ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第140話: 長く苦しい不況が続くとされていた――だが、今は違う!(ギュッ)

 

 

 

 そう、確かに、石油価格は下がった──というか、ひとまずは落ち着いたと言っても良いだろう。

 

 千賀子が『恐怖の大王』に備えている間に、政府はちゃんと動いていた。

 

 そのおかげで、石油産出国からの制裁リストから排除された……のだが、事はそう単純ではない。

 

 もともと──石油とはまた別に、日本は極度のインフレに陥っていた。

 

 総需要削減政策は、物価上昇を抑えると共に、止まる気配がなかったインフレを止める目的もあったわけ……なのだが、しかし。

 

 

「残念だけど、相当に酷い有様よ、本体の私。冴陀等村はもうほとんど完全に独立というか、自己完結しているし物資はずっと前から準備していたからダメージは少ないけど……」

「……けど?」

「冴陀等村に来る客層が明らかに変わったらしいのよ。前は商社の人達が多かったらしいけど、今年に入ってからは、砂糖会社や問屋とかも来るようになったって」

「……? なんで?」

「売り惜しみや値の吊り上げで儲けたところも多いってことよ。明日のご飯代すら困る家もあれば、ボーナスが例年の倍以上になったところもあるって話ね」

「うぉぉ……せ、世知辛い……」

 

 

 当初より懸念されていた、インフレ対策という名の引き締め……仕方がないとはいえ、その副作用が表に出始めていた。

 

 そう、1973年のオイルショックから数ヶ月の時間が経過し、その対応によって日本全体が不可逆的なダメージを受けていた。

 

 物価高の影響で大勢の人達が雇い止めにあったり、あるいは食っていけないと離職する者が続出したり、雇用状況は落下するように悪化した。

 

 その中でも、真っ先に割りを食ったのは、パートやアルバイトといった雇用形態だった主婦層である。

 

 元々、毎年のように物価が上昇していたせいで雇い止めにあうパートタイマーは多かったが、この引き締めによって風船が破裂したかのように、一気に職を失った主婦は多かった。

 

 また、職を失ったのは主婦層だけではない。

 

 子供向けの玩具を販売している会社を始めとした、小さな町工場は次々に苦境に立たされ、連日大勢の経営者が融資を受けようと銀行や役所へと訪れた。

 

 

 ……残念ながら、国が出来ることはほとんどなかったけれども。

 

 

 相談しても、国からの支援を受けられたのは全体から見て本当にごくわずかであり、零細中小企業の倒産件数は右肩上がりに急上昇し続けた。

 

 そうして、市場には失業者があふれ続けた……そして、職を失ったからといって、次の職があるわけでもない。

 

 なにせ、職を生み出す企業がどんどん倒産していくのだ。

 

 そのうえ、持ちこたえている企業も、抱えている従業員を守るのが精いっぱい……とてもではないが、新しい人を雇う余裕などなかった。

 

 

 ……が、その中でも、儲かった者たちはいた。

 

 

 客観的に見たら、そうなる。

 

 本当に国全体から一斉に金銭が消失したとかならともかく、不況というのはどれだけ規模が大きくなろうとも、結局はどこかに貯まって流れが滞っている。

 

 実際、オイルショックの最中でも砂糖会社のように、業績が跳ね上がって例年の倍以上のボーナスが出されたところも相応にあった。

 

 まあ、コレに関しては、売り上げが好調だったというよりは、買占めする商社や商店がグルになって値段を吊り上げた結果なので、同じ枠に入れても良いかは微妙だが……まあ、それは横に置いといて。

 

 とにかく、雇用状況は一気に悪くなったけど、国民総貧乏になったわけではないし、生活が苦しくなったとは言いつつ余暇に旅行に行ける余裕がある家も相当数あった。

 

 つまり、客観的かつ残酷な事実を改めて述べるならば、だ。

 

 有るところには有って、無いところはとにかく無い。有る家がシュシュシューンと右肩下がりになって、無い家がグググーンと右肩上がりに増えただけだった。

 

 

「牧場関係も、相当にダメージを受けているね。北海道の方でも、各自治体への予算が相当に減らされたみたいで、公共事業が片っ端から中止されて……いやあ、失業者が凄いっす」

「そんなに?」

「景気の良し悪しと畜産も、かなり親密な間柄だから……1食分の肉と、2日分の米、どちらを同じ値段で買うかと言われたら、今は7割が米を買うしか選択肢が無いって状況だし」

「えぇ……それ、大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないから、自転車操業みたいになっていたところは夜逃げしたり、身体を売りに来る人で飽和状態になったり、ちらほら首をくくっているところが続出しているよ」

「うぉぉ……」

「このタイミングで、本体の私が体調不良になっているとか、そりゃあもう……ここだけの話、秋山さんの体調が良くなりますようにって神棚に何度もお願いしているところもあったよ」

「すまぬ……まさか、そこまでになるとは……」

 

