ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

141 / 259
第136話: やることが……やることが多い……!!

 

 

 

 ダービーを終えてからの千賀子の日常を一言で例えると、そんな感じであった。

 

 世間では物価上昇の主原因である商社に対して幾度となくデモが行われ、物価上昇と給料とで釣り合いが取れず、ストライキもチラホラ起こっている最中……千賀子はもう、忙しない日々を送っていた。

 

 

 まず、6月。

 

 

 ただでさえ物価高と石油代高騰によって政府のみならず一般家庭にもダメージが生じていた中で、なんと東京湾の魚介類よりPCB(あと、水銀も)の基準値を超えるモノが検出されたのである。

 

 『PCB』とは、『ポリ塩化ビフェニル』の略称である。

 

 加熱や冷却用熱媒体、電気機器の絶縁油、塗料やノンカーボン紙の溶剤など、非常に幅広い分野に利用されたモノである。

 

 このPCBは用途からして想像できるように、飲食物ではない。人体に対して毒性が強く、脂肪組織に蓄積しやすい。つまり、体外へは自然排出されにくい。

 

 また、発がん性があり、皮膚や内蔵の傷害、ホルモン異常を引き起こすので、この頃は製造・輸入・使用を原則として中止されていた。

 

 これがまあ、庶民の暮らしに大ダメージをもたらした。

 

 ただでさえ物価高で肉などを買えず、安い魚などを食べていた者たちにとって、その魚すら待ったが掛かったのだ。

 

 

 いちおう、買えないわけではない。

 

 

 ただ、一週間の摂取限度が、健康な成人男性でアジが約10匹分、サバでは約1.5匹分しかない。

 

 また、限度以下だとしても、けして安全というわけではなく。

 

 そして、大人ですらその量ならば、子供や老人にいたっては、それより少量でも中毒症状が出るというわけだ。

 

 これに対して、全国の漁業関係者が一斉蜂起し、公害対策への大規模なデモが行われた。

 

 そうなるのも、当然だ。影響を受けたのは庶民だけでなく、漁業関係者も、だ。

 

 なにせ、見た目はなんの変化もないのだ。それが、調査をして発覚してしまえばもう、魚を売りに出すことはできない。

 

 気にしない者もいるが、汚染された物を売るわけにはいかず、それで健康被害が出てしまえば、被害はもっと広がってしまう。

 

 もちろん、安全な魚も東京湾以外では普通に販売されているので、別のところから買えばよいのだが……そうなると、輸送費などが掛かって値段が上がってしまうわけだ。

 

 加えて、この頃は日本人の第二の主食みたいなものである、豆腐の値段が倍以上に跳ね上がっていた。

 

 理由は、この頃の日本もかなりの食料品をアメリカなどから輸入していたわけだが、諸事情により『大豆』の輸出が停止され、一気に値段が跳ねたのである。

 

 大豆が上がるということは、味噌&しょうゆの黄金セットの値段も上がるわけで……それを、商社が買占めて、さらに値段を釣り上げるわけだ。

 

 

 ……さすがに、この状況でさらに物価が上がるとなれば、泣きっ面に蜂どころではない。

 

 

 餓死者こそ出ていないが、明らかに以前に比べて食べられず(家系的に厳しくて)に痩せ気味になっている子供などが増えているのを前に、千賀子も……一時的に方針を変えることにした。

 

 基本的に、千賀子の方からそういう動きは取らないのだが……さすがに、限度を超えた商社のやり方に千賀子も少し怒ったのだ。

 

 なにせ、この問題は商社による買い占めがなかったら、その影響をもっと小さく抑えられたのだ。

 

 規模としては、その程度の話なのだ。その程度で終わらない状態にしたのは、共謀して値段を釣り上げた商社である。

 

 だから、いつもならば静観するだけであった千賀子も、『さすがに一線を超えたわ』と、ちょっと怒り、動いたわけである。

 

 

 ちなみに、内容は至ってシンプルだ。

 

 

 3号とロボ子の協力の下、アメリカなどにて値段が下がっている食物を個人購入し、それを道子パパへと通したり、自分の企業……うん、名前だけは厳重に厳重に隠したアレを通したりして、販売したわけである。

 

 国内の品物は片っ端から商社が買い占めている以上、外国より用意するしかない。『神社』の物資を使うのは、明日にでも大勢の餓死者が出てしまうような、そういう時ぐらいだろうか。

 

 常識的に考えたら不可能な所業だが、そこは反則の塊で構成された千賀子である。

 

 いくらアメリカ政府がそこらへんを禁止したとて、超常的な巫女ワープや、超科学力による脳筋輸送の前では、大した壁にはならなかった。

 

 

 ──Q.販売とかの許可はどうしたの? 

