ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第135話: 千賀子「最近、競馬関係者から拝まれているような気がする……」

 

 

 物価はますます上昇し、市場は混沌とし、商社による買い占めの報道が日に日に数を増していた。

 

 また、個人経営の店でも便乗値上げが度々取り上げられ、消費者の足元を見るような売り方が問題視する報道がなされていた。

 

 いちおう言っておくが、値上げする行為はなんら悪い事ではない。

 

 儲け過ぎるななんて話は、結局のところ商人に対する傲慢な言い分でしかなく、利益を追求するななんて馬鹿な話をする方が、とんでもない悪党である。

 

 

 安く買って、高く売る。

 

 いらない人を見付けて、安く買う。

 

 欲しい人を見付けて、高く売る。

 

 

 商売の、基本中の基本であり、古来より続く不変の大原則である。これを否定する事は、突き詰めてしまえばこちらの言い値で物を寄越せという理論になる。

 

 

 ……だが、それはそれとして、だ。

 

 

 いくら憚ることのない事とはいえ、人の感情というのはそんな簡単なモノではない。

 

 あまりにも度が過ぎれば恨みを買うし、恨みが凶行へと走らせるのも不思議なことではない。

 

 とはいえ、心を砕いて値段を安くしたらしたで、『あそこは溜め込んでいるぞ』と、狙われる可能性も0ではない。

 

 実際、足元を見る商売をするあまり、恨みを買い過ぎて……という話は古今東西関係なく起こっている事であり。

 

 反対に、安く売るぐらいなのだから余っているのだろと襲われるという話も、古今東西関係なく起こっている事でもある。

 

 商売というのは、そういったリスクも孕んでいる。

 

 可能性こそ低いけれども、毎日のようにどこかで何かしらの事件が起こっているのは、確かな事実でもあった。

 

 ……そう、それは、千賀子の身に起こっても、不幸ではあるが不思議ではなかった。

 

 

 

 

 

 ──1973年の5月初旬。

 

 

 地方の星と謳われたハイセイコーが皐月賞を勝利し、次はダービーかと競馬ファンの間で話題沸騰中……とは、少し言い過ぎだろう。

 

 ハイセイコーの人気は相当なモノだが、それでもハイセイコーは負けると思っている者だって相当数いる。

 

 競馬というのは本当に難しい世界であり、どんな馬だって、絶対に勝てるというレースは存在しないわけで……話が逸れたので、少し戻そう。

 

 競馬ファンたちが期待に胸を膨らませる、第40回東京優駿(日本ダービー)を末に控えた千賀子は……その日、北海道に来ていた。

 

 

「ねえ、先生。ハイセイコーなんだけど、疲れが溜まっているのではなくて?」

「……そうですね。本調子とは、言えないかもしれません」

「私としては、ハイセイコーの身体を考えて出場を辞退しても良いと思っていますけど……できそうですかね?」

「……やろうと思えば、できます」

「思えば、とは?」

「ハイセイコーの人気は、相当なものです。そりゃあ、馬主の判断で出走見送りは可能ですが、中央は是が非でも出走してもらうよう説得に来ると思います」

「ふむ……」

「それに、このタイミングで出走見送りともなれば、下手したら暴動……とまではいかなくとも、騒動の一つは起こるでしょうね」

「そんなに?」

「勝負をして負けるのであればまだ、納得するでしょうが……やはり、皐月賞を勝った馬です。ダービーを勝利し、三冠馬を見たいという競馬ファンは大勢いるでしょうから」

「……そう、分かったわ」

 

 

 どうしてかって、それは東京優駿に挑戦予定のハイセイコーと。

 

 

「ハイセイコー」

 ──ブフフン? 

「貴方は、走りたい? 疲れが抜けきっていないのでしょう? それでも、走りたい? 責めたりはしないわよ」

 ──ブフフン。

「そう、頑固者ね。分かったわ、貴方が期待に応えたいのであれば、私もそうしましょう」

「……えっと、秋山オーナー?」

「ハイセイコーは頑張りたい、と。ならば、出来うる限り力になってやってください……あ、そうそう、リンゴとニンニクも送りますから、食べさせてあげてくださいな」

「──は、はい! これまで以上に全力で、やらさせていただきます!」

「それで体調を崩しては駄目よ?」

 

 

 調整に勤しむ調教師や騎手への見舞いと、もう一つ。

 

 今年に入ってから、それはもう『馬を買いませんか!』アピールが凄まじいので、その話を済ませに来たのだ。

 

 本当に、電話攻撃(それぐらい、しょっちゅう来る)が凄まじいのだ。

 

