ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第178話: 担当者「ボランティアで先導馬を? 何処の誰かは知らないけど、ありがたい事だ」

 

 

 桜が咲き始める4月……それは、新しい息吹が社会に飛び立つ月である。

 

 

 ある者は幼稚園に、ある者は小学校に、ある者が中学校に、ある者は大学に、そして、ある者は社会人に。

 

 それは男女の違いなく行われる。金持ちの子供だろうが、貧乏学生だろうが、性格の違いなど関係なく、子供で居るうちはそうなるのがこの国のルールである。

 

 それは……千賀子の子供であるエマとて、例外ではない。

 

 都内のとある小学校にて、入学式の真っ最中であるエマを含め、体育館に集められた児童の数は現代の比ではなく、集まっている保護者たちを含め、4月とは思えない熱気が充満していた。

 

 紅白の垂れ幕でグルリと室内への出入り口を飾り立てられているのを差し引いても、何とも言えない独特な空気……ある種の緊張感も満ちていた。

 

 

 まあ、しかし、だ。

 

 

 それは気持ちのソレではなく、単純に人が集まったことによる、物理的な温度がもたらす、圧迫感かもしれなかったけど。

 

 なにせ、子供の数だけでも、現代の倍以上だ。

 

 現代では人数と効率性の関係から、小学校では1クラス35人を上限とし、学年で2組、多くて3組で構成されているのが普通になっているが、この頃は違う。

 

 昭和のこの頃の上限は、1クラス40人なのだ。

 

 しかも、現代ではあくまでも上限が35人と定めているだけで、1クラスあたりそれ以下の学校が多く、30人を下回っているところもけして少なくはない。

 

 対して、この頃の学校は上限いっぱいに詰め込んだうえで、1学年ごとにクラスが4つも5つも6つもあったのだ。

 

 単純に考えて、1学年の児童数が現代の倍である。

 

 子供が倍の人数だということは、親御さんもまた倍の人数集まるわけで、教師の人数もまた、対応するために比例して多くなるわけで。

 

 そりゃあもう、物理的な熱気がこもって当たり前である。

 

 着飾った親御さんたちの中には、それはもう暑そうに手で顔を仰いでいる者もいたぐらいで、寒いと零している人は1人もいなかった。

 

 

 ……で、そんな中で、異彩を放っているのは、千賀子とエマの親子である。

 

 

 まず、子供の中でエマは目立つ。だって、金髪碧眼だから。

 

 現代ならそこまで目立たないかもしれないが、この頃はもう目立ちまくる。なにせ、日本に移住している外国人が少なく、ましてや、幼い子供ともなればもっと少なかったからだ。

 

 ぶっちゃけてしまうと、映画やテレビ以外で外国人を見たことがないという人がほとんどだった。

 

 つまり、未知の存在だったのだ。

 

 大人ですらそうなのだから、子供はもっとだ。見た目の印象が違い過ぎて、子供たちの視線だけでなく、一部大人たちの視線がエマへと向けられていた。

 

 そして、千賀子の方へと向けられる視線だが、それはまた毛色が違っていた。

 

 具体的には、物珍しさだけではない。

 

 降って湧いたかのように姿を見せた、女優顔負けの美貌とスタイルを持つ女性へと向ける、様々な感情である。

 

 称賛とか、驚愕とか、嫉妬とか、欲情とか、畏怖とか……とにかく、老若男女を問わず、様々な感情が込められた視線をこれでもかと千賀子へ向けられていた。

 

 

 ……そんな中で、エマと千賀子は緊張しっぱなしではないのかって? 

 

 

 普通に考えたらそうなって当たり前だが、あいにく、2人は普通ではない。

 

 そう、実は千賀子だけでなく、エマもまあ大概に図太い性格をしていた。

 

 千賀子はまあ、伊達に『ガチャ』によって容姿が底上げされ始めてから十数年近く他人から見られる日常を送っていたわけではない。

 

 良くも悪くも、そこらの芸能人や政治家よりもよほど場数を踏んでいるだけあって、『あ~、見られているなあ……』という程度の感想しかなかった。

 

 では、エマは……そう、実はエマもまた、千賀子と似たような理由であるが、同時に、千賀子のおかげで図太くなっていたからだ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 冴陀等村に居る時は、『千賀子の娘』という立場ゆえに、どこか一目置かれるというか、視線の色合いが他とは違っていて。

