ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第180話: 絶妙にポイントを外し続ける女神様の優しさ

 

 

 

 ──戦いは、何時だって空しいモノだ。

 

 

 それは、布団の中からしばらく出られなくなった千賀子が、改めて悟った事である。

 

 また、千賀子は思い違いをしていた……というか、女神様の所業というか物差しを軽く考えていた部分があると改めて思い知ったのは、フラワーフェスティバル(略してFF)が終わった後であった。

 

 どういう事かって、話が長くなるので結論から語るが……まず、FFでの戦いはけっこう呆気なく順当に終わった。

 

 なんでかって、うわキツ侵略者は、『うわキツ』を見せさえする事ができたら瞬殺できるからだ。

 

 言い換えたら、『うわキツ』を見せなければ、魔法少女チカコとして使える魔法なんて足止め以下のダメージしか与えられない……ん? 

 

 冷静に考えたら、千賀子が魔法少女になる意味は……意味があるという前提で話を進めるとして、とにかく、『うわキツ』なら何でも良いわけで。

 

 その点を考えたら、魔法少女チカコはもう、存在からして侵略者たちに強烈なデバフを常時与え続ける、対侵略者特攻スキル持ちと言っても過言ではない女であった。

 

 

 なにせ、見ているだけで寒気と怖気を覚えるステッキを振り被り──

 

 

『マジカルマジック、きららら、ら~ん❤』

 

 ──と、可愛らしくポーズを決めてストックした魔法を放てば、それだけで相手は消し炭になり。

 

『キラキラ、キラキラ、ルルル、ルルー!!』

 

 ──と、適当なセリフでプリッとお尻をアピールしつつステッキを振れば、それだけで相手は息絶え。

 

『ラブリー、ハートアターック!!』

 

 ──と、軽やかにステッキを振るうだけで、押し寄せてくる侵略者たちを一気に倒してしまえるわけだ。

 

 

 正直、苦戦のしようがない。

 

 

 そう、倒すだけならば、千賀子はその時だけ我慢してしまえば済む話であった。少なくとも、その時の千賀子はそう考えていた。

 

 だが、しかし……それが甘い考えであると思い知ったのは、侵略者たちの戦いが終わった後であった。

 

 その時の千賀子は正直、とんでもなくヤベー状況であるとは認識できていた。

 

 なにせ、衆人環視(しゅうじんかんし)の中で魔法少女に変身したのだ。そのうえ、超常的な現象(戦いを含めて)も、一切隠さずにやってしまったのだ。

 

 そりゃあもう、とんでもない騒ぎになると千賀子は覚悟していた……が、しかし、そうはならなかった。

 

 

 ──キャー、チカコチャ~ン!! 

 

 ──チカコチャン!! ドウモアリガトウ!! 

 

 

 何故ならば、誰一人として……千賀子が魔法少女チカコに変身した事に触れず、それどころか今しがたの超常的な光景にも触れず、千賀子が……魔法少女チカコが人々のために戦ってくれた……という部分しか認識していなかったのだ。

 

 そう、薄気味悪さを覚えるぐらいに、誰もその事には触れなかった。

 

 誰も彼もが、魔法少女チカコと秋山千賀子を別の存在として認識し、目の前で変身したというのに、それすらも認識できて……いや、認識しているのに、別人だと認識していたのだ。

 

 おかげで、千賀子はもう恥ずかしくて堪らなかった。

 

 だって、変身を解除した千賀子に向かって『魔法少女チカコちゃんが頑張ってくれましたよ!』って、そりゃあもう満面の笑みで、誰も彼もが千賀子に向かって報告してくるのだ。

 

 千賀子視点からすれば、どうか蒸し返すなという感想しかない。

 

 でも、それは出来ない。だって、そんな反応を返せば、世間的には、良い事をしている人を公然と嫌っている人……という評価になってしまうから。

 

 

 だから、千賀子は羞恥心に顔を真っ赤にしながらも、返事をするしかない。

 

 

 たとえ、目の前で子供から、思い出したくない『うわキツ』ポーズをとられても、千賀子は身悶えするような羞恥心を押し隠し、満面の笑みで『とっても可愛いね』と笑顔を向けた。

