ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
1976年での有名な出来事はナニカと問われたら、日本人の大半(歴史を勉強していたら)は、『ロッキード事件からの田中総理逮捕』を言うだろう。
もちろん、それだけではない。
1976年の正月開けてすぐに極左によるテロ行為によって『平安神宮』が放火され、9棟が燃えるという大事件が起こり。
3月には、極左テロ集団によって北海道庁が爆破されて死者が出て、80名以上の負傷者が出るという大事件が起こり。
国外では、それはもう無血クーデターが起こったり、亡命事件が起こったり、悪い意味で緊張感が高まるような事件が起こっていた。
でもまあ、有名なのは田中総理の方だろう。
しかし、それはあくまでも前世の話。そう、千賀子が生きているこの世界では『ロッキード事件』なんてのは起こっていない。
あくまでも、千賀子の前世の世界での話である……というのを忘れてはいけない。
で、これは前世の話だが、当時の驚きと来たら、そりゃあもう日本中が大騒ぎであった。
なにせ、元総理が逮捕されるという話なんて、戦前と戦後合わせても最初であり、まさか一度は国のトップに上り詰めた人物が逮捕されるだなんて、青天の霹靂のような話である。
そのうえ、オイルショックから続く不景気(実際には、僅かばかり景気は上向いていた)によって、人々のうっ憤が溜まっていた時に起こったのだ。
ファンがアンチに反転した時ほど厄介とは言うが、それは田中総理に対しても同じであった。
いちおう、事実だけを並べるならば、田中総理は言うほど悪い総理ではない。
そりゃあ、土地のインサイダー取引みたいなもの多額の利益を得た……という疑惑は確かにそうだが、それは賄賂を貰わないと動かないまわりにも問題がある。
それに、やろうとしていた事、それ自体は、別に間違ってはいないのだ。
地元ひいきという点はあるが、全国的に物流や人の動きを活発化させるためには、遅かれ早かれ道路や線路の整備は絶対に必要であったし、それを求める支持者だって非常に多かったのだ。
また、オイルショック時の田中陣営の動きは早く、少なくとも迅速に解決に動いて、実際に値上げを撤回させることには成功しているのだから、そこは認めるべき……なのだが。
悲しいかな、現実はそうならなかった。
期待の反動、というやつか。
あるいは、当時の放送ではそこらへんをちゃんと説明していなくて、耳触りの良い『政府の弱腰対応』とやらに流れてしまったのか。
実際のところは不明だが、とにかく、『田中総理のせいで生活が滅茶苦茶になった』と思っている人が大勢居る中で、その元総理が逮捕されるなんて事件が起これば……『やはり、あいつは悪いやつだった!』と怒りを露わにする者は多かった。
……とはいえ、だ。
その話は、あくまでも、前世の話。
千賀子が生きるこの世界では、まだまだ田中総理は現役である。少なくとも、千賀子がニュースなどで確認した限りでは、なにかしらのスキャンダルも報道されていない。
ただ、総理の仕事の補佐が激務なのか、秘書が何人も交代しているという話は流れてきたけど。
とりあえず、千賀子からは『なんとなくだけど、1985年の2月ぐらいに倒れそうだから、お大事に、だよ』といった感じの伝言だけは残しているけど……どうなるかは、神のみぞ知る、といったところだろう。
──(=^ω^=)エ? キョウミナイデス……
どうやら、興味が無いので知らないらしい。おそらく、把握した瞬間に必要ない事だからと、捨てているのだろう。
で、だ。
そんな1976年を迎えてから時は流れ、2月半ば……千賀子はその時、何をしていたかと言うと、だ。
「ママ、回して! 回して!」
「……えっと、エマ? まだ作るの?」
「うん!」
「わっ、かわい……うう、我が娘ながら、とんでもない凝り性……」
「はやく! はやく!」
「分かった、分かりました、準備しますから、触っちゃ駄目だよ」
答えは、『神社にて、ひたすらたい焼きを作り続けている』……であった。
……。
……。
…………??????