 

 母である千賀子に連れられて東京へ出歩く時も、チラチラ&ジロジロと視線を向けられるなんてのはもう、日常過ぎて。

 

 幼稚園でも、明らかに自分だけ髪の色や瞳の色が違うというのは分かっていた。

 

 同じ子供だからこそ、それはもう露骨に、僕たち私たちとは違う……という目で見られることだってあった。

 

 でも、それで寂しい思いも心が歪まなかったのも、ひとえに、母である千賀子のおかげなのだ。

 

 なにせ、まだ物事の道理を分かっていないエマの目から見ても、母の千賀子は『他のママとは違うぞ……!?』と思う点が多々あった。

 

 

 ──1.おっぱいが大きい。

 

 これはもう、言うまでもない。

 

 エマの目から見ても、『マジンガーだ!』と密かに周りに自慢したいのを我慢しているぐらいに御立派なのだ。

 

 今はまだ無理でも、自分もママのようにおっぱいが大きくなったら、ブラジャーをぼぼーんと発射したいなあ……と憧れていた。

 

 

 ──2.美人さん。

 

 とにかく、私のママはとても美人だなあとエマは思っていた。

 

 だって、タカシ君も、アコちゃんも、ともや君も、『エマちゃんのお母さんって、綺麗な人だね』って何度かそう言っていたのだ。

 

 エマにとって、ママはママだけど、周りがそういうぐらいなのだから、そうなのだろうなあ……と、密かに自慢に思っていた。

 

 

 ──3.なんかえらい人っぽい。

 

 ママのお仕事の事は知らないけど、なんかママはえらい人っぽいという事を、エマは知っている。

 

 そう、パッと考えただけでも、この三つがすぐに思いつくのだ。そして、それだけ他とは違うママが、誰に対しても胸を張って、堂々としているのだ。

 

 

 ──なら、私が周りに怯える必要などない。

 

 

 言葉では分からなくても、伝わるモノはある。

 

 少なくとも、私が他とは見た目が違うからといって、周りに怯える必要も、周りに遠慮する必要も、ない。 

 

 言葉にはされなくとも、幼さゆえにエマ自身が言語化できなくとも、エマは心でそれを理解していた。

 

 だから、エマはどれだけ視線を向けられても、平気なのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 当のエマは育った環境が環境だったのでまったく自覚していない事だったが、一つ勘違いというか、思い違いをしていた。

 

 エマは、自分に視線が集まる理由が『みんなが羨ましがるぐらい綺麗なママ』が居て、『他の人とは違う色の髪と目を持っているから』と思っていた。

 

 

 だが、実際のところ、それは少し違う。

 

 

 単純に、エマの風貌もまた現在進行形に整っていて、将来性を十二分に期待される美少女だったからだ。

 

 そう、母親の血筋はともかく、父親の血筋が上手い具合に働いたのか、元々の顔立ちがエマは美形寄りだった。

 

 そこに加えて、エマは千賀子の母乳で育った。

 

 そう、実はロボ子ですら気付いていないのだが、『ガチャ』によって人間の限界値を超えた魅力を持つ千賀子の母乳は、普通の母乳ではない。

 

 栄養的にも常に赤子のエマにとって最適な成分になっていたが、それ以外に……こう、千賀子が持つ『ガチャ』の恩恵というか、千賀子から『加護』のようなモノが与えられていた。

 

 これによって、エマは単純に怪我や病気に強くなっているだけではない。

 

 成長期の女子に特に多いとされる背骨変形の予防、ホルモンバランスの調整、体内の細菌バランス等々に加え……実は、体質などにも影響を及ぼしている。

 

 その結果、まだ幼いゆえにそういった部分は目立っていないが、エマは本来そうなるはずだった姿よりも、いくらか美しくなっていたのだ。

 

 なので、千賀子の美貌に思わず集まる視線は多いのだが、同時に、なんて可愛らしい子なのかしらという視線がエマに集まるのもまた、相応に多いのであった。

 

 ……まあ、そんな事情もあって、だ。

 

 

(え、エマがもう小学生に……ヤバい、涙出そう……あ、ヤバい、神通力で止めないとガチの大泣きになってしまう……)

 

 

