ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第162話: え、マジで? ← 公表後、一日1回は尋ねられる

 

 

 

 ──さて、千賀子の体感的には4日、他所の人には約11年も掛けて作られた世界最大規模の競馬場のお披露目を終えた後。

 

 

 さすがにロボ子の手を借りて作られた『私の考えた最強の競馬場』なだけあって、客の反応もそうだが、騎手や調教師たちを含めた職員一同の反応も相当に良かった。

 

 まあ、これに関しては、何時の時代もそう変わらない。

 

 やはり、最先端の場所、最新の場所で働くというのは気分が良い。自分が、これだけピカピカに新しい場所で働いている……という感覚は、バカにはできない。

 

 仕事道具ならばまだしも、ロッカーとか机とかに、そこまでこだわる人は多くないだろう。

 

 厩舎も、やはりピカピカの新品の方が気分が良いのはまあ、当たり前な話で……加えて、前よりもどこもかしこも広めにスペースを入れただけあって、出入りが楽になったという報告がチラホラ出てきた。

 

 

 ……そんな中で、なんだかなあ、と思うところが一つ。

 

 

 それは、客として増えた女性たちの反応である。

 

 やっている事は他の競馬場と変わらないのに、見た目が綺麗に華やかになっているだけで、なんともまあ評価が甘くなる。

 

 野蛮だとか何だとかで反対運動に参加していた人が、何食わぬ顔で子供を連れて来場している姿を見た時の千賀子の内心は、そりゃあ複雑なものだったが……まあいい。

 

 とにかく、『ニュー・春木競馬場』の出だしは順調そのもので、一目見ようとわざわざ遠方からやってくる客も居るぐらいなのだから、競馬場がある岸和田のあたりは、なんとも好景気な風が流れているのであった。

 

 

 

 

 

 ……で、そんな感じで春木競馬場のリニューアル(異論は認める)を終えた千賀子だが。

 

 

 それから、二つのイベントが起こった。

 

 一つは、久しぶりに道子から誘われたお茶会(別名:お喋り会)にて、珍しく道子の口から愚痴が……それはもう、延々と垂れ流された……というイベントである。

 

 

 いったいどういうこっちゃ? 

 

 

 なんとも珍しい事に、最初は分からなかった千賀子と明美だが、しばしの間、愚痴に耳を傾けていて……ようやく、道子が抱いている不満が判明した。

 

 簡潔にまとめると、父や夫の仕事の関係で外国の人とも交流があるらしいのだが、そこで相当に陰湿な差別をされて腹立たしい……という事だった。

 

 陰湿、と言うだけあって、そこまで露骨な方法ではない。

 

 握手をする時は必ず手袋をしていたり、会話をする時に妙にゆっくりとした発音になったり、会食の際は子供用の量にしたり。

 

 パッと見た限り、どちらとも取れるやり方だ。

 

 なにせ、向こうの言い分としては『奥ゆかしい日本人だから』、『日本人は若く見えてしまう』、『誤解があっては大変なので』とか、とにかくこちらを気遣っているような内容ばかり。

 

 ただ、目は口ほどに物を言う……なんて言葉があるように、その人たちの目が全てを物語っている。

 

 彼ら彼女らは、日本人を対等の存在とは思っていない。

 

 向けられる言葉はだいたいこちらを気遣ったり、褒め称えたり、労わったり……といったモノが多いけど、そんなのは全て建前だ。

 

 

 ──遠いところから、わざわざアメリカに? 長旅だったでしょう。

 

※ 要約:田舎者が、わざわざアメリカに? 日本? ずいぶんと遠い田舎から来たのね。

 

 ──日本から、アメリカを学びに来たのですか? それは光栄です、アメリカを見て行ってください。

 

※ 要約:東の猿がアメリカにお勉強(笑)。貴女には無理ね、観光するのがせいぜいでしょう。

 

 

 全てがそうではないが、些細な部分で事細やかに『お前らは、違う』という言外をにおわせる。これがまあ、相当にストレスが溜まるというわけだ。

 

 そのうえ、オイルショックを契機に、アメリカとの間にて強くなりつつある『貿易摩擦』の影響もあって、以前より少しずつ風当りが強くなっている。

 

 道子としては、己の癇癪一つで取引を潰すのは不本意極まりない。

 

 生まれた時より家名を背負う一員として、その程度は笑顔で受け流すことができるし、そのように教育も受けていた。

 

 しかし……何も感じないわけではない。

 

