ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第167話: 『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』 ← このパワーワード

 

 

 映画の撮影期間中とはいえ、常に千賀子が拘束されているかといえば、そんな事はない。

 

 いくら土師田の勢いと情熱に了承したとはいえ、千賀子は千賀子で色々とやる事がある。

 

 エマの世話は当然の事として、競馬関係に牧場関係に相撲に大学にと……冷静に考えると、普通なら過労死しているようなフットワークの軽さだ。

 

 まあ、そんなわけで、千賀子の撮影がない間はちょくちょく『神社』へと戻り、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、挨拶回りをするだけでもまあまあ大変な作業であった。

 

 

「本体の私、ウイスキーとワインを作ろうよ!」

「はい? ウイスキーとワイン? それってお酒の?」

「そう! アメリカとフランスの糞野郎どもに目に物を見せてやる!」

「ああ、もう、落ち着きなさいな。『同期』もせず、何を言うかと思えば……」

 

 

 そんな中で、実はこっそりアメリカとフランスに行っていた3号(また、例の放浪癖である)から、唐突に『酒を作ろうぜ!』という話が飛び出した。

 

 基本的に、現在では必要でない限りは『同期』はしない方針を取っている。なんでかって、今はもうそこまで必要性がなくなってきているからだ。

 

 

 そもそもの話、だ。

 

 

 分身を作りだした当時はまだ千賀子は己の『魅力』の制御が上手くいかず、周りの事を考えて外出もままならず、一日中家の中で過ごす事が多かった。

 

 ゆえに、家に居ながらにして、外の景色、外の記憶、己の知らない世界を分身越しに体感できる『同期』は、千賀子の心を慰める役目を担っていた。

 

 ただ、それも成長するに従って『魅力』を抑え込めるようになったことで、自ら外へ出る機会も増え……『同期』の回数も、昔に比べて減少していった。

 

 それに、減少するに至る理由は、なにもそれだけではない。

 

 単純に、千賀子自身が外に出て頭を使う事が増えたので、『同期』することで分身たちから流れ込んでくる情報を処理しきれない割合が増えたから、遅かれ早かれの話であった。

 

 

 ……で、話を戻すが、ウイスキーとワインだ。

 

 

 現代ではビール(発泡酒含む)とチューハイ(リキュール)と、それに準ずる酒が全体シェアの6,7割以上を担っているが、1976年(昭和51年)頃は違う。

 

 この頃の酒と言えば、ビール(生ビール)・清酒(日本酒)・ウイスキー(ブランデー)がトップ3を担っており、ウイスキーは現代の2倍以上売れていた。

 

 ワインは……まあ、外国のお酒というイメージが強く、日本産ワインは、知る人ぞ知る……という印象であった。

 

 

 しかし、歴史を振り返れば、だ。

 

 

 この時期は『ワイン元年』と後に称されるぐらいに消費量が上昇した時期であり、続々と日本ワイナリー(ワインを作る事業全体)が生まれた時期でもある。

 

 あまり知られていないが……それもまあ、致し方ない面はある。

 

 この頃、ウイスキー市場自体が全体から見れば小さい方だし、ワインはもっと市場が小さい。そもそも、ワイン瓶すら生で見たことが無い人だって普通にいた。

 

 まだマシなウイスキーですら、当初は他の酒に比べて高額だったので、庶民の卓上にはあまり出回らなかったが……それでも、2倍の差はデカかったのだろう。

 

 とはいえ、その問題も、高度経済成長期の流れに合わせて上手く経済戦略を行うことでより多くの人々に認知され、いずれは親しまれるように……で、だ。

 

 

「……あのね、3号。個人での酒造は基本的に違法よ。それに、個人で楽しむとかじゃなくて、売り物になるような酒を作るって話よね?」

「そうだよ」

「酒造知識の欠片すらない私が言うのもなんだけど、そんな簡単な話じゃないでしょ。そんなの、お金を出してどうにかなるモノですらないじゃないの」

「え~、そうかな? ロボ子はどう思う?」

「楽勝過ぎて片手間です」

「だってさ」

「分身に言うのもなんだけどさ……」

 

