ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
現代の建築では、『CAD』と呼ばれるコンピューターツールを使って設計図や図面を作成するのが当たり前というか、無くてはならない必需品になっている。
このCADは、建築設計において非常に画期的なツールであり、手描きの図面に比べて修正や変更が容易でありながら、建築物の構造計算も可能。
CG機能を生かした3Dグラフィックス、アニメーションを用いることも可能で、元々のデータさえあれば関係者間への情報共有が可能であり、CADは建築業界において革命的なツールである。
……で、そのCADの発祥だが、実は一般人が思うより昔であり、1963年にアメリカにて開発された2次元CADソフト『Sketchpad』が始まりとされている。
これはプログラミングが必要なく、ペンを動かすだけで画面上に図面を描いて簡単に操作できる……という、非常に画期的な代物で、業界に大きな衝撃を与えた。
そして、1971年に、現在(千賀子の前世の話)の大半のCADソフトの源流だと言われる革新的ソフト『ADAM』が開発され、建築の世界にもコンピューターツールの必要性が注目されるようになり。
1980年代に入ると、ついに一般企業にも導入が進み始めた。
ただ、それまでに比べてCADを動かすには巨大なコンピューターが必要だったため、一部の大手企業以外では中々導入できず、まだまだ普及しているとは言い難かった。
このCADが中小企業にも普及していくのは、1990年代後半になってから。
パソコンの性能が上がり、2000年代に入って安価になってから、ようやく……で、だ。
話を戻して、現在は1975年。
この世界でもCADは既に開発され、一部の大手企業では利用されているが、その名を知る者はまだまだ少なく、建築業界に携わっている人でも、その名を知らない者も多かった。
「……ちょっと、ゴテゴテし過ぎかな?」
そんな中で、仮にCADを知っている者が見たら、それはもう腰を抜かしてたまげた後に、『言い値で買う、それを売ってくれ!!!』と土下座をかました後で。
裏から殺人も辞さない脅しに動くぐらいの超オーバーテクノロジーゲーム、『リアル・春木・シティ』を前に、カチカチとマウスをクリックしていた千賀子は、小首を傾げていた。
なんでかって、千賀子は前世を含めて、こういったジャンルをした事がないので、自分が作ったモノが良いのか悪いのかが分からないからだ。
いちおう、ゲーム自体はとても面白い。
最初こそ思考と手の動きが変にリンクして手間取ったり、頭で思い描くだけで勝手に操作されて動いたり……といった部分にとまどいはあったが、慣れると本当に楽だ。
いや、というか、むしろ、楽しい。
これはもう誰しもが、絵を描いた時に一度は経験した覚えがある事だとは思うが、頭で思い描く光景と、実際に手で描き出したモノが違う……というやつ。
それが、このゲームにはない。
細部まで想像できなくても、ある程度、ゲームそのものが自動的に補正してくれる。しかも、サンプルデータとして様々な建築物や技法も表示され、チラッと念じるだけで適合してくれる。
これがまあ、楽しい。
特に意味は無いが、完全木製の観客スタンド(座席は小さい畳に座布団設置)を作り、まるで江戸時代の城壁を思わせる外観にして遊んでしまったぐらいには、楽しかった。
まあ、あまり寄り道していると分身たちから怒られそうだし、エマを迎えに行くタイムリミットがあるので、すぐに真面目に作り直したけど。
……で、そうして出来上がった『ニュー・春木競馬場(仮)』を、たまたま自室に来た2号と4号に見てもらった。
「……まあ、いいんじゃない?」
「うん、私もそう思うかな」
2人は、なんとも言い難い表情で頷いた。
「なんで、2人もちょっと疑問形なの?」
「そりゃあ、分身の私たちにだってそんな経験ないし」
「正直、私たちもそこまで拘るわけじゃないしね……」
「う~ん、この……」
なので、思わず尋ねれば、ある意味では案の定としか言い様がない返答をされてしまった。
いや、まあ、実際、分身たちはあくまでも千賀子の分身なので、多少なり判断が違う事はあっても、根っこが同じなので、当然と言えば当然の話である。
とはいえ、それで話を終わらせては良心がない。
とにかく、率直な感想が欲しい。なんでも良いから思った事を言ってくれ。
そうお願いすれば……2人は、「う~ん……」しばし頭を悩ませた後、思い思いに感想を述べてくれた。
まずは、2号から。
「この右上にある『総工費1兆500億円:建造必要日数4019日:ロボ子協力の下では驚異の4日間予定!!』っていうとんでもない部分、何をどうしたらそうなるのよ」