 

 もうね、羞恥心を覚えるぐらいにバレバレな変装なのに、誰もその事には触れず騙されてくれている……といった感覚なのだ。

 

 みんなも、想像してみるといい。

 

 贔屓目な自己評価でも明らかにバレバレで、むしろなんで分からんのかという変装なのに、誰一人としてそれには触れず、変装した自分の姿を褒め称えているのだ。

 

 ある意味、疑心暗鬼になる。本当は、分かっているのだろうと思った。

 

 いっその事、はっきり言ってくれとすら思った。『なんでそんな恰好をしているの?』と聞いてくれとすら思った。なんか、苦笑いされているような気がしてならなかった。

 

 色々な意味で、いたたまれない気持ちになってしまう。なんか憧れているらしい子供たちの姿が、本当に辛い。

 

 目の前で自分のポーズの真似をする子供がチラホラ居るし、そんな子供を見ている親たちは、『もう、仕方ないわね(笑)』といった感じで止めないのだ。

 

 それどころか、中には『チカコちゃんに似てる~』って声を掛けてくる子供と、『あら、本当に似ていますね』と悪気なく同意する親御さんが……もう、うん。

 

 新手の羞恥プレイかと思った千賀子は悪くないだろう。

 

 エマがなんか真似している姿に、そりゃあもう嫌な汗が噴き出してしまうのを千賀子は抑えられなかった。

 

 

 しかも、だ。

 

 

 事は、FFが終わった翌日。

 

 大勢の人達の前で『うわキツ』ポーズを取りまくってしまい、精神的な疲労を自覚していた千賀子の下に、ロボ子からスッと差し出された新聞(全国紙)。

 

 その1面には、デカデカとした文字で『魔法少女チカコちゃん! 今日も大活躍!!』と書かれ、その下には……誰が撮ったのか、チカコの写真画像が鮮明に印刷されていた。

 

 

 そう──千賀子は、考えが甘かったのだ。

 

 

 画像の下に小さく『提供:愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』と書かれている時点で、答えは出ていたのだ。

 

 この魔法少女もまた──女神様のくっそ回りくどいアレなのだということに。

 

 女神様は、ちゃんと千賀子の事を考えてはいた。

 

 どんな場所で、どんなタイミングで、どれほど身バレ確定な状況だとしても、千賀子=チカコが露見することはなく、別人であると何故か認識するようだ。

 

 だがしかし、姿形に対する認識はそのままなので、誰も彼もが別人であると認識しつつも、口を揃えて同じ感想を言う。

 

 

 ──チカコちゃんに、そっくりね、と。

 

 

 こんなの、時限爆弾も同然である。いつ、どのタイミングで爆発して『千賀子=チカコ』になるか、分かったものではない。

 

 だって、魔法少女ってだいたい最後あたりで一般人に身バレするじゃん? 

 

 己が女神様との付き合いで図太くなっていなかったら、一生引きこもって出てこないレベルである。『寝込んでいる貴女も可愛い❤』とニヨニヨしている女神様の姿に心底腹立つけど。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、とはいえ、だ。

 

 

 何時までも羞恥心に苛まれて布団から出て来ないでいると、エマのみならず、大勢の人達を不安視させてしまう。

 

 放置しているとどんどん仕事が溜まっていく身である以上は、千賀子は頑張って布団から出たのであった。

 

 あと、これまたくっそ腹立つのが、羞恥心で寝込んでいると『侵略者』からお見舞いの品が届くのだ。

 

 そう、侵略者から。けっこう良いところの羊羹とかもそうだけど。

 

 

『 はやく 良くなってください 元気な うわキツ 見たいです どうか お元気で 待っています 』

 

 

 という、励ましのお手紙も届くのが、本当に腹が立つ。

 

 

 ──誰のおかげでこんな恥ずかしい恰好をするはめになったと思うてんねん!! 