 ついにはどこで調べたのか、実家の方にも電話が掛かってきたのもあって、釘を刺すついでに、新たな馬を購入するためにやってきたわけである。

 

 

 ……こいつ、また馬を買ってんなあ……いやいや、これにはワケがある。

 

 

 千賀子としては買うつもりはなかったのだが、向こうも商売だ。

 

 半ば道楽というか、無事に走りきるこそ名馬(手を抜けというわけではない)だと思っている千賀子とは違い、生産牧場の者たちは必死である。

 

 良い成績を出せば、それだけ次の顧客に繋がる。特に、重賞と言われるランクの高い賞を勝利すればするほど、牧場の未来は明るくなる。

 

 そんな中で、買う馬がことごとく重賞を勝利するどころか、何頭ものダービー馬を見出す千賀子の慧眼(けいがん)は、業界の中でも一目置かれていた。

 

 

 もちろん、千賀子が買った馬が連戦連勝……なんてわけではない。

 

 負ける時は、普通に負けているのだ。

 

 

 なんなら、何カ月も勝利から遠ざかる時もあるし、あんな癖馬をと一部関係者から驚かれる時もある……しかし、それでも必ず重賞を一つは勝利する。

 

 事情を知らない者からすれば大した事には見えないだろうが、競馬の世界において、一つでも重賞を取った馬の馬主になるというだけでも、とんでもなくすごい事なのだ。

 

 つまり、千賀子の眼に止まる馬は、そんなすごい事を成し遂げる馬の可能性が極めて高い……と、周りからは思われるわけで。

 

 生活が懸かっている牧場や、そこまでいかなくとも、これからの資金繰りを考えて是が非でも……と、アピールに動く牧場が次から次に現れるのも、当然の話であった。

 

 千賀子も、幼少より商売を間近で見てきただけあって、どれだけ必死なのかは嫌でも想像できてしまい、無下にはできなかった。

 

 まあ、それでも、甘い対応をするつもりはないので釘を刺しに行くし、愛想笑いで誤魔化すつもりなら怒るつもりでいた。

 

 けれども、向こうも分かっているのか、すぐに納得してくれたうえに謝罪もしてきたので、千賀子もそれ以上話を広げるつもりはなかった。

 

 

 ……とまあ、そんな流れで、だ。

 

 

 さすがに全ての牧場で馬を買うのは違うので、ピンと来なかった時は、一緒に飼われているブタなどの家畜(食肉用)を購入することにした。

 

 いや、というか、親切でなんか提案された。

 

 いったいどうして……それはひとえに、商社による買い占めに対して、当の生産業者もいくらか思うところがあったのだ。

 

 そりゃあ、生産業者としても商売だ。

 

 長い付き合いの地元業者に卸す分を除いた余剰分を売るわけだけど、だからといって、それであこぎな商売をされると、これでは商社と手を組んでいるようではないかと思うわけだ。

 

 それで、本当に手を組んで儲かっているのであればまだ、良いのだ。しかし、実際はそうでもなかった。

 

 商社による強引な買占めや嫌がらせが横行し、土地なども言葉巧みに買占め、話が違うと怒った元地主を無視するといった行為も横行していた。

 

 そんな中で、商社にも売らず、地元にも売らず、値が吊り上る前の正規の値段で千賀子へ……というのは、ある意味、千賀子に対する感謝の証であった。

 

 ……と、なれば、せっかく己のために置いといてくれたのだから、遠慮するのは失礼に当たるわけで。

 

 

 ありがたく、千賀子は感謝の言葉で購入させてもらった。

 

 

 ちなみに、1人では1頭分……というか全部で、片手の指に収まらない数の豚肉とか鶏肉になるソレらを、1人で消費などいったい何カ月掛かるのか。

 

 全部で、何百キロという量である。そんな量を腐らせる前に消費したら、またロボ子の目が冷たくなってしまう。

 

 なので、実家と、道子と明美におすそ分けした後で、それらを使って『春木競馬場』内にて芋煮会を開くことで消費した。

 

 普段は周囲の飲食店などへの影響を考えて、そんな事はしない。

 

 しかし、物価の上昇はとんでもなく、肉を食った(それも、少量)のは一ヶ月前二ヶ月前なんて子供がザラだったので、子供に食わせる意味合いもあって開催したのであった。

 

 

 ……さて、と。

 

 

 少し話を戻して、馬の購入の件だ。ピンと来た馬の中でも、自分と上手くやっていけそうな馬を選んだ。

 

 特に、根拠はない。

 