 

 ──A.ロボ子がちょちょいとやってくれました。

 

 

 というわけで、多少なり味覚や基準の違いによって違和感を覚える人は多かったが、それでも背に腹は代えられない以上、商品は飛ぶように売れたのであった。

 

 

 ……当然、嫌がらせはされた。

 

 

 まあ、当然である。

 

 しかし、その点について千賀子は驚かなかった。

 

 実際、あまりにもあこぎなやり方に嫌気が差した販売店などが値段を下げようとしたら、組合から外されたり、問屋から締め出しを食らったりなどされたという話を、道子から聞いていたから。

 

 それに、この頃の嫌がらせときたら、現代人の想像のはるか上を行く。

 

 なにせ、普通に裏稼業の者たちから大なり小なり(というか、鉄砲玉っぽいのも来た)されるわけだが……それは、悪手以外の何物でもなかった。

 

 なにせ、如何なる悪巧みを企んだところで、『サラスヴァティー』の権能によって、計画段階で千賀子にはバレてしまうわけで。

 

 それによって、販売を邪魔しようとする者を事前に察知し、夜中の内に大地の肥料と化した。

 

 まだ、何もやっていないのに……そう思って顔をしかめる者はいるだろうが、残念ながら、現在の千賀子は『やられる前に、やれ!』の精神である。

 

 己を殺すために相手が凶器を準備し、己を殺す計画を練っているのが分かっているのに、『まだ、何もしていないから……』なんて寝ぼけた事はしない。

 

 己にはやっていないだけで、既に彼ら彼女らはこれまで何度もやってきた、ただそれだけの事。

 

 いかな悪党とはいえ、大地に足が触れている以上は……『ククノチ』になった千賀子より逃れる術はないのだ。

 

 

 そして、直接的に千賀子を狙った者は、もっと悲惨であった。

 

 

 物理的にだろうが、社会的にだろうが、狙って動いた以上はもう、千賀子にとっては関係なかった。

 

 だって、様々な加護を持ち、撃退できるからこそ平気な顔をしていられるが、仮に千賀子が常人のまま同じ立場でいたならば、ほぼ間違いなく殺されていたから。

 

 殴られたなら、同じ力で殴り返すのが道理……なんて寝ぼけた馬鹿な考えには、到底なれないわけで。

 

 生きる事も死ぬ事も狂う事すらも許されないまま、永遠の時を『山』の一角で、誰にも知られることなく彼ら彼女らはさ迷い続けることになったのだ。

 

 どれだけ泣き叫ぼうが、どれほど命乞いをしようが、幾度となく後悔しようが、既に千賀子の中では終わった事であった。

 

 

 ……で、まあ、話を戻そう。

 

 

 そういうわけで、焼け石に水とはいえ、販売以外にも再び芋煮会を……まあ、それはアメリカ製品なので用意出来なかったので。

 

 準備こそ手間取るが、一度に大量に作れるパスタや蒸したジャガイモをメインにした、パスタ会(ほとんど、炊き出しである)を開いたのである。

 

 日数は7日間だけだが、もちろん、せっかく開くのだから、美味しく作りたいわけで。

 

 調味料も出来る限り日本のモノをということで、しょうゆ・出汁・粉末にした昆布を使った和風パスタにしたり、後はフライドポテトにしたりして、出した。

 

 この頃は、まだまだパスタもフライドポテトも物珍しい。

 

 どちらも自宅で作れるが、それは現代になってから。この頃はどちらの料理も自宅で作る物ではなく、外食する物という意識が強かった。

 

 パスタと言えば洋食屋のナポリタン、フライドポテトは憧れのマクドナルド……という人が多く、ナポリタン以外のパスタを見た事がない人も多く、思っていた以上の大盛況となり。

 

 物価上昇の影響でパートタイマーなどの雇い止めが大勢いたので、なんとか回せたが……それでも、トイレに行く暇すら惜しいぐらいに忙しなく。

 

 おかげで、千賀子もヒーヒー言いながらひたすらパスタを茹でて、味付けして、ポテトを揚げてと、終わる頃にはクタクタになったのであった。

 

 

「……あ、あの、これはなんというパスタなのでしょうか!?」

「え? 和風パスタだけど? 欲しいならレシピいる?」

「いいのですか!?」

「いいけど、その代わり条件が二つある」

「な、なんでしょうか?」

「これ、私が最初じゃないの。東京の洋食屋が最初だから、元祖とか本家とか名乗っちゃ駄目。名乗っても良いけど、その時は覚悟するように」

「は、はい」

「二つ目は、今は苦しいからできないでしょうけど、経営が良くなったら、限定10食とかでいいから時々は子供とか若者を対象に激安で提供してね」

「え?」

「育ち盛りはいっぱい食べないとだから……ちょ、どうしたの? いきなり涙なんて流して……そんな感動するような話ではないでしょう?」

「いえ、いえ、その、すみません」

「何か勘違いをしているようだけど、私は善人ではないからね。本物の善人はいちいちこんな忠告もしないから、勘違いしないように……ね?」

「はい、はい……!!」

 

(う~ん、話が通じていないな、コレ……)

 

 

 妙に涙もろい料理人の反応に千賀子は困惑しつつも。

 

 

「そうだ、貴方って資金を貯めたら店を開きたいと思っているのよね? レシピを聞くって事は、そういうことよね?」

「はい、そうですけど……それがなにか?」

「ちょうど良かったわ──ちょっと、商店街の皆様方。明日からプロ志望のこの人も働くから、色々と教えてやってちょうだいな!」

 

