ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第143話: 〇〇「ま、まさか、本人とは思わないじゃないですか!? 言ってくださいよ!?」

 

 

 

 さて、大学への面会は、お互いの都合が付いてからとして……いや、だって、入学式が終わってまだ一ヶ月かそこらだし……で、だ。

 

 

 

『千賀子春蘭賞:3歳以上 ダート1500m(左)』、である。

 

 本賞金:1着3500万円/2着2700万円/3着2000万円/4着1200万円/5着500万円

 

 付加賞:1着500万円/2着300万円/3着150万円/4着70万円/5着20万円/その他、出走奨励金や出走手当・計400万円

 

 

 こいつ、前回の『千賀子特別記念』から学習してねえぞ……おそらく、そう思う者は多いだろうが、待ってほしい。

 

 千賀子はちゃんと、考えたのだ。

 

 あんまり高くするのは良くないぞ、と。もう少し値段を下げた良いのでは、そう分身たちから忠告されたのだ。

 

 だから、千賀子は考えた。

 

 

 考えた結果──こう、千賀子は思った。

 

 

 物価狂乱は治まったけど、以前として物価高の解消にまでは至っていないし、賞金額を増やさないと……と。

 

 前回の『千賀子特別記念』にはなかった『付加賞』が付け足されているのも、そういった考えからである。

 

 ちなみに、本来の『付加賞』は賞金額の割合がちゃんと定められていて、順位に応じて増減される。

 

 が、しかし、千賀子の場合は『賽銭箱』から出すし、前提として春木競馬を運営している自身なので、別に割合に拘る必要性はない。

 

 必要性がないのに、わざわざ頭を使う意味があるのだろうか……いや、面倒だし、てけとーで良いだろというのが千賀子の基本的な考えである。

 

 そうなると、やっぱり学習してねえじゃんと言われたらそれまでだが、千賀子なりに考えた結果がそれなので、ご容赦願いたい。

 

 そして、分身たちからの呆れた眼差しを他所に、長らく心配を掛けたのだからと、千賀子はもう一つ新たにレースを開催することにした。

 

 

『春木大障害:3歳以上 ダート3400m(障害)』、である。

 

 本賞金:1着2000万円/2着1500万円/3着1000万円/4着530万円/5着300万円

 

 付加賞:1着500万円/2着300万円/3着100万円/4着50万円/5着10万円/その他、出走奨励金や出走手当・計280万円

 

 

 こいつ、やっぱり何も考えてないのでは……そう思われる人が増えたかもしれないが、ちょっと待ってほしい。

 

 ちゃんと、千賀子は考えたわけである。

 

 

 ……なにをって? 

 

 

 もちろん、障害物競争のやり方である。

 

 何故ならば、春木競馬場は地方競馬の中ではけっこう広く、障害物競走が行えるようコースまで用意されているのだが……いかんせん、中央競馬と比べると、狭い。

 

 障害物競走は通常の競争に比べて距離が長く、皆様ご存じのとおり、『中山大障害』というレースにいたっては、なんと4100mもあるわけだ。

 

 

 なぜ、そこまで長いのか……理由はもちろんある。

 

 

 一つ、障害物を飛び越えるというレースの性質上、どうしても助走のための距離が必要となり、その分だけ距離が伸びてしまうから。

 

 二つ、障害物を飛び越える際、速度が出過ぎていると非常に危険なので、一旦減速させて、安全な速度に落としてから飛び越える必要性があること。

 

 三つ、安全な加速と減速を行うために、どうしても距離を伸ばす必要がある。そのため、通常の競争では長距離の範疇に入る長さでも、障害物においては必要……と、いうわけだ。

 

 

 しかし、春木競馬場は中央競馬上に比べて小さい……そこで、千賀子は無い頭を使って考えた。

 

 

 より安全に飛べるよう、『障害物と接触した際は、タイムを+5秒する』という独自のルールを設けた。

 

 これは、力技でなぎ倒して行くのではなく、いかに美しく障害を飛び越えるか……という名目で、より馬の速度を落とし、事故を起こさせないためで……ん? 

