ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第165話: きっと来る(来ないで)

 

 

 千賀子がテレビ関係(業界諸々含む)を嫌うのは、前世での出来事が原因である。

 

 詳細を話すと長くなるので簡潔にまとめると、めたくそに失礼な対応を取られた挙句、『これ以上しつこく文句を言うなら、こちらも考えがありますよ?』と脅されたからだ。

 

 それはもう、その時の怒りと来たら、こいつら100万回地獄に叩き落としやりたいと思うぐらい酷かった。

 

 あれ以来、千賀子はそっちの関係者が大嫌いである。

 

 さすがに前世の事と、今生の事と、同じにしてはならないというのは分かっているし、あの頃の恨みつらみを晴らそうとは欠片も思っていない。

 

 しかし、学生運動時の報道、オイルショック時のマスコミ関係の動きを見ていた千賀子の結論は、前世と変わらない。

 

 

『こいつら……やっぱり、アレだよな』、である。

 

 

 なので、千賀子としては自分からは『関わりたくない』一択である。ただ、今生では特に何かをされたわけでもないので、基本的に関わらないだけで放置……という状態であった。

 

 

 ──土師田さんなら、話を聞くだけでもしておこう。

 

 

 けれども、相手が土師田であるならば、千賀子としては黙殺する気にはなれず……とりあえず、話を聞くだけでもしておこうと、思ったわけである。

 

 話を聞くだけなら電話でも構わないのだが、土師田の内面というか、以前の時と変わっていないかを確認したい思いもあって、直接会って話そう……と、なった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、待ち合わせ当日。

 

 

 

 行き先は、現在の土師田が務めている映像配給会社、『東影(とうえい)』。その本社がある東京中央区へと、千賀子は扇子を片手に足を運んでいた。

 

 千賀子も名前は知っている。

 

 『東影』とは、この世界の日本における3大配給会社の一つで……東映? 

 

 誰ですかそれ、食べられる物? 知らない子ですね、勘違いしてはいけない、この世界では『東影』です。

 

 残念ながら今生では映画とは無縁な生活(土師田との件は別)を送っていたけど、CMぐらいは数えきれないぐらいに見ている。

 

 ちなみに、現代ではそこまで違いは見られなくなったが、この頃の配給会社はけっこう特色がある。

 

 その中でも東影は1960年代において、子供向けの時代劇によって活路を見出し、1970年代に入っては、そこからさらに子供をターゲットにした作品を出すようになった。

 

 

 ……ちなみに、これは千賀子の前世の話だが。

 

 

 1960年代においては圧倒的に東映(東影? 知らない子ですね)が1人勝ち、それは1970年代の半ばぐらいまで続いたのだが。

 

 1980年代から、映画配給ではなく、映画を上映する場所に重点を置いて販路を広げた結果、現在では実質的に独り勝ちみたいになっている……さて、話を戻そう。

 

 この世界における映画の状況だが、それは千賀子が生きるこの世界でも変わらないのかもしれない。

 

 事前にロボ子が調べた限り、東影が1人勝ち状態に近しい状態にある。反面、映画製作から手を引き始めている大手の一つは、制作から上映する箱に目を向け始めているようだ。

 

 ……で、そんな会社の受付には既に、土師田が待っていた。

 

 

「──お久しぶりです、秋山さん」

「ええ、お久しぶり。元気そうで良かったわ」

 

 

 久しぶりに見た土師田の顔色は、以前よりも血色が良くなっていた。ちゃんとご飯も食べているようで、安心する。

 

 

 ……軽く電話で近況を聞いた程度だが、土師田のこれまでを簡潔にまとめると、だ。

 

 

 千賀子主演の短編映画でまとまった資金を得た土師田だが、どうやらソレをたまたま見た東影関係者より、『うちに来ないか?』と誘われていたらしい。

 

 とはいえ、いきなり抜擢とかではなく、まずは雑用をこなしつつ……という流れで、つい先日に『君も、今度のやつに関わってみないか?』という話になった、とのことだ。

 

 千賀子としては……とりあえず、元気にしているだけでも良かったというのが本音である。

 

 以前の時は、切り詰めるギリギリまで切り詰めたうえで借金していた崖っぷち。食べる物も食べていないから痩せていたし、今の方がずっと良いと思うのも、当然だろう。

 