いや、皆まで言わなくていい。
おそらく、言いたい事はわかる。
なんで、たい焼きを作っているのか……どうして、エマが張り切っているのか……といったところだろう。
さて、その経緯を簡潔に述べるならば、だ。
1975年(つまり、去年のこと)の12月。年末へと滑り込むようにして発売された、1枚のレコードから全てが始まった。
曲名は、『泳ぐんだよ、早くしろよ!』である。
内容は鉄板で焼かれていたたい焼き屋のたい焼きが、自由を求めて大海原へと逃げ出した先で黒光りのサメにぶつかってしまい、屈辱の示談を迫られる……というものだ。
曲名にたい焼き要素が無いやんという当然の疑問を、誰も覚えなかったのだろう。
初めて千賀子がそれを聞いた時、『なんか聞き覚えあんね……』と思っただけだったが、これがまあ、とんでもない大ヒットとなった。
制作したレコードが、それはもう片っ端から売れるのだ。
文字通り、右から左に流すだけで売れるぐらいの勢いで、大人も子供もこの頃は曲名をわざと訛った言い回しで『──ぐんだよ、あくしろよ!』というのが流行ったぐらいに売れた。
そして、それが売れたおかげで起こったのが、空前の鯛焼きブームである
明治の頃は大人気だった鯛焼きだが、昭和50年にもなればそこまでのモノではなく、古臭い和菓子の一つとして思われていたそれが、唐突にスポットライトを浴びた。
たい焼き屋に限らず、和菓子を取り扱っていた店はたい焼きを売り始めたし、たい焼きを販売する屋台が増えたし、商店街に行けばかならずどこかで曲が流れているぐらいで。
それはエマもまた例外ではなく、事あるごとに『たい焼き食べたい』と口にするぐらいには、それはもうたい焼きブームが到来していた。
……が、しかし。
それに変化が現れたのは、2月に入ってすぐ。
いったい、幼女(エマ)の頭の中ではどのような神経スパークが起こったのかは不明だが、その日、いつものようにたい焼きを買いに列に並んでいた時、唐突に口走ったのだ。
──たい焼き、作りたい、と。
最初、千賀子はそれを聞き間違いあるいは言い間違い、それとも、料理というモノに興味を抱いたのかな……という程度の認識であった。
冷静に考えて、エマはようやく5歳になった頃。
目に映るモノ全てが真新しく、あらゆるモノが不思議に思う時期だ。店主がクルクルと鉄板を回す姿は、エマからすれば、まるで魔法使いのように映ってなんらおかしくない。
「……作りたいの?」
「うん」
「でも、あの鉄板はお高いよ。さすがに、アレは買ってあげられないなあ」
「お誕生日のやつにして!」
「……ほ、本当にそれがいいの? 後で別のに変えるって言っても、変えないよ」
「いい! アレがいいの!」
「う~ん、頬っぺた膨らませるのかわいい……でも、鉄板は重いから、作る時は私と一緒じゃないとダメだよ、それでもいい?」
「うん、手伝って!」
「やっぱり可愛い……!!!」
だから、千賀子は、そうエマから言われた時も、これはすぐに後悔するだろうなあ……とも思っていた。
エマの言う『お誕生日のやつ』というのは、その名の通り、エマの誕生日プレゼントのこと。
これまでもちゃんと誕生日を祝っていたけど、まだ物心がついていなかったから、あくまでも祝うだけで、物は送らなかった。
日常的に着る服とか、そういった物はある程度エマの要望を聞いて買い与えていたから、それ以上は……というブレーキが働いたからだ。
しかし、今は幼稚園に通ったわけだし、5歳になって未熟ではあるけれど、何事も言葉で表すし、視野がどんどん広くなってきている。
そろそろ、誕生日プレゼントをあげても良いのでは……と千賀子は思ったわけで。
『……今は欲しい物ないから、その時に言う!』
『エマがそれでいいのなら構わないけど、あんまり高いのは駄目よ』
『うん!』
以前の誕生日に聞いてみれば、そんな返事をされたので、それじゃあその時に言ってね……と、放置していたのだが。
(ま、まあ、エマがそれで良いのなら、良いんだけど……)
まさか、たい焼き用の道具一式をおねだりされるとは夢にも思っていなかった。
しかし、わざわざ取って置いた誕生日プレゼントをソレに使うというのだ。これですぐに飽きて後悔しても、それもまた経験と思うべきか。