 

 あっけらかんとした様子の3号に、コイツは……と、千賀子はため息をこぼした。知識が皆無な千賀子だが、言い分は何一つ間違っていない。

 

 世の中は大金さえあればだいたいの問題は解決するが、どれだけ大金を積もうが解決出来ない問題がある。

 

 それは製造や開発であり、酒造もまた同じである。

 

 機械技術もそうだが、酒造というのは札束を積み重ねたら積み重ねるだけ美味いモノができるわけではない。

 

 たとえば、清酒も同じ。

 

 完成品に至るまで、原料の選別に使用する米の割合、米を磨く割合に蒸す時間、発酵品の(こうじ)の動き、温度に水分に発酵具合に、それから様々な工程を経てようやく完成する。

 

 この頃でも現代でも気軽に買えるアルコール飲料だが、そこに至るまでには幾度となく繰り返されたトライ&エラーがある。

 

 あまり実感することはないが、何気なく使っている道具一つ取っても同じだ。

 

 その始まり(つまり、原形)を遡れば、何百年という月日を経てようやく今の完成形になった……というのも、けして珍しくはない。

 

 そう考えたら、だ。

 

 いかに3号のやろうとしている事が馬鹿馬鹿しいというか、専門家からしたら『酒造をナメてんじゃねえぞ!』と言われてしまうような軽々しさだろう。

 

 

「そもそも、私は酒がそんなに好きじゃないし、ワインならともかく、ウイスキーは飲まないでしょ。なんでそれなのに作ってやろうって思ったのよ」

 

 

 それに、千賀子は酒をそこまで好きではない……という根本的な大問題がある。飲む機会があれば飲むけど、飲まないからといってフラストレーションが溜まるわけでもない。

 

 そして、味の好みなどは本体の千賀子と分身たちは同じである。

 

 つまり、酒を作ったところで、千賀子も分身たちも味の良さが分からない。それが成功か失敗なのかすら、上手く判別できないのだ。

 

 

「3号が何を見て思い立ったのかは知らないけど、日本にはいっぱい酒蔵があるわけだし、下手に競合したら本末転倒じゃん?」

 

 

 だから、止めたら……そう、千賀子は言葉を続けようと思ったのだが。

 

 

「でもさ、あいつら日本でもウイスキーとかワインとかを作っているよって私が話題を振ったら、めっちゃ小馬鹿にする感じで『へえ、そうなんだ(笑)』って言って来たんだよ、これはもうゴングが鳴ったと思わない?」

「──ゴング鳴らしたんなら拳を叩き込んでやらねばならんね」

「あと、フランスのやつらも腹立つから、そいつらにも私たちの日本産を飲ませて、引きつった顔で日本産だからと言い訳する様を見てやりたい」

「喧嘩を売られたのなら買ってやろう、そうしよう」

「そう言ってくれると思っていたよ! 実はもう調べていてね、5月末ぐらいにフランスでワインの品評会があるらしいから、そこに出品しようと思っているんだ」

「へえ、そんなのがあるんだ」

「それでね、そこではアメリカもワインを出品するらしくて……ここでぶちかませば、まとめて倒せると思わない?」

「なるほど、たしかに──え、いや、残り3ヵ月もないじゃん、ワインってそんなに早く作れるの?」

 

 

 3号のその話に、千賀子の方針はガラリと180度動いたので……喧嘩っ早くないかって? 