 

 北海道の方も、似たような状況であった。

 

 いや、北海道に限らず、地方はどこも似たようなモノだ。

 

 なにせ、それ以前から地方には仕事がないから出稼ぎに出てくる人が多く、都市部の人口過密具合をなんとかしようと歴代総理や都知事が頭を悩ませていたのだから、お察しである。

 

 

「春木競馬場も世間の動きに合わせて開催日数を減らしましたが……こちらに関しては財源が『賽銭箱』なので、資金面での心配はありませんが……」

「……ありませんが、なに?」

「マスターは、関係者に『体調不良のため静養します』とお伝えするよう指示を出しましたね?」

「出したね、うん」

「競馬関係者からは、『秋山オーナーの体調は大丈夫か?』、『このタイミングでもしもの事があったら……』といった具合で、相当なレベルで不安視、あるいは注意が向けられているのが確認されました」

「……あ~、うん」

「穂高部屋の方も、分身様たちと同じ感じですかね。他には、マスターの体調次第では『春木競馬場』がどうなるかという話が、チラホラ世間話になっているといった感じでしょうか」

「すまぬ……すまぬ……」

「あと、『このような時期に競馬場を開催するのは如何なものか?』といった感じで、また声を上げている者たちが出てきてますね」

「また? え、また?」

「実績を作りたいのでしょう。体調不良で表に出て来られないうちに……といった感じでしょうか。早めに顔を出しておくほうが良いかと思います」

「う~ん、分かった、早いうちに顔を出すよ」

「あと、他には……それと、世界情勢ですけれども……」

 

 

 そうして、最後にロボ子より様々な話を聞いた千賀子は……思っていた以上の悪い状況に、思わず唸った。

 

 

 ……『神社』の中は、一年を通して常に快適な空間である。

 

 東京のような排気ガスやら工場からの煙の臭いが一切せず、緩やかで穏やかな緑の空気に満たされた、清浄な空間である。

 

 それ故に、ここに閉じこもっていると外界との感覚にズレが生じてくる。

 

 例えるなら、世界の常識と日本の常識といった感じか……まあ、それは置いといて。

 

 

「……気に入らない」

 

 

 じっくりと、頭の中で話を整理していた千賀子は……沸々と胸中より湧いてくる怒りに、むっちりスベスベな己の太ももを叩いた。

 

 

「気に入らないって、なにが?」

「石油の件とか、その他いっぱい! あいつら、それをしたらどうなるか分かったうえでやりやがった!」

 

 

 いったい何が気に入らないのか……2号の問い掛けに、千賀子は吐き捨てるように答えた。

 

 

「そんなの、売る側の自由でしょ。資源産出国は他国のために存在しているわけじゃないし、商社だって同じよ」

「それは分かっている!」

「分かっているなら、怒るのは筋違いよ。かの国は使える武器を使ったし、かの会社は使える戦略を取った、ただ、それだけの事でしょう」

 

 

 対して、2号はあくまでも冷静かつ客観的に答え……しかし、千賀子はそんな正論を前に、キッパリと告げた。

 

 

「──そう、武器を使ったし、戦略を取った。武器も戦略も、必ずしも直接的に傷付けるモノが全てではない」

「本体の私?」

「向こうは自分たちが勝つために、こっちを巻き込んだ。その結果、こっちは傷を負った。深手の傷だ!」

 

 

 おもむろに、千賀子は立ち上がる……自然と、この場の視線が千賀子へと一度に集まった。

 

 

「私は、たまたま巻き込まれない位置にいただけ。だとしても、受けた以上は反撃するのが道理……そうでしょう?」

 

 

 その言葉に、分身たちは……そう、『同期』でその内心を瞬時に把握し合うことができる分身たちは……千賀子のやろうとしていることに、目を見開いた。

 

 なんで驚いているのかって、千賀子がこれからやろうとしていること……それは、千賀子自身が嫌がっていたことだからだ。

 

 身内の危機というわけでもなく、そうしなければ千賀子自身が危機的状況に陥るというわけでもない。

 

 それなのに、どうして……分身たちが驚くのも、無理はなかった。

 

 

「……本気?」

「ええ、本気よ」

「本体の私がそこまでする必要なんて、あると思わないのだけど?」

「別に、正義感とかそんな話じゃないわ。1から10まで、自分の都合だから」

「……『恐怖の大王』?」

「それもあるわ。でも、それだけじゃない」

 

 

 いちおう、理由はあるのだ。

 

 この状況を放置しておくと、また『恐怖の大王』が発生してしまう可能性は高い。

 

 感覚があるならともかく、これが短期間で連続すると……その分だけ、敗北する可能性が高くなる。

 

 だから、それを抑えるために、その対策としてやろうとしている……というのはまあ、分かるわけなのだが。

 

 

「やられたから、やりかえしたいだけの話よ、これはね」

 

 