 太ももの発達具合とか、腰の据わり方とか、足の角度とか、そんな知識は千賀子にはない。巫女的シックスセンスで、コレ、と決めただけであった。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 この時に買った馬だが、まだ生まれていない……そう、胎の中で成長中だったり、まだ種付けが成功しているのかどうかという段階だったりの、青田買いであった。

 

 そこで、千賀子はまた3頭の馬(まだ、生まれていないけど)を買った。

 

 

 その馬は、『たまたま近くにいた』という理由で種付けされた結果の子であり、後に真っ白な毛並みの葦毛《あしげ》(白い毛並みの馬)として生まれた、『プレストウコウ』

 

 その馬はまだ生まれていないが、千賀子の直感が囁いた。この子は厳しい道を辿るかもと……それは憐れみかもしれないが、後に黒鹿毛で生まれたその名は、『クライムカイザー』。

 

 そして、同様に厳しい道を辿るだけでなく、生まれる時代を間違えたのかもしれない……あと20年遅かったら、もっと……そんな思いもあって購入を決めた、その名を『ニッポーキング』

 

 

 ……正直、所有馬を増やし過ぎかな……と千賀子は思っていたりする。

 

 

 だって、もう既に千賀子は9頭も所有している。

 

 さすがに分身たちだけでは手が回らなくなるのが確定なので、今の内に冴陀等村の人を(すったもんだの末)雇い、実際に厩舎へ働きに出て技術や知識を学んでいる者がいるが……限度があるだろう。

 

 千賀子とて、手が空いた時に所有している馬のブラッシングなどを行ったりはしているが、もはや実質的に面倒を見ているのは千賀子ではない。

 

 ちょっと、そこらへんはどうなんだろう……と、思ってしまうのわけであった。

 

 

「──ただいま、本体の私! いやぁ、アメリカもドッタンバッタン大騒ぎでしたな!」

「あれ? なんか見掛けないなと思っていたら、あんたアメリカに行って──いや、中々に混沌としているわね?」

「あ、もう『同期』した? あっちはあっちで不景気らしくて、ピリピリして危なっかしいよ、ほんと」

「そんなところにわざわざ……ん? え? あんたも、馬を買ったの?」

「うん。なんか本体の私を見ていると、私も馬を買ってみたいなあって……駄目だった?」

「いや、別にいいけど……ていうか、姿消す前に、やたらと『力』を補充してってオネダリしてきたのは……!」

「はい、実はそれが狙いです! ロボ子の手を借りて、色々手続きはちょろっと誤魔化してくれました!」

「あ、そう……」

 

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 己の分身であり行動力のある3号が、気まぐれに放浪癖(?)を発揮してアメリカで馬を購入してきた……と事後報告された千賀子はもう、呆れるしかなかった。

 

 でも、文句は言えなかった。

 

 だって、己の分身だし。

 

 分身とはいえ、普段から手足のようにアレせいコレせいと命令してこき使っているわけだし、それぐらいはいいよと思ったわけである。

 

 

「……しかし、私と同じようにまだ生まれてもいない馬を、よくもまあ向こうの人は売ってくれたわね?」

「肩書はロボ子がいくらでも改ざんできますし。それに、私はほら……ベトナム戦争時の、活動していた記録とか身分もあるわけだし? 実は生きていました……ってのも、やろうと思えば簡単だよ」

「なるほど、納得したわ」

 

 

 意外なところで、意外な事が役に立つ。過去は時に、思いもよらぬ形で未来に影響を与える。

 

 それは、日本もアメリカも変わらないようだ。

 

 

「それで、馬の名前は決めてあるの?」

「ん~、まだかな。私はそういうの苦手だし、本体の私が決めてくれない?」

「えぇ……貴女が買った馬でしょ? 私が決めていいの?」

「むしろ、分身の私より、本体の私が名付けるべきでしょ。どこまでいっても私は分身だもの」

「ふむ……そういうものか」

 

 

 言われて、しばし考えた千賀子は……ティン、と浮かんだ名前を、そのまま告げた。

 

 

「じゃあ、シアトル……そうね、『シアトルスルー』にしましょう」

「おっけ~、『シアトルスルー』ね」

 

 

 それは歴史に名を残すとんでもない出来事だったが、この時の千賀子の頭には、『アメリカの馬なら、普通の馬より大きいのかな?』という程度の感想しかなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、それから少しばかり時が流れて、いよいよ迎えた第40回東京優駿(日本ダービー)だが……結果はまあ、大荒れであった。

 

 