 せめて、言い分にスジが通っていたならば良かったのだが、これがまあ言う事やる事、何一つスジが通っておらず……ぶっちゃけてしまえば。

 

 

「──グダグダぐだぐだ、伝統だとか何だとかで顧客の求める物を作らず、それで売れなかった責任をこっちに押し付けて……他人様を馬鹿にするのは大概にしなさいってね!!!」

 

 

 結局のところ、『おまえのところが良い商品を作ったせいで、こっちが売れなくなったぞ、責任を取れ!』という話を言えないから、遠回しにうっ憤を晴らしている……というだけの事でしかなかった。

 

 

「……テレビとかでさ、なんかアメリカとの貿易摩擦がどうとか、車がどうとかって言っていたけど、それってそんなに深刻なの?」

 

 

 本当に珍しく怒っていて感情が高ぶっているせいか、いつもの間延びした口調ですらなくなっている道子。

 

 この場に、子供たちが居なくて良かった。

 

 幸いにも道子と明美の子供とも仲良くなっているエマは、元気に庭で走り回っている

 

 それをチラリと千賀子は神通力にて確認しつつ……愚痴には耳を傾けつつも、視線を逸らした明美より尋ねられた千賀子は……う~ん、と頬を掻いた。

 

 

「深刻になるのは、もっと後……1980年代に入ってからが特に酷いかもね」

「そうなの?」

「つまるところ、アメリカの市民も同じなのよ。無い袖は振れない、素寒貧には豪奢な服よりも、まずは温かい家に食事ってわけ」

「……もしかして、アメリカ人も低燃費な商品が欲しくなった?」

「そういうこと」

 

 

 首を傾げる明美に、千賀子はきっぱりと答えた。

 

 

「1Lで2kmしか走れない車より、1Lで4km走れる車をアメリカ人も欲しがったわけ。アメリカだってオイルショックの影響があったわけだし、考える事は同じなのよ」

「じゃあ、アメリカ人も作れば良かったじゃないの」

 

 

 身も蓋も無い明美のその言葉に、「アメリカは広いから……」千賀子はそう言って首を横に振った。

 

 

 ──そう、実のところ、アメリカもただ指をくわえて見ていたわけではない。

 

 

 70年代後半から80年代に掛けて、当のアメリカ自動車会社も、低燃費の日本車が市場に食い込むようになって危機感を抱き、開発に動いていたのだ。

 

 しかし、上手くいかなかった。

 

 その理由としては当時の技術的問題が挙げられるけれども、他にも国土的な問題、生活環境の問題、規制の緩さや燃料価格の低さなど、様々な問題があったせいだ。

 

 ハッキリ言うなれば、住む場所によって、車に求められる要求が違い過ぎた……と、いうのも、だ。

 

 当時のアメリカ車の燃費が悪いというのは否定しないが、それと同時に、日本車よりもはるかに頑丈でちょっとやそっとじゃ壊れないという強みがあった。

 

 なんでそうなっているかって、アメリカでは日常的に長距離移動を行っている者は多く、野生動物との衝突もけして珍しくはなかった。

 

 また、ガソリンタンクの容量も違った。

 

 単純に、アメリカ車に比べて、日本車は満タン状態で走れる距離が短かったのだ。もちろん、良い悪いは別だ。

 

 いくら燃費が良いとしても、満タン状態で航続400kmの車と、多少燃費が悪くても満タンで倍の距離を走れるアメリカ車。

 

 都市部に住む(あるいは、ほど近い場所)者ならば、低燃費で小回りの利く日本車は、まさしく『顧客が求めているモノ』であった。

 

 対して、郊外に住む者からすれば、日本車は確かに燃費は良いのだが、移動中にガス欠になる危険性や軽量化による脆さを考慮すれば、従来のアメリカ車を求めた。

 

 つまり、アメリカ自動車会社からすれば、そう易々と『これからは小型化、低燃費の時代だ!』なんて言えなかったし、求めていない顧客も多かった。

 

 しかし、求めている顧客からすれば、『今すぐ欲しい!』ってなわけで……そんな需要をピタリと日本車が満たしてしまったわけだ。

 

 

