ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ 暴力描写、注意


第155話: 馬の名は?

 

 

 1970年代前後、学生運動を始めとして、非行&不良の少年少女といった者たちが増えた理由は色々あるが、その中でも、大戦を敗北してもなお変わらなかった日本の体質にあるという話がある。

 

 具体的に、戦前の日本は階級社会であった。言い方を変えるなら、ある種の貴族社会だったのだ。

 

 日本ではそれを、『華族《かぞく》』と言った。

 

 外国のようにハッキリと目に見える形(要は、露骨ということ)ではなかったが、それでもふとしたタイミングで、歴然とソレが立ち塞がる事が多々あったのだ。

 

 そして、第二次世界大戦の敗北。

 

 これによって華族は解体され、多くの犠牲者を出しながらも、国民は本当の意味で上も下もない、当人の実力で成しあがれる平等な未来が来ると思っていた。

 

 

 しかし……現実は、そうならなかった。

 

 

 表向きは華族というものは消滅したが、そのコミュニティは依然として変わらず、上流層は完全に独占され、新しい風は周囲を渦巻くだけで、何も変わらなかった。

 

 

 ──『杯《さかずき》は新しくなった。だが、そこに注がれたのは古いままの酒で、美しくなった盃を独占し続ける流れは何も変わらなかった』──

 

 

 当時、左翼団体と呼ばれた者たちが残した言葉に、そのような言葉がある。

 

 制度の話でもない。法律の話でもない。ただ、名前と形を変えただけで、中身が変わっていない……その思いが、大勢の白けた者たちを生み出したのは否定出来ない。

 

 あるいは、庶民総理と呼ばれた田中総理が国民の支持を一身に受けたのも、そんな期待が込められていた……というのはいささか妄想が過ぎるだろうが、一概に否定できることではないのかもしれない。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………実際のところ。

 

 

 1960年代~1970年代の学校というのは現代に比べると非常に窮屈な空気があって、古い体質をそのまま引きずり続けている……というのを否定できない部分は少なからずあった。

 

 言うなれば、この頃の学校というのは、表向きは変わってきているように見えて、その内面は戦前の明確な身分社会、階級社会の面が非常に色濃かった。

 

 

 たとえば、学年の違い……つまり、先輩と後輩の関係性が一番想像しやすいだろう。

 

 

 現代でも先輩の方が上という考え方は根強く残っているが、この頃の感覚は、現代の比ではない。

 

 先輩が黒と言えば、白も黒。

 

 右を向けと言われたら右を向き、『やれ』と言われたら『やる』しかないし、先輩に逆らうという行為自体がありえない事であった。

 

 さすがに、犯罪をしろというのは関係性によるし、あまりにもふがいない(あるいは、見下されている)先輩ではない……という限りはあるけれども。

 

 そう、よほどの理由がない限りは、その力関係は非常に強く……それは教師に対しても、また、教師もその上に対しては同様で……それは、理屈ではなかった。

 

 

 ──だからこそ。

 

 

 歳若い学生が抱えていた憤《いきどお》り、やり場のない怒りや不満は際限なく高まり、燻《くすぶ》り、まるでマグマのように噴き出したのかもしれない。

 

 もちろん、彼ら彼女らの行いは許される事ではないし、擁護されるモノでもないし、間違っても彼ら彼女らは被害者ではない。

 

 やっている事は社会に甘えているだけで、日常的な暴力行為に婦女暴行(主に、レイプ)、恐喝に窃盗に器物破損。

 

 『まさか殺されはしないだろう』という絶対的な信頼の下でそれらは行われ、警察を始めとして社会の目が年々厳しくなってゆくのも、当然の結果でしかなかった。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そんな中で、明美の弟である明少年が非行に走り始めたのは、姉の明美が想像していたとおりの流れからであった。

 

 ただ、少しばかり違う点がある。

 

 それは、別に誰かを傷付けたいわけでもなく、うっ憤を晴らしたくて仕方がないというわけでもない。

 