『──欅の向こう側を通過! 第4コーナーのカーブを曲がり! ハイセイコー! ハイセイコーが上がってくる! 11連勝成るか!』

 

『──間もなく400の標識! ハイセイコーが出てくる! ハイセイコーが出てきた! ハイセイコーが凄い足で上がって来た!』

 

『──おおっと、タケホープが突っ込んできた! タケホープが上がって来た!』

 

『──内からハイセイコー! ハイセイコーは内! ハイセイコー伸びない! ハイセイコーは伸びない! ハイセイコーは足が無い!』

 

『──タケホープが伸びてくる!』 

 

『──先頭はタケホープ! ゴールまで50m! 先頭はタケホープ! 二番にイチフジイサミ! 三番にハイセイコー!』

 

『──ハイセイコーは伸びない! 先頭はタケホープ! 三番目はハイセイコー! ハイセイコーは三番! ハイセイコーは三着!!!』

 

 

 結論から言えば、ハイセイコーは負けた。

 

 単勝支持60%越えのハイセイコーが、その50分の1の支持率に留まっていた、9番人気のタケホープが、今年のダービー馬となった。

 

 

 ──その瞬間の、そう、ハイセイコーが3着に終わった、その瞬間。

 

 

 場内のどよめき、異様なざわめき、なんとも表現し難い空気を、言葉に表すのは、どんな作家でも不可能だっただろう。

 

 そしてそれは、タケホープに対しても同様であった。

 

 何故なら、本来であればカメラマンに囲まれ、惜しみない拍手で覆われているはずのタケホープと、その陣営たちの周りには……あまりにも、静かだったからだ。

 

 事情を知らない者からすれば、本当にダービー馬なのかと疑問に思うぐらいに人の数が少なく……まるで、悪い夢を見ているかのような……そんな思いで見ている者が多かったからだろうか。

 

 どうしてハイセイコーではなく、タケホープが。

 

 俺たちはハイセイコーの二冠達成を見たいがために来たのに。

 

 どうして邪魔をしたんだ、どうして買ったんだ。

 

 そんな視線が、幾重にもタケホープと、その陣営へと注がれていた。勝った者たちは胸を張っているが、この場の空気は完全にアウェーになっていた。

 

 

 ──パチパチパチ、パチパチパチ。

 

 

 そんな中で……千賀子だけが、自らタケホープ陣営の前へとやってきて、心からの拍手を送っていた。

 

 まばらに、申しわけない程度に送られる拍手の中でも、ひと際大きな千賀子の拍手は不思議と目立ち……必然的に、タケホープ陣営だけでなく、残っていたカメラが千賀子へと向けられ、マイクも向けられた。

 

 

『──ハイセイコーが3着に終わりましたが、いかがお気持ちでしょうか?』

「タケホープは強かった。2着のイチフジイサミも強かった。運を味方につけて、技術で後押しした。ただ、それだけの事です。ハイセイコーを破るに足る強い馬、それがタケホープだったし、イチフジイサミだった、ということです」

『──一部観客からは、騎乗ミスやタケホープのフロック(まぐれ勝ちの意味)だと叫んでいる者がおりますが?』

「ダービーに、フロックはありません」

 

 

 キッパリと、千賀子は言った。

 

 巫女服を着ていないけれども、その言霊には『力』が込められていたのだろう。

 

 記者だけでなく、耳を澄ませていた者たち全員が、思わず足を止め、手を止め、会話を止めたぐらいの……不思議な迫力があった。

 

 

「ですが、ハイセイコーよりタケホープが強い、そんなわけもありません。イチフジイサミに対しても、同じこと」

 

 

 そして、その迫力に比例するかのように、けして大きくはないその声は、不思議と誰しもの耳にもスルッと届いた。

 

 

「──次は、菊の舞台で。それまで、壮健あれ。いずれまた、好敵手よ」

 

 

 そして、そんな者たちを尻目に、千賀子は……それだけを言い残すと、緩やかに、それでいて力強く……ハイセイコー達を見舞うために、その場を後にしたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、その翌日。

 

 

「……なんで私が新聞に載っているの?」

「さあ?」

 

 

 顔は千賀子自身が隠しているけど、バッチリ新聞に載っていた。

 

 

「うっかりパンツとか見せたりしたっけ?」

「『同期』した感じ、そんなふうには……?」

 

 

 神社にて、不思議そうに首を傾げながらエマと戯れる千賀子と、分身たちと、生暖かい目をしているロボ子と、ニヤニヤしている女神様がいたが……まあ、ツッコミを入れる者はいなかった。

 

 

 

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