 

 昔の千賀子ならともかく、実際に撃たれたりなんなりされた経験がある今の千賀子からすれば、バカにされて怒らないのは腰抜けでしかない。

 

 グダグダと殴り返さない言い訳を並べて、拳を振り上げても勝てないのを誤魔化すためか、己の度胸の無さを誤魔化すためなのか、それはさておいて。

 

 それで己を誤魔化すぐらいなら、やり返した方が1000倍もマシだというのが千賀子の本音であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、それはそれとして、話を戻そう。

 

 

 これはまあ、アレだ。

 

 煙草を吸わない人からしたら、煙草の違いなんてよく分からないやつ。吸わないのに、煙草の新商品を作ろうとか考える無謀なアレ。

 

 芳醇な香りとか、ミネラルの喉越しとか、ほのかな甘みとか、樽の熟成だとかタンニンの味わいだとか、けっこう子ども舌なところがある千賀子にとってはよく分からない領域である。

 

 ……なので、だ。

 

 餅は餅屋というわけではないが、困った時のタヌキみたいな存在になりつつあるロボ子に(3号の横にいる)、チラッと視線を送る。

 

 

「──作ること事態は簡単です。さすがにいきなり数万トンを用意しろと言われたら不可能ですが、少量ならば可能です」

「おお、さすロボ! 量は作らないよ、売られた喧嘩を買うだけだし」

「あくまでも意趣返し……ですが、問題があります」

 

 

 ピッ、とロボ子は球体関節が見える指を、1本立てた。

 

 

「工場を始めとして酒造のための設備は即日用意できますが、ウイスキーにしろ、ワインにしろ、原料の確保が非常に難しいのであります」

「え、いつもみたいに海外からは?」

「質の良い原料はどこも自国内の酒造会社に卸されておりますので、こればかりは金を出したところでそう簡単には売ってくれないでしょう。下手すれば、中身は質の悪い物を売りつけられる可能性があります」

 

 

 ピッ、とロボ子は2本目の指を立てた。

 

 

「特に、ワインの方はさらに難しい。原料のブドウは一般的な生食用《せいしょくよう》とは違います。基本的にワイン用として栽培されたブドウを使用しますので、これも確保が難しいのであります」

「え、ワインってそうなの?」

「生食用でも作れないわけではありませんが、糖度の問題やワイン用に比べて酸が弱いので雑味が発生しやすく、できるならばワイン用の方が……どちらにせよ、質の良いブドウは売ってくれないでしょう」

 

 

 そして、なによりも……ピッ、とロボ子は3本目の指を立てた

 

 

「販売にするにしても、外国の品評会などに出して上から目線でマウントを取るにしても、それ以前に個人出品は相当に難しいでしょう。なにかしらの会社を通した方が良いでしょうね」

 

 

 その言葉に……最初は意味が分からなかった千賀子は……ゆっくりと、まるでスローモーションのように顔をひきつらせた。

 

 

「ま、まさか……!!」

 

 ──お願い、ハズレていてください! 

 

 

 そんな思いの呟きだったが、ロボ子の返答は非情であった。

 

 

「はい、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通す必要があります」

「い、いやぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 

 思わず、千賀子は悲鳴をあげた。

 

 幸いにもエマは幼稚園に通っているので、千賀子の悲鳴が届くことはなかったが……しかし、一瞬とはいえ我を忘れて叫んでしまうぐらいの衝撃であった。

 

 そう、そうなのだ。

 

 これまであえて千賀子は見ないフリ、存在しないフリ、目を逸らし続けていたが、ソレは依然として千賀子の傍にある。

 

 そう、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』という、どう足掻いても逃れられない祝福(のろい)が。

 

 この会社、女神様からの愛のこもったプレゼントなだけあって、使い勝手という一点だけは、ロボ子の情報操作すら足元にも及ばない。

 

 なにせ、因果そのものを変更して、誰一人疑問を抱かず、ずっと前からそうだったかのように、全ての情報をリアルタイムで書き替え続けるのだ。

 

 言うなれば、昨日作ったばかりの出所不明の商品が、どういうわけか誰に聞いても『あ、アレか、昔からあるよね!』と、存在しない記憶を思い出すのだ。

 

 分かる人からすれば、喉から手が出るほどに欲しいモノだろう。

 

 だが、千賀子にとって、それは間違いなく特級の呪いでしかなかった。

 

 なにせ、この会社……社名変更はおろか、略称としても使えないほか、誰が聞いても、何一つ社名に疑問を覚えることなく答えるのだ。

 

 

