ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第181話: 千賀子の泣き所はけっこうある

 

 

 

 ──とりあえず、久しぶりに新たに分身を……正確には、改めて3号を生み出した千賀子は、率直に尋ねた。

 

 

「いやあ、ちょっとアメリカ国民のファッキンジャパニーズ感情を軽く見ていたよ……」

 

 

 対して、申し訳なさそうに頭を掻く3号の返答はそんな感じであった。

 

 結論から述べるならば、3号は不運な突然死でも事故死でもなく、明確な殺意にて殺されてしまったらしい。

 

 原因は、シアトルスルーの搬送……すなわち、アメリカが誇る三冠馬を他国で走らせようとした、それへの反発である。

 

 

 ……意味が分からないって? 

 

 

 意味など考える必要はない。ただ、アメリカの宝を、よりにもよってアジアで走らせようとするやつが悪い……ただ、それだけの事だったから。

 

 そんな馬鹿な話がと思われそうだが、当時のファッキンジャパニーズ感情を軽く考えてはいけない。

 

 アメリカで一方的に暴行された時、『君にも落ち度はある、嫌なら日本に帰れ』と、暴力を振るった側が御咎め無し、逆に抵抗して傷付けた方が厳重注意されたなんて話もあったぐらいだ。

 

 現代でもそういった日本人のみならずアジア人差別はあるが、この頃のアジア人蔑視は現代の比ではなく、レストランに行けば店員に無視されたり、公衆の場でイエローモンキー呼ばわりなんてのも、なんら珍しい話ではなかった。

 

 もちろん、中にはそうではなかった者たちも居て、原因があって日本人に対して悪感情を持つようになった人も居た。

 

 

 たとえば、原因の一つは『車』だ。

 

 

 これはまあ千賀子の前世の話であり、今生の世界でも似たような感じにはなっているのだが、当時のアメリカは表面上では順調に景気が回復傾向にあったのだが、手放しで喜べる状況ではなかった。

 

 それは、以前として貿易赤字が発生しており、しかも、その額が一時的に上下しても、最終的には徐々に増加傾向にあったからだ。

 

 理由は色々あるが、大きな要因はなんと言っても、『オイルショック』……すなわち、原油価格高騰である。

 

 アメリカは、日本以上の車社会。

 

 オイルの値段はそのまま経済に繋がるのは日本も同じだが、国土が広いので、原油価格高騰は国民の命に直結する。

 

 日本の場合は、とばっちりな側面があって、政府も尽力してなんとか解除してもらえたが、それでも回復までに数年の時を必要としたのだ。

 

 それに対して、アメリカの場合はとばっちりどころか狙い撃ちされたわけで……そのダメージは、日本の比ではなかったらしい。

 

 

 とはいえ、だ。

 

 

 元々が、世界最強と言っても過言ではないぐらいの経済大国である。

 

 1970年代のアメリカ農業関係は『黄金の10年』と言われるほどに好調で……もちろん、全てが好調ではなく、日に当たる場所もあれば影もある……それでも、全体的に見たら良かったらしい。

 

 

 とはいえ、とはいえ、だ。

 

 

 好調とはいっても、それが国民全体に還元されるかといえば、やはり、その影響をほとんど受けられない者もいるわけで。

 

 失業率も下がってはいたものの、貿易収支は巨額の赤字が続いているという、なんとも不穏な爆弾が徐々に膨らみ始めていた。

 

 

 ……ちなみに、さかのぼればベトナム戦争も要因の大半を占めていたりする。

 

 

 何時の時代も戦争というのはとにかく金食い虫であるが、現代のソレは過去のソレとは桁違いに消費が激しく、また、被害の範囲も桁違いである。

 

 たとえば、銃弾の値段。

 

 使用する弾丸の種類によって値段はピンキリだが、おおよそ現代の価格にて1発50円~150円の間に収まっている。

 

 つまり、最低6発のリボルバー拳銃を撃ちきるたびに300円~900円の出費を必要とする。

 

 これが、世界一有名なアサルトライフルとして有名な『AK-47』なら標準で30発、それを約3秒で撃ちきるという。

 

 計算するなら、3秒で最低でも1500円の出費だ。

 

 もちろん、これはあくまでも弾丸だけの値段であり、弾倉分も入れたらもっと増える。戦場でいちいち回収できるような恵まれた戦いはほぼ起こらないので、基本は使い捨てだ。

 

 これを兵士10人に持たせて撃てば、3秒で1万5000円。50人に撃たせたら3秒で7万5000円。マガジンを5つずつ使い切れば、それだけで約40万円。

 

