ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第134話: この時の旦那さんの心境 ← 控えめに、走馬灯

 

 

 約10年ぶりに校舎に入った千賀子は、あの頃にはなかった新品の臭いや気配を感じ取りながら、それでも懐かしさを覚えていた。

 

 そう、この頃の学校校舎というのは実のところ、新しいのと古いのが入り混じる、この時にしか存在しない転換期であるからだ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 1970年代~1980年代は、全国の学校の改装や改築や修繕、場合によっては新築が行われたのが、この時期である。

 

 新造校舎と旧校舎が同じ敷地内にあったり、木造校舎が次々に取り壊されていったりしたのも、この時期である。

 

 いわゆる、『旧校舎の○○が~』という流れで始まる怪談が全国的に生まれたのも、この時期からだとされている。

 

 また、この頃になると極左などによる学生運動も下火になり、校舎が新しくなるという空気も相まって、独特な雰囲気があった。

 

 

 まあ、しかし、だ。

 

 

 あくまでも千賀子の前世の話だが、1970年代後半というのは詰め込み教育の弊害……管理教育の反動により、校内暴力が一気に増大した時期でもある。

 

 特に1980年前後が一番酷く、それまでの2倍以上の事件が発生したことから、いかにこの頃の教育方針が独善的で揺れ動いていたのかが察せられるだろう。

 

 いわゆる暴走族が流行り、リーゼントと呼ばれる髪型が流行し、ヤンキーだとか何だとかの全盛期も、1980年より少し後ぐらいである。

 

 ……とはいえ、それは前世の話。今生の世界はまだ1973年で、今はまだそこまでで荒れてはいない。

 

 授業中なので校内は静かで……だからこそ、余計に遠くより聞こえてくる甲高い女の叫び声(怒鳴り声?)が、嫌に耳に残る。

 

 

「……赤ぽっぽ先生も大変だね、あんなの毎日相手にするだなんて」

「はっはっは、教師も長くやっていると色々あるもんだ」

 

 

 思わずといった調子で呟けば、案内してくれる赤ぽっぽだけでなく、他の教師たちも思わずといった調子で笑った。

 

 けれども、だ。

 

 

「……でもまあ、最近の親御さんは昔に比べたらよく分からん」

 

 

 深々とため息を吐いた赤ぽっぽ……なんだろう、とても哀愁というか、やるせなさがこもっているように見えた。

 

 

「どうでもいいことに何時間も文句を言いに来るのに、子供の事は一言か二言聞いただけで、結構ですって帰る」

「ほうほう」

「ウーマンリブだか何だか知らんが、革命運動の真似事を親になってまでやるのだから、俺にはわからん」

「ほうほう」

「そういう親ほど、自分の子供をまともに見ていない。それでいて、女性がどうとかちゃんちゃらおかしいってもんだ!」

「なるほど、なるほど」

「まったく、親としては中途半端、革命家をやるにも中途半端、やる事なす事、結局はお国にオネダリしているだけってのがもう情けないったらありゃあしねえ!」

「どうどう、あんまりぽっぽしていると頭の血管切れるよ、落ち着いて、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかってんだ!!!」

「声が大きいよ、先生。生徒たちがビックリするじゃん」

「む! むむむ……!!!」

 

 

 ぽっぽ、ぽっぽ、と。

 

 かつてのように、怒りのあまりぽっぽと湯気立つかのように赤くなる姿に、千賀子はドードーと暴れ馬を落ち着かせる感覚でなだめる。

 

 悪い人ではないが、色々と直情的というか、考え方が一昔前というか。

 

 良いか悪いかではなく、ちゃんと生徒の事を考えているし、煙草を吸っている生徒を見付けたら、その度に男女問わずにガンガン説教をする。

 

 まあ、言い方はなんだけど、なんだかんだ文句は言いつつも嫌っている生徒はいなかったし、熱血教師と呼ばれた部類の人だから、致し方ないのだけれども。

 

 

「……そういうおまえは、どうなんだ?」

「ん?」

「人伝で聞いたが、色々やって馬主にもなったんだって? それもいいが、あまり夢中になっていると婚期を逃すぞ」

 

 

 現代基準ならばセクハラ判定レッドカード直撃リストラコースだが、この頃はこの程度はセーフ。純粋に心配しているのが分かっていたので、千賀子も特に気にしない。

 

