ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第171話: 千賀子とて、人の子、思い悩む

 

 

 さて、夏も過ぎ去って10月。

 

 冷夏となった1976年の10月はまあ、残暑と言えるほど熱気は続かなかったが、とにかく夏は終わって秋の気配が見え隠れしていた。

 

 

「──マスター、良い報告と悪い報告があります。まず、良い報告は、景気回復の傾向があるとニュースで報道された──という事であります」

 

 

 そんな時に、ふと、ロボ子よりそんな発言が飛び出した。

 

 時刻は3時、季節に関係なく『神社』の中は、相変わらず心地良い空気が流れている。

 

 オヤツの果物ゼリーを食べて、そのままスヤスヤっと眠ってしまったエマを、それはもうニチャァ……っとした笑みで眺めていた千賀子は、その言葉に「──そうなの?」ロボ子を見やった。

 

 

「はい、未だ公共事業の再開の動きは鈍いのですが、オイルショック時(1973年)の影響も、徐々に改善傾向にあるとの見方が強まりつつあるようです」

「へえ、思ったよりも早く回復したんだ……正直、5年以上は掛かるかと思っていたけど」

「その点については、マスターが精力的かつ継続的に投資したことで、景気の風向きが変わるのが早まったかと思われます」

 

 

 ロボ子の推測は実際のところ、当たっていた。

 

 簡単にまとめてしまうと、不景気というのは、お金の流れが悪くなっている、それに尽きる。

 

 そうならないよう各国はあの手この手で対策を取るわけだが、日本の場合、ただでさえ様々なところから不具合が生じ始めていたところに、『オイルショック』という大事件が起こってしまった。

 

 この影響は、本当にすさまじかったのだ。

 

 現代の感覚では、いささか想像しにくいかもしれないが。

 

 言うなれば、戦後の混乱期が治まってから約20年間ずーっと好景気が続いていて、大半の者たちの財布のヒモが緩かった時代から、一夜にして全員がヒモを閉めたようなものだ。

 

 この衝撃は、とてもではないが言葉には出来ないだろう。好景気が長く続いていたからこそ、より強く人々に響いてしまった。

 

 ぶっちゃけてしまえば、強烈なトラウマになってしまったのだ。

 

 もちろん、実際の状況を細かく言い出すと違う部分が多い。けれども、そう強く人々に認識させてしまった時点で、駄目なのだ。

 

 こうなると、ちょっとやそっと政府主導でテコ入れしたところで、そう簡単に人々の意識は改善されない。

 

 ゆえに、その後遺症が改善して、もう大丈夫ではと人々の心から不安感が除去され、再び景気に回復の兆しが出るまで最低でも5年……長ければ10年は掛かるだろうとも当時は言われていた。

 

 

 ──それが3年に縮まったのは、ロボ子の言う通りである。

 

 

 オイルショックが起こってから今に至るまで、継続的かつ大規模な設備投資を行い、国レベルの資金をばらまき続けた。

 

 車などもそうだが、止まってしまったモノを動かそうとする時は、動いているモノを動かす時に比べて何倍もの力を必要とする。

 

 それは景気に対しても似たようなモノで、1回や2回では瞬間的に盛り上がるだけで終わってしまう。

 

 何度も何度も、兎にも角にも生活を一変させたオイルショックのトラウマを拭い取るには、根気よく続けるしかない。

 

 そして、それは実質的に財源の限りがない『賽銭箱』という反則技を使える千賀子だからこそ可能の、女神パワーによる力技であった。

 

「でも、あれだけお金を使ったのに3年近く掛かったあたり、むしろ手間取った方なのかな?」

 

 

 ……『あれだけ』、とは? 

