ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──とりあえず、土地の問題は解決した。
土地開発で最初にかつ最も手間取るのは、土地を確保することだという話もある。
郊外などの資産価値が低い土地ぐらいならば、持ち主が少人数の割合が高い。なので、対応もそれだけ早く済ませることができる。
しかし、これが都心部……とまではいかなくとも、住宅街が近くにある街中だと、それはもう難儀するという話がちょくちょくある。
まあ、そりゃあそうだろう。
街中の開発なんて、実際に調べてみると他所の分まで勝手に使っていた事が判明したり、逆に使われていた事が判明したり、あるいは、実は地主が複数人いるせいで、誰が誰の土地なのか分からなくなっていたり。
現代でも度々土地に関しては問題が生じるが、1975年のこの頃は、現代よりもかなりてきと~……というか、調べようがないところがあったらしく、それが余計に揉め事を……っと、話が長くなりそうなので、戻そう。
とにかく、土地は手に入った。
しかも、立ち退きも整地もする必要のない、ある意味では非常に事前の準備が全て整えられた、開発に理想的な土地である。
後は、何を作るか……だが、これがまあ考えるとなると、色々と難しい。
費用こそ『賽銭箱』で解決できるが、問題は建築……つまり、完成に至るまでの必要日数だ。
アレやコレやと注文を付けていけば、その分だけ時間が掛かる。
これは単純に人を増やせば解決できるものではなく、部品の調達やら資材の運搬やら廃棄物の処理やら、諸々の部分はどうにもできない。
また、コンクリートの自然乾燥もあるので、工事の範囲が広がれば広がるほど、その分だけ必要日数は右肩上がりし続ける。
特に、この頃は現代のように様々な部分がオートマチックにされていない。現代ではある部品や道具が、この頃にはまだ存在していないってのも、けっこう多い……ん?
……『多摩ニュータウン』は、ものすごい規模なのにあっという間に出来上がったぞ……って?
それは、比べる相手が間違っている。
アレは国が主導で動いた事業であり、運搬用の道路もそれに合わせて作られ、広大な敷地をたっぷり自由に使って、一気に作り上げたのだ。
それに比べて、これから行う『春木競馬場』の改築&増築は、運搬のための道路は貧弱、一般の方も利用するから渋滞を引き起こしやすく、周囲に住宅地があるのでむやみやたらに騒音を立てたら苦情が出る。
現代にて問題されている、首都の道路などの修繕が難しいと言われる理由が、それである。
いちおう、千賀子たちが手を貸したらあっという間に終わってしまうけど……それをしてしまうと『景気のテコ入れ』のチャンスを自ら潰してしまうので、中々に選び辛い。
「……どうしたものかな」
ロボ子より出してもらった地図を見下ろしながら、千賀子はう~ん、と頭を悩ませた。
そもそもの話。
仮に千賀子たちが手を貸した場合、どう頑張っても説明出来ない速さで工事が進むという時点で、大騒ぎになりそう……という問題と。
工事期間が長期化すると、その分だけレースを再開できない期間が延びてしまい、その分だけ競馬関係者の収入に直結する……という問題と。
あまり開催できない期間が長引くと、その分だけ客離れを引き起こし易く、完成した頃には客が他所に取られて……なんて問題が起こる可能性だってある。
(う~ん……あっちを取ればこっちが立たず、こっちを取ればあっちが立たず……はてさて、どっちを選べば良いのか……)
パッパと済ませてしまえば、レース再開までの日程が早まる。しかし、景気のテコ入れが弱くなる。
長期的に全部人任せにすると、その分だけ景気のテコ入れは長く続くかもしれないが、競馬関係者が影響を受ける。
全体を見たら長期間の工事の方が良いのかもしれないが、だからといって、これまで盛り上げ続けてきた業界に冷や水を差すのは……それに、下手すると他所で『競馬反対!』といった感じで運動が起こる可能性もある。
なんとも、判断に迷うところだ……しばしの間悩み続けた千賀子が出した結論は。
「表なら工事、裏なら競馬だね」