 夜の世界に憧れたわけでもなく、ただ何も考えず、好きな事に熱中する時間が欲しかっただけで。

 

 明にとって、それが『バイク』であった。

 

 いや、正確には、バイクが好きというよりは、バイクに跨《またが》って風を切って走っている間の時間が好きなだけであった。

 

 別に、スピード狂というわけではない。

 

 ただ、風を切り裂いて走っていると、そのまま己がどこか遠くで……そう、何処へでも自由に行けそうな気がして、その感覚が好きなだけであった。

 

 音楽もまた、似たような感覚だ。

 

 歌うのが好きというよりは、歌うという自由な行為が楽しかった。

 

 どれだけ稚拙だろうと、どれだけ学が無かろうと、心のおもむくままに、自由が許される……音楽にはソレがあったから。

 

 

 ……だからこそ、明は自由とは対極にある『学校』がとにかく窮屈に思えてならなかった。

 

 

 みんなと同じ格好をして、同じ勉強をして、同じ食事を取って、同じ時間まで一緒に居て……ただ、それを卒業まで繰り返す。

 

 ある時、それが堪らなく窮屈に思えて……キッカケは、本当に些細な事だった。

 

 けれども、些細な事が大事へと繋がることがあるように、まやかしとはいえ、風を切った先にある『自由』に触れた明の心は、もうソレに夢中であった。

 

 その過程で、明が髪型を変えたり学校をサボったりするようになったのは……これまでの自分から離れたかったのもあるが、一番大きな理由は自衛である。

 

 

 ──結論から述べるなら、見た目をソレに近付けないと、普通に不良たちに難癖を付けられて奪われるのだ。

 

 

 大勢の負傷者、死者が出たとかならともかく、未成年同士の問題(窃盗、暴力、問わず)なんて、警察などまったく当てにならない。

 

 明が良い所の生まれならばともかく、下手したら、『学生の身分でバイクなんぞ……勉強代と思いなさい!』と、逆に説教されて追い返されても不思議ではない。

 

 それに、仮に逮捕されたとしても、恐喝と暴行程度なら少しばかり反省を促して釈放してしまい、それ以上はなにもしてくれないからだ。

 

 実際、不良と呼ばれている者たちに恐喝されて金を奪われた同級生がいたけど、そいつは警察に相談した結果……転校するはめになってしまった。

 

 理由は、『警察《サツ》にチクったやつをぶっ殺す』と、当の不良たちがしらみつぶしに、通報したやつを探し始めたから。

 

 その一連の流れを知っているからこそ、明は見た目を変えたのだ。見た目でナメられないために、必要だった。

 

 

「──明、今日も行くか?」

「──ああ、行こうぜ」

 

 

 そして、そんな明と同じ気持ち、同じ考えでいた者たちに出会えたのもまた、些細なキッカケからだった。

 

 

 ──三郎《さぶろう》。

 

 明よりも大柄だが気が小さく、勉強は苦手で、争い事が嫌い。母親が浮気して出て行った際に妹だけ連れて行った過去があり、育ててくれた父が病死してからは、父方の祖父に面倒を見てもらっている。

 

 

 ──正徳《まさのり》。

 

 小柄な少年だが、根は真面目。幼少の時から何事も出来が良い兄と比べられ、事あるごとに『出来損ない』と両親より言われ、家にも学校にも居場所がない。

 

 

 2人とも、良いやつだ。

 

 正直、2人に比べたら、自分なんぞ本当に恵まれた甘ったれでしかないという気持ちが明にはあった。

 

 けれども、2人は明を真正面から認めてくれた。

 

 三郎からも、正徳からも、『俺たちと同じだ、ずっと我慢していたって顔をしている』と。

 

 始めて己の内にあったモヤモヤを認められた気がして……それから、明は彼らと共に行動するようになった。

 

 

