ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第146話: 医者「ゆっくり、静養した方がいいよ」秘書「はい……」

 

 

 ──さて、オカルトがどうとか話したが、実は1974年という年は、現代では伝説的な人物が表舞台に立ち、あるいは作品が生まれた年でもある。

 

 

 たとえば、日本人なら名前すら知らないなんて者はいないぐらい有名なアニメ、『アルプスの少女ハイジ』を始めとして。

 

 壮大なスケールで描かれた『宇宙戦艦ヤマト』や、当時の女の子たちの心をわしづかみにした『魔女っ子メグちゃん』。

 

 ロボットが合体して変形するという、合体ロボアニメの先駆けとなり、大きな影響を与えた『ゲッターロボ』。

 

 そして、不死鳥のように現代に復活し、その面白さを人々に叩きつけ、『キチ○イレコード』や、『頭の中に爆弾が!』といった伝説的なミームを生み出した『チャージマン研!』が放送されたのも、この年である。

 

 ただ、『チャージマン研!』の放送時期は1973年という説もあるらしいが、そんなの気にするのはジュラル星人だけなので……で、だ。

 

 アニメ以外となれば、日本を代表する伝説的なコメディアンと聞けば、だいたいの人がその名を思い浮かべるかもしれない『志村けん』が、ザ・ドリフターズの正式なメンバーとして加入した年でもある。

 

 

 なお、その名は千賀子の前世の話である。

 

 

 この世界では『清村軒』という芸名であり、ラーメン屋のおかもちを片手に登場するというのがお約束みたいに……話を少し戻そう。

 

 けっこう知られていないが、『志村けん』は元々ドリフターズの正式なメンバーではなく、見習いあるいは付き人という立ち位置にいた。

 

 しかし、当時のメンバーの一人が体力の限界(身体がもたない、という理由だったとか)で芸能界から引退した際に、だ。

 

 新たに誰を入れるかという話になった時、『志村が居るじゃないか! あいつにしよう!』とメンバーから推され、正式にドリフターズ入りした……というのが、始まりである。

 

 この『志村けん』が加入したことで、後々にも残るコントが生まれたり、お約束といったモノが生まれたり、コントの幅が広がったと言われたり、言われなかったり。

 

 平均視聴率が25%越えになる伝説的なバラエティコント番組、『8時だョ! 全員集合』の影響を受けて、ドリフターズの真似をする子供が急増し、PTAが騒いだという話もあったりする。

 

 

 ……ほかにも有名なのが、『ベルサイユのばら』だろうか。

 

 

 現代では、宝塚と聞けばベルサイユのばら、ベルサイユのばらと聞けば宝塚、そう答えるぐらいに有名だが、実は演劇が始まったのは、この年からである。

 

 当時も今と変わらず、演劇にすることにファンから強い反発の声が上がったけれど、結果は大成功。

 

 あっという間にチケットはプレミアが付き、後にファンクラブが生まれ、世代を超えて親しまれるモノとなった。

 

 

 あ、そうそう。

 

 

 演劇とは違うが、官能ドラマ系(?)映画の金字塔とも言える『エマニエル夫人』が日本で放映されたのも、この年である。

 

 この映画は当時の日本人たちの度肝を抜いたぐらいの映画なのだが、一つばかり面白い話がある。

 

 それは、この映画は男性たちに大人気だった……という話がとても広まっているが、実はそれだけではない。

 

 女性人気もまた、凄まじかったのだ。

 

 映画館によっては客の8割が女性で男が入り辛いという証言が出ているのが確認されてなのだから、いかにこの映画が人々を引き付けたのかが窺い知れるというものだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな年の中で、11月末。

 

 その日、物価高騰からオイルショックに続き、『田中総理の金脈問題』と呼ばれた政治的スキャンダルによって、連日のように騒がれていた国会にて……一つの結論が出された。

 

 

 ──田中角英総理、続投! である。

 

 