 

「いやいや、赤ぽっぽ先生。情報が古いって」

「ん?」

「こう見えて私、養子だけど子供いるし」

「え?」

 

 

 心底驚いた様子の赤ぽっぽ(他の先生含め)に、千賀子は朗らかに笑った。

 

 

「巡り合わせっていうのかな。ほら、これが写真」

「……外人の子か?」

「そうだよ、とても可愛いでしょ」

「……そうだな」

 

 

 写真を返した赤ぽっぽは、感慨深そうに溜息をこぼした後で……ポツリと呟いた。

 

 

「学校一の美少女って言われていた秋山が、もう母親になっているのか……月日っての経つのが早いもんだな」

「そりゃあ10年近く経てば、子供の一人や二人は出来ていてもおかしくないでしょうよ」

「はは、違いない」

 

 

 どこか寂しそうにしつつも、どこか嬉しそうでもある赤ぽっぽの横顔は……なんとなくだが、どこか祖父の横顔を思い出させた。

 

 

 

 

 

 ……さて、そんなこんなで雑談しているうちに、問題の部屋へ。

 

 

 普段は簡易な資材置き場として利用されていたらしいのだが、件の者たちが毎日のように来訪するせいで、急遽用意した部屋らしい。

 

 最初の頃は職員室で応対していたらしいのだが、あまりにも声がやかましく、人も二人から三人、三人から四人と増えてしまっているせいで、今のような形態になったのだとか。

 

 

「たのもう!」

 

 

 扉越しどころか、数メートル離れていてもバッチリ聞こえるぐらいの甲高い話声にさっそく辟易しつつも、千賀子は扉を開けた。

 

 すると……巫女的シックスセンスで把握していたが、室内には予想通りけっこう人数がいた。

 

 例の香里さんと教師が2人に、校長先生。

 

 後は……件の人達、計5人の女性である。どうやら今日はさらに1人増えて、5人になったようだ。

 

 5人も揃って何の意味があるのだろうかと思ったが、こういうのはむしろ、人が多ければ多い方が良いのだろうとすぐに千賀子は気付いた。

 

 1人だとあまりしつこいと追い返されてしまうが、5人も……それも、女性を無理やり追い返したとなれば、騒動を嗅ぎつけた記者などからどんな記事を書かれるか分かったものではない。

 

 おそらく、いや間違いなく、分かっているから複数で来ているのだろう……で、だ。

 

 

「……! 秋山か?」

「おお、見覚えのある顔だ、お久しぶりです。外を歩いていたら私の悪口が聞こえてきたから、思わず乗り込んできました」

「え?」

「巨乳がバカとか頭悪いとか品が無いとか、これはちょっと物申さねばと思いまして」

「あっ(察し)」

 

 

 ビシッと、己の胸の膨らみを指差す千賀子の宣言に、教師たちは納得して、ちょっと気まずそうに頭を掻いた。

 

 それは、件の香里さんとて例外では……いや、彼女の場合は驚きの色合いがちょっと違ったけど、今はいい。

 

 幸いにも、千賀子の事を覚えている教師が他にも居たので、教師たちから混乱は起こらなかった。

 

 校長の顔に見覚えはなかったけど、千賀子の事はチラホラ噂で聞いているのか、目を瞬かせるだけであった。

 

 

「──な、だ、誰よ、あんた?」

 

 

 ただし、千賀子の事など知らない、今回の騒動を引き起こした者たちからすれば、完全に初対面なので、けっこう驚いていた。

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 なにせ、千賀子の見た目は明らかに教師ではない。

 

 服装こそとくにおかしい点はないが、ワガママ過ぎるボディによって視線は嫌でも上下してしまい、彼女たちは例外なく困惑した様子であった。

 

 

「こんにちは、秋山千賀子です。通りを歩いていたら、なんだか私の悪口が聞こえてきたので、いったいどんな人が言っているのかと思って来たのですが……」

 

 

 まあ、そんなことなど知った事ではないと無視した千賀子は、ジロジロと……彼女たちを見やる。

 

 

「……思っていた以上に特徴のないオバサン連中で、なんか逆に拍子抜けした」

 

 

 感想は、それだけであった。

 

 いや、もう、本当に、それ以上の言葉を掛けようがないのだ。

 