 血縁関係は無いし、人種もまた違うのだけど。

 

 

(先生のあたま、ツルツルだ。ツルツル、ツルツル、触ってみたいなあ……)

 

 

 やはり、2人は親子なのだろう。

 

 チラチラ&ジロジロと周りから向けられている視線に対して、気付いてはいても欠片の動揺も緊張も見せないその姿は、間違いなく親子であった。

 

 

 

 

 

 ──で、案の定というか。

 

 

 エマは入学してから一ヶ月も経たないうちに、クラスの人気者というか、女子たちのリーダー格になった。

 

 まあ、順当な結果だと言われたら、順当な結果ではある。

 

 だが、これに関してはエマ自身の資質も理由の一つだが、それ以上に、バックに控えている後方腕組み千賀子さんの影響が大きかった。

 

 と、いうのも、だ。

 

 男社会がまったく違うとは言わないが、良くも悪くも女社会における力関係のヒエラルキーを決めるのは当人の能力ではない。

 

 いかに当人が何もせずに、周りが動いてくれるか、である。

 

 極論を言えば、何か問題が起こった時、当人が動いて当人の能力で解決する……のは、女社会においてはけしてプラスにばかり働くわけではない。

 

 いや、むしろ、場合によってはマイナスに働くことだって、珍しくはない。

 

 言うなれば、当人は動かず、男友達なりに一声かければ(最強は、周りが勝手に動いて解決する)問題を解決する……というのが、女社会のヒエラルキーを決定づけるのだ。

 

 これは、権力の話ではない。

 

 あくまでも、『女社会』という独特の世界でのみ通用されている、特有の価値観に基づいた話であり……いわゆる、『女社会は本当に面倒臭いところがある』と、当の女性たちから愚痴が零れる理由が、コレである。

 

 

 ……それを踏まえたうえで考えたら、エマとまともに戦える相手はまずいない。

 

 

 なにせ、クラスの中での、いわゆる『お金持ちの家の子』に該当する子供たちから、1人の例外もなくエマに対して一目置いていたのだ。

 

 男は小さくとも男だが、女だって小さくとも女である。

 

 エマ自身は朗らかで社交的で気安い性格という点もあって、望む望まないに関係なく、そういうヒエラルキーとは別格の立ち位置に収まったことで、結果的にエマは女子たちのリーダー格という立場になったのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、こいつもしかして四六時中エマに張り付いているのでは……と、思われそうだが、ところがどっこい、千賀子は大変忙しい日常を送っていた。

 

 なんでかって、2月~6月は、競馬の世界(特に、中央競馬)においては徐々に盛り上がっていく時期だからで、千賀子が所有している競走馬もまたそうであるからだ。

 

 現在、千賀子が所有している現役の競走馬は、『テンポイント』『クライムカイザー』、『ニッポーキング』、『プレストウコウ』の4頭である。

 

 『テンポイント』は、今が一番脂の載った時期なのだろう。

 

 去年(1976年)はしばらく勝利から遠ざかっていたが、今年に入ってからは、怒涛の3連勝である。

 

 特に、『八大競争』と呼ばれている、特に格の高い競争の一つ、『天皇賞(春)』を制した影響は大きく、これからもっと忙しくなるだろうとの予測が立てられていた。

 

 『クライムカイザー』は勝ちこそ遠ざかってきているものの、掲示板入りを果たす孝行馬として、しっかり走ってくれている。まあ、もうすぐ引退かという話も出てきているけど。

 

 『ニッポーキング』もまた調子を崩すことなく好調が続いているようで、4月24日に行われた『京王杯スプリングハンディキャップ:1800m』にて快勝を果たし。

 

 『プレストウコウ』はしばしリズムを崩してしまっているのか今年に入ってはまだ白星は0、4月17日に行われた『皐月賞』では無念の13着となり、調教や世話をしてくれている人たちがそれはもう落ち込んでしまうという事態になったので、大丈夫だからこれからだからと慰めたり、と。

 

 『カブラヤオー』はレースから少しばかり遠ざかっているけど、まだ正式に引退はしていない……が、同時期に買った他の馬はもう、引退している

 

 テスコガビーはもう引退していて、次の世代へとつなぐための準備を進めている。最近、『○○の種を使わないか?』という話がゴロゴロ入って来て。

 