お財布より取り出した10円玉による、コイントス。断じて、考えるのが面倒臭くなったわけではない。
「……裏か。ヨシッ、ちゃっちゃとやってしまおう」
決断を下した千賀子は、さっそくロボ子へ連絡を取る。
ロボ子も連絡が来ると分かっていたので、『はい、どうしますか?』すぐに結論から話が入る事ができた。
「あのね、できる限り早く競馬場の工事を終わらせたいなあって思っているんだけど、なんか良い方法ある?」
『では、作業ポッドを出しましょう。資材もこちらで用意した物を使用し、AI制御にて同時並列で作業をさせます』
「え、それって他所からバレない?」
思わず尋ねれば、『バレません、あそこならば』通信機器の向こうにいるロボ子より、力強く断言された。
『あの地に隕石が落ちて周囲が吹き飛ぶぐらいの異変でも起きない限り、誰もが疑問にすら思いません。そういう場所ですので』
「え、じゃあ、いきなり家とか建てたとしても、誰も気にしないの?」
『はい、以前からそこに家が建っていたと誰もが認識しますし、帳尻が合うよう存在しない記憶と記録も作られますので、誰も疑問を覚えません』
「なにそれ、こわっ……!!」
『騒音に関してはマスターが防いでくだされば、後はこちらで適当に目隠しと封鎖をしてしまえば、露見する可能性は限りなく0になります』
「……あ、そう」
なんだろう、前世の頃にちょろっとだけやった、あのゲーム……なんだっけ、それが現実になると、こんな感じになるのだろうか。
「……全部任せる。こっちで用意するものってある?」
『いいえ、御気になさらず。『スタンド』での予備資財を使います。外部より調達になりますと、どうしても必要日数が増えますので』
「あ、うん……」
『それで、要望はなにかありますか?』
「要望?」
『はい。この際ですし、観客席を含めて新たに施設諸々を作りましょう。現状の施設の位置と、コースの位置では、拡張された土地を有効活用できません』
「ん~、要は、デッドスペースが大きいってこと?」
『はい。縦長の土地の、上半分だけを使って横向きにコースがある状態でして……土地に合わせて新たに観客スタンドなどを作った方が、よろしいかと』
「ふ~ん……古い方の建物はどうするの?」
『新設した観客スタンドがメインになりますと、現時点では使い道は無くなります。撤去する事は可能です』
「じゃあ、そこを資料館とかにしよう」
『資料館?』
「特別記念レースの勝利した馬の銅像とか、写真とか飾って行こう。内装もこっそり改造して、見られるように……できる?」
『可能です。ただ、優先順位は新設を終えたからになります……さて、建物の大まかな方針はこれで良いとして、コースの方はどうなさいますか?』
「コース……う~ん、コースねえ……」
ロボ子より尋ねられた千賀子は、う~ん、と先ほどとは違う理由で唸った。
「……とりあえず、コースを広くしよう。今の1周が約1200mってのは、小さいんでしょ?」
『地方競馬場として見るならば小さくはありませんが、マイル走以上を走らせるなると、手狭であるのは否めません』
「前からうっすら思っていたけど、あまりよろしくない?」
『コースそのものが小さいので、マイル走でもその分だけ馬は加速と減速、強烈なGを受けながらコーナーを最低でも2回は走らなければならない以上、負担は大きくなると思われます』
「あ~、そうなるよね……」
改めて指摘され、千賀子は軽くため息をはいた。
マイル走とは、競馬における競争距離の事を言う。
1000m~1399mを短距離《スプリント》。
1400m~1799mをマイル。
1800m~2199mを中距離。
2200m~2799mを中長距離。
2800m以上を、長距離。
なので、マイル走と言うと、競争距離が1400m~1799mの間にあるレースを差すわけだ。
ちなみに、これはあくまで最低距離が1000mからスタートする中央競馬の話。地方競馬では、1000m以下のスーパースプリントレースというのも……で、だ。
「じゃあ、どれぐらいの長さが良いかな?」