 

 ちなみに、だ。

 

 

 千賀子が土師田の近況を知らなかったのは、2本の短編映画を撮った後、連絡を取っていなかったし顔も合わせていなかったからだ。

 

 なんでかって、千賀子は土師田の不退転の覚悟と情熱に根負けして出演を承諾しただけで、映画の世界(含めた、テレビ業界)には欠片の興味もなかったから。

 

 あくまでも、それだけ。

 

 だから、借金やら何やらを返し終え、ある程度の資金を土師田が得た時点で、千賀子としては次などなかった。

 

 それを、土師田も分かっていた。

 

 だから、土師田からもこれまで一度として連絡が無かったのだが……言い換えれば、だからこそ興味を抱いたというのもあるけど。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 初めて入る映像配給会社の中だが、紙の束やら吸い殻で山盛りの灰皿やら、果ては無造作に置かれたテープやら、なにかの着ぐるみやら……初めて見る光景に、ちょっと新鮮な気持ちになる。

 

 そんな内心を他所に、土師田に案内されて通された一室。おそらく、上客用の部屋なのか、細かいところに金が掛かっている……どこがって? 

 

 置いてある調度品もそうだけど、他とは別格に掃除が行き届いているあたり……だろうか、

 

 そこの、これまたお高そうなソファーに腰を下ろした千賀子は、挨拶もそこそこに、広げていた扇子をバッと閉じた。

 

 

「あと1回、その時点で私は帰ります」

「え?」

「この部屋に来るまで2回。無断で私を撮影しようとした人がおりました」

「え?」

「スカウトも兼ねている職員なのかは分かりませんが、非常に不快です。念のために持って来たコレで隠しましたけど、言い訳は聞きません」

 

 

 トン、とこれ見よがしに持って来た扇子で自分の掌を叩いた千賀子は、ジロッと土師田を見やった。

 

 千賀子はこの日、顔を隠していない。

 

 自分の庭みたいになっている『春木競馬場』ならともかく、いくら呼ばれたとはいえ、他所でそんな失礼な事をするつもりはない。

 

 ただし、了解も取らず行われる隠し撮りを許容する理由とて、千賀子にはない。

 

 たとえそれが、絶世の美貌を持っているとしても。

 

 さすがに、なんで私が自衛しなければならない……なんて子供みたいな事は思わないので、パッパッと顔を隠してやり過ごしたが……不快に思うのは、当然の事である。

 

 

「……も、申しわけありません」

 

 

 それ自体、土師田がやったわけではない。しかし、組織に属している以上は、それ以外に土師田が言えることはなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、注意はここらで終わらせて。

 

 

「まだるっこしいのは嫌いだから」

 

 

 その千賀子の言葉を聞いて、一つ頷いた土師田は……電話でも軽く話していたが、改めて単刀直入に用件を告げた。

 

 

「今度、うちで制作することになった特撮映画に出てほしいんです」

「特撮……というと、子供が見ているライダーとかウルトラとか、そういうやつよね?」

「はい」

「電話でも軽く聞いたけど、なんで私に?」

「登場する敵の親玉のイメージが、秋山さんにピッタリだからです」

 

 

 その言葉と共に、土師田は……あらかじめ置いておいたのか、テーブルの下より、ちょっとばかりシワがある本を取り出すと、それを千賀子に差し出した。

 

 

 ──『 風雲・夜叉(仮) 』──

 

 

 そうタイトルが記された本を捲る。

 

 中には、作品全体の設定がビッシリ載っていた。

 

 人物設定を含め、細々としたところまでしっかり設定されており、わざわざ赤字で『ここ大事!』と注意書きまでされてるのもあった。

 

 その、中で……簡単なラフで、『イメージ(仮)』と人物像が描かれたページがある。

 

 見た感じ、『この世のモノとは思えない美貌、そこにいるだけで人々を惑わす妖怪の女王』というのをコンセプトにしているようだ。

 

 ラフには、少しばかり切れ長の女性の顔が描かれている。

 

 ただ、他とは違ってどうにも設定量というか、肉付けがフワッとしているというか……はっきり言えば、曖昧な言い回しが多い。

 