 そして、明たち3人は……ある日、念願だったバイクを手に入れた。

 

 

 もちろん、経緯は後ろ暗いモノではない。

 

 とあるキッカケで知り合った隣町のバイク屋の爺さんから、『無償で働いてくれるなら、壊れているバイクを3台融通してやる』という提案を達成したからである。

 

 これまたもちろんのこと、大変であった。

 

 出来る限りバレないように気を付けながら、自転車で隣町へ。

 

 そして、店の掃除や部品磨き、その爺さんの知り合いの店への応援など、それはもう徹底的にこき使われた。

 

 その際、『指示は出すから、壊れたバイクの修理も自分でしろ』と言われた。

 

 幸いにもエンジンは無事だが、タイヤもプラグもボロボロ。マフラーは錆だらけで、シートにいたっては汚れというか、カビっぽいモノまで生えていた。

 

 それを、明たち3人は協力して別にアルバイトを行って資金を貯め、少しずつ部品を買い集め、慣れない手付きで、何度も怒られながら、少しずつ、少しずつ、修理をしていき……ついに、3台のバイクを手に入れた。

 

 そうして、明たちは風になる自由を満喫していたのだが……その日、明たちを不運が襲った。

 

 

 ──有り体にいえば、本物の暴走族に絡まれたのだ。

 

 

 明たちからすれば理不尽の極みだが、族の方からすれば、スジを通さない3人に非が有った。

 

 それは、挨拶に来なかった……というもの。

 

 相手が族だろうが何だろうが、関係ない。

 

 自分たちの縄張りで、気ままにバイクを走らせる時点で大罪であり、ケジメの一つや二つは付けてもらうのがスジ……そういう思考であった。

 

 当然ながら、明たちは逃げようとした。

 

 しかし、バイクの運転技術も、暴力への慣れも、人数も、圧倒的に向こうが上で……どんどん人通りから離れ、人の気配のない河川敷に追い込まれるまで、そう長くは掛からなかった。

 

 

 そうして……明たちは、リンチを受けた。

 

 

 2人掛かりで押さえ付けられた身体へ、まるでサンドバックを相手にするかのように振るわれる暴力。

 

 一番体格の良い三郎も、喧嘩慣れしている相手(しかも、複数)を前にしたら手も足もできず、明たちは全員顔が腫れ上がるまで殴られた。

 

 

「小さいな……まっ、それなりに売れるんじゃない?」

「よっしゃ、それで飯を食おうぜ」

「じゃ、これは詫び代として持って行くから」

 

 

 だが、それでも……そのバイクを持って行かれるとなれば、明たちは誰一人として、そのままではいられなかった。

 

 何故ならば、そのバイクは、明たち3人の友情の証でもあったから。

 

 殴られるのも、コケにされたのも、悔しいけど我慢する。

 

 だが、そのバイクだけは、たとえ全身をボコボコにされても、我慢などするわけにはいかなかった。

 

 

「──あっ? なんだおめぇら、殺されてえの?」

 

 

 しかし、それはこの場において、けして賢い選択ではなかった。

 

 何故ならば、彼らは面目を重視する。

 

 相手が警察やヤクザならともかく、格下も格下の、恰好だけの生意気なガキに反抗されて、なあなあで許してやってしまえば……面目を潰してしまうわけだ。

 

 

 と、いうよりも、だ。

 

 

 既に、明たちは彼らの面目を潰してしまった。

 

 詫び代をバイクで済ませてやろうという優しさを踏みにじった明たちに対して……彼らからの制裁は、凄惨なんて言葉が生易しく思えるぐらいであった。

 

 それはもう、サッカーボールを蹴り壊すかのような光景であった。

 

 全身隙間なく足跡だらけ、泥だらけ。もはや身体を丸めて身を守ることしかできず、意識は朦朧となり、鼻血と胃液にまみれた口元をそのままに、ぐったりと横たわる3人。

 

 