「アメリカも不景気の波が押し寄せている。アメリカ国民だって、車を2台も3台も購入できる余裕がある家庭は多くない」

「まあ、車ってとってもお高い買い物だものね。置き場所にだって、困るわよね」

「アメリカ自動車会社からすれば、都市部の客をゴソッと奪われたみたいなものだから、そりゃあ思うところの一つや二つは出てくるでしょうよ」

「アメリカってすごく華やかでおしゃれなイメージがあったけど、なんか急に現実的に思えてきちゃった……」

「東京の銀座だけ見て、『これが日本だ!』って言うのといっしょ。羽振りの良い人ばかりテレビに映るけど、大半の国民は日本の庶民と同じく、けっこう質素な日常だから……」

 

 

 プンプン、プンプン、と。

 

 本当にうっ憤を貯めていたようで、もはや相槌を打つだけでも十分な勢いで、ひたすら愚痴を吐き続ける道子を見やりながら。

 

 

「……道子も大変だわね」

 

 

 しみじみと……そう呟いた明美に、千賀子も無言のままに頷いたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、これがイベント(千賀子的には、の話)の一つ目で、二つ目はナニカと言うと。

 

 

 その始まりは、夏の暑さがうっすら残る、9月下旬。千賀子が所有している北海道の牧場にて。

 

 

「そこの人!? ストップ! 手を止めて!!」

「──っ!? ちょ、オーナーさん!? 驚かせないでくださいよ!」

「その角度だと、爪を削り過ぎるわ!」

「え!?」

「良いから、もっと浅く、慎重に、心もち残すぐらいでね」

「は、はぁ……まあ、秋山オーナーが仰るなら……」

「貴方の腕は疑っていないの、ただ、嫌な予感がしただけよ」

「──っ! いえ、オーナーの勘は良く当たりますから、どんどん言って貰えたら有り難いです!」

「そう言ってもらえると、気が楽になるわ。先週のテスコガビーの時も、驚かせてごめんなさいね」

「ゲート練習の時ですか? いえいえ、何かあるよりはずっと良いですから!」

「うふふ、ありがとう……カブラヤオーも、もうちょっとおとなしくしていてね」

 

 

 ──ブフフン。

 

 

 千賀子の指示を受けて、先ほどよりもゆっくりかつ慎重な手付きで削蹄作業を再開する彼を尻目に、千賀子は……調教師たちが待つ部屋へと向かう。

 

 どうしてかって、『カブラヤオー』と『テスコガビー』の次回出走について、方針を決めるためだ。

 

 どちらもレース後、夏を越しての状態が良好で、今のところ怪我らしい怪我をせず、ここまで来ている。

 

 だから、調教師たちの方針と、オーナーである千賀子の方針を擦り合わせ、どのレースに出すかを決める……必要があるわけで。

 

 

「──単刀直入に申しましょう。私たちとしては、カブラヤオーは11月の『菊花賞』に。テスコガビーも同じく11月の『ビクトリアカップ』への出走が妥当かと」

 

 

 カブラヤオーは、11月に控えた菊花賞(芝・3000m)。

 

 テスコガビーも、11月にビクトリアカップ(芝・2400m)

 

 顔合わせをして、軽く挨拶をしてすぐに本題に入れば、調教師からそんな提案を出された。

 

 千賀子の競馬の知識なんて、おおよそ素人に毛が生えたレベル。なので、特に希望が無ければ、実際に調教をしている彼らの意思に従う……ところだが。

 

 

「テスコガビーは、それで良いでしょう……」

「……あの、何かご不満な点が?」

 

 

 どうにも拭えぬ感覚に顔をしかめていると、ちょっと頬を強張らせた調教師の彼から、おそるおそる……といった様子で尋ねられた。

 

 不特定多数の目が入る場では顔を隠しているが、今はそうではない。

 

 なので、顔をしかめている……という珍しい表情が第三者にもわかる。

 

 そして、見てしまえば、ドキッと胸を高鳴らせて冷や汗を流すのは、ある意味では当然だろう。

 

 

「……いえ、悪い予感というわけではないの。ただ、カブラヤオーに3000mは、ちょっと長いような気がして……」

「あ、そういう……はい、そうですね。私たちも同じ懸念を感じております」

 

 

 けれども、とりあえず不吉な忠告でない事に心底……それはもう、ほ~っと大きなため息を吐いた彼は……額の汗を拭った。

 

 カブラヤオーの懸念は、距離の長さだ。

 

 というのも、千賀子が知る限り(神通力にて、感じ取った部分でも)の話だが、カブラヤオーは基本的には『臆病な馬』である。

 

 その臆病の原因は、幼少の頃にまでさかのぼる。

 

 千賀子も実際にその時の現場に居合わせたわけではないのだが、どうも他の馬に顔を蹴られたとかで、とても怖がりになった……という話らしい。

 

