ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第158話: またしても何も知らない関係者たち

 

 

 ──『幼稚園』──

 

 

 それは、母親たちの密やかな戦場である。もちろん、全てが全て、そうではない。

 

 しかしながら、何時の時代も、そういう場でもないのに派閥を作り、マウントを取り、自分たちに追従しない者を排除する……そういうグループは存在する。

 

 千賀子の娘、エマが通うことになった、東京にある『東幼稚園』でも、どうやらそういう輩は居るらしい。

 

 ただ、幸いにも積極的に縄張りを広げて支配下に置く……といった事はしないようで、あくまでも一部だけで固まっているようだ。

 

 なんでかって、単純に幼稚園に通っている子供の数が多過ぎるからで、なんの考えも無しだと多勢に無勢になってしまうからだ。

 

 なにせ、この頃の子供はちょうどベビーブームの時の子供で、現代に比べると、それはもう何処を見ても子供を見かけるぐらいに、とにかく子供が多い。

 

 現代のように少数人数ならともかく、また、どこで誰が繋がっているか分からないので、よほどの事が無い限りは、子供たちの間だけでだいたいが……ん? 

 

 

 ……なんで、わざわざ東京なのかって? 

 

 

 それはまあ、ロボ子より『より多くの人を見知った方が良い』と言われたからである。

 

 なんでも、千賀子の地元だと、結局は母親の知り合い(あるいは、顔見知り)ばかりと接するだけで、コミュニティにそこまでの変化が無い。

 

 春木競馬場がある大阪を選ぶと、千賀子を知る者(あるいは、関係者)から特別な配慮という名の優遇をされてしまう場合がある。

 

 自分で物事を考え、己がどうして優遇されるのかを理解したうえで受け入れるならばともかく、まだまだ自我が未発達な4歳児に、それは危ない。

 

 

 優遇された環境を、当然のモノとして認識してしまうから。

 

 

 自分の力で優遇を得られる環境を手に入れたのであればともかく、ただ恵まれただけなのを、当人の努力(または、空気と同じモノ)として認識するのは、非常によろしくない。

 

 だからこそ、様々な人たちが集まっている東京の幼稚園で、外の世界に触れた方が良い。

 

 地元でのコミュニティは、その後でも十分に築ける……というのが、ロボ子の意見であった。

 

 千賀子としても、ロボ子のその意見はごもっともである。

 

 地元は確かに顔馴染みばかりで安心するが、その環境に慣れてしまうと、いざ社会人になった時に苦労するのはエマの方だ。

 

 幼稚園時代の事をほとんど忘れても、地元以外の空気というか、環境があるという事を、少しでも知っておいて損はない。

 

 そう、千賀子も思ったわけだ……まあ、本音を言わせてもらえば、気にせずドンドン甘え続けて欲しいなんて気持ちが多々ある。

 

 けれども、それは当人のためにはならない。

 

 エマが自分の力で生きていくためには、寂しく辛くとも断腸の思いで見送り、見守るのもまた親の役目でもあった。

 

 

 ただ、それはそれとして。

 

 

 わざわざ東京の幼稚園に行くために東京に家を借りて、『神社』までの中継地点(周りの目が無い場所)を用意するあたり、やっている事は金持ちのソレだったりするが、仕方がない。

 

 治安的な意味合いで物騒だし、女と子供しか住んでいない家とか、悪党どもからしたら『ここに美味しい餌があるよ』と公言しているも同然である。

 

 だから、あくまでもワープを使う際の中継地点。

 

 少なくとも、千賀子以外にワープ能力を持っている者はいないので、ある意味では究極の犯罪対策である。

 

 

 ……まあ、うん。

 

 

 他には、排水路などのドブ川より漂う異臭や、排気ガスの臭いが相当なモノなので、千賀子として、そこを我慢させるのは違うという思いもあったりする。

 

 1975年、様々な要因によって生まれた東京の問題(ゴミ・悪臭・排気ガス等々など)は、まだまだ改善の途中である。

 

 まだ、現代のような『眠らない街』と揶揄されるほどではないけれども、朝から日が暮れるまでひっきりなしに車が走っている。

 

 年々、少しずつではあるが改善傾向にあるとはいえ、そもそも、根本的な要因である、『人が多過ぎる』という問題は一度として解決されて……多摩ニュータウンは、って? 

