ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第168話: 競馬関係者「また変な事やってる……」

 

 

 

『──そこまでして勝ちたいか、犯罪皇帝(クライムカイザー)──』

『──奇襲に破れる無念のトウショウボーイ──』

『──勝てばよかろう、負けるな流星の貴公子──』

 

 

 並べられた新聞紙。

 

 右側の……まあ、全国紙やら地方紙やらだが、その中間あたりのページに印字された内容は、それはもう酷い言い草ばかりであった。

 

 ──クライムカイザー──。

 

 その名の由来は、『上り詰める皇帝』という意味があり、間違っても犯罪皇帝なんて酷い意味はない。

 

 そう、けして悪しき思いを込めて付けられた名前ではないし、千賀子もそんな気持ちはまったくなかった。

 

 しかし、1976年の5月末頃……開催された東京優駿(日本ダービー)での一幕にて、とある事件というか、競馬ではよくある事が起こった。

 

 

 いわゆる、疑惑の判定(?)……というやつだ。

 

 

 レース内容に納得できない事(人による)が起こり、それで本来勝てるはずの馬が負けて、負けるはずだった馬が負けた……という、よくあるやつである。

 

 しかし、納得できない者たちや、それを面白おかしく騒ぎ立てて金儲けをする人たちにとって、それで終わらせるわけにはいかなかった。

 

 競馬に限らず、賭け事なのだから、大なり小なり金銭が動く。

 

 大半の者たちは使っても問題ない分しか使わないが、中には使ってはいけないお金……生活費だけでなく、支払わなければならないお金まで注ぎ込む者がいる。

 

 金が掛かっているので、どうしても言葉が悪くなる……それは、わかる。こればかりはもう、どうしようもない部分があるとは思う……が、しかし。

 

 やっている事は、言い掛かりを通り越した、ただのうっ憤晴らしの罵詈雑言でしかない。

 

 なにせ、審議の必要がある時に輝くランプも、目視にて確認していた職員たちも、クライムカイザーの騎乗に対して『問題無し!』という判断を下したのだ。

 

 実際、映像を見た限り、競争妨害に該当するような強引な突進などを行ったようには見えず、一瞬ばかりトウショウボーイがよれて、その隙を逃さず滑り込んだ……という感じだ。

 

 なので、冷静に見ている人は、『少々危ない騎乗だったかもしれないが、その程度は良くある事、それだけ最後まで諦めずにいただけ』という目で見ていた。

 

 だが、そうでない人からすれば、まさしく不名誉な勝利にしか見えず。

 

 その結果、一部報道関係ははやし立てるように『登る(Climb)』ではなく、『犯罪(crime)』と呼び、そうでない人たちがそれに追従したのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、視点を戻すが、今度は左側。

 

 先ほどまでの話が右側の新聞紙ならば、次は左側に並べられた新聞紙。そちらは、右側とは違ってほとんどが外国語であり、日本語で書かれた新聞は一つだけ。

 

 

『──ジャパニーズワイン、フランスの伝統を突き崩す! ──』

『──驕った伝統、自由の国アメリカから笑われる──』

『──玉座よりフランスが滑り落ちた日──』

 

 

 そこには、先日開催されたフランスのワイン品評会の事が記されていた。

 

 そこに出品したのは、『クライムカイザー(白ワイン)』。

 

 赤ワインを出さなかったのは、単純に千賀子が赤ワインを好んでいないから。

 

 例の『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を……う~ん、この。

 

 とにかく、ソレを通したおかげでスムーズに出品が許されたそのワインは、審査する価値なしと門前払いを食らうこともなく、審査され……そして、見事白ワイン部門で優勝を果たした。

 

 そして、赤ワインはアメリカのワインが制した。

 

 それは、まさしく歴史的な瞬間であった。

 

 なにせ、それまで様々な形でワインの品評会は開かれていたが、ほぼほぼフランスの独壇場。

 

 実際、ワインと言えばフランスワインであり、良いワイン=フランスワインというのが常識であり、それ以外はフランスワインの代用という目で見られ、そう思っている人も多かった。

 

 けれども、この日、そうではなくなった。

 

 フランス以外にも、美味いワインはある。

 

 いや、それどころか、フランスに負けず劣らず、時にはフランスを打ち負かすほどの高品質なワインが……その事実を、世界が認識した瞬間であった。

 

 

 ──そして、その『クライムカイザー』を、だ。

 

 

 千賀子は、その時に騎乗していた騎手に1本。

 

 そして、クライムカイザーが生まれ育った牧場へと向かい……前年に亡くなった代表の遺影の傍に1本置いた。

 

 別に、意趣返しとか、そういう意味はない。

 

 ただ、所詮は一部の面から見た話。

 