「──ったく、これに懲りたら二度と調子に乗るんじゃねえぞ」

 

 

 そんな3人を前に、さすがに疲れた彼らはリンチを止め──べっ、と唾を3人に吐き捨て、ダラダラと離れて行く。

 

 心行くまで暴力を振るったからなのか、誰も彼もが気怠そうにしていた。

 

 実際、アドレナリンの過剰分泌の反動というか、影響があったのは確かである。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それゆえに、注意力が散漫になっていた彼らは……いや、仮にそうでなくとも、彼らは気付けなかっただろう。

 

 

「 な にを やって い るの?? 」

 

 

 気付けば、彼らしか(横たわっている3人は別)いないはずの場所に、馬に乗った女が居た。

 

 あまりにも、誰もが接近に気付いておらず、まるでいきなり現れたかのような状況に、彼らは「──うぉ!?」例外なく肩をビクリと震わせた。

 

 だが……その驚きも、すぐに治まった。いや、正確には、驚きの方向性が変わった。

 

 ひとえに、驚愕から、欲情へと。

 

 例外なくそうなってしまったのは、その女があまりにも美しく……あまりにも官能的なプロポーションだったからだ。

 

 恰好こそ『レディース(女暴走族のこと)』っぽいが、立ち振る舞いからして──それ以前に、顔立ちが明らかにそっち系ではなかった。

 

 

「……おい」

「ああ……!」

 

 

 と、なれば、やる事は一つ。

 

 彼らの中でも下っ端に位置する者たちが、ちょっとばかり前屈みになりながら、見張りに動き始める。

 

 それを尻目に、1人、また1人、女を包囲しようと……いや、馬がいるので、距離を完全に詰めることはできないが……ナイフや、バイクに取り付けている鉄棒を構える者もでてくる。

 

 普段の彼らならば……そこまではしなかった。

 

 それは、彼らが硬派だからではない。『馬』という見慣れぬ異分子を前に、そこまで危険を冒す必要性がなかったからだ。

 

 

 けれども、今回は違う。

 

 

 テレビの向こうでも早々に見掛けない美貌。加えて、始めてみるサイズの胸……珍妙なちぐはぐさがあるけど、そんなものがどうでもよくなる色気。

 

 馬は怖いが、適当にナイフで刺せば驚いて逃げていくだろう……後は、振り落とされた女を押さえて、たっぷり楽しむだけ。

 

 そんな欲望を誰も彼もが想像し、サラシの中にある膨らみの柔らかさを想像していた──が、それは、それだけだった。

 

 

「誰も逃げられない」

 

 

 気付けば、いつの間にか馬から降りていた女が……ナイフを持っていた仲間の1人の顔面を、粉々に砕いていた。

 

 殴る瞬間を、誰も認識できなかった。

 

 気付けば、首がありえない方向に曲がった仲間が、元の形が分からないぐらいに顔面が……そして、また1人。

 

 

「誰も逃がさない」

 

 

 あまりにも突然の事に、ボケッと呆けていた1人の股間が蹴り抜かれた。夥しい出血と、声にならない悲鳴。

 

 慌ててナイフを取り出した仲間も、どういうわけか、掌からナイフがすっぽ抜け──自分の胸を刺してしまった。

 

 

「私はおまえらの更生なんぞ望まない」

 

 

 あっという間に、仲間が殺されていく中で。

 

 

「誰にも知られることなく、終われ」

 

 

 これまで、様々な形で向けられてきた、どの視線よりも冷たい……その視線を受けた彼らは。

 

 

 ──え? 死ぬのか、俺らは? 

 

 

 どこか、他人事のような感覚のまま……その生涯を終えたのであった。

 

 

 

 






馬を世話している人
「や、止め、止めてください、止めて! オーナー! 秋山オーナー!! これから種牡馬としての調整が――止め、ちょ、なんで乗って――ああぁああああ!?!?!??!」

※ BGM さらば、〇〇〇〇コー
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