 

 あんなのは、一時しのぎに過ぎない。なにせ、日中は東京方面へ出てくるというのは変わっていないのだから。

 

 それだけ人が多いという事は、様々なところから排出される汚水などの量は相当なモノで……この問題がハッキリ体感できるまで改善されるのは、昭和も終わり、平成に入ってからで。 

 

 ロボ子からも、『ある程度は適応して耐性が付く可能性はありますが、たった一代でそうなる可能性は低いので』と言われ、特に反対はしなかった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、そんな感じで色々と準備を進め、入園の手続きも終わり、エマが幼稚園へ通うようになってから、ちょうど1ヶ月を迎えたわけだが。

 

 

「     」

 

 

 千賀子は、『神社』の廊下にて横たわり、物言わぬナニカと化していた。その顔は、今にも儚く消え去りそうなぐらいに弱弱しく。

 

 見る者が見たら、庇護欲をこれでもかと掻き立てられ、守ってあげたいと思わせる不思議な魅力を放っていた。

 

 

「……本体の私? 視界に入るとうっとうしいから、自室にでもこもっていてくれないかしら?」

 

 

 だが、しかし、残念ながら、この場にはそんな感想を抱くような者は1人としていなかった。

 

 ……どうしてかって? 

 

 

「2号」

「なによ」

 

 

 サラサラと、『春木競馬場』に設置してある『お客様要望箱』の中身を確認している2号は、視線すら向けずに返事をした。

 

 

「エマは、どうしているかな?」

「あのね、エマが幼稚園に行っている間、2分毎にソレ聞くのやめてもらえる? 分身じゃなかったらノイローゼになるところよ」

「どうして、エマは1人で行ったのかな?」

「幼稚園前までは送ったでしょ、職員にバトンタッチしたじゃないの」

「初日だし、最後まで一緒に居てもよくない?」

「だから、それも2分毎に聞くのやめてもらえる? 色々と1人でやりたい年頃なのよ、度胸が有って良いじゃないの」

「……うん、そうだね」

 

 

 どうしてか……それは、初日ぐらいはエマと一緒に……と思っていた千賀子の内心とは裏腹に。

 

 エマの方から、『今日から幼稚園なんだから、1人でやる(要約)』と言われ、幼稚園前で職員にバトンタッチした後はお別れ……という運びになってしまったからである。

 

 

 ──これが、千賀子の心をそれはもうえぐった。逆鱗を引き千切ったぐらいの、アレである。

 

 

 なんという、無慈悲な現実なのか。

 

 神はいない、心から千賀子は思っ(──呼びましたか?)呼んでいないので、地の文に出て来るのは止めてください。

 

 とにかく、だ。

 

 エマは始めて自分の意思で、母親の庇護下の外へと一歩を踏み出した。つまり、母親の目の届いていない、未知の世界へと……不安を上回る好奇心で、外へと出たのだ。

 

 ならば、母である千賀子は見守るしかない。

 

 取り返しのつかない危険へと近付いていたり、危険とは分からずやろうとしていたりならばともかく、それこそ、子供同士で喧嘩が勃発したとしても。

 

 そう、千賀子は歯を食いしばって耐えなければならない。

 

 そうしなければ、学べないから。

 

 言葉だけで学べるならば、誰も間違えたりはしない。

 

 時には『痛み』を伴わなければ、人は学んで成長できないのだ。

 

 エマのこれからを思えば、いくらでも取り返しが利く幼いうちに経験するのが一番良い。

 

 他者と衝突する事を覚え、他者と己は違うのだと……本当の意味で理解していくためにも、千賀子は我慢して見守るしかないのであった。

 

 

「ねえ、2号」

「なによ」

「もうすぐ、退園の時間よね?」

「時計を見なさいな。今は10時54分、お昼ごはんすら済ませていないでしょうよ」

「……ねえ、2号」

「参観日などの予定はまだ無いから、諦めなさい」

 

 

 我慢して、見守るしかないのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 スパイカメラにて万が一の事故を警戒しているロボ子より、『特に気にする問題無し』という報告を受けた千賀子は……やる気を失っていた。

 

 なんというか、何もする気になれないのだ。

 

 去年ならば、6月ぐらいに『千賀子特別』のようなレースを春木競馬場にて開催しているところだが……これがもう、本当に何もする気になれない。

 

 

 ……今年は無いのかな? 

 

 

 そんな、競馬関係者の残念そうなため息が漏れているのを尻目に、千賀子はエマが幼稚園に通うようになってから毎日、エマが居ない時間は、ぐでーっと自室にてゴロゴロしっぱなしであった。

 

 いや、もうね、あまり良くない傾向なのは、千賀子だって分かっているのだ。

 

 元々、やるか、やらないか、それを決める権利は千賀子にあり、強制される義務とてない。しかし、額が、額だ。

 

 現代で言えば、高額賞金G1レースの中でも、1,2位を争うぐらい。出走出来ただけでも、場合によっては地方レースで勝利したぐらいの賞金が入ってくるのだ。

 

 そりゃあ、期待の一つや二つ、膨らんで当たり前である……が、しかし。

 

 そう思われても、千賀子のテンションはアンニュイであった。

 

 それはもう、役割を終えて2号の手伝いや、アメリカに遊びに行っている3号のスポットに収まっている4号から。

 

 

『……あんまり構い過ぎると、中学生あたりから始まる反抗期でとんでもないしっぺ返しを食らいますよ?』

 