 当然ながら、兵士1人1人に装備させるとなれば、1万、2万……何十万という数が必要になり、それに加えて、様々な装備品を用意するとなれば……だ。

 

 けっこう誤解されがちだが、戦争が儲かるというのは間違いであり、フィクションの領域である。

 

 極々一部の業界が一時的に潤うだけで、全体を見れば、考えるだけで頭が痛くなるほどの国費が失われ……それは、アメリカとて例外ではない。

 

 そして、千賀子の前世において、アメリカはベトナム戦争によって膨大なダメージを負った。

 

 この世界では前世よりも早く戦争は終結したが、女神様のお仕置き的なアレで膨大なダメージを負ったのだ。

 

 また、アメリカは膨大な国費を宇宙開発事業に注ぎ込んでいた。

 

 それは、けして悪い意味ではない。この事業によって後世にも続く様々な基礎科学や基礎技術が育まれたのは確かである。

 

 しかし、歪みが生じたのもまた、確かであり……その歪みをもっとも強く受けたのは低所得者層であり、そこに来て話を冒頭に戻し、『車』である。

 

 当時のアメリカにとっても『車』は重要な輸出品であり、国内産業においても現代以上に重要な立ち位置にあった。

 

 現代でもそうだが、この頃は今以上に車関係の仕事(あるいは、それに関係する仕事)で生計を立てている人が多く、アメリカ車の全盛期と言っても過言ではないぐらいであった。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 盛者必衰《じょうしゃひっすい》とはよく言ったもので、そんなアメリカ車も1970年代後半へと入るに連れて、陰りが出始める。

 

 オイルショックによって、世界的に『省エネ・低燃費・低価格』への関心が高まり、車内の快適性重視・それに伴い大型傾向にあるアメリカ車の売れ行きが悪くなり始めたのが、この時期からだ。

 

 そこに来て、『イエローモンキー』といった感じで直球に見下していた日本人……日本の車が、少しずつアメリカの市場に食い込み始めた。

 

 ただでさえ、原油価格高騰・戦争の出費・宇宙開発の負担というトリプルサイクロンによるダメージが表面化している時に、だ。

 

 史上初のアメリカ三冠馬誕生という明るいニュースが流れ……その馬を、よりにもよって、自国ではなく日本で走らせようなんてしていたのだ。

 

 そりゃあ、反感を抱かれて当たり前である。

 

 そして、アメリカは銃社会。

 

 心理学的において、直接的な武器で他者を死に至らしめるよりも、引き金一つで死に至らしめる銃の方が精神的負担は小さいとされている。

 

 理由は、間接的であるゆえに、実感が伴わないから。

 

 刃物を手にして直接目の前の人を殺すよりも、直接相手に突き刺すのではなく、引き金を引くという間接的な行為のせいで、そうなってしまうのだとか。

 

 

「いやあ、まさか『尻の軽い売女め!』という言葉が最後の言葉になるとは……さすがの私でも読み切れなかったよ……」

「えぇ……そんな理由で?」

「まあ、日本も逆の立場なら同じ事を思うだろうし、死んだのが私だから良いんだけどね」

「本体の私が言うのもなんだけど、分身たちってそこらへんドライよね……」

 

 

 その結果……被害者意識(ではないけど)をこじらせて先走ってしまう者が現れてしまうのもまあ、悲しい必然である……で、だ。

 

 

「それで、死体とかはどうなったの?」

「う~ん、たぶん確認されていないよ」

「え、なんで?」

「関係者への挨拶をしている移動中を狙われてね。アレはドライバーもグルだね。車ごと谷底に落とされて爆発炎上してそれっきり」

「……つまり?」

「私たち分身は死亡するとそのうち身体が消えちゃうしね。死体確認不可能だし、衆人環視の中で殺されたならともかく、秘密裏にこそっと殺されたなら、トリックだよで誤魔化せるよ」

「ああ、なるほど」

「でも、どうしようか……一回でも一線を超えたのなら、次からはもっと平然と殺しに来るしなあ……クビにするのは簡単だけど、さすがに仲間を集められたりされると……」

 

 

 3号の懸念はごもっとも。

 

 グルの可能性が極めて高いドライバーをクビにしたところで、そもそもの原因は反日感情……すなわち、『黄色い猿め! アメリカから出て行け!』である。

 

 なので、近場の危険を遠ざけたところで、火種はいくらでも転がっている。

 

 実は、今はまだマシなのだ。

 

 少なくとも、膨らみ続ける貿易赤字を国民が無視出来ている間は……まだ、それだけの余力をアメリカは持っていた。

 