 

 

 そう、布団を蹴飛ばしてツッコミを入れた千賀子は悪くないだろう。実際、元凶からお手紙が届いた時は、思わず自分の目を疑ったぐらいだし。

 

 しかも、さらに腹が立つのが、本気で千賀子の身を思っているところだ。

 

 新手の挑発行為かと思ってロボ子に様子を伺いに行かせたら、なんと侵略者たち……お百度参りをしているのだ。

 

 しかも、一つ一つを流れ作業で行うのではなく、真剣かつ丁寧に。神社を出るたび、わざわざ侵略者たちが作った巨大な水桶を使って水垢離(みずごり)を行う……という、徹底っぷりである。

 

 お百度参りとは、特定の神社にて100回参拝(もちろん、そのつど作法に則って参拝を行う)の工程を繰り返すというもので。

 

 水垢離とは、冷水を浴びて身を清めながら神や仏に願い事をするというもので、回数が多ければ多いほど良いとされている。

 

 お百度参りも、水垢離も、真剣にやろうと思ったら、共に相当の労力と時間を必要とする願掛けだ。

 

 百度参りは、場所によっては神社への敷地内である階段のふもとまで戻る必要がある。

 

 水垢離も、時期に関係なく行われるが、当然ながら連続して水浴びを行い続けるので、身体への負担は大きい。

 

 まあ、侵略者たちがソレで堪えるかどうかは知らないが……なんにせよ、真剣なその姿は千賀子の気持ちを動かすには……いや、まったく動かなかったけど、近所迷惑だから止めなさいとだけは伝えて、だ。

 

 

 

 ──そんなこんなで、時は少しばかり流れ、1977年の10月。

 

 

 

 それまで、世間ではこれまた様々な出来事、事件と呼んでも差し支えない事が続々と起こっていた。

 

 6月には和歌山県でコレラが発生。以前より単発的に確認されていたらしいのだが、この時は100名弱の感染者が確認された。

 

 幸いにも、総理の迅速な対応によって被害は食い止められ、感染者は速やかに退院ができたとのこと。

 

 7月にはニューヨークにて大停電が発生。原因は変電所への落雷だが、人為的ミスも関係していた。

 

 不運にも暑さに耐えかねた市民や、暗闇に乗じた犯罪が多発し、約1000件にも及ぶ放火が起こったといわれている。

 

 8月にはロック&ロール(ロックンロールのこと)の誕生と普及に大きく貢献し、後進のアーティストたちに多大な影響を与えた『エルヴィス・アーロン・プレスリー』が死去した。

 

 キング・オブ・ロックンロール。あるいは、キングと称された、『史上最も成功したソロ・アーティスト』と言われた彼の死に、多くの人々が悲しんだ。

 

 9月には、日本赤軍によるハイジャック事件が発生。

 

 後の世界史にも載ることになる犯罪に、人々の目は非常に厳しく冷たく……そんな世相を反映するかのように、この頃は若年層の自殺が多数報告されていた。

 

 そして、話は戻って10月。

 

 ダービーの熱気はおろか、夏の熱気もすっかり冷め、世間では日に日に実感を強めていく冬の大将軍に衣替えをし始めていた頃。

 

 

「チュチュン、あっそ~れ、チュチュチュン、チュン」

 

 

 『神社』にて、エマが『ズンチャ・ズンチャ』みたいな効果音が付きそうな動きで、なんか踊っていた。

 

 

「……4号、なにアレ、可愛すぎて鼻血が出るんだけど?」

「本体の私、アレは最近小学校で流行っている『電々踊り』だそうです。あと、鼻血を拭いてください、事件ですよ、それ」

 

 

 それを見て、千賀子は鼻から大量の幸せ汁を垂らし、それを見た4号は、それはもう深々とした溜息を吐いて、鮮血で真っ赤に染まった千賀子の口回りを拭っていた。

 

 その際、物心付いた時から母の奇行に慣れ切っているエマは何一つ狼狽えることなく『ズンチャ・ズンチャ』と踊っていた。

 

 この可愛さ、どうすれば良いのだろうか……そう、千賀子はいつも思う。

 

 新聞社を設立して『今日の愛娘』を発行するべきか、全国CMでエマの可愛らしさを訴えるべきか、毎回考えてしまう。

 

 でも、実行することはない……ない……うん、ない。

 

 そのたびに、分身たちから『馬鹿かおまえ?』と頭を叩かれ、ロボ子から『女神様に似てき……』と言葉を濁されるし、明美と道子からは『もう、千賀子ったら(笑)』みたいな態度を取られたら……ねえ? 