 だから、カブラヤオーは馬群を、他の馬を非常に怖がる。

 

 飲み込まれたらそのまま死ぬとでも思っているのか、近寄ることすらしない。相当なトラウマになっているのだろう。

 

 それは大人になっても変わらず、なんとか少しでも克服してもらおうとあの手この手で頑張ったし、千賀子も神通力にてトラウマを和らげようとはしたのだが、上手くいかなかった。

 

 調教師(厩務員も)と騎手から、『馬群に飲まれたり、後方からのスタートだと、怖がってブレーキを掛けたり左右に逃げ出す可能性が極めて高い』とキッパリ断言されてしまった。

 

 だから、カブラヤオーは全てのレースにて『逃げ』るしかない。

 

 脚質的に『逃げ』が合っているのではない。臆病であるがゆえに、『逃げ』以外の戦術を取れないのだ。

 

 そして、カブラヤオーの『逃げ』は戦術としての『逃げ』ではない。恐怖から逃れるための、後先考えない命がけの逃走である。

 

 だから、途中で足を緩めて息を整えるなんて事ができない。ただひたすら、前へ前へ……なのだ。

 

 

「私が見たところ、2400……2500mぐらいまで。それ以上は、どうかなって思って」

「秋山オーナーの懸念はごもっとも。参考までに、どの馬が注意とかありますか?」

 

 

 調教師より手渡された出走予定の紙(手書きである)に記された名前を一つ一つ見やった千賀子は……2頭の馬を指差した。

 

 

「この『イシノアラシ』と、『ロングホーク』かしら。特に、イシノアラシは長距離に強い……そんな気配を感じ取れるわ」

「……なるほど。私が調べた限りですが、『イシノアラシ』は血統的にはステイヤー……菊花賞のような長距離なら、特に強いでしょう」

 

 

 千賀子の指摘に、調教師はう~ん、と腕を組んで唸った。千賀子も、どうしたものかと、ちょっと悩む。

 

 世間的にも、シンザン以来の三冠馬カブラヤオーが見たいと思っている人は多いだろう。それは、関係者一同が同じ気持ちである。

 

 千賀子としても、頑張っているカブラヤオーの血を次代に残すためには、三冠馬という偉大な証を……という気持ちが0ではない。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばし考えた千賀子は、おもむろに決断した。

 

 

「……菊花賞へ行きましょう」

「──っ、よろしいので?」

「これもまた、競馬です。挑んで負けるならともかく、既に二冠を手にしている……負けるのが怖いからと逃げ出せば、カブラヤオーの名にケチがつきます」

「──分かりました。それでは、全力を尽くさせていただきます」

「どうか、カブラヤオーを頼みます」

 

 

 深々と頭を下げる調教師に、千賀子も深々と頭を下げたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あ、言っておくけど、二つ目のイベントというのは、コレではなく、この後に千賀子が発生させた。

 

 

「……ところで、秋山オーナー。話は変わりますが、春木競馬場を新しくしましたし、なにかしらの記念レースを開きなさるのですか?」

「ん? まあ、やるつもりではあるけど、やっぱり気になる?」

「そりゃあ、新しくなった競馬場の、最初の記念レースですから。いったい、どんなレースを開くおつもりなのかと、気にならない競馬関係者はいないでしょう」

「ん~、確かに、言われてみたら、気になるか」

「それで、既にレースはお決めに?」

「まあ、隠す必要もないし、どうせそのうち公表するし……えっと、距離は決めてないけど、レース名はもう決めてあるんだな、これが」

「ほう? 差し支えなければ、聞いても?」

 

 

 調教師が尋ねれば、千賀子はニヤリと笑った。

 

 

「──その名も、第1回『ポンポコ賞』」

 

 

 そう、それは、後に20世紀の珍レースとして語り継がれることになる。

 

 

「ポンポコ産駒の、ロウシっていう思い出の馬がね……だから、ポンポコのレースを開こうかな……って」

 

 

 ポンポコ産駒限定の、最初の特別記念レースであり。

 

 

「えぇ……(絶句)」

 

 

 外部の者では最初の1人、その概要を聞いた調教師の……嘘偽り無い本音のドン引きもまた、エピソードの一つとして語り継がれることになるのだが。

 

 当たり前だが、この時は誰も、そうなるだなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 








 調教師「どういうことなの?」

 他の馬主「どういうことなの?」

 競馬ファン「どういうことなの?」


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