 結局のところ、千賀子を怒らせた理由は、ソレであった。

 

 

 ……客観的に見たら、千賀子の言い分はあまりに身勝手なのだろう。

 

 なにせ、痛くなければほとんどの人は覚えない、果てを想像せず欲望に突っ走ったのは国民も同じ、そもそも己が面倒を見て助けるというのは違う。

 

 そういった思いから、基本的には静観に徹していたのは千賀子である。

 

 千賀子なりの基準があったとはいえ、被害を度外視して動けば避けられた可能性はある……その可能性を選ばなかったのは、千賀子自身だ。

 

 それを、千賀子は否定しない。そして、恥じるつもりもない。

 

 何故なら、己はそのために生まれてきたわけではないのだから……それに、もしかしたら……そう、もしかしたらと、千賀子は心のどこかで思っていたのかもしれない。

 

 どこかで、『これ以上は止めよう』とか、『ここを踏み越えてはならない』という、良心が件の人達の心の内から出てくるのを。

 

 

 ──けれども、結果はそうならなかった。

 

 

 原油産出国の者たちは欠片の良心も痛んではいなかったし、むしろ、今回の件で膨大なオイルマネーを手にして、巨万の富を得た事を誇らし気にしている。

 

 商社や商店の者たちだって、同様だ。

 

 商売上仕方ないなんて言ってはいるが、グルになって値段を吊り上げていたのは間違いない。物価高を引き起こした一端は、間違いなくそういった者たちにある。

 

 

 ──もちろん、彼ら彼女らが特別悪い人間とは思わない。

 

 

 仮に弱者として苦しい生活をしている者たちと立場が逆転したら、結果はどうなっていたか……おそらく、大して変わらないだろう。

 

 弱者が必ずしも善人なわけがない。反対に、強者が必ずしも悪人というわけでもない。

 

 ただ、弱肉強食という万物の掟によって、勝敗が決しただけ。そう、それだけの話でしかなかった。

 

 

「そう! 高笑いしているアイツらの横っ面をひっぱたいてやりたい! ただ、それだけ!」

 

 

 けれども、それはそれとして、千賀子はカチンときてしまったのである。

 

 

「怒るのはわかるけど……」

「それに、一度やった。既に一度やってしまったのよ、向こうは!」

 

 

 呆れた様子の分身たちに、千賀子はふんすと鼻息を荒く吹いた。

 

 

「一度やれば、二度、三度、四度、事あるごとにやってくる。やったか、やっていないか、その差はとても大きい……そうでしょう、ロボ子?」

 

 

 尋ねられたロボ子は、はっきりと頷いた。

 

 

「非常に有用な効果が出たので、次からは明確に脅しの材料として使ってくる可能性が極めて高いと思います。もちろん、向こうもそれはそれでリスクがあるので、多用はしないでしょうが……」

「ほら、ロボ子だって……分身の貴女たちだって、内心では似たような事を危惧しているでしょ?」

「そりゃあ、そうだけど……」

 

 

 それでも、分身たちが賛成せず言いよどむ……そう、千賀子がやろうとしていることは……例の施設を使おうとしているからで。

 

 

「味方にならないなら資源は売らない。足元を見て値段を吊り上げる。だったら、売らなくてけっこう! 値段も吊り上げてけっこう! そっちがそう来るなら、こっちもやりかえす──これは、私個人の矜持の問題だ!」

「矜持って……」

「向こうが資源を武器に使うのであれば、こっちも資源でやりかえす! ナメてきた相手は、全力で殴り返す──ただ、それだけ!」

「……そのために、処女を捨てるつもり?」

「処女がなんだ! 女にとって、処女ってのは期間限定の武器! 後生大事に守っている女なんて絶滅危惧種でしょ」

「中々言うわね、本体の私……」

「前世の話とはいえ、元男だからね。男の方がよっぽどロマンチストだよ、女になって、つくづく思い知ったわ」

 

 

 ちょっとばかり呆れた様子の分身たちに、千賀子はフンスと胸を張ったのであった。

 

 そう、この瞬間。

 

 千賀子は例の……様々な資源がガッポリ手に入るけど代償もある『スタンド』を使うのを、この瞬間決めたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、しかし。

 

 

「──マスター、例の施設を使うのは構わないのですが、せめて準備を終えてからにしてください」

「準備って?」

「資源を出したって、保存するための容器とか、保管しておく倉庫とか、売るための偽装工作とか、事前のリハーサルとか、さすがに行き当たりばったり過ぎます」

「…………」

「それに、完治したとはいえ、病み上がりみたいなもの。せめて、もう少し経過観察を終えてからにしてほしいと、主治医的な立場だった私は思うわけです、はい」

「……ごめん」

 

 

 出だしから転びかけたのは、実に千賀子らしい話でもあった。

 

 

 

 

 








※ 次回より、鍋底景気(浮上)行け行けゴーゴー編、です
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