 しかし、このままの流れで時が進んで1980年代に入れば、いよいよその影響は誰もが無視できないレベルで表面化し始める。

 

 そうなれば、下手したら国レベルの政治問題、外交問題へと発展しかねない──というか、前世では実際にそうなった。

 

 しかも、千賀子の前世とは違い、この世界では千賀子の尽力(主に『賽銭箱』)によって、日本は前世よりも早くオイルショックからの脱却を果たそうとしている。

 

 そりゃあ、アメリカ国民(全体ではないけど)からしたら、色々と思う者が出てくるのは必然な話だろう。

 

 また、結果的にそうなってしまったとはいえ、3号は己の見た目を金髪碧眼……つまり、白人系の顔立ちにしていたのが仇となったのも、無視出来ない理由であった。

 

 

「どうしよっか、本体の私。中止した方が良いかな?」

 

 

 う~ん、と悩む素振りを見せる3号に、千賀子はキッパリ言った。

 

 

「正直、誰かの不快感で止められるのは心底腹が立つから、意地でも決行してやりたい気持ちしかない」

「おお、奇しくも同意見」

「でも、このまま3号が戻ったところで、表向きはまだ何もされていないワケだし……ん?」

 

 

 ふと、24時間常に女神様から向けられる視線の気配が途切れたのを察知した千賀子は、気になってそちらを見つめる。

 

 そこには……なんだろうか。

 

 いつもと変わらず女神様が部屋の隅に居るわけだが、どうも様子が違う。

 

 なにやら、小さな箱みたいなモノに夢中で、何本もの腕から伸びる指先で、ちょこちょことナニカをやっていた。

 

 その顔は……まあ、蠢く手で構成された顔なので表情は無いが、とにかく、真剣にナニカをやっているようだ。

 

 

 ……どうしよう、放置しておくべきだろうか? 

 

 

 少し迷った千賀子だが、聞いてみることにした。

 

 放置したところでナニカ起こった時に事態が好転する可能性は極めて0に近いし、それならば、事前に心の準備でもしておいた方がマシ……と、思ったから。

 

 

『──人形遊びです』

 

 

 女神様の返答は、それだけであった。

 

 人形……女神様もそういう遊びをするのだろうかと、ちょっと気になった千賀子は横から箱を覗き込み……思わず、首を傾げた。

 

 何故ならば、箱の中には何も無かったから……いや、それだと誤解されるので、詳細を書こう。

 

 具体的には、ジオラマのような、そういうのは有った。

 

 地面が有って、木々っぽいのが有って、湖っぽい水溜りが有って……ただ、それだけ。

 

 なにやらコチョコチョと女神様の指先がジオラマ内の虚空を泳ぐだけで、地面を引っかいたりもしなければ、ジオラマ内のセットを動かす様子もなく……それ以外の変化が無い。

 

 人形遊びというのだから、人形があるモノとばかり思っていたのだが……なんなら、人形と言い張るだけの、見る者に精神的な負担を強いるナニカの可能性を考えていただけあって、なんと言い表せばよいのか……拍子抜けであった。

 

 

「何をしているんですか、女神様」

『──胡蝶の夢を、眺めております』

「はい? 禅問答か何かですか?」

 

 

 せめてナニカをしているならまだしも、やっている事は虚空を指で掻くだけだ。

 

 意味が分からず首を傾げる千賀子を他所に、女神様は……一つだけ、教えてくれた。

 

 

『──現時点で987億9065万226回目の胡蝶の夢──あ、たった今1000億回を突破しました』

「……?」

『──夢はいずれ、覚めるもの。私も愛し子と共に成長しますのでね、こういうのもアリかな……と』

「……はあ、まあ、よく分かりませんけど……楽しいですか?」

『──楽しくはありませんよ。ただ、悪い子にお仕置きをしているだけですので』

「お仕置き、ねえ」

 

 

 改めて箱の中を見やり……やっぱり、何も無い空間を掻いているだけの指先を見て、考えるだけ無駄かと思った千賀子は、再び3号の下へと戻ろうと──

 

 

『──いっそのこと、愛し子もアメリカで新たに競馬場でも作っては?』

 

 

 ──した、その時……まさかの、女神様からの発案であった。

 

 

 これは、本当に珍しい事だ。いや、もしかしたら、始めてかもしれない──そう、千賀子は思った。

 

 というのも、女神様は千賀子に対してあまりにも過剰すぎる執着心と様々なアプローチを仕掛けてくるが、基本的な姿勢は後方腕組み女神様である。

 