 ……つまり、だ。

 

 

 『○○会社の、××さんを呼んで』とか、『△△を作っている○○会社さん』という、極々ありふれた会話ですら。

 

『『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』の、千賀子さんを呼んで』とか。

 

『化粧品を販売している、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』さん』とか。

 

 そんな、誰が聞いても『……なんて?』と自分の耳を疑ってしまうような会話が、極々当たり前の言葉として認識されるのだ。

 

 

「や、やめて……そんな、こんな酷い話が……止めよう、仕返しなんて、何も生み出さないよ……」

「そりゃあないよ、本体の私。誰も気にしないんだから、気にするだけ無駄じゃない?」

「周りが気にしなくても、私が気にするの! 3号さぁ、明美とか道子から『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』の景気はどう? って言われた時の私の気持ち、分かるぅ……!!!???」

「…………」

 

 

 3号の返答は、沈黙であった。

 

 想像して、考えていた以上にヤベーなって思ったのだろう。

 

 

「心中お察ししますですが、客観的に評価するなら、この会社ってとんでもなく便利なんですよね」

 

 

 けれども、ロボ子にはどうでもよい事であった。

 

 

「偽装工作とか一切する必要なく、世の中の全ての企業が欲しがる『信用』を自動的に得られるなんて……その程度のデメリットぐらい我慢した方がよろしいかと」

 

 

 そして、ロボ子の言い分は、客観的に見たら当然過ぎて……千賀子も、その点については何も言えなかった。

 

 実際、気にするのは千賀子だけだし。

 

 それに、分身とはいえ小馬鹿にされたなら意趣返ししてやりたい気持ちは本音である。だからまあ、分かってはいるのだ。

 

 

「……げ、原料無いし、今回ばかりは無理だから諦めようか」

 

 けれども、それでも、やっぱりこの会社名を使うことになるから嫌だなあ……という正直な気持ちは抑えられなかった。

 

 

「『神社』で毎日手に入る果物があるじゃないですか。あの中にはワイン用のブドウも入っていますよ。ワイン用とは言いますけど、生食用より糖度が高くて味は色々な意味で濃厚なんですよ」

「え?」

「この前、女神様が『愛し子は育ち盛りだから、もっといっぱい食べないと……』って、女神様ポイント使って諸々が拡張されましたよ」

「え、いや、そんなの知らない──」

 

 

 本当に何も知らなかった千賀子は、思わず傍の女神様へと振り返り──そこには、『可愛すぎるのが悪い!』と書かれた札を持つ(=^ω^=)の姿が! 

 

 

「……なにしとんの?」

『──いえ、何時ぞやのコロコロもちもちになった愛し子を愛でたいなあって……もっと肉を付けるべきかとも思いまして……』

「……前から思っていたけど、女神様ポイントってどういう基準で増えるのですか?」

『──色々とありますけど、愛し子の可愛らしさに思わず私がノックアウトされるたびに加算されたりもします──あぁ、その眼差し……愛し子に3万ポイント!!』

「…………(心底、おぞましいナニカを見る眼差し)」

 

 

 忘れた頃にろくでもない事しかしない女神様のやらかしに、千賀子はもう何も言えなかった。

 

 

「──では、会社に原料に工場、今日中に完成し、明日の夕方には試作品を用意しますので」

「ちょ、いくらなんでも早すぎない?」

「菌を一つずつ完璧にコントロールすれば簡単ですよ。1日で、最大10年分ぐらい寝かせたぐらいに熟成させられます」

「……素人だから分からないけど、専門家が聞いたら憤りに頭の血管が切れそうな事を言っているってのは察せられる」

 

 

 そして、相も変わらず、こういう時はマイペースにさっさと先へ進むロボ子と3号に。

 

 

「……ロボ子と相談しながら、程々にね」

「分かっているよ──あ、本体の私、ワインの名前は何にした方が良いかな?」

「そうだね、クライムカイザーってのが洒落になるんじゃないかな……」

 

 

 千賀子はもう、色々と諦めたのであった。

 

 

 

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