 

 

 賞金額の話、だって? 

 

 

 大丈夫、千賀子はちゃんと中山大障害の賞金を見て、1着より金額が低いからええやろ……と、安易に決めたから。

 

 なお、たしかに1着の額は低いけど、総合的に見たら明らかに中山大障害よりも高いということに千賀子は気付いていなかったが……誰も、そこにツッコまなかった。

 

 

 そんなわけで、だ。

 

 

 さっそく、千賀子は春木競馬場にて2回目となる特別レース(春蘭賞と、大障害)の開催を決め、春木競馬場にて告知した──わけなのだが。

 

 

「後で掲示板への張り出しを行いますが、居合わせた皆様方には先に、お知らせしておきましょう」

 

 

 久しぶりにちゃんと顔見せに来た千賀子に、居合わせた競馬関係者が次々に挨拶に来る。

 

 そこには立場の違いもなく、馬主や調教師はもちろんのこと、騎手や職員……果ては、居合わせたお客さんからも、『元気になって安心しました!』と来たぐらいなのだから、如何に不安を与えていたかが伺えるだろう。

 

 

 だが、しかし……騒動は、その後に起こった。

 

 

 その日、その時、その場に居た者たちの衝撃は、おそらく言葉では言い表せられないぐらいのモノだっただろう。

 

 

「5月末に、『第1回千賀子春蘭賞』を。その次に、『第1回春木大障害』を開催致します。出走希望の方は、受付の方へ申し込みをしてくださいな、後々にて抽選を行いますので」

 

 

 何故ならば、何気なく……本当に何気なく、新しくレースを開催するから参加したい人は参加してね~、と、実に軽い調子で告げたのである。

 

 その瞬間に起こった──全てが凍りついたかのような、まるで申し合わせたかのように揃った沈黙。

 

 今しがたまで笑顔を浮かべていた者も、涙ぐんでいた者も、安堵の溜め息を零していた者も、1人の例外もなく動きを止め、まん丸に見開かれた目で千賀子を見つめた。

 

 

「あ、こちらが当日のレース内容になっております。あくまでも簡易なモノなので、後日正式なモノが掲示板に張り出される予定ですので」

 

 

 その言葉と共に、はいっと差し出された一枚の紙……たまたま正面に居た人が、ほとんど反射的に受け取り……無言のままに、視線を向ける。

 

 それは、彼だけではない。

 

 傍に居た誰もが、無言のままに……それでいて、どこか目を千葉らせながら、少しでもハッキリ見ようと、ぎゅうぎゅうにひと塊になり……そして。

 

 

「……春蘭賞、1着……さ、3、3500万……!!!」

 

 

 ポツリ、と。

 

 紙を受け取った男よりこぼれた、思わずといった言葉に──ギクリ、と、誰もが稲妻に撃たれたかのように総身を硬直させた。

 

 

「……しょ、障害レース……1着……2000万円っ!?!?!?!?」

 

 

 そして、その次に呟かれたその言葉に──バッと、誰しもが、申し合わせたかのように一斉に走り出し──いや、違う。

 

 

「お、おい、○○さんに急いで連絡しろ! 5月末にとんでもねえレースが開かれるぞ!!」

「××っ!! 今すぐひとっ走りで電話ボックスに行け! テキ(調教師のこと)に話入れてくるんだ! 賞金3000万越えのビッグレースだ!!!」

「ちっくしょおお~~~!!!! どうしてこういう時に限って、怪我をしちまったんだよ~~!!!!」

「△△さん! たしか、そっちの方で障害レース用の競走馬がいました──あ、ちょっと、こら、逃げるな、譲るって話だっただろ!!」

 

 

 中には、事情を知らない身内(あるいは、関係者に)に、それはもう死にもの狂いで説明しつつ、あるいは取っ組み合いになりかけている者もいた。

 

 これも、鉄火場と揶揄される競馬の宿命か……いや、だいたい千賀子が悪いだけか。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 