 これには当然ながら国会が紛糾し、それはもう怒声に罵声にと酷いモノだったが……しかしながら、支持率こそ下がってはいるものの、国民たちの間では、そこまで口汚く罵る者は少なかった。

 

 いや、正確には、とある人物の前世に比べて、の話であるが……まあ、それは置いといて。

 

 

 いったいどうしてそうなったのか……その前に、『金脈問題』についてサラッと説明しておこう。

 

 

 田中総理の金脈問題を簡単にまとめると、要は土地のインサイダーみたいなものである。

 

 買い取った土地の不可思議な高騰によって、一気に価格が数百億円にまで跳ね上がった……つまり、膨大な差額を田中総理は得たわけだ。

 

 それは田中総理が裏で仕組んだことなのでは……というのが『金脈問題』の大まかな内容である。

 

 田中総理を始めとして側近たちも関与しているのではというスキャンダル報道がなされたことで、連日のように追及されていたのだが……で、だ。

 

 話を戻すが、どうして田中総理の好感度がそこまで下がっていないのかと言うと……もう、この際だから結論から言おう。

 

 

 ──ぶっちゃけてしまうと、千賀子が原因である。

 

 

 まあ、なんというか、これは時代的な話なのだが……現代よりも、この頃はまだけっこう大人同士で政治の会話をしたりする空気があった。

 

 もちろん、所かまわず行うといったわけではない。

 

 ただ、毎年のように暮らしが変わり続けていた高度経済成長期を経て、業種によっては政治の影響をもろに受けることを、この頃の国民は身に浸みて理解していた。

 

 なので、公的な場でなく、ちょっとした集まりの時などには○○業界がどうとか、××のところで開発が進んでいるとか、△△はもう廃れていくとか、そういう話がちらほらあったりした。

 

 そんな場で……何気なく、『政治』に関して尋ねられることがちらほらあった千賀子は、特に気負うことなくこう答えていた。

 

 

 

 ──田中総理は、とても不運な時に総理になってしまったわね、と。

 

 

 

 そして、そう千賀子が言えば……当たり前の話だが、どういう意味だろうと周りは気にするわけだ。

 

 これに関して、ちょっと想像してみてほしい。

 

 

 客観的に見た、『秋山千賀子』という女性の立場や評価を。

 

 

 まず、秋山千賀子という女は、よくある一般家庭の子供の1人として生まれた。

 

 恵まれた家系や血筋があるわけでもなく、両親が知る人ぞ知る……みたいに一目置かれた才覚の持ち主でもない。

 

 そんな彼女が、柔らかい発想力と決断力、超人的な直感によって財を成し、人脈を作り、日本史上初の競馬場個人オーナーになったばかりか、様々な業界にも顔が利くほどの立場になった。

 

 そのうえ、それで態度が大きくなるわけでもなく、足元を見て王様気取りになるわけでもなく、立場の低い人にも目線を合わせて接してくれるのだ。

 

 客観的に見たら、庶民の子が己の才覚と実力で金持ちやお偉方を黙らせ、のし上がり、下剋上を体現してからも、態度を変えることがなかった人物である。

 

 しかも、競馬場に関しては、役所の御威光に対して真っ向から反対し、勝利したばかりか、以前よりもずっと待遇その他諸々を良くしたのだ。

 

 勧善懲悪というのとは少し違うが、権力者と真っ向から戦って勝利する……という話は、日本人に限らず、昔から好まれた話であり。

 

 

 そんな、生きた偉人とも言えるような人物が、だ。

 

 

 世間的には……少なくとも、身の回りの誰もが『期待外れ』といった感じで悪い批評ばかりが目立ってきていた総理を、同じように責めるわけでもなく、同情するような事を言ったのだ。

 

 そりゃあもう、興味を持たれて当たり前である。

 

 いったい、彼女はどういう視点で『庶民首相(当時の、田中総理のあだ名)』を見ているのか……っと。

 