 犯罪者のようにこき下ろされるその名が、海を渡れば伝統を打ち破った歴史的な名に変わる……所詮、名なんぞ、その程度にふわふわ評価が変わるものなのだ。

 

 

「クライムカイザーは、強い馬です。こんな強い馬と出会えた事、そのお礼を、どうしても言いたかった」

 

 

 けれども、それだけは。

 

 クライムカイザーは、強い馬。

 

 ただそれだけは、間違いのない事実であり、どれだけ誹謗中傷を重ねようが覆せない真実である……それだけは、千賀子の口から遺族へと伝えたいことでもあった。

 

 

 

 

 

 ──さて、それからまた少しばかり時は流れ、8月初旬──夏、真っ盛り。

 

 

 この時期はさすがの『春木競馬場』とて、他の季節に比べてレース数は少ない。

 

 いくら熱中症対策を取ったところで発症する時はすぐに発症するし、輸送の負担はいかんともし難く、そもそも最初から夏バテしている……というのも、珍しい事ではない。

 

 動物というのは人間より寒さに強いが、その反面、暑さには弱かったりする。それは、競走馬とて例外ではないのだ。

 

 また、人の往来も同じである。

 

 夏だからこそ……たとえば海水浴とか、その時期だからこそ楽しめる(他の時期だと、やる事が変わるので)事や場所ならばともかく、日常生活においては億劫なだけ。

 

 人間、どれだけ意地を張ったところで、蒸し暑い真夏日に出歩くより、程よく温かくて過ごし易い時期の方が、身体も軽く感じるものだ。

 

 なので、いくら世界でもトップレベルに設備が整った(誇張抜きで)春木競馬場だとしても、客入りが悪くなるのは必然であった。

 

 

 ──だが、今年は違った! 

 

 

 実は、千賀子の前世においての1976年の夏は、例年に比べて気温が低い冷夏であった。

 

 その影響は広範囲に渡り、稲・野菜・雑穀・果樹・その他諸々に被害が及び……外国とて例外ではなく、冬期アメリカ東部では記録的な寒波に襲われた。

 

 そしてそれは、千賀子が生きるこの世界でも同じであり、例年に比べたら、やはり気温が低かった。

 

 ただ、不幸中の幸いにも、だ。

 

 『……なんか、来年寒くならんか?』&『なんとなく、9月ぐらいに岐阜県に台風ヤバいよ』という巫女的シックスセンスがビビッときた千賀子からのホットラインと、色々な意味で頑張った人たちのおかげで、少しばかり影響を抑えられることが……話を戻そう。

 

 とにかく、1976年の今年は冷夏である。

 

 そりゃあ冷夏とは言っても暑いことには変わらないけど、最高気温が35℃、最低気温が22℃とかそれぐらいだから、現代人からしたらいかに涼しかったのかを察せられるだろう。

 

 

 ──そこで、千賀子は考えた。ちょっと前から、こっそり考えていた。

 

 

 言い方はなんだが、さすがに惑星規模での気象を変化させることは千賀子にも不可能である。ロボ子なら可能らしいが、『その後の影響が……』と言葉を濁したあたり、止めた方が良いのだろう。

 

 なので、千賀子は考えた……こういう時こそ、なんか催し物を開くべきなのでは、と。

 

 と、同時に、千賀子は思った。

 

 これまで通り特別レースを開くのも良いが、ある意味、冷夏という異常気象時だからこそ、そういう時にだけ行うナニカがあっても良いのではないか……と。

 

 

 『千賀子だ~び~:3歳以上 ダート700(右) ポニー限定』

 

 本賞金:1着2200万円/2着1500万円/3着1000万円/4着500万円/5着200万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計400万円。

 

 

 その結果が、コレである。

 

 こいつ、また変な事をやり始めたぞ……そう思う者は多いだろうが、勘違いをしてはいけない。

 

 千賀子は、何時だって本気である。

 

 ただ、本気で『こういうの、良いんじゃないかな?』と、サプライズ的に誰にも相談せずパッと決める時があるだけなのだ。

 

 冷静に考えたら間違いなく成立しないのだが、それがまあ、アレだ。

 

 これまでの千賀子の行いが競馬界隈において広くその名が知れ渡っていたおかげか、それとも美貌のおかげか……だろうか。

 

 

『──はい、もしもし……え、秋山千賀子さ──は、はい、秋山オーナーですね! はい、いえいえ、こちらこそお世話になっております!』

『──はい、はい、はい……え、名前を? それって、どういう……え、ポニーを?』

『──ポニーを? 春木競馬場で? 名前を使うわけではないけど、パロディとして……1レース20万円? え、いや、いやいや、秋山オーナーには色々とお世話になっておりますので、それぐらい……』

『──はあ、そうですか。では、頂戴させてもらいます……しかし、秋山オーナーは面白いことを考えましたね……いえいえ、開催日には是非、はい』

 