 千賀子から話し掛けられて返事をしたり、可愛いとか愛おしいとか独り言を呟く時はあったりしても、『○○をしてみては?』という直接的な提案をしたことは、ない。

 

 例外は、『○○しないと死にますよ?』とか、『○○で人類が滅びますね』とか、千賀子が巻き込まれて命を落としかねない……そういう事態が確定している時ぐらいである。

 

 

「……競馬場、ねえ」

 

 

 まあ、それは、それとして。

 

 

「3号、ヤル気は……ないよねえ」

 

 

 とりあえず、視線を向ければ……それはもう、心底嫌そうな……みたいな顔をしている3号を見て、千賀子はため息を吐いた。

 

 いや、まあ、気持ちは分かる。自分が逆の立場だったら、それはもう嫌だなぁオーラをバシバシ放っていただろう。

 

 ただでさえ、千賀子は既に忙しい。

 

 2号は『冴陀等村』を始めとして、細やかな雑事。今ではすっかり忘れ去られているだろう『アイテムガチャ』にて手に入った物などの管理と実験も継続している。

 

 3号はアメリカにて馬主としての活動と、挨拶回り。あと、ベトナム帰還兵へのケア活動や、就職支援なども行っている。

 

 4号はエマのお世話全般と、2号と3号の補佐。時々、千賀子とすり替わってあいさつ回りも行っている。

 

 ロボ子は、基本的に千賀子と行動し、千賀子の秘書的な立ち位置に収まり、アドバイザーも務めている。

 

 なので、現時点では手の空いている者がいない。

 

 ここから新たに捻出しようとするなら、新たに5号を生み出す必要があり……また、判断を迷わせる理由はそれだけではなく、場所がアメリカだから、である。

 

 

 ──ぶっちゃけると、もうそこまで手を広げたくないのだ。

 

 

 日本国内でさえ、やる事が多い……と、思う時があるのに、他国の、それでいて日本よりはるかに国土が広く大陸が続いている場所で、『春木競馬場』と同じ事をしろというのは……う~ん。

 

 

「……いや、無理でしょ。正直、これ以上の分身を増やしたくないし、お金が……」

 

 

 チラッと、空気に徹していたロボ子に視線を向ければ、ロボ子は一つ頷いてから、キッパリと告げた。

 

 

「2日前の最終確認時での『賽銭箱』に納められている金額は、約7980兆円になっております」

「……?」

「ドルに換算して、約33兆2500億ドルです」

「それって、すごい金額なんだよね?」

「理論上、アメリカという国がまるごと買えます。例の名前は言ってはいけない『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を……と、通せば、の話ですけど」

「いや、でもなあ、さすがに私の手に余る」

 

 

 そう、包み隠さず本音をぶちまけた……その時、ふと。

 

 

「……ん? 私も?」

 

 

 先ほどの女神様の発言、その言葉の言い回しの不自然さに気付き、首を傾げた。

 

 

「女神様、私もってどういう事ですか?」

『──3号が、『賽銭箱』を使って競馬場を買い上げましたよ、ちょっと前の話ですけど』

「はっ?」

 

 

 初耳な話に、思わず千賀子はロボ子へと振り返れば。

 

 

「はい、3号様が使用されました。金額にして、約50億ドルぐらいですけど」

「え、何それ、私知らないんだけど?」

「報告は3号様の方から行うと言われましたので」

 

 

 思わず、どうして報告しなかったのかと……3号へ非難の意味を込めて睨みつけると。

 

 

「──ごめんなさい、本体の私。あまりにも腹が立ってしまって、札束を叩きつけるような行いをしました」

 

 

 3号は素直に頭を下げ──まあ、己の分身のやる事だからと、一呼吸入れて落ち着いた千賀子は……居住まいを正し、改めて理由を尋ねれば。

 

 

「だってアイツら、金にならないからって厩舎に繋いだまま放置して餓死させていたんだよ」

「はい?」

「南国の楽園、バハマ競馬が聞いて呆れたよ……痩せ細った馬たちを見て、ロウシの事が頭に思い浮かんで……どうしても、我慢出来なかったんだ」

「ロウシの事が浮かんだなら、仕方ない──いや、待って、それって、アメリカではそういった話がけして珍しくは……」

「珍しくはないよ。むしろ、日本の方が外国に比べたらずっと上等な扱いだよ、謙遜でもなんでもなくね」

 

 

 そんな話が出て来たので。

 

 

「……ちょっと、話が変わって来たよ、これ」

 

 

 とりあえず千賀子は許したのであった。

 

 

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