 

 

 まずは、1.競馬関係(おおよそ、県が二つ三つ四つは傾く金額)

 

 現状、これが一番使った金額が高いだろう。

 

 正確な費用はもう数えるのを止めたが、これまで使った金額は最低でも、それぐらい。

 

 2.大学関係(水産関係(ちょろっと農林も):けっこう出している)

 

 次に、これらに関しては、けっこう相当な金額を出している。

 

 本当は政府が率先的に動かなければならないのだが、政府もそうだが国民自身の意識が……なので。

 

 3.不動産関係(一部、競馬関係も含む)

 

 これに関しては、1と2に比べたら微々たる金額だろう。

 

 とはいえ、それでも相当な人数の生涯年収分ぐらいは使っているので、これは比較対象が悪いだけだろう。

 

 4.その他諸々

 

 これはもう1と2と3に比較すると金額が小さすぎるので、ひとまとめ。相撲部屋を含め、細々としたモノは全てコレにまとめたが、それでも前者3つには遠く及ばない。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 冷静に考えると、我ながらとんでもねえ大金を動かしてきたな……と、今更ながら千賀子は我に返る。

 

 千賀子がこれまでどうしてそこまで精力的に『賽銭箱』の資金を出して金を使っていたのか……それはひとえに、『恐怖の大王』の出現を抑えるためである。

 

『恐怖の大王』は、人々の負の意識によって具現化する。

 

 人が人である以上は、遅かれ早かれ『恐怖の大王』は姿を見せる。しかし、人の負の意識の集合体である以上は、人々の心もち一つでそれを遅らせることだって可能である。

 

 ぶっちゃけてしまえば、誰も彼もが不機嫌で不安を抱えている不景気よりも、ちょっとぐらい嫌な事があっても『まあ、いいか』とやり過ごせる好景気が続いてくれた方が、出現までの間隔が伸びてくれる。

 

 言葉にすれば対処は簡単だが、それを実行するとなれば、とてつもない難題である。

 

 なにせ、人間の本質は、『自分さえ、自分たちさえ良ければ、他人がどれだけ苦しもうが知った事ではない』、である。

 

 むしろ、それでは他人が苦しむから止めた方が……なんて考えるのが異常であり、世界的に見たら極々少数の考え方なのだ。

 

 本当に人々が、そう思うほど『人間』というものが善性ならば、千賀子はもっと暢気に暮らしているし、『恐怖の大王』だって出現していないから。

 

 

 ……さすがに、千賀子は己が死んだ後のことまでどうにかしようとは思っていない。

 

 

 しかし、己が存命の間は、親しい者たちの……そして、エマが存命の間だけでも『恐怖の大王』の手に掛からないようにしたい……その一心で動いていたのだが、どうやらようやく実を結んでくれた。

 

 それだけで、千賀子としてはもう……思わず、肩の力が抜けるぐらいに喜ばしい話であった。

 

 

「……それだけ、人々の心は疑心暗鬼に陥っていたのでしょう。私としては、たった3年で不安が解きほぐされただけでも十分な結果だと判断します」

「まあ、ロボ子がそう言うのなら、そうなんでしょうな」

 

 

 その言葉を聞いて、千賀子はホッと安堵の溜め息を零した。お

 

 次に『恐怖の大王』が出現するのは、少なく見積もっも数年後。上手くいけば、昭和が終わるまでは持ちこたえてくれるかもしれない。

 

 そんな希望的観測……いや、なんかつい先日岐阜の方が大変になったし、『春木競馬』の名義で義援金を送ったが……とりあえず、まだなんとか持ち堪えそうという感覚があった。

 

 アメリカの方も、3号から話を聞く限り、食料品の買い付けなどのおかげでちょっとは効果があったようだ。

 

 まあ、千賀子としては好感度マイナスなので、特に思うところはないけど……それでもまあ、死んでほしいとは思っていないのだけど。

 

 

(いやあ、まずは一安心……明美も道子も2人目が生まれて忙しいみたいだし、何も起きない平和なのが一番よ……)

 

 

 そうして、ふと……友人の事を考えた千賀子の目が、再びエマへと向けられる。

 

 それは、本当に何気ない事であった。

 

 

(……エマも、妹や弟が欲しかったりするのかな?)

