ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第147話: 何事も、動き始める時には邪魔が入るもの

 

 

 ──さて、そんな感じで1974年も年末を迎えようとしているわけだが、千賀子もまた世間の人達と同じく忙しない年末を迎えていた。

 

 

 まず、明美や道子、実家と和広の方にも一足早く先に挨拶を行う。

 

 だいたい、『ちょっと気が早いよ(笑)』といった感じの反応だったが、千賀子の場合は事情が事情なので、落ち着いたら顔を見せてねという流れで終わった。

 

 千賀子自身、確かに気が早いと言われても仕方ないけど……まあ、そっちには改めて行くとして、冴陀等村にも改めて顔を見せておく。

 

 冴陀等村はもう千賀子がどうのこうのしなくても自力でやっていけているが、放置すると、それはそれでナニカしでかしそうで怖いので、監視の意味も込めている。

 

 そんな中でも、仕事関係だ──が、こっちの方は、年の暮れが近付いている時こそが本番みたいなところがあった。

 

 

 何故ならば、1974年12月15日。

 

 

 競馬ブームを巻き起こしたハイセイコーのラストラン。

 

 そして、ハイセイコーのライバル、タケホープのラストラン。

 

 

 この2頭が有馬記念へ出走するからで、さすがに是が非でも出る必要があるだろうという話になったからだ。

 

 

 千賀子としては、だ。

 

 

 世の競馬関係者が聞けば激怒されそうな話だが、ハイセイコーの勝ち負けに関して、特にこだわりはなかった。

 

 ただ、無事に走り抜けたならば、それで良い。

 

 むしろ、レース出走を取りやめてそのまま引退しても、千賀子としてはなんの問題もなかった。

 

 まあ、それをすると、困るのはハイセイコーの方だから、しないけれども。

 

 やはり、ハイセイコーが自らの子を次世代につなげるためにも、『最後まで走り抜けた』という実績はあった方が良い。

 

 何故ならば、競走馬というのは経済動物だ。

 

 日本において、メスが自然発生している事は無いに等しく、どこからかお嫁さんを連れてくる必要がある。

 

 子供のためだけに牝馬(ひんば)(メスの馬)を買うならともかく、なんの実績もない牡馬(ぼば)(オスの馬)の子の受胎を許可してくれる馬主や牧場主はまずいないだろう。

 

 その点に関して、既にハイセイコーの場合は心配する必要はないが……それでもやはり、最後まで走り抜いたという実績があるに越したことはないだろう。

 

 ……で、結果はと言うと。

 

 

『──ハイセイコーは2着! クビの差でタケホープを下したハイセイコー! 力いっぱい、最後のラストランです!』

 

 

 残念ながら、ハイセイコーは2着となった。

 

 いや、残念ながらという言い方は欲張り過ぎだろう。

 

 むしろ、2着でゴールしただけでも、無事に走り抜けただけでも、御の字と見るべきである。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 基本的に、競走馬が引退レースで勝利することはかなり稀である。何故ならば、引退するということは、それだけ肉体的に衰えてきて、勝てなくなったからだ。

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 エネルギッシュが満ちて勝てる馬を、理由も無く引退させる馬主などいるわけがない。

 

 どんなに強い馬も、どんなに人気な馬も、加齢による衰えや怪我による衰えなどによって勝てなくなれば、引退するのが定めである。

 

 まあ、出走報酬目当てに、勝てないのが分かっていても出走させる場合もあるが……とにかく、だ。

 

 だいたいの競走馬の引退レースは、だいたい下から数えた方が早い順位で終えるのが普通なこともあって……2着でレースをハイセイコーに称賛の声が集まるのも、ある意味では必然であった。 

 

 もちろん、ハイセイコーの場合は、それだけが理由ではないけど。

 

 勝利した者よりも、負けた者に称賛が集まるのは、勝負の世界ではよくあることである。

 

 それは競馬に限らず、あらゆるスポーツの場面において見られることで……競馬ブームをけん引したハイセイコーに、人々の注目が集まるのも、致し方ない面はあった。

 

 