「地上8階建ての地下2階、全長470mのスタンドに、場外の厩舎とか溜め池とか色々やるので。ロボ子の協力で各種設備を置く予定で、ロボ子無しだと約4000日以上掛かるという話です」
「設備って、何を置くのよ」
「えっと、レースを終えた後に競走馬たちの身体を冷やすための水道設備に場所に、それに合わせた上下水道を繋いで」
「ふむ」
「騎手や馬の緊急事態用の馬運車を配置、並びに各医療設備も配置、いざという時、場内でレントゲンを撮ったり処置が行えるようにしたり、専用の処置室も設置」
「ふむふむ」
「後はまあ、触れ合いコーナーってやつ? 勝った馬が口取りとかを行えるサークルを設置して、人と馬が往来しやすいよう通路も全部大きくして」
「ふむふむふむ……」
「建物を新しく作るわけだから、厩舎とかも新しくして、道具も新しく、制服も新しく、溜め池も水を入れ替えて綺麗にしてから、循環させて花とかいっぱい植えましょう」
「本当に、ほとんど1から全部新しくするのね」
「他にも……全部説明すると長くなるから省略するけど、とにかく思いつくやつは片っ端から詰め込んだ。こっそり下水処理にロボ子が作ってくれた装置も設置予定」
「……まあ、他へ流出する可能性0だし、いっか」
特に不満はなく、あっさりとしたモノだった。
続いて、4号。
「騎手たちや職員の福利厚生として、新たにロッカールームにシャワールームにリラックスルーム、あとは食堂が必要でしょ……あ、トイレとかも標準設置ね」
「色々するのね」
「これからの時代は、騎手の人気も大事だと私は思うんだよね。別にアイドルを目指せとは言わないけど、人前に出るのだからキチッと身嗜みを整えてほしいかなって」
「そういうものなのね」
「食堂コーナーやお土産コーナー等も完備! 新たに店を出したい人とか、チェーン店を置きたいとか、なんなら商店街の中でやっているところが弁当を販売しても良いかなって」
「へえ、良いじゃないの……でも、お土産って?」
「勝った馬の人形とか、写真付きカレンダーとか……まあ、それは追々で。資料館には銅像も置く予定」
「ふ~ん、すごいわね」
「ちなみに、入場料は大人も子供も一律100円。そのかわり、見てよ……ここに設置予定の自販機を……!!」
「ん~……あれ、なにコレ、ものすっごい幅広い自販機から水道の蛇口というか、ビールサーバーの蛇口みたいなのが出てない?」
「お金を入れて蛇口を捻ると、金額分のジュースが出ます」
「えぇ……(呆れ)」
「子供の頃だったら、間違いなく水筒持ってこの自販機を使っていたわね……ちなみに、諸外国の果物とか、規格外で売れなかった果物を絞るので、味は美味しい」
「なんでまた、そんなモノを……」
「一度は夢見るでしょ!? 蛇口を捻ったらジュースが出てくるってやつを! 普通の自販機は無理でも、ロボ子の用意した自販機なら衛生面もクリア……問題なし……!!!」
「まあ、本体の私が喜んでいるなら、私から言う事は何もないかな」
4号の返答もまた、けっこう冷たかった
……。
……。
…………さて、そんな感じで『私の考えた最強の競馬場』を千賀子は『リアル・春木・シティ』にて制作し、そのデータを参照してロボ子は『ニュー・春木競馬場』を建築した。
所要日数、4日間。
一般の企業ならば工事以前に、まだ企画の段階、計画を練り上げるどころか、全体の予算すらまだ確定していない段階である。
そりゃあ、そうだろう。日曜大工でカラーボックスを作るのとは、ワケが違う。
軽く見積もっても工事は年単位。必要な人員もそうだが、何十億、何百億の予算を即決で決められるわけがない。
しかし、千賀子の場合は今回、個人に完結しているので……『リアル・春木・シティ』にてデータを用意出来れば、ロボ子の行動は非常に早かった。
まず、初日。
素早く敷地全体を遮音&目隠しプレートにて覆い、千賀子が協力して消音&防振を行い……一日で、全体の基礎工事を済ませる。
合わせて、地下の工事と建築もここで済ませる。
特に、上下水道は4日間掛けて調整するので、この時点で既に水に関する設備は工事と設置を終え、競馬場外の溜め池の水交換と洗浄開始。
合わせて、溜め池内の水を循環させて、放し飼いにした鯉などが生きていられるようにする。
巡回していない水は、あっという間に雑菌が繁殖する。プランクトンの死骸なども悪臭の原因になるし、ボウフラが発生すると大変なので、念入りに。
翌日の2日目。
地下工事と基礎工事を終えたら、地上部分の建物の建築を行う。通常は工事前に整地を行っておく必要があるけど、ここではその必要がないので短縮。
立体駐車場の建築も行う。
従来の駐車場では明らかにキャパオーバーなので、5階建て&エレベーターを20台設置し……電気はどこからだって?