 奇抜な髪型をしているわけでもないし、ぎっちぎちに正装(この場合は、和装)しているわけでもない。

 

 割烹着やエプロン姿でもないし、部屋着のままやってきたわけでもない。女性用の、普通のスーツを着た中年女性が5人。

 

 当然ながら、顔も普通だ。

 

 とんでもないレベルの不細工というわけではないが、けして美人でもない。足は大根のように太いが、そこまで中年太りをしているわけでもない。

 

 一部分にパーマが掛かった髪型だけど、別に珍しくもなんともないし、高い装飾品を身に着けているわけでもない。

 

 本当に、コレといった特徴らしい特徴がまったくないオバサンである。

 

 こんな場所で会うからこそ覚えていられるが、町中で見掛けてもまず記憶に残らない感じの、どこにでもいるオバサンにしか見えなかった。

 

 

「なっ、なっ、なっ……!!!」

 

 

 まあ、ガッカリしている千賀子を他所に、言われた方は堪ったものではないだろう。最初は面食らっていた彼女たちだが、すぐさまカーッと頬どころか首筋まで赤くなり始める。

 

 

「あれだけデカい口を叩くのだから、それなりの人かと思っていたけど……蓋を開けてみたら、ババァの嫉妬過ぎて怒る気もなくなってしまった……」

「なっ、なっ、なっ……!!!」

「自分よりも若くて、自分よりも可愛くて、自分よりも頭が良い……たしかに、ここまで負けたらもう、おっぱいとかお尻とか、そこらへんにケチを付けるしかあるまい……か」

「なっ、なっ、なっ……!!!」

「これも、一つの生存競争。綺麗で賢くて色々立派な若い娘が出て来ちゃったから、慌てて排除に動いたか……排除したところで、オバサンたちが綺麗になるわけでもないのに、よく頑張るものだね」

「なっ、なっ、なっ……なんて、失礼な女なの!!!」

 

 

 怒髪天を突く。

 

 そんな言葉が過るほどに怒りを露わに立ち上がったオバサン5人衆。唾を飛ばさんばかりな勢いと迫力に、思わず教師たちは仰け反った。

 

 

「失礼って、先に他人様の悪口を言ったのは貴女たちでしょ? そこまで歳を取っていないんだから、いきなりボケるのは止めてよ」

「い、いきなり何を言って──っ!!」

「巨乳は頭が悪いとか、品がないとか、そんなのベラベラ喋っているのが聞こえたら、誰だって頭に来るでしょ! それも、私に言われたんならなおさらよ!」

「ふ、ふざけないで! あんたに言ってなんかいないわよ!!」

「この場で、私以上におっぱいが大きい人がどこにいるのよ! どう考えても、私に向かって言っているも同じでしょうよ!」

 

 

 けれども、その程度で千賀子はまったく怯まない。

 

 ビシッと千賀子が己の胸を指差せば、「──っ!」オバサン5人衆はそれ以上何も言えなかった。

 

 実際、この場で一番大きなπを持つのは千賀子である。

 

 件の香里さん……も、客観的に見れば、確かに大きい。千賀子が部屋に入るまでは、この場で一番大きかった。

 

 Dカップより上は確実、Eカップ……寄せて上げれば。Gカップに見えなくもない。この頃の基準で見るなら、文句なしに爆乳の範疇である。

 

 だが、千賀子のKカップに比べたら、あまりにも力負けしている。

 

 例えるなら、草野球チームの中では上手い人と、メジャーリーガーの中でも背番号が永久欠番されるぐらいの……といえば、想像しやすいだろうか。

 

 そのうえ、香里さんは身体のラインが見えにくいスーツだ。

 

 対して、千賀子の今日の恰好はいつものロングスカートのやつで、素人目にも分かりやすく、戦力差はいかんともし難い。

 

 せめて5人衆が名指しで明言していたならば言い逃れで来ていたかもしれないが、おそらく、咎められても言い逃れやすくするために……それが、仇となった。

 

 

「……ていうか、それ以前にあんたは歳を考えなさいよ。自分の半分ぐらいの娘に嫉妬して、やつ当たりして、いちゃもんなんてしているから旦那に相手にされないのよ」

「な──っ」

「だいたい、20年ぐらい前のやつを引きずりすぎ。そもそも被害妄想ってやつよ、それ」

「え?」

「自分よりも年下で胸の大きな女に惚れた男を盗られたって思っているようだけど、違うから。最初からあんたは相手にされていなかっただけだし……そのうち離婚されるわよ、あんた」

