほとんどいないからだろう。大人とて、間近で見たことのない人が大多数なのだ。

 

 そんな、映像越しではない馬を前に、生徒たちは興味津々の様子で次から次へと席を立って千賀子の方へと視線を向けた。

 

 

 ……はい、はた迷惑である。

 

 

 幸いにも、千賀子は女なので血相を変えた教師たちが飛び出してくるような感じにはならなかったが、それでも、訝しむ様子を隠さず、体格の良い男性教師がちらほら……っと。

 

 

「……もしかして、秋山さん家の、秋山千賀子か?」

「そういう貴方は……あれ、赤ぽっぽ先生じゃないの。すっかり歳を取りましたね」

「馬鹿! そりゃおまえ、10年も経つんだぞ、俺だって歳を取るわい!」

 

 

 顔馴染みというわけではないが、千賀子の事を覚えていた教師が出てきたことで、『あ、知っている人がいるのか……』という感じで、フワッと緊張感が和らいだ。

 

 

 ──赤ぽっぽ先生とは、千賀子と明美が在学中の時に一時期担任を務めていた教師である。

 

 

 悪い人ではないのだが大の酒好きで、体質的にいつもほんのり赤ら顔。

 

 それでいて怒る時は、ぽっぽと湯気が立つのではというぐらいに赤みが増すことから、生徒たちから名付けられたあだ名である。

 

 ちゃんと本名もあるのだが、当人は生徒から付けられた『赤ぽっぽ』のあだ名を気に入っているらしいので、今でもそのように呼ぶ人が多い……で、だ。

 

 

「急にどうしたんだ? 保護者でもないのに覗きに来たのか? それとも、学校が恋しくなったのか?」

「覗きと言えば覗きかもしれないけど、そんなんじゃないわよ」

 

 

 当然と言えば当然の問い掛けに、千賀子は……あえて、不機嫌そうにわざと溜息をこぼした。

 

 

「この子を散歩させていたら、聞こえて来たのよ。やれ、胸がデカい女はバカだとか、品が無いだとか、そりゃあもう色々とね」

「……ああ、うん」

 

 

 それだけで、察したのだろう。

 

 赤ぽっぽだけでなく、明らかに気まずそうに視線を逸らす教師たちを前に、千賀子は……ビシッと、己のどデカい双子山を指差した。

 

 

「ご覧のとおり、私に向かって言ったわけじゃないにしても、あそこまで言われると、私としては黙っていられないわけよ」

「あぁ~……それは、そうなるな」

 

 

 チラチラ、チラチラ、チラチラ、っと。

 

 赤ぽっぽ先生だけでなく、集まっている男性教師たちの視線も千賀子の胸に集まる。まあ、無理もない。

 

 規格外、黒船来襲といっても過言ではない膨らみに、視線を向けてしまうのはもう、致し方ない話だ。

 

 女だって、ジロジロ見る時は無遠慮に見るのだ。

 

 今さらその程度を気にする千賀子ではなく、むしろ、見るなら見ろと胸を張って強調した。

 

 

「でしょ? そんだけデカい口を叩けるなら、さぞ御立派な人なんでしょうねと乗り込んだわけですよ」

「あぁ~、そのぉ~、秋山……これには、その、色々と……」

「私に言っていなくとも、おっぱいの大きい私にも引っ掛かる悪口を……あそこまでコケにされて、なあなあで済ませるつもりはないわよ、こっちはね!」

 

 

 ふんす、と。

 

 

「赤ぽっぽ先生! 案内して、あのキーキー発情期の猿みたいにやかましい女の下にね!」

 

 

 これまたわざとらしく、鼻息荒く宣言したのであった。

 

 

 

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