 

「……時代劇?」

 

 

 あまりそっち系には詳しくない千賀子は首を傾げる。

 

 時代劇は、祖父と見た覚えはあるけど……つまるところ、その程度の関心と認識である。

 

 

「子供向けの特撮時代劇ってやつです」

「なにか、違いがあるの?」

 

「その名の通り、子供向けです。勧善懲悪(かんぜんちょうあく)で分かりやすく、希望に満ちた最後にする事が基本ですね」

「希望って?」

「よくある、後味の悪い終わり方ってのは絶対に駄目です。ハッピーエンド、大団円、悪を懲らしめ、笑顔で終わらせる……って思ってください」

「ふむ、なるほど……?」

 

 

 ──それ、普通の時代劇でも同じじゃない? 

 

 

 そう思ってしまうのは、そこまで詳しくないからか。

 

 土師田から訂正されてもいまいちピンとこない千賀子は、う~んと唸りながら……それを見て、この流れはイカンと思ったのか、土師田はズイッとテーブル越しに身を乗り出してきた。

 

 

「これは俺の予想なんですけど、これからの時代、今までよりもずっとこの世界は窮屈になっていくと思うんですよね」

「??? なんで?」

「いわゆる、『ウーマン・リブ』というやつですよ。去年(1975年)の食品CMで問題になった、『私作る人……』ってやつは、ご存じですか?」

「去年……あ~、アレね」

 

 

 そのCM騒動とは、千賀子の前世の1975年に起こった女性運動の一つ。外国発祥だが、省略して『ウーマン・リブ』と呼ばれている。

 

 そして、騒動とは、『私作る人、僕食べる人』のキャッチフレーズを、性別役割分担の固定化を招くとして問題視した団体が起こした一連の騒動のことだ。

 

 この世界でも同様に同じ事が起こっていたが、千賀子はあまりにも馬鹿馬鹿しい話に思えて何もする気にはなれなかった……で、だ。

 

 

「秋山さんは、どう思います?」

「役割の固定化を問題視するわりには、自分たちは男を養って『僕作る人、私食べる人』になる気はあまりないのね……って印象」

「い、言いますね……」

「だって、どうせ主夫となった男を養わないでしょ。例外はいるだろうけど、ほとんどは自分より上か、ギリギリ同等の男、それも共働きの男しか選ばないじゃないの」

「え、えっと……」

「伊達に女やってないわよ、こっちも。男のどうしようもない阿呆なところを馬鹿にするなら、女のそういう欺瞞《ぎまん》もちゃんと馬鹿にしないと平等にならないじゃないの」

「……えほん! おほん!」

 

 

 一つ、二つ、どでかい咳をした土師田は、「と、とにかく!」仕切り直しと言わんばかりに設定本を指差した。

 

 

「俺の予想ですけど、『ウーマン・リブ』は始まりだと思うんです。これから先、10年、20年……今よりもずっと規制が厳しくなると思うのです」

「そういうものかしら?」

 

 

 首を傾げる千賀子に、「だからこそ、そうなる前に作りたいんです!」土師田は力強く断言した。

 

 

「子供向けだからこそ、本気で作らないと駄目なんですよ! 子供向けだからこそ、本気で伝えないと駄目なんです!」

「……熱意は分かったけど、それで、どうして私を選んだの?」

「そんなの決まっているじゃないですか! 俺は、貴女のその美しさに惚れたんです!!」

 

 

 ギュッ、と。

 

 

「10年後、20年後、あの頃の子供は、こんな作品を見る事ができたんだ……そう、20年後の子供たちに思わせたいんですよ!」

 

 

 そんな、説得の言葉と共に、だ。

 

 力強く手を握られた千賀子は……軽く目を瞬かせつつ、そういえば当初の頃に説得された時も、似たような事を言われたなと思った。

 

 そういえば、そう。

 

 千賀子の美しさに惚れ込んだから、そんな美しい千賀子の美貌を撮りたいと、その一心で、抑えを解いた千賀子の『魅力』に耐えきった男なのだ。

 

 そんな土師田からすれば、だ。

 