『──○○新聞です! ハイセイコーは無念の2着、されど、ライバルのタケホープに勝利しましたが、いかがお気持ちでしょうか!?』

「勝ちに不思議な勝ちあれど、負けに不思議の負けなし。出せる力を全て出しきって、天皇賞馬であるタニノチカラに負けた。これもまた、競馬でございましょう」

 

『──××放送です! タケホープとの最後の一戦、雌雄を決したハイセイコーに、なにか言葉を贈るとしたら、なんでしょうか!?』

「よく頑張ってくださいました、お疲れ様です。今はそれしか、私から掛けられる言葉はないでしょう」

 

『──△△週刊誌です! ついにハイセイコーが引退となりましたが、寂しくなりますね──これからのお気持ちを一言!』

「これもまた、時代の流れ。天皇賞馬であるタニノチカラを始めとして、また新たな優駿たちが時代を作ってゆくのを楽しんで行きましょう」

 

 

 ただ、千賀子の気持ちとしては、レースに出走した全ての競走馬と騎手が称えられるその中で、だ。

 

 有馬記念を勝利した、1着の『タニノチカラ』こそがもっとも称賛されるべきだと思っていたので、突撃取材をかましてきた記者への対応は、ちょっとばかり冷たかった。

 

 ……まあ、その代わり。

 

 

「お疲れ様、私のヒーロー」

 

 レースを終えて、水を掛けられて冷やされたハイセイコーの首筋をさすって労わり。

 

 

「ありがとうございます、升澤騎手。あなたとハイセイコーの出会いに、百万の感謝を」

 

 疲れた顔をしながらも、どこか誇らしげ……いや、複雑そうな顔をしている彼と握手をして……その場を終えたのであった。

 

 

 ……まあ、そんな千賀子の内心を他所に、だ。

 

 

「……え? ハイセイコーの歌を出す?」

「はい、実は以前から話が出ておりまして」

「知らなかった、そんなの……あ、いや、待って、そういえばハイセイコーが入場した時に、なんか誰か歌っているなって思っていたけど、もしかしてアレなの!?」

「はい、良い歌でしょう?」

「いや、良い歌もなにも……え、本当に? ハイセイコーの事を好きでいてくれるのは嬉しいのだけど……え、いや、でも、勝ったのはタニノチカラですよ?」

「まあまあ、細かい事は置いといて。それで、どうでしょうか? あとは、秋山オーナーの許可さえもらえたら、販売できるのですが?」

「……はあ、まあ、構いませんけど……誰が歌うのですか?」

「升澤騎手ですよ」

「升澤さん!?」

「有馬の時に流していたのも、事前に収録した升澤騎手の声です」

「知らなかった、そんなの……」

 

 

 後日、というか、翌日。

 

 中央競馬の強い後押しもあって、ハイセイコーの引退式が年明けに行われる……ので、それまでハイセイコー関連はお休みかなと思っていたら。

 

 なんと、レコード会社から人がやってきた。

 

 いったいなんじゃいと思った千賀子は、事情を把握するにつれて……己の感性ではドン引き判定な所業に、思わず頬をひきつらせたのであった。

 

 

 

 

 

 ……まあ、ハイセイコーの件はひとまず、置いといて。

 

 

 年末も近しいことだし、今年最後のテコ入れも兼ねて、千賀子は再び年末のレースを開催することにした。

 

 その名も、第2回『千賀子特別記念:3歳以上 ダート2000m(右)』、である。

 

 本賞金:1着3000万円/2着2000万円/3着1500万円/4着1000万円/5着500万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計500万円。

 

 こいつ、また……いやいや、賢明な読者はすでに気付いていると思われるが、ちゃんと千賀子は学習したのである。

 

 

 ……そう、ちゃんと、1着賞金額が『1974年:有馬記念』より低いのである! 

 

 

 何時までも、千賀子は学習しないおバカちゃんではない。

 

 ちゃんと失敗から学んで次に活かすことができる、頭の良い千賀子ちゃんさんくん(前世(男)記憶持ち・現超能力者(女))なので……ん? 

 

 確かに、そう、確かに、だ。

 

 1着賞金額は低いけど、有馬記念の総賞金額が約7650万円。前年に比べても賞金額は上がっている、すごく、すごい、高額だ。

 

 けれども、千賀子特別記念の総賞金額は、約8500万円だから、結局総合計で見たら、前よりも悪化しているのでは? 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………???????? 