 基本的に……というか、常識的に考えて、地方競馬は賞金額が安い。単純に、国と地方自治体という、スポンサーの資金力が桁違いだからだ。

 

 中央競馬は資金力が桁違いゆえに、多少なり赤字になろうがビクともしない。対して、地方競馬は自治体の予算がダイレクトに反映するので、ピンキリ。

 

 大盛況かつ最上級の地方競馬ともなれば、中央競馬にも勝るとも劣らない賞金額が設定されたりする反面。

 

 累積赤字が積み重なって廃止直前の地方競馬(この場合、最下級)になると、1着賞金がたった十数万円……という話があるぐらいにシビアな世界なのだ。

 

 そんな中で、地方競馬でありながら、中央競馬の中でも最上位に匹敵するような金額を設定したら、どうなるか。

 

 

 答えは……目の色を変えて、死にもの狂いで出走させようとする、である。

 

 

 なにせ、千賀子は気付いていないが、千賀子がこれまで開催した新レースは全て、出走するだけで他の地方レースの掲示板入りを果たしたぐらいの報奨金が出るのだ。

 

 また、それだけではない。

 

 『春木競馬場』は千賀子が惜しみなく資金を注いでコースの整備をしたり、古くなった設備を改装したりしているので、どこもかしこも綺麗で、とても使い勝手が良くなっている。

 

 直接的な関係はないにしても、やはり、汚く古い施設よりも、綺麗で新しい施設の方が、精神的にも気持ちが良いものだ。

 

 関係者の中には、『俺たちはこんな綺麗な競馬場へ、鍛えた馬を出走できたんだぜ!』と密かに自慢に思っている者もいるらしく……そんなわけもあり、大騒動になってしまうのは当然の結果であった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、その2日後。

 

 

「お願いします、このとおりです! どうか、交流戦を、地方交流にしてください!!!」

「後生です! お願いします! このままだと、うちもどうなるか──!!!」

「このとおり! このとおり! このとお~り!!!!」

 

 

 そういえば前回の時にもそんな話をされていた事をすっかり忘れていた千賀子の下に。

 

 それはもう血相を変えた大勢の競馬関係者が、春木競馬場に押し掛けてくるという珍事が発生したが……まあ、これに関しては千賀子が悪いのであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、騒動は春木競馬場に限った話でもなかった。

 

 

 場所は、北海道。行き先は、『北海道大学』である。

 

 現在より約50年後の未来では、国内ランクトップ10に入るほどの難易度を誇り、後の有名人を大勢輩出した大学だ。

 

 そこに、千賀子は向かっており……来客用の受付前に、到着した。

 

 面会予約を取ったのでなかったのか……そう思う人は多いだろうが、まあ、よくある話というか、千賀子とロボ子の対応が悪かった。

 

 どうしてかと言うと、寄付を行うための連絡をロボ子が取ろうとした際に、千賀子はロボ子に言ったのだ。

 

 

 ──『派手にならないよう、こっそり寄付したい』、と。

 

 

 千賀子は別に有名人になりたいわけでもないし、感謝されたいわけでもない。

 

 ただ、数十年後、今と変わらずエマがうなぎを食べられるような、そんな未来のために寄付をしたいだけだ。

 

 だから、問題がなければ匿名希望でも良かったし、偽名を使っても良かったし、なんならこっそりお金だけ置いておく……というのでも良かった。

 

 

「それはそれで、発覚すると大問題になりますので止めましょう」

「そう?」

「寄付者が不明ですと、私が寄付したという自称寄付者が殺到しますから」

「ああ、そういう……」

 

 

 しかし、ロボ子からハッキリと首を横に振られた千賀子は諦めた。けれども、千賀子の要望を聞いたロボ子は、そのように動いたのだ。

 

 

『──あ、もしもし、北海道大学ですか?』

『──実はそちらの大学へ寄付を行いたいのですが……』

『──はい、はい、平日の受付に……あ、申しわけありません』

『──名乗るのが遅れました、秋山と申します』

『──はい、分かりました』

 