「──っ、──っ」

 

 

 ぱく、ぱく、ぱく、と。

 

 呼吸を忘れてしまったかのように、あるいは魚のように唇を開いては閉じることしかできなくなっている……リーダー格の女を尻目に、千賀子は他の4人へと目を向ける。

 

 

「あんたらも、なにを他人事みたいな顔してんのよ。いざとなれば、何とでも成るって思っているでしょ」

「え?」

「こいつが馬主やれるような金持ちの奥さんだから、腰巾着のあんたらも強気でいられるのでしょうけど、それが通じない相手だった時、あんたら逃げられると思っているの?」

「…………」

「分が悪ければダンマリ? ケンカ売ったのはあんたらでしょ? 黙っていたら周りがなあなあで許してくれるとでも考えているの? そんな考え、甘いわよ」

 

 

 伊達に、女神様の寵愛に四苦八苦したわけではない。

 

 ましてや、ヤクザに撃たれた経験もあるし、超巨大台風の最中、漁船を守り抜いて陸地まで連れて行った事もある。

 

 アレらに比べたら、ただ喚くだけのオバサンなど、排水溝を泳ぐカエル程度にしか思えなかった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それに、だ。

 

 

 本命は、この後だ。

 

 

 口出しするタイミングを逃して見ているしかない教師たちと、顔色を赤くしたり青くしたりしている女5人衆を他所に……ドタドタと、小走りに近寄ってくる足音を感じとった千賀子は、さて、と背筋を伸ばす。

 

 合わせて、ガララッと勢いよく扉がスライドし……中に入って来たのは、激しく息を乱した中年のオジサンである。

 

 いったい誰なのか……既に、千賀子は分かっている。

 

 リーダー格の女の旦那であり、『面倒臭いから止めさせろ』と言った男である。

 

 

(よ~し、このうすらハゲめ……この際だし、奥さんのコントロールぐらいしとけと怒っておこう)

 

 

 もちろん、千賀子からすれば手加減する気はないので、何を言われても100倍にして言い返してやろうと、グッと睨みつけた──

 

 

「う、うちの家内がどうも、すみませんでした!!!!」

「……はい?」

 

 

 ──直後、その相手から、土下座せんばかりに深々と頭を下げられた千賀子は……思わず、困惑に目を瞬かせた。

 

 

 それは、千賀子だけではない。

 

 見守ることしかできない教師たちも、奥さんであるリーダー女も、当てにしていた他4人も……直接止めろと言われた香里さんも例外なく、ポカンと呆けた。

 

 

「本当に申し訳ありません! 家内には後でキツク、きつ~く言っておきます! どうか、ご容赦をお願いします……!!」

 

 

 そんな、なんとも言えない沈黙の中で、顔中から冷や汗と脂汗を滲ませた男は、何度も何度も頭を下げる。

 

 

「え、えっと、誰かと勘違いしてない?」

 

 

 堪らず千賀子が促せば、「何を仰いますか!」オジサンは頭を下げたまま答えた。

 

 

「玄関そばに繋がれた、あの馬! あれは間違いなく、ロングエース号! そんな馬を連れてくる人と言えば、貴女しかありません!」

「え、いや、確かに私ぐらいだろうけど……」

「春木競馬のレースでは、私の友人や取引先も大いに世話になりました! そんな貴女様に唾を吐きかけるような行為、どうしてできましょうか!」

「……あ、あ~、そ、そういうことかぁ」

 

 

 そこで、ようやく千賀子は納得した。

 

 馬主の世界とは、広いようで狭く、狭いようで広い。

 

 千賀子が運営している『春木競馬場』のお世話になっている人は数知れず、関係者の知り合いの知り合い……県をいくつも跨いだ先にある企業との繋がりがあったとて、不思議ではない。

 

 そんな人たちにとって、千賀子から敵対されるというのはある意味、己の死刑承諾にサインをするに等しい行為である。

 

 直接的には関係していなくとも、だ。

 

 一蓮托生(いちれんたくしょう)なぐらいの関係ならともかく、わざわざ、そんな人と付き合いを続けたいかと言えば……まあ、そんなわけもなく。

 