 

 と、言われ、想像して心停止寸前の状態になり、心を鬼に(?)して我慢しているだけ、余計に千賀子の心は低空飛行であった。

 

 まあ、その、うん。

 

 子→母よりも、母→子の方が、よほど依存傾向にあったようで……ある意味、エマよりも千賀子の方が、よほどダメージを負っている状況であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とはいえ、何時までもダラダラしているわけにもいかない。

 

 

 なにせ、ロボ子より、『自分が居ない時はず~っと部屋でダラダラ過ごしている母親……さて、子供心に、どんな目で見られますかね?』と、とんでもねえ脅しをされてしまったからだ。

 

 もちろん、千賀子自身、この状態は駄目だよな……とは思っていた。畜生外道の所業であると思ったが、悪いのは千賀子の方だ。

 

 これには、完全復活とまではいかなくとも、少しぐらいはナニカしておこう……という程度の気力が湧くには十分すぎる理由であった。

 

 

 

 

 

 ──とはいえ、だ。

 

 

 気持ちを切り替えるつもりで、軽く入浴などを済ませて身嗜みを整え、部屋着から『巫女服』へと着替えた千賀子だが……ここで、千賀子は頭を掻いた。

 

 

 理由は、『何をしたら良いのか思いつかない』、これに尽きた。

 

 

 競馬場でレースを開催するにしても、時期が悪い。

 

 いや、別に来週レースします……でも、まったく問題はない。少なくとも、決める千賀子の方は。

 

 そのかわり、千賀子以外が、それはもう大変である。

 

 告知を始めとして諸々の作業を行う競馬場職員関係者が、それはもう連日徹夜してスケジュール調整やらなんやらに奔走し。

 

 出走希望者たちもてんやわんやして、それはもう、人によっては『先週レース出しちゃったよ(絶望)』と、誇張抜きでガックリと肩を落としてしまう者が出てくるぐらいには、大変である。

 

 また、これは単純に大変だから……というだけの話でもない。

 

 千賀子は気付いていないが、これを会社に例えてみよう。

 

 少し強引な例え話だが、会社の社長がわざわざ開いてくれた催し物(自由参加)に、都合が悪いからと社員の参加が少なかったから……といった感じである。

 

 何時の時代もそうだが、開催する側も、希望者が大勢出てくれた方がやる気も上がるし、それだけ注目してくれていると思えるモノだ。

 

 都合が悪ければ参加しなくていいよとは思いつつも、会場に入りきらないぐらいの人が押し寄せてくれる方が嬉しいし、半分にも満たない数がポツポツ……というのは、寂しいモノだ。

 

 かといって、生半可な馬や、明らかに回復しきれていない馬を出すのも失礼というか、なんというか……こう、勝てる勝てないは別としても、だ。

 

 その時出せる馬の中で、一番強い(総合的に見て、勝てそうな馬)を出すのが礼儀というやつで……力及ばずは仕方ないにしても、手を抜くのは如何なモノか……と、思うわけで。

 

 

(……なんだろう、阿鼻叫喚の騒ぎになりそうだし、秋ごろにまとめて二つやるって形で今から告知をしておくか……)

 

 

 しばし考えた千賀子は、今回は止めておくことに……いや、待て。

 

 

(──そういえば、春木競馬場って地方ではまあまあ広い方って話だけど、中央に比べると小さくて狭いんだよなあ……いや、当たり前だけど)

(──なんだっけ、1周が約1200mちょっとぐらいしかないんだっけ? 1600m走る時でも、1周ちょい走っているわけで)

(──この前やった障害レースでもそうだけど、ダービーのような2400mだったか? あれぐらいの距離になると、2週する必要があるわけか……)

 

 

 その時、千賀子の脳裏に電流走る! 

 

 

(──そうだ)

(──小さくて狭いなら、拡張したら良いじゃん)

(──住宅街がある方は無理だけど……一時預かり用の厩舎とか、畑とか馬用とかの溜め池があるあたりを、ちょろっと私がこっそり移動させてしまえば)

(──あれ、これって意外といけるのでは?)

(──そうだよ、集客数増えているし、春木競馬場の土地はなんか女神様のおかげで私所有になっているし、足りない部分は交渉して買い取ってしまえば)

 

 

 脳裏を走る電流が導き出す計画! 

 

 

 それは、『ククノチ』とか『サラスヴァティー』とか『巫女』とか『賽銭箱』とか、超常的な能力が前提の計画であり、千賀子以外ではどう頑張っても達成不可能な計画ではあったが。

 

 

「……ロボ子に、聞いてみるか」

「待って、本体の私? なんかろくでもない事を考えていない?」

 

 

 にわかにやる気を見せ始めた千賀子の前では、不安を覚えた2号の忠告すらも、そこまで大した障害にはなり得ないのであった。

 

 

 

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