『長すぎると、その分だけ観客から遠くなります。1周1600mから2000mで、スタート用の直線コースを繋いで、ギリギリ中距離ぐらいまでは周回せずに競争距離を走りきれるようにするのが妥当かと』
「その方が良いの?」
『ぶっちゃけますと、中央レースに合わせたコースの方が、中央レースへの練習を目的に出走を決める人が増えるかと思いまして』
「まあ、寂れるより混んでいる方が良いし、人気があるから余計に人気になるってのは確かだし……じゃあ、そうしようか」
『それと、コースは二つ作りましょう。マスターの御力を借りて、芝のコースと、ダートのコースです』
「芝? まあ、それぐらいはできるけど……」
そこまで考えて、ふと、千賀子は思う。
とりあえず、己が存命中は良い。さすがに、死んだ後の事まで面倒を見るつもりはないし。
エマに関しては、望めが遺産として渡しても良いが……まあ、その頃には競馬ブームは終わっている可能性高いし、気にするだけ無駄か。
「芝は生やせるけど、芝のコースは作った方が良いの?」
『今後を考えれば、芝のコースは絶対に作った方が良いかと。タイミングを考えるなら、今が最適です』
「そうなの?」
『コースを縦向きから横向きに変える……つまり、コースを新たに作った方が綺麗な形になりますので……それと、『春木川』の問題もあります』
「春木川……えっと、春木競馬場内を横断している川だよね? なんかあったの?」
ロボ子より新たに出された問題に、千賀子は首を傾げた。
……春木川。
それは春木競馬場を横断している川であり、春木競馬場が数ある競馬場の中でも特に珍しい競馬場と言われる理由(コースのために橋を架ける必要があった)の一つである。
その春木川がいったい?
『以前より傾向がありましたが、最近になって生活排水などの汚水が捨てられる量が増えまして』
「あっ(察し)」
尋ねれば、思っていたより切実な問題であった。
『雨天時などは増水の危険性がありますし、この際です……コース状から、外してしまいましょう』
「う~ん……これも、時代の流れかな」
場内に川があるという二つとない特徴を失うのは痛手だが、そのために事故のリスクを増やすのは本末転倒……ロボ子の提案を受け入れたのであった。
……で、だ。
次いで、ロボ子より渡された(というか、押入れの中に置いてあった)のは、前世では見慣れていたノートパソコンであった。
……分かる人が見れば、腰が抜けてしまうような光景だっただろう。
通信機器もそうだが、千賀子の前世では、1975年のこの頃にはもうパソコンが作られており、アメリカMITS社が販売した『Altair8800』が最初のパソコンとされている。
それに比べたら、見た目こそ玩具に見えるノートパソコンだが、その性能は桁違い。あまりにもオーバーテクノロジー過ぎて、それがパソコンであると気付けなかっただろう。
……そのノートパソコンを開いて、指示の通りに操作し……ソフトを立ち上げれば、なんだか前世の学生時代を想起させる画面が表示された。
『──1975年の、『リアル・春木・シティ』です。そのゲームで、マスターの思い描く建物を作ってください』
「なんだか、どっかで聞いた覚えがあるタイトルだなぁ……」
『音声入力を始めとして、マインド入力にも対応していますし、自動でサンプルも作ります。とりあえず、触っていれば自然と分かりますので、習うより慣れろ、であります』
「う~ん、私が言いたいのはそこじゃないんだけど?」
『目指せ、私の考えた最強の競馬場、であります』
「……まあ、いいか」
今さらな話だが、ロボ子を人間の尺度で考えてはならない。人間の常識で考えると、気が狂うから。
『あ、右上に表示されているのが、現時点での『賽銭箱』の額と、その建物を作る際の最低必要日数です。いちおう、赤字で表示されると、足りないって意味になりますのでご注意ください』
「……試しに集客人数10万人の観客スタンドってのを作ってみたんだけど、必要日数2日で、『賽銭箱』の残金が1%にも遠く及ばないのに、足りない事ってあるの???」
ツッコむのは程々にして……さて、と気を取り直した千賀子は、改めて……『私の考える最強の競馬場』の見本を作る作業に入るのであった。