 ニルキングも先日、『回復が遅くなってきている、潮時かも……』とのことで正式に引退している。

 

 そうして、次は『春木競馬場』だ。

 

 特別レースの開催を企画したり、職員から上がっている報告を確認したり、ようやく調子を持ち直した映画撮影の最終段階を行ったり……とにかく、だ。

 

 分身を使っているとはいえ、次から次に自分がやらなければならない仕事が舞い込んでくるのもあって、中々に忙しかったわけである。

 

 

 ……そんな中で、だ。

 

 

 5月1日……『エマが小学校に通い始めて一ヶ月記念』をやろうとして、分身たちから『そもそも、まだ一ヶ月経ってねえよ』としこたま怒られてしまった……その日の夕方。

 

 

「そういえば、マスター。先日、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』にお手紙が届きました」

「あの、ロボ子……不意打ちのようにその名を出すのは止めてね」

 

 

 しょんぼりしてしまっている千賀子に、ロボ子はたったいま思い出したと言わんばかりな様子で、話し掛けてきた。

 

 仕方がない事とはいえ、その名が出て来るたびに精神的なダメージが出て来る……いや、まあ、概念的な改変なので、千賀子でもどうにもならないから、諦めるしかないのだけど。

 

 

「ていうか、手紙? アレってペーパーカンパニーみたいなもので、本社とかあったの?」

「概念的なアレなので、細かい事を気にしたら駄目であります」

「あ、そう……それで?」

「お手紙の主は、広島在住の6歳の男の子です」

「ほう」

「動物が大好きで、特に馬が大好きとのことで、競馬番組を始めとして、図鑑などを見るのが好きなそうです」

「ほうほう」

「それで本題ですが、手紙の内容を要約しますと、明後日開かれるお祭りに、マスターが所有する馬を出してもらえないか……とのお願いです」

「明後日って、う~ん、この……子供特有のお願いが飛んできたねえ……手紙、見してもらえる?」

「はい、どうぞ」

 

 

 ロボ子より手渡された手紙を見る。

 

 6歳なので字が汚いというか、幼い。

 

 ひらがなが間違っていたり、漢字が間違っていたり、誤字脱字があったりするけど、10ページにも渡って書かれたソレには、子供特有の純粋なお願いがたっぷり込められていた。

 

 

「ちなみに、これが報酬だそうです」

 

 

 その言葉と共に、ロボ子より差し出されたのは、100円玉が12枚……1200円であった。

 

 

「おやつを我慢して、お手伝いをして、一ヶ月で100円。それを1年分だそうですが、どうしますか?」

「受けるよ、決まっているでしょ」

 

 

 堪らず、千賀子は苦笑して……広げた手紙を丁寧に畳むと、「それ、保管しといてね」それをロボ子に返した。

 

 

「初めから買えないぐらい貧乏な環境ならともかく、5歳の子が、おねだりしたら買ってもらえるところを1年間も我慢して得たお金を全額送って来たんだ……受けないワケにはいかないでしょ」

「了解しました」

「でも、明後日開催なんでしょ? なんの祭りかは知らないけど、そういうのは事前連絡する必要があるんじゃないの?」

 

 

 当然といえば、当然な疑問……だがしかし、忘れてはいけない。

 

 

「お忘れですか? 『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通せば、どういうわけか、今日連絡を受けたのに半年以上も前から話は通してあるみたいな……という、考えるだけで頭が痛くなりそうな結果が残ります」

 

 

 そう、千賀子には、ロボ子ですら『意味が分からなさ過ぎて気色悪い、怖い……』とガチで怯えてしまった、ビジネスにおいては最恐最悪の反則技がある事を。

 

 

「それ、もしかして、その祭りでも──」

「はい、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』というスポンサー名が残ります」

「……そう」

 

 

 形容しがたい嫌悪感満載の顔をまったく隠すことなく、千賀子は顔をしかめながら……ふと、尋ねた。 

 

 

「それで? 広島のどんな祭りに出て欲しいって?」

「はい、先導馬として、5月3日より開かれる『ひろしまフラワーフェスティバル』です」

 

 

 とりあえず、奇祭の類ではない事だけは分かり、千賀子は心底安堵の溜め息を零したのであった。

 

 

 

 

 




ちなみに、エマもエマで、同年代の初恋泥棒であります
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