ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