 

 

「というか、本体の私? もうすぐ『春木競馬場』でレースをするでしょう? エマを愛でるのは構わないけど、疎かにするのは駄目よ」

「──ふふ、分かっているわよ、それぐらい……ね!」

「キメ顔をしたところで、まずベタベタに鼻血で汚れている顔を洗ってからにしたら?」

 

 

 4号からの辛辣な返答をされたが、実際のところ、4号の忠告はもっともである。

 

 

『千賀子特別日米対決記念:3歳以上 ダート1800m(右)』。

 

 本賞金:1着1億円/2着5500万円/3着2300万円/4着1400万円/5着700万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計5200万円。

 

 

 出走する馬はなんと、史上初のアメリカ三冠を達成し、アメリカ史上最強馬とも言われている『シアトルスルー』。

 

 スーパーカーの異名を持ち、強過ぎてレースが成立させられないとまで言われた馬、『マルゼンスキー』。

 

 これが最後のレースとしながらも、なんとかギリギリピークを維持できたと調教師より太鼓判を押された、狂気の逃げ馬『カブラヤオー』。

 

 

 この3頭が出走するというのだ。そりゃあもう、注目が集まって当然である。

 

 

 当然ながら、ニュー・春木競馬場の中では最大規模(当たり前だが、中央競馬でもこんな規模は無い)であり、1着だけでもダービーの賞金総額に匹敵する、超ビッグレースである。

 

 そう、千賀子には知る由もないことであったが。

 

 このレースは、この世界の日本競馬において、1着賞金額が億に達した瞬間として記録に残される重要なレースだったりする。

 

 まあ、当の千賀子はあっけらかんとしているばかりだったけど。

 

 こいつ、マジで一回ガチで叱られた方が良いのでは……と、思う者が出てくるだろうが、どうして高額になるのか……それには少しばかり、ワケがある。

 

 ぶっちゃけてしまえば、理由は二つ。

 

 使わないと、死蔵してしまう金がヤバくなってくるから。なにせ、原資が『賽銭箱』なので、とにかく貯まる一方なのだ。

 

 そして、二つ目は景気対策である。

 

 いくら『オイルショック』から景気が上向きになりかけているとはいえ、日本経済というのは既に、グローバルの影響をこれでもかと受けている。

 

 はっきり言えば、外国が盛大に転んだら、日本もまた盛大に転ぶ。既に、日本はそういう国になってしまっている。

 

 なので、転んだ時にすぐに立ち上がれるだけの余裕を持ってもらうためにも、こういった催し物で景気を刺激する必要が今もあるわけだ。

 

 そして、これまた当然ながら、それだけの金額が動くレースともなれば、何事も確認&確認&確認の嵐である。

 

 中止したところで特に痛くも痒くもない千賀子とは違い、このレースに出られるかどうかで一時的に生活が変わる……今や、千賀子が開くレースはそういう扱いになっている。

 

 それを分かっている千賀子は、万が一にもレースが中止にならないよう、とにかくロボ子の協力を経て関係各所に連絡を取ったり、挨拶に伺ったり、けっこう神経をすり減らす作業をするわけである。

 

 とはいえ、それも初めての事ではない。

 

 金額こそ上がってはいるものの、けっこう慣れた作業であるのは確かなので、千賀子はいつものようにやっていたわけ……なのだが。

 

 

「……え?」

 

 

 フッと、真顔になった千賀子は、思わず絶句した。理由は、遠い異国……アメリカに行っている3号からの信号が途絶えたこと。

 

 

「え? 死んだ? この感じ、3号死んじゃった?」

 

 

 それすなわち、分身である3号の死を意味することであり。

 

 この日、この時、今月にもレース開催を控えている千賀子の下に……危機的と言っても過言ではないトラブルが起きたのであった。

 

 

 

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