 

 と、いう会話と共に通話を切ったロボ子は。

 

 

「地図をお渡しします。15時までに受け付けに向かえば、後は向こうがやってくれるそうです」

「ありがとう、こんな雑用までやってもらって」

「いえ、むしろ、こういう雑事をやらせてこそ、なのです」

 

 

 そう、千賀子に話したのであった。

 

 そして、千賀子も特に疑問を覚えなかった。

 

 まあ、それも致し方ない。

 

 寄付をした事はあるけど、大学というお堅い組織に寄付した経験はなかったし、金額もずっと少額だったから。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………と、まあ、そんな経緯から、ロボ子の指示通り受付にやってきたわけで。千賀子が「寄付の件で……」と促せば、既に連絡済のようで、対応も実にスムーズだった。

 

 

 現代ならば銀行口座だったり、コンビニ振込だったり、ネットバンキングだったり、色々と違いはあるが、この頃は銀行ぐらいしかない。

 

 別に銀行口座への寄付でも良かったらしいが、場合によっては銀行や警察から調査が入る可能性もあるので、良し悪しがある……という雑談の後で。

 

 で、寄付だが、色々と違いがあるらしい。

 

 現金での寄付はOK、小切手による寄付もOK。年齢氏名に住所にその他諸々を記載し、領収書の有無なども……終わってから、受付に渡すわけだが。

 

 

「書き終わりました」

「頂戴いたします。それでは…………えっ?」

 

 

 清楚な雰囲気の初老女性から飛び出した、野太い声。たまたま通りがかった学生がギョッと驚いて足を止めている中で……受付の女性は、うっすらと額に汗を滲ませながら……おそるおそる、千賀子へと視線を向けた。

 

 

「あの、これ、金額をお間違えでは……ないですか?」

「え? そんなはずは……なんだ、合っていますよ、これで」

「……あの、本当に?」

「本当ですってば」

「……き、金額が……あの、20億と……」

「今回はそれで、また寄付しに来ますので」

 

 

 その瞬間、後ろの学生がブフッと唾を噴いて、後ずさった。

 

 それは学生だけでなく、室内の奥にいた他の職員たちも、思わず手を止めて千賀子を凝視するぐらいの……っと。

 

 

「──す、すみません! 不躾とは存じますが、秋山千賀子さんでしょうか!?」

 

 

 たまたま……そう、本当にたまたま近くを通った大学総長の呼びかけに、おやっと首を傾げながらも、振り返った千賀子は素直に頷いた。

 

 

「──っ!? す、すみません! どうやら手違いがあったようでして、その、どうぞこちらへ──!!!!」

 

 

 途端、総長はさらに顔色を変えて……それで、色々と察した千賀子は、誤魔化す意味で笑みを浮かべると、首を横に振った。

 

 

「御気になさらず、私も言葉足らずでしたから。それに、私は寄付をしに来ただけですので」

「で、ですが……」

「頭を上げてください。ただ金をばら撒く私より、未来を見据えて動いている貴方達の方が、私よりよほど御立派なのですから」

 

 

 それは、間違いなく千賀子の本心であった。

 

 女神様の寵愛を右から左に流しているだけの己よりも、だ。

 

 何年も何年も勉強と研究を重ねて、食の未来を、水産の未来を、人々の未来を見据えて動いている彼ら彼女らの方が、はるかに人間として格上だと本気で思っていた。

 

 

「それでは、ごきげんよう」

 

 

 だから、己が接待を受けるなんぞもっての外だという意識もあって、千賀子は……用件はもう済んだと言わんばかりに、唖然とする彼ら彼女らを尻目に、颯爽とその場を後にしたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、5分後。

 

 

 受付前にて、大学の広大な敷地すべてに届けんばかりの叫び声が響き渡るのだが、当の千賀子は、お土産は何をしようかな……と、暢気に考えていたのであった。

 

 

 

 

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