 

 とまあ、そんな感じで、どこの馬主さんからも電話にて朗らかな了承を貰うことができたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、『千賀子だ~び~』当日。

 

 さすがに少しばかり賑わいが静かになっていた春木競馬場も、この日ばかりは大盛況と言えるほどに人が集まっており……そこに、実況解説がテレビの向こうへと行われていた。

 

 

『──夏も真っ盛り、皆様、いかがお過ごしでしょうか。実況の──です』

『今日は、おそらく日本初かもしれない、ポニー馬限定のレースが開催される日。全国より集まった小さな優駿たちが、今か今かと鼻息を荒くしているでしょう』

『さて、レースがスタートする前に、知らない人が多いと思われますので、ポニーとはナニカ……という説明をします』

『ポニーとは、特別な品種を指すわけではなく、肩までの高さが147cm以下の馬の総称です。そう、147cm以下であれば、どんな品種であろうとポニーに区分されます』

『つまり、今日のレースは肩までの高さが147cm以下の、ポニーに区分される小さい馬に限定された競馬……というわけであります』

 

 

 そこで、実況が一瞬ばかり途切れ……コースに姿を見せた小さな優駿たちと共に観客たちの歓声が響くに合わせて、再開される。

 

 

 ──1番:ハヨセイヨー

『馬体重165kg。先日のレースでは、見事な勝利! ライバルのタケホイップとは2戦1勝1敗、今回のレースで決着を付けるか!?』

 

 

 ──2番:タケホイップ

『馬体重164kg。先日のレースでは惜しくもライバルのハヨセイヨーに破れましたが、追い切りでは23歳厩務員からの逃げ切り勝利! ヤル気十分です!』

 

 

 ──3番:コーネルライダー

『馬体重170kg。1974年のダービー馬コーネルランサーとは縁も所縁もない、可愛らしいヤンチャなポニーだそうです。好物はニンジン、先日の追い切りではロバを振り切っての勝利!』

 

 

 

 ──4番:ヤマノムーティエ

『馬体重166kg。1970年度のダービー馬が大好きということで、急遽その名が付けられました。タテガミに付けた小さなリボンがチャーミングな牝馬です!』

 

 

 ──5番:シンサン

『馬体重168kg。鉈の切れ味と称えられた神馬シンザンになれたら良いなと頑張る頑張り屋さん! 調教師曰く、大した切れ味は出ないとのこと!』

 

 

 ──6番:カブラダヨー

『馬体重165kg。負けん気その気で気合十分、寂しがり屋らしく逃げるよりも馬群の中に入りたがる馬とのことで、勝てるかは一抹の不安か!』

 

 

 ──7番:ヒカルイマダ

『馬体重180kg。本日の『千賀子だ~び~』では最重量かつ一番大柄な馬! そのパワフルな見た目通りの力強い走りで、今日のレースを勝利するか!』

 

 

 ──8番:ミナミノカチドキ

『馬体重171kg。元気いっぱい、乗馬クラブでは大人気、子供を乗せてゆっくり走るのが大得意! しかし、競争においては裏目に出るか、本日のダークホース!』

 

 

『──以上、8頭が本日のレースへの出走となります!』

 

 

 ──とまあ、そんな流れで始まったレースだが……結果はまあ、語るまでもないだろう。

 

 ただ、このレースのために以来された騎手たちは、ちょっと恥ずかしそうにしていたり。

 

 1頭ずつ紹介されるたび、観客席から笑い声というか、見に来た子供たちからカワイイだのちっちゃいだの、歓声があがったり。

 

 なんというか、明らかに何時ものレースとは雰囲気が違っていたが……まあ、それもまた競馬であると、主催者である千賀子は、馬主席にてドヤァ……と誇らしげであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、後に昭和の珍レースと言われるようになる『千賀子だ~び~』が終わった、来週。

 

 

「……本体の私? いったい何をしているの?」

「ん~、見てわかんない? 水着を選んでいるんだよ」

「いや、それは見たら分かるけど……なんで?」

「今度の日曜日、エマが通っている幼稚園で、母親参加での合同でプールに行くらしくてね。なんでも、社会教育ってことらしいよ」

「……もう一度聞くけど、何をしているの?」

「だから、それに着て行く水着を選んでいるんだけど?」

「……本体の私に言うのもなんだけどさ」

「ん?」

「いくらなんでも、ビキニは止めた方が良いのでは?」

「そう言われても、流行のワンピース水着は胸が……」

「え、無理なの?」

「胸に合わせるとお腹周りがスカスカで……お腹周りに合わせると、胸がどう頑張っても入らんのよ……」

「デカいってのも、考えものね……」

 

 

 どうやら、夏はまだ終わらないようである。

 

 

 

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