 

 

 難しい話は置いといて、だ。

 

 今回も四方八方から交流でお願いします案件となったが、今回は、交流レースにはしなかった。

 

 いや、正確には、中央競馬に出走している馬は除外した。

 

 理由としては、今年の中央競馬はハイセイコー関連で盛り上がったので、それじゃあ次は地方に……と、思ったわけである。

 

 あと、賞金狙いなのは分かるが、それなら中央レースを走れば良いわけで、千賀子としては、それだと地方の皮を被った中央レースではないか……とも思ったわけである。

 

 

 しかし、そうなると、だ。

 

 

 当初の目的から、少しばかり外れてしまうのでは……そう考えてしまう者も多いと思われるが、大丈夫だ。

 

 実は、既に千賀子は考えていたのである。なにをって、その対策を。

 

 そもそもからして、千賀子は以前からフッと思い出しては考えていた。

 

 それは、『春木競馬場』だけでは、ちょっと効果が薄いのでは……という話だ。

 

 さすがに1から10まで面倒を見るつもりはないが、それでも、住んでいるところで機会が失われるのは不公平では……と、ちょっとばかり思っていたわけである。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 千賀子は以前から北海道で馬を買ったり牧場を新設したり土地を買ったりしているが、それは何も、単純に自然を保護するためだけではない。

 

 北海道という土地が、日本の食糧事情に直結するレベルで大事な場所だからこそ、という理由もあるのだ。

 

 もちろん、北海道だけが重要な場所ではない。九州の方でも馬は買ったし、食料生産自体は日本全国で行われている。

 

 しかし、食料の割合としては北海道が圧倒的であるため、ここが潰れたら連鎖的に日本全国に影響が飛ぶのが確実なこともあり、千賀子はそういう意味でも目を向けていたのである。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 さすがに、千賀子も真っ向から法を破ろうとは思っていない。破った場合はまあ仕方ないにしても、そこらへんは守ろうとは思っている。

 

 

 ならば、いったいどうするか? 

 

 別に、難しいことではない。

 

 

 まず、場所は北海道で、『帯広競馬場』をレンタルした。

 

 新しく作っても良いのだが、そもそも中央競馬とは規模が違うので、二つ作れば下手すると片方が倒れてしまう。

 

 だから、レンタルだ。もちろん、本来のレース開催日からはズラして。

 

 別に、変な使い方をするわけでもないから、堂々と『レースを開くので、競馬場を借りたい』という話を協同組合連合会へ行う。

 

 普通なら訝しむような視線を向けられるだろうが、千賀子の顔が相当に広まっていたみたいで、意外なことにけっこう話はスムーズに進んだ。

 

 レースが1日で終わるにしても、事前の準備と事後の整備込みで3日分を支払えば、担当者含めて誰もが笑顔で首を縦に振った。

 

 ……ちなみに、だ。

 

 千賀子が所有している『春木競馬場』は女神様やらロボ子やらのおかげで、税金などの問題がまるっと謎のパワーで誰も疑問を覚えないが、こっちの場合はどうなるのかと言うと。

 

 

『──ああ、それなら、私がやっておきましょう』

 

 

 どういう心境の変化か、女神様が帳尻を合わせてくれるとのことだった。

 

 正直──今年最恐の出来事だし、『な、なにが狙いですか、女神様!?』思わずそう尋ねた千賀子はけして悪くないだろう。

 

 というか、恐怖心を覚えて当然である。

 

 女神様は千賀子に対してとんでもねえレベルの甘々対応だが、基本的にはノータッチ。なにかする時は、とんでもねえ裏がある時だから。

 

 けれども、そんな千賀子の疑問に一切答えることなく『──はい、終わりました』、その一言で話を終わらせてしまえばもう……後戻りは出来ないわけであった。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 己はもしかしたら、とんでもなく早まった事をしてしまったのではと後悔する千賀子を他所に、だ。

 

 さすがに、借りてすぐに『やっぱ無し』では、色々な意味で関係者たちをガッカリさせてしまうのもあったし、分身たちやロボ子が事前に準備を進めていたので、千賀子もいまさら中止にはできず……とりあえず、開催しようという流れになった。

 

 