 

『だって、ようやく首相になったかと思えば企業が足を引っ張って、中東の石油産出国が足を引っ張って、そのうえで当の庶民が足を引っ張ったのよ。不運以外の何物でもないでしょ』

 

 

 なので、意を決した一人が尋ねてみれば、やはり、この場の誰とも違う視点で物事を見ていたことがわかった。

 

 

『欲の皮を突っ張らせた企業をどうにかできる強権を与えることは拒否し、そんな都合の良い権力なんてあるわけないのに、それらを棚に上げて政府は何をやっているのかと怒り』

『地方を改善してほしいというわりには、高く売れるからと鉄道会社や国には売らず、自分が得をするために高く商社に売りつける人がいて』

『都会の人は都会の人で、少しでも安く良い物をと地方のモノを買い叩き、時には田舎者と蔑んで、地方が苦しんでいる時には知らん顔』

『そんな中で、地方再生のためにはと反対を押し切って動いている時に、石油の価格を一方的に引き上げられ、なんとか交渉して値段を元に戻して』

『それで、やっとこれからという時に、『金脈問題』? 意気揚々と責め立てる正義の人達は、その間、なにをしていたの?』

『買い占めている商社を責めたてて動かなかったの? 価格を引き上げた石油産出国に交渉に行かなかったの? 結託して値段を吊り上げたお店をまとめなかったの?』

『言い訳程度にちょっとばかりだけでしょ? スポンサー、居なくなるのが嫌だものね?』

『その金脈とやらからばら撒いたお金を受け取っていた人たちは、素知らぬ顔で何をしていたの?』

『お金なんていらぬと突っぱねたら良かったじゃない。そんなもの貰わなくても動けば良かったじゃない』

『少なくとも、私を含めて、この日本で声高に田中総理を責められる清廉潔白な人なんて、たいして居ないと私は思うわね』

 

 

 そう、言われてしまえばまあ……話を聞いた周りの人達は、痛いところを突かれたこともあって、それ以上は何も言えなかった。

 

 

 と、言うのも、だ。

 

 

 千賀子がそう発言した『場』に居た人たちは、大なり小なり、相応に資産を持っている人たちで、会社を経営している者も相応にいた。

 

 確かに、『金脈問題』は疑われても仕方がないことではある。本当かどうかは別として、タイミングがあまりに出来過ぎている。

 

 だが、それとは別に、地方を活性化させるために動いていたのも事実だし、精力的に活動していたのも事実である。

 

 あまり外では言えないが、田中総理が推進した『日本列島改造』の恩恵を受けた者だっているし、例年より倍以上高く米や野菜が売れたと喜んでいる知り合いの姿も、知っている。

 

 土地だって、それまで誰も見向きもしなかったのに、いざ買われるようになってから『企業の買い占め、いかがなものか?』と言われて怒っていた地主がいたのも知っている。

 

 買い占めこそ行っていないが、他所が値上げしたからと便乗して値上げした者もいたし、コネを通じて灯油やガソリンを融通してもらった人だっていた。

 

 千賀子の言うとおり、奴隷同然の立場でない限り、誰だって恩恵も受けていたのだ。

 

 自分の事を全て棚に上げられる厚顔無恥(こうがんむち)(厚かましく恥知らずの意味)でなければ、少なくとも、声高に責めることができる者など……そう、思ってしまうのも、無理からぬ話であり。

 

 

『……そうだよな、地元に新幹線や電車が通るって聞いた時、地元のみんなも、そりゃあ喜んでいたもんな』

『そういえば田舎のあいつも、去年なら買い手もつかないモノまで全部買い取ってくれたって喜んでいたっけ……』

『道路を整備していったおかげで、色々と便利になったのは事実だしな……』

『知り合いから聞いたけど、しょっちゅう一般人を呼んで対談しているって……少なくとも、時間を空けているのか……』

 

 

 田中総理が清廉潔白な人物でないにしても、それだけでない人であるのもまた、確かなので。

 

 

 ──まあ、色々言われているけど、あの人なりに頑張っているんだろうよ。

 

 

 という感じの意識が芽生え始めるのもまあ、無理からぬ話で……ん? 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………支持率は別として、自民党内での田中下ろしはまた別の問題ではないのか……って? 