 

 

 けれどもそれは、とても重要な事でもあった。

 

 思い返した限りでは、幼稚園などで親しくなったお友達からの話を聞いて、弟や妹が欲しい……というオネダリはまだエマからは聞いていない。

 

 ただ、ちょっとばかり羨ましく思ってはいるようで、弟や妹が居たら……という事は、時々考えてはいるようだ。

 

 

(……弟妹、か)

 

 

 その言葉と共に、エマのこれからの事を考える。

 

 エマとは、血の繋がりは無い。

 

 とはいえ、千賀子はエマを引き取った事に対して欠片の後悔も無いし、むしろ、エマを引き取らなかった自分を想像できないぐらいには、千賀子の日常はエマを中心に回っている。

 

 将来的にエマが思い悩むことになろうとも、千賀子はエマを自分の子供だと思っているし、誰がなんと言おうが、エマから嫌われたとしても、千賀子はそうだと思っている。

 

 けれども、同時に、千賀子は思う。

 

 それはそれとして、このまま一人っ子にさせてしまうのは……どうだろうか、という不安だ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 実は、今から2年前の1974年。

 

 第二次ベビーブームの最中、人口問題審議会と呼ばれる組織により、日本は『静止人口をめざして』という副題と共に、とある問題が課題として挙げられていた。

 

 それは、増えすぎた子供の問題である。

 

 ぶっちゃけてしまうと、日本という国はもう満杯だった。いや、正確には、都市部にはもうこれ以上の人口を抱えられるだけのキャバシティが……ん? 

 

 

 ……なら、東京以外で住めば良いのではって? 

 

 

 それを言う人たちがだいたい東京から離れないのが、全ての答えだろう。この頃の時点で、既に地方は仕事の数が足りていなかったのだから。

 

 そして、これから先、まず東京に資本が投入され、そのおこぼれが地方へ……という構図はけして変わらないだろう……そう、千賀子は思っている。

 

 だいたい、第二次ベビーブームが始まる前の段階で、既に東京は限界だったのだ。

 

 多摩丘陵を潰し、広大な自然を潰し、それでようやく一息付けられた……が、様々な問題は何一つ解決しておらず、以前として解決の目処は立っていない。

 

 そう、あくまでも先延ばしにしただけなのだ。

 

 そして、国もそれを分かっている。分かっているからこそ、国はこれ以上の人口増大を抑制しようと『少子化政策』を推進し、『子供は2人まで』という方針を打ち出した。

 

 それ自体は、理屈で考えたらそこまで間違ってはいない……そう、千賀子は思っている。

 

 だって、無限に土地が、食料が、燃料が、あるわけではないのだから、このまま無制限に人口が増えれば破綻は必至だからだ。

 

 しかし、その政策のツケは、エマが成長して大人になった先……エマの子供、その孫の頃に一気に噴き出してくるだろう。

 

 だって、己の前世の世界がそうなったから……と、千賀子はうろ覚えの前世を振り返る。

 

 

(……家族が増えれば、その分だけお互いに助け合ってくれるかもしれない。私だって、何時どうなるか分からないし……)

 

 

 実際に子を育てる立場になってから、冴陀等村や東京のママさんたちと接してみて分かったこと。

 

 それは、大半の人達は、そんな大それた理由で子供を産んでいるわけではない……ということ。

 

 ただ、子供が欲しかったから産む。

 

 寂しかったから、産む。

 

 好きな人と自然にそうなったから産む。

 

 あるいは、今度は自分の番だから。

 

 

 ……そういうママさんが相応に居た。

 

 

 そうでなくとも、自分が兄弟姉妹に囲まれていたから、自分の子供にも兄弟姉妹が居た方が良いと思って子供を産む人。

 

 弟や妹が居ると情操教育になるという理由で産む人だって居たし、なんなら孕んじゃったから仕方がない……そんな理由であっけらかんとしているママさんだって居た。

 

 それは、千賀子の友人たちもそうだった。

 

 明美は、『私がそうだったから、子供にも兄弟姉妹が……』という感じで2人目を決めたらしく、可能なら3人目も欲しいという感じで。

 

 道子の方も『やっぱり、兄弟姉妹が欲しかったなって……子供には、そういう寂しい思いをさせたくない』という感じで2人目である。

 

 

(私も、もう25歳を過ぎた。明美も道子も2人目を産んでいるし、世間体から見たら、私は行き遅れに分類されるのだろう)

 

 

 そんな彼女たちを見て、少しばかり心境に変化があったのは……否定しない。有り体に言えば、見方が変わったような気がする。

 