「あ、あの、秋山様。既にご存じとは思いますが、帯広競馬場は、普通の馬を走らせるには狭く、また、普通の馬を走らせるための場所では……」

「わかっています。ただ、輓馬(ばんば)の勇姿を見たくなりまして」

「──さ、左様でございますか! で、では、どのようなレースを開催するのでしょうか? ばんえい競馬は通常の競馬とは少し勝手が違いますので……」

「変わった事はしないわよ。コース自体は、これまでと同じで。ただ、私が出資をするわけだし、色々と違う事をしようかなと」

「と、言いますと?」

「せっかくやるわけだし、優勝輓馬には楯かトロフィーを送りましょう。あとは、私が出資しますので、飲み物を提供しましょう、時期が時期ですし」

「それは、ありがたいですね」

「レース名は、『千賀子ばんえい記念』で」

「はい」

「賞金額は……とりあえず、1着1000万円にしましょう」

「──っ!?!??!?」

 

 

 まあ、その際、応対していた相手の顔色が変わるというアクシデントがあったけど……そんな流れで、『第1回:千賀子ばんえい記念』レースが開催されたのであった。

 

 なお、この事がキッカケで、千賀子の前世より数年早く『個人協賛レース』が生まれるのだが……まあ、未来の話である。

 

 そうして、そんなこんなで、だ。

 

 今年一年ありがとうございましたという感じで、『双の葉牧場』へ挨拶に行き、ロウシの墓に手を合わせ、北海道やら九州やらの競馬関係に挨拶を行う。

 

 相撲の『穂高部屋』も、忘れずに……そうそう、千賀子との対面によって、全てではないにしても吹っ切れた潤高は順調に白星を掴んでいるらしいので、お祝いの意味で祝儀は奮発した。

 

 そうして……中々なハードスケジュールをこなした千賀子は、エマを連れて実家へと戻り、お正月をそこで過ごした。

 

 残念ながら、雪の影響と子供が熱を出したことで帰省が先送りになったけど……久しぶりに顔を見た家族たちは元気そうであり、千賀子も安心したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だが、その安心も。

 

 

「ふ~……なんかやる気が起きないなあ~」

「本体の私? そろそろお正月の空気から抜けないとダメだと思うわよ?」

「もうちょっと休憩させて……なんかもう去年は色々やって疲れたから、もう少しこのほのぼの空気に浸りたい……」

 

 

 年が明けて、1975年の1月。

 

 

「映画でも見て、シャキッとしたらいいんじゃないの? 今なら……あ、そうそう、CMでやっていた『日本は沈没するぜよ!』って映画が面白そうだよ」

「え~、前世含めてパニック系映画ってあんまり好きじゃないんだよね~。もっとこう、ほのぼのとしたやつの方がさ~」

「だからこそ、目を覚ます意味でみたらいいんじゃないの? 『神社』にいると静かだし、人の熱気に触れた方が気持ちもシャキッとすると思うよ、本体の私」

「う~ん、2号と3号が苛めるよ~」

 

 

 精力的に動いていた反動からなのか、すっかり正月の空気に浸ってダラダラ過ごしていたけれども。

 

 

「だいたい、『恐怖の大王』っていう人類の危機を相手にしているわけだし、いまさら日本が沈没しますよってフィクションを見せられても、でもまあ起こらない話だしなあ~って思うじゃん?」

『──??? 日本は沈没しますよ』

「そうそう、日本だって沈没するわけだし、いまさらフィクションを見せられても……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………は?」

 

 

 思わず、千賀子はロボ子を見やる。

 

 

 ──え、なにそれ知らない……こわっ……。

 

 

 そうしたら、ロボ子はそんな顔で女神様を見ていた。

 

 どうやら、ロボ子も知らなかったようで……改めて、女神様と視線を戻せば。

 

 

『──沈没、しますよ』

 

 

 恐ろしい駄目押しをされてしまった。

 

 

『──具体的には、この神社以外、1年以内に』

「は?」

『──でも、安心してくださいね。ここに居れば、大丈夫ですから』

「安心する要素がまったくないのだけど????」

 

 

 まあ、そんなわけで。

 

 千賀子の正月休暇は、そう長くは続かなかったのであった。

 

 

 

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