 

 こんなの7日間も無理だと音を上げた千賀子は、この青年にバトンタッチして、後は楽をしようと企んだのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな流れで7月……ではなく、まだ6月。

 

 そう、まだ6月である。

 

 

「あ、もしもし──はい、秋山千賀子です、お世話になっております。はい、実はですね、日曜日に開かれる高松宮杯へのハマノパレードの出走を取消しようかと……はい?」

「──いえ、なにやら嫌な予感がしまして」

「私、そういう直感を人一倍大事にしますので。調教師の先生には先ほどお電話しましたので──え? この土壇場で困る?」

「何を仰いますか、出走するかどうかを決めるのはこちらでしょうに──はあ、今後の事? 睨まれる覚悟?」

「──結構、それならそれで、こっちはこっちで勝手にやりますから──いえいえ、別にそれならそれで、良いではありませんか」

「吐いた言葉を、無かった事にはしませんよ?」

「いいえ、貴方が決めたのです。私に、そう決めさせた。今後、何を言われようが、何が起ころうが、私はその都度こう答えます」

 

「──文句は○○さんに言え、と」

 

「それに、誰も困らないじゃないですか。他にも出たい馬主さんは大勢居るのですから、そちらを繰り上げれば──人気があるから?」

「宝塚記念の優勝場が出ないと、困る?」

「……なるほど、分かりました」

「そちらの言いたい事は分かりました。では、こうしましょう」

「どうしてもハマノパレードを出したいのであれば、コースの点検をなさってください」

「──いえ、芝生全部を点検しろとは言いません。せめて、穴などが開いていたら、塞ぐぐらいはしてくださいという話です」

「そうですね、ゴール前200mぐらい……その辺りを特に念入りにお願いします。たぶん、もぐらの穴とかあると思いますから」

「……あと、これは前々から思っていたことなのですけど」

「競争中の事故などで安楽死が必要となった競争馬を、本来ならば速やかに安楽死させなければならないところを、実際は薬液を注入せず」

「──自然死させた後で、馬肉にして販売しているとお聞きしましたが……実際のところ、どうなのですか?」

 

「……嘘ですね、それ」

 

「いえ、根拠など必要がありません。貴方は、私に対して嘘を付きましたね? 誤魔化そうとてきとうな言葉を並べましたね?」

「──よろしい、分かりました」

「○○さん、貴方の事は、よく覚えておきます。いえ、ただ覚えておくだけです。貴方が良くしていただけている──議員さんのことも、よく覚えて──はい?」

「……言ったでしょう? 吐いた言葉を無かった事にはしない、と」

「私はもう覚悟をしました。全力で、私の持てる全力で、迎え撃ちましょう。なので、貴方もそうしてください」

 

「貴方の持つ全てで、私を迎え撃ってください」

 

「手加減などしません。お互いに命乞いなど必要ありません。どちらが滅びるまで、徹底的にやろうでは……どうしましたか?」

 

「──泣いていては、話が進みませんよ?」

 

「なんの覚悟もなく、そんな言葉を吐いたのですか? それは御愁傷様です。ですが、私は許しませ──どなたですか?」

「……はい、秋山千賀子です。お世話になっております」

「はい、はい、いえ、そうではなく……だって、あんまりではありませんか」

「速く走れるために脆い身体で産み落とされ、ただただ速く走る事だけを求められて、そのためだけの環境に置かれて、求められるがまま、走り抜けて」

「そうまでして命がけて走った不慮の最後が、痛みなく丁重に扱われず、肉として苦しみぬいて死を迎えるだなんて」

「あんまりでは、ありませんか」

「人のために生きる定めを背負って、人のために走って、死力を尽くして走り終えた功労者の最後を、そのように扱うのですか?」

 

「貴方達は、速く走る競走馬を作りたいのですか?」

「それとも、速く走る家畜を作りたいのですか?」

 

「もしも、速く走る競走馬を作りたいと夢見ているのであれば……その姿を私に見せてください」

 

 

 ハマノパレードの高松宮杯出走辞退に関して、少々言い合いになったりするという、尻尾までアンコが詰まっている鯛焼きのような6月であった。

 

 なお、中央競馬の人達はちゃんと千賀子との約束を守り、ゴール前どころかコース全体を超特急で見てくれたおかげで。

 

 千賀子が指摘した場所だけでなく、他にもいくつか穴や危険な窪みができているだけでなく、分かり難く芝が捲れている場所があるのを確認し。

 

 

 ──万が一、ここに足を置いたら……ましてや、競争中に踏み抜いてしまっていたら──その時は……っ! 

 

 

 と、関係者一同が肝を冷やし、気付かず競争を行っていたら、日本競馬史に汚点を残してしまっていたかもしれない事に思い至り。

 

 ……そうして迎えた本番当日。

 

 無事に事故なく高松宮杯を終えられ、口取り式を行う千賀子たちとハマノパレードを見て、関係者一同は密かに胸を撫で下ろしたのであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。