 

「……謝る相手が違うわよ」

「──っ! は、はい! 本当に申し訳ありませんでした! 私の考えが足らず、大変ご不快な思いをさせてしまい、本当にすみませんでした!!」

「え!? あ、いや、は、はい! い、いいですよ、もう……」

 

 

 これまで色々言われてきた香里さんだが、大の大人が……それも、社会的には成功しているオジサンが、だ。

 

 顔中にびっしょり脂汗を滲ませて、今にも土下座を──というか、土下座して謝る姿に、これまでの怒りやうっ憤も全部吹っ飛んでしまったようだ。

 

 

「……それじゃあ、また競馬場で会いましょう。大丈夫よ、安心して。こんな事で締め出しとかしたりしないから」

「──ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!!」

 

 

 千賀子しても、ここまで焦燥感と恐怖で怯えてしまっている彼をこれ以上追いつめるつもりはなく。

 

 

「──おい、帰るぞ! なんて事をしてくれたんだ、おまえは!」

「そ、そんな、私は、だって、アナタも賛同して……」

「馬鹿を言うな! ほら、帰るぞ!」

「い、痛い! や、止めて、許してアナタ!」

 

 

 顔色が真っ青になっている妻の手を引いて、足早に学校を出て行く夫。その後を、強張った顔で付いて行く4人。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………呆然とする者たち……っと。

 

 

 き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん。

 

 

 午前の授業が終わったと知らせるチャイムが鳴り響く中、残された者たち、その中で代表する形で千賀子が、ポツリと。

 

 

「……な、なんか、思っていたのと違う終わり方……良いのか、こんな終わり方で……?」

 

 

 零したその言葉に、大なり小なり、この場の誰もが……頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、問題の人達がいなくなった、わけだし。

 

 千賀子も長居するつもりもないので、さっさと帰ろうと……せめて見送りだけでもと、香里さんより感謝の言葉と共に案内されている、その時。

 

 

「あっ、ボイン先生、あのオバサン……は……」

「ボイン先生~、今日もボインぼい……ん……」

「今日も転んだりしたんですか、ボインせ……」

 

 

 いち早く香里さんをからかうために出て来ていた男子生徒たちが、香里さんを見て、その次に千賀子を見て……言葉を止めた。

 

 それも、無理はない。

 

 香里さんも愛嬌のある可愛い顔立ちだが、千賀子は別格である。そのうえ、胸のサイズも格が違う。

 

 からかおうにも、相手は明らかに教師ではない。

 

 さすがに、関係ない女性を前にそれをしない方が良いという分別はあるのか、誰も彼もが千賀子を見て言い掛けた言葉を途中で引っ込めた。

 

 

「──そこの、元気な少年諸君!」

 

 

 そんな中で、千賀子は足を止めて……片手で指を一本立てて、ビシッと、もう片方の指で己の胸を指差した。

 

 

「少年には分からないと思うけど、私のようにおっぱいが大きい女性は足元が本当に見えないの。好きで転んでいるわけではないのだから、からかうのは止めなさい」

 

 

 その言葉に、男子生徒たちは顔を赤らめて何度も頷き……見やった千賀子は、続いて2本めの指を立てた。

 

 

「あと、陰でデブ扱いするのも止めなさい。着る服に気を付けないと、私みたいなのは、おっぱいのせいで太って見えるから」

 

 

 そう言うと、千賀子は……ポケットから取り出した手綱を広げると、それをグルリと腰に回した。

 

 

「ほれ、私の腰もちゃんと細いでしょ? 見た目で判断するのは止めなさい、そのうちどっかで痛い目を見るわよ」

 

「──っ!!?!?!?」

「──っ!!?!?!?」

「──っ!!?!?!?」

 

「……秋山、おまえのその迂闊なところ、変わってないんだな」

「へ? なにが?」

 

 

 その結果。

 

 多感な時期の青少年の心に『巨乳とくびれが生み出す曲線美』というフェチを打ち込み、歪ませてしまい。

 

 中学の時から変わらず、悪気なく性癖を壊してしまう千賀子の魔性に、頬を引きつらせる教師たち。

 

 そして、なんで咎められているのか分からない千賀子という……まあ、見慣れた光景がこの日も生まれたのであった。

 

 

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