そんなの、ロボ子が用意した自家発電装置を使うに決まっている。『私の考えた最強の競馬場』なのだ、中途半端な事はしたくない。
翌々日の3日目。
観客スタンド(要は、メインスタンド)を始めとして春木競馬場内地上部分の建築を進ませつつ、内装工事(配線など全て含む)も行う。並行して、競馬場外の厩舎などの建築も進ませる。
この時点で、レースのための大まかなライン(仮)を引く。
普通に考えたら、工事がバンバン行われている最中にコースラインを引いたところで、車両などが通るたびにぐちゃぐちゃになるが、それは普通の場合。
超科学力にて作られた作業ポッドの動きは縦横無尽。あらゆる動作に一切の無駄が無く、全てが同時に並列処理し続けるおかげで、全ての作業が恐ろしさを覚えるほどに迅速であった。
そして、工事予定最終日となる4日目。
この時点日にはもう、実質的に工事は完了していて、最終チェックの段階に入っていた。
場内全ての設備が正常に稼働しているか、なにかしらの水が起こっていないかを入念に調べ上げ、安全性を万全にする。
コースも既、に千賀子の『ククノチ』の力で芝のコースとダートのコースが作られている。
短距離から長距離、日本芝と西洋芝まで対応し、障害物競争だけでなく、日本では珍しい直線コースも既に完成&コース状況の最終確認段階。
穴などが発生していないか、芝にムラができていないか、くぼみなどがないか、念入りに調べる。
そうして、最終的には、わずか7秒間ほど予定時間をオーバーしただけで……『ニュー・春木競馬場』は完成したのであった。
……。
……。
…………ちなみに、だ。
この工事に関して、関係者に伝えられた情報は、『改装&増築工事を行うので、しばらく立ち入り禁止』といった、簡素なモノであった。
それはいくらなんでも言葉足らずではと思われるだろうが、説明すると長くなりすぎるので、千賀子が面倒臭がったからで、まだ一言伝えるだけマシであった。
それに、実際のところ、説明する必要はない。
女神様の御業によって、自動的に人々の記憶や記録などへの辻褄を合わせてくれるからだ。
たとえば、新しく観客スタンドを1日で作ったとする。
普通に考えたら、昨日にはなかった建物が一夜にして出来上がっていて、誰しもがたまげてしまうわけだが……ここでは、そうならない。
人々の記憶には、『防音シートで遮られた向こうで、ずっと前から工事が行われていた』という存在しない記憶が捏造され、それが事実になる。
これの何が恐ろしいって、人々の記憶だけでなく、あらゆる記録媒体も改変されるし、なんなら存在しない工事風景の写真を所持している者すら現れるのだ。
もちろん、その者の記憶も改変されており、『工事が進んでいく様を撮り続けてきた』という、存在していないはずの過去が……まあ、そんなわけで、だ。
通常ならば約11年近く掛かる大規模工事を、たった4日間で終わらせたけれども、誰一人としてその事に疑問を抱く者はおらず……いや、むしろ。
「……? ねえ、ロボ子、なんか入口前に人だかりができてない? アレって、なんかマスコミっぽい人たちも居るんだけど?」
「はい、電車やバスの始発時間に合わせて遠方からの人と、近隣住人たち、あとはマスコミ関係者でしょうか」
「え、なんで?」
「一般の人たちからすれば、一大事業の完成を見ようと思うのは当然のことかと」
「一大って、4日前に工事を始めたばかりなのに?」
「一般の方からすれば、小学生の時に始まった工事が社会人になった頃にようやく完成したわけですので」
「う~ん、この……浦島太郎になった気分だよ、こっちは……」
そう、何も知らない一般人からすれば、11年も掛けて行われた工事が完了した瞬間に立ち会っているようなものでしかなく。
新しくなった『春木競馬場』を一目見ようと、老若男女を問わず押し掛けてくるのもまあ……当然と言えば、当然の事であった。
……。
……。
…………さて、そんなわけで、あんまり見て見ぬふりをしていると近隣住民にも迷惑が掛かるので、千賀子は場内から出入り口へと向かう。
ちなみに、ロボ子は既に退避している。光学迷彩にて肉眼では確認できないようになっているが、念には念を、だ。
で、この頃のマスコミとかなら、出入り口の柵を強行突破して無断侵入してもなんら不思議ではないのだが、相手が千賀子だからだろう。
万が一にも怒らせてはヤバいという共通認識があるのか……まあ、そっちの方が有り難いなと思いつつ到着すれば、「──あっ、秋山オーナーです!!」気付いたマスコミ連中がカメラとマイクを柵越しに千賀子へと向けてきた。
「皆様、どうかしたのですか? 今日はレースを行う日ではありませんよ」
「そんな、とぼけないでくださいよ、秋山オーナー!!」
「え、とぼけ……なんの話ですか?」
「何を仰いますか! ついに、春木競馬場の工事が完了したのでしょう!? 一目、見させてくださいよ!」
その言葉に、集まっている人たちが申し合わせたかのように頷き……思わず、千賀子はキュッと唇を噛んだ。
(……いや、別にとぼけてはいないのだけど……う~ん、本当に浦島太郎になった気分だ……)
なんだろう、なんかちょっと寂しい。
千賀子は、どうにも、そう思わずにはいられなかったが……とりあえず、柵の鍵を外して、場内を案内するのであった。
※ 次回、存在しない記憶をもとにした掲示板話
なお、登場する人たちは全員、存在しない記憶、すなわちねつ造された記憶であります