一抹の不安を覚えつつも、千賀子は早速金物屋を通じてたい焼き用の道具を……と、いうところで問題発生。
たい焼き人気の爆発的な沸騰によって、どこもかしこもたい焼き用の道具が完売状態で、入ってくるのが2,3か月後になるとのこと。
それならば致し方ないと判断した千賀子は、ロボ子に頼んで道具一式を用意してもらい……そして、おねだりしてから二日後には、エマの下に道具一式が届いた。
……で、だ。
それから、早速エマは用意したレシピを元に準備を整え(千賀子指導の下)、1人でひっくり返せないからと、一緒に持ってひっくり返したりして、たい焼きを作ったわけなのだが。
「──できた!」
「頑張ったね、エマ。とっても美味しそうだよ」
焼きにムラがあるし、餡の量や入れ方が悪く、形が不恰好で中身が出ているのもあったが、千賀子の目には全てが宝石のように輝いて見えた。
実際、食べている間、千賀子は思わず涙ぐむぐらい美味しかった。
脳裏を過るのは、エマを助けたあの頃からの記憶。初めて自分のお乳を吸い、小便などで汚したオムツを洗い、半分寝たまま授乳させ、ゲップさせ、下を綺麗にして、また乳を吸わせて。
分身たちの力を借りつつ、夜泣きするたび飛び起きて。
すくすくと成長していくエマの姿にどれだけ幸せを感じていたか……それらが、まるで走馬灯のように千賀子の脳裏を駆け巡っていた。
「──作りましょう!」
「え?」
「ママ、手伝って!」
「え? え? 今なの? もう一回?」
だから、そうして幸福に浸っていた千賀子は、一瞬ばかりエマの言った事が理解出来なかった。
しかし、理解出来なかろうが、エマには関係なく……再び、千賀子はエマのお手伝いをして、たい焼きを作った。
もちろん、それも食べる。
さすがに全部は食べられないので、先ほど以上に分身たちが頑張って平らげる。それを、エマはニコニコと満面の笑みで見つめた後で。
「──作りましょう!」
「待って、エマ、ちょっと待って」
また、満面の笑みで作り始めようとするエマの肩を掴んで押さえた。
「ママ、はい!」
「うっ、かわっ……じゃない、待ってね、そんなにいっぱい作っても、食べきれずに腐らせちゃうから」
「ふぇ……(涙・充填中)」
「──れ、冷蔵庫に入れたら大丈夫だから、頑張ろうね!」
差し出された木べら(混ぜる用)を受け取りつつ、暗に止めましょうと訴えれば、まさかの『ふぇ……(涙・充填中)』である。
あまりにも酷い反則技である。
基本的にエマには甘い千賀子に、これを防ぐ手立てはなかった。
それを差し引いても、初めての誕生日プレゼントなのだ。最初ぐらい、やりたいだけやらせても……と、千賀子が思うのも、致し方ない事であった。
……。
……。
…………そして、同時に、千賀子は軽く考えていた。
好きな事をしている時の幼児の集中力と、底なしの体力を。
実際に、無限にソレが続くわけではない。
しかし、実際にその年頃の子供に接した事があるなら想像できると思うが、本当にそう錯覚してしまうぐらいのパワーというか、そういうのを感じてしまう。
なんと言えば良いのか、こいつ自動回復のスキルでも発動してんじゃね……と、思ってしまうぐらいには、ノンストップなのだ。
「欠伸をし始めたかと思ったら、そのまま寝ちゃったよ……」
そして、電池が切れて玩具が動かなくなるように、いきなりコテンと身体を預けて眠ってしまうのもまあ、この年頃なら良くある事だ。
例えるなら、遊園地からの帰り、電車の席に座った途端、あっという間に深く寝入ってしまうアレだ。
それまでのテンションが高ければ高いほど、熱中していれば熱中しているほど……まあ、それも健全に成長している証なので、千賀子としては構わないのだが。
「……両腕が、マジで上がらんよこれ」
ぶっ続けで鉄板を裏返したり、エマが火傷しないよう片手で押さえていたり、慣れない事をしていたものだから、すっかり腕が震えっぱなしである。
神通力である程度カバーしていたが、そのほとんどを万が一、億が一でもエマが怪我をしないよう、そちらにばかり注意を向けていた……その結果である。
「筋肉の酷使ですね、明日は筋肉痛です、お大事に」
「そりゃあ、神通力が無かったら見た目通りの細腕だもの」
「で、どうします?」
「ん?」
「おそらく、明日も作ろうとおねだりしてきますよ」