 

(……今はまだ、エマは自分との血の繋がりなんて意識すらしていない。でも、あと何年かすれば……嫌でも知ってしまう、分かってしまう)

 

 

 その時、エマは一人っ子の方が良いと思うのだろうか。それとも、弟か妹を欲しいと訴えてくるのだろうか。

 

 小学生になってからは、余計に思うはずだ……『父親』という存在を。そして、自分とは似ていないという現実と、その意味を……いずれは知ってしまう。

 

 そこを、誤魔化すべきか、どうか。

 

 素直に全てを言うには……血の繋がり……千賀子にとっては些細な問題だが、エマにとっては、強烈なコンプレックスになる可能性がある。

 

 そんなエマが、まだ何も分かっていないうちに、無邪気に弟や妹が欲しいと言った時、いずれエマが苦しむかもしれないからと一方的な考えで一人っ子のままにいさせるべきなのだろうか。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いまだに答えは出ていないが……う~ん。

 

 

(……ロボ子から調べてもらった限りだと、今は25歳ぐらいが初産の平均年齢……つまり、もう私は平均より上に入っているわけだ)

 

 

 実際に、子を産むタイムリミットを意識させられる年齢になると……些か、思うところはある。

 

 と、いうか、これはもう前世でも覚えがあった。

 

 若い頃は気にしなかったが、自分がいざ20代を超えて30代に入った頃に幾度となく感じた、あの焦燥感に似ている。

 

 

 ──このまま、生涯独身になるのでは……という、あの感覚。

 

 

 男の時は30代に入るまで自覚できなかったが、今生では女として生を受けたからこそ、より強く……タイムリミットというやつを認識してしまう。

 

 なにせ、毎月ごとに生理が来るのだ。

 

 そのうえ、どこもかしこも親子連れ。友人たちはすっかりお母さんが板についていて……そりゃあもう、明確に意識させられる。

 

 前世の記憶もうろ覚えだが、卵子には限りがある……ということぐらいは、覚えていたから余計に。

 

 

「う~ん……どうしたものか……」

 

 

 そう呟きつつも、結局は今日も答えが出ないのだろうなあ……そう千賀子は思いつつも、悩まずにはいられないのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

「マスター、お悩みのところ申し訳ないのですが、悪い報告です」

「あ、そういえば、そんな事を言っていたね」

「実は、つい先日、『恐怖の大王』のエネルギー波長を感知する装置を開発しまして……まあ、『恐怖の大王』はそのつど波長が異なりますので、信頼性にいくらか欠けますが」

「へえ、そんな物まで作れたんだ」

「はい、それでですね、上手く感知できる範囲の波長ですと、おそらくはマスターの関知能力以上の効果を発揮するようでして」

「それはいいね、毎回不意打ち気味に出現してから対応に当たるの大変だし、時々でもいいから事前に分かる時があるのは有り難いよ」

「そう言って貰えると、ロボ冥利に尽きます。あ、そうそう、それで悪い報告なのですが、『恐怖の大王』の出現予兆を感知しました」

「ふ~ん、感知し──はい?」

「7月ぐらいに中国で大地震が起こったのは御存じですか? どうやら、その後の経過中に発生し続けている負の念によって、具現化しようとしているようです」

「……中国は、アメリカ以上に入り込めないし……まあ、仕方ないのかな……」

「また、おそらくですが、つい先日タイで起こった民主化運動という名のクーデター事件が、この負の念を具現化する引き金になったかと思われます」

「日本だけでも手一杯なのに、他の国まではもう無理だよ……」

 

 

 ある意味、この問題を先延ばしにする理由として使われているのは……さすがの『恐怖の大王』も、不本意な話だろう。

 

 

 

 

 







この頃、30歳過ぎても独身な人は男女問わず『ちょっと変なところがある?』と思われ距離を取られたなんて話はゴロゴロあります。統計上では26,27歳ぐらいには結婚していたらしいのですが、それでも25歳(社会人3年目、4年目?)ぐらいになると、男女問わず周りから『結婚は?』とか、『そろそろ子ども?』とか……まあ、時代っすね
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