 映画製作会社に入って何がしたいかって、色々あるだろうけど、まず真っ先に惚れ込んだ千賀子を撮りたい……と、考えて動いても、なんら不思議ではない。

 

 子供向けの作品、それを本気で作ろうと思っている。

 

 と、同時に、そこに心底惚れぬいた千賀子を入れたいとも、本気で思っている。

 

 そこには、有名になろうだとか、傑作になろうだとか、そんな考えはまったくない。

 

 ただ、ソレを見た子供たちの心に、20年の時を経てもなお強く残り続ける……そんな作品を作りたいのだと。

 

 

「……ふ、ふふ、ふふふ」

 

 

 本当に、それしか頭にない……相も変わらずの映画バカに思わず、千賀子は笑うのを抑えられなかった。

 

 

「え、あ、あの、秋山さん?」

「ふふ、ふふっふ、ふふふ……なんとも、貴方は相変わらずの無鉄砲ね」

「え?」

「参考までに聞いておくけど、監督は貴方がするのよね?」

「そりゃあ、まあ……」

 

 

 少しばかり語尾に力が無くなったのを聞き取り、千賀子は目を細めた。

 

 

「入ったばかりのペーペーの新人に、いきなり映画監督を任せるなんて話、あると思う?」

「…………」

 

 

 無言のままに、うっすら冷や汗を流し始める土師田に、千賀子はニコッと笑みを向けた。

 

 

「どんな取引をしたの?」

「……えっと、その」

「少しばかり、言い換えましょう。売り言葉に買い言葉、社長と喧嘩してまで、どんな話でまとまっているの?」

「……き、機材道具とかは使って良いけど、出演する人とかエキストラは全部こっちで集めろ、と」

「ふむふむ」

「予算は出さない。でも、空いているなら人を使っても良い、と。やるからには絶対に作り上げろ、と」

「なるほど……で、映画製作の資金はどうするつもりなの?」

「それは、その、短編映画の……」

「それだけじゃないでしょ? 隠したって何も変わらないのだから、言いなさいな」

「……きゅ、給料2年分前借りさせてもらいました」

「それだけ?」

「……また、拝み倒して借金しました」

「──ふっ、ふふ、あは、あははははは!!!!」

 

 

 非常に言い難そうに肩を落とす土師田の姿に、千賀子はいよいよ我慢出来なくなって大笑いするしかなかった。

 

 本当に、この男は後先を考えない。

 

 あまりにも無鉄砲に前だけを向いて進み続ける。ポーズでもなんでもなく、どこまでも本気しかない。

 

 実直と言えばそれまでだが、この男の行動をそんな言葉で言い表すのは失礼だろう。

 

 

「……負けたわ」

 

 

 そして、そういう覚悟を前にして、千賀子が言えることは何もない。こういう熱意に、千賀子は弱いのだ。

 

 いや、むしろ、こういう者にこそ『賽銭箱』の金を使ってやりたいという思いすらあり……気付けば、千賀子はつい口走っていた。

 

 

「顔をある程度隠して良いのなら、出演しましょう。資金も、私が援助しましょう」

「え!?」

「そのかわり、期限を設けるわ。それまでに土師田さんが出来うる限りの情熱を注いで作ってくださいな」

「……っ! 全力で、頑張らさせていただきます!!」

 

 

 深々と頭を下げる土師田に、こちらこそ……そう、千賀子も軽く頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、その5分後。

 

 

「──あ、そういえば、いちおう既にエキストラというか、協力してくれる人が何人かおりまして」

「へえ、どんな人?」

「河童をこよなく愛する、カパ吉という名の人です。年中河童の恰好をしていて、一度で良いから河童の恰好で映画に出たいと」

「……なんだか嫌な予感がするわね、どういう人選?」

「とにかく資金が心許ないので、無償で出てくれる人はと街中を歩いていたら、河童の恰好をした人と会いまして……」

「そ、そう……」

「あとは、女の子役の花子ちゃん。ゴリラ役のヒバ田さんなんて人も……」

「……す、少しは疑問に思わなかったの?」

「そんなの気にしていたら、資金がいくらあっても足りませんから」

「そ、そう……」

 

 

 もうちょっと、立ち止まって周りを見るようにしてほしいなあ……と、千賀子は思ったのであった。

 

 

 

 

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