 

 

 勘の良い人はこれだから案件だが、これもまあ、当の千賀子はまるで気付いていないことだが案の定、千賀子が原因である。

 

 いったい、どうして……話が長くなるので省略するが、要はこういうことだ。

 

 

『──はい、こちら秘書の○○──あ、あ、秋山様でしょうか(裏声)? は、はい、お世話になっております、総理は只今、会議に出席しておりまして──え、伝言? (激しい動悸)』

『──え? 石油の値段が跳ね上がる? アラブからのとばっちりな締め上げ? え、そんなに上がるのですか? (真顔) え、まだ序の口? (超・真顔)』

 

 

『──はい、こちら秘書の○○──あ、秋山様でしょうか(震え声)? はい、はい、お世話になっております、はい、いえいえ、それで、御用件は(弱弱しい声)?』

『──え? 秋田の方で記録的な豪雪が起こるかも(白目)? 交通が混乱し、建物が倒壊し、雪崩も起き──はい? 国道も国鉄も封鎖になる?????』

 

 

『──はい、こちら秘書の○○──ひっ、あ、秋山様でしょうか(裏声)!? い、いえ、すみません、少々喉を傷めておりまして──はい、はい、はい……(震え声)』

『──え? ○○で水害? 観測史上最上位の豪雨になって、被害額が最低でも~~億円以上? がけ崩れも起きて、道路も寸断され──(絶句)』

 

 

『──はい、こちら秘書の○○──、スーッ(↑)、ハーッ(↓)……お待たせしました、秋山様ですね、お世話になっております(無機質な声)』

『──え? 密菱重工の本社に時限爆──っ(絶句)、ちょ、あの、いえ、爆弾ですか!? え、本当に!? いや、その、それは──はっ!? 今日のお昼ぅ!?』

 

 

『──はい、こちら秘書の××──、○○ですか? ○○は、その、所用で席を外しておりまして、はい、はい、すみません、只今爆弾テロの対応で連絡するのが遅れる──え、言い忘れていたことがあった(冷や汗)?』

『──多摩川が氾濫(↑)? 堤防が決壊(↓)? 狛江市のあたりで──あ、あの、少しお待ちを──え、明日にでも決壊するかも(真顔)?』

 

 

『──はい、こちら秘書の××──、○○ですか? ○○は、その、休暇を取っておりまして、代わりに私が──はい、秋山様ですね(覚悟を固めた顔)? お世話になっており──え?』

『──東京湾でタンカーの衝突事故が起こるかも???? 最終的には魚雷で撃沈するしか対処出来なくなる??? ま、待ってください(動悸)????』

 

 

『──はい、こちら秘書の××──はい、お世話になっております、秋山様(涙声)。あいにく、総理は会議中ですので、伝言という形で……え?』

『──蜜菱重工の水島製油所で、大規模な原油流出事故が起こる可能性??? それにより、大規模な海洋汚染が(裏声)??? え、御冗談では──ない??????』

 

 

 何がとは言わないが、とあるスジから掛かってくる電話を受けた秘書からの伝言を受けるたび、田中総理の表情が強張るのを見て。

 

 

 ──総理になると、アレを受ける立場になるのかな??? 

 

 

 何がとは言わないが、無視したら無視したでヤバいことになるのでは……という意識が拭えないこともあったからなのかは、不明だが。

 

 

 ──まあ、もうしばらく、田中くんには総意を継続してもらおう。

 

 

 という感じで、色々な思惑はあるけれども、どこか生暖かい目を向けられた庶民首相は、続投という流れになったのであった。

 

 

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