「……が、がんばるよ、うん」
どうして、とか。
なぜ、とか。
そんな事を考えても意味はない。
たぶん、たい焼きを作っていたお店の手捌きがキレイだったから、自分もそうなりたい……と、思ったのだろう。
それとも、作るという行為そのものに興味を抱いて、実際に作ってみたらそれがとても楽しかったのか……まあ、どちらでもいい。
大人からすれば意味不明な事でも、子供にとっては重大な意味を持っている事は多々ある。とりあえず、させられるなら、させてみたらいいのだ。
それがたとえ、己の両腕に多大な負担をもたらすことになろうとも。
ロボ子からの冷静かつ無慈悲な忠告を受けた千賀子は、分身たちから向けられる憐憫の眼差しを受けながら……そう、覚悟を決めたのであった。
……。
……。
…………で、まあ、うん。
ロボ子の忠告通り、翌日も、そのまた翌日も、そりゃあもう満面の笑みでたい焼きを作ろうとするエマを、千賀子は笑顔で手伝った。
当然ながら、筋肉痛はまったく治っていない。むしろ、翌日になってからが本番だった。
いちおう一瞬で治す事は可能なのだが、ロボ子や分身たちから『そんな些細な理由で使うな、副作用あるんだから』と言われ、泣く泣く自然治癒である。
もちろん、エマにはまったくそんな顔を見せない。
これでも、母親をやっているのだ。
下手に辛い顔を見せたら、エマは気を使ってしまう。子供というのは、大人が思う以上に、親や大人の顔色を窺っているものだ。
よほどじゃなければ、親が辛そうにしていたら手を止めてしまうものであり……そうさせたくないから、千賀子は笑顔で耐えていたのであった。
ちなみに──後日、なんでたい焼きを作ろうかと思ったのかと、何気なく尋ねてみた。
「だって、たい焼きを食べる時、ママは嬉しそうにしているもん」
「……?」
「私だって、嬉しそうにしてあげたいもん」
「…………(心停止)」
そうしたら、コレである。
小さなほっぺがそっぽを向いて、それはもうリンゴのように赤くしながら恥ずかしそうにしているエマの姿に。
──我が娘、世界一可愛いぃぃいぃっぃい!!!!!
笑顔のまま、千賀子は尊さのあまり半ば失神したのであった。
──さて、そんな感じで、平穏でありながらも幸せの真っただ中にいた千賀子だが。
『マスター、先ほど映画配給会社よりご連絡がありました』
3月に入ってすぐの、ある日。
もうすぐ相撲の春場所が始まる(だいたい、3月ぐらい)ということで、穂高部屋に達磨の焼き印が入ったどら焼き(と、支度金)を持って挨拶に行った帰り……ロボ子より連絡が入った。
「……映画? なんでまた?」
それは、言うなれば携帯電話というやつだが……当然ながら、1976年にはまだそんなものはない(有っても、名称はショルダー……)ので、一目に付かない場所に移動してから使用する。
分身相手なら念話で大丈夫だが、ロボ子の場合はこういった道具が必要で……とにかく、分かる人には分かってしまうブツなので、使う時は一目を避ける必要があるのだ。
「……私、そっちの方には特別なにかした事あったかしら?」
『私が把握している限りでは、ないですね』
「だよね……それで、用件はなんだったの?」
『簡潔に言いますと、出演依頼です』
「出演? 出ないわよ、そんなの」
で、話を戻すが、千賀子は基本的にマスコミ関係というか、そういった方面の関係者が嫌いである。別に消えてほしいとは思っていないが、仲良くなりたいとは微塵も思っていない。
それこそ、現在の千賀子が貧乏だったとしても、千賀子は『あいつらとは絶対に仕事したくない』と断言するぐらいには嫌いである。
それは、千賀子の前世での出来事が関係しているのだが、話が逸れるので省略する。
とにかく、迷惑を掛けられていないから何事も起こっていないが、そっち関係に対しては他よりも基準が厳しくなっている……それぐらいの認識なのだ。
「いくら大金積まれようが、首を縦に振ったりはしないわ、断っといて」
『わかりました、そのように致します』
「ちなみに、電話してきた人って誰なの?」
『
「──ちょいお待ち。土師田さんなら話が変わってくるから」
けれども、何事も例外というモノがあるわけで……久しぶりに聞いたその名前に、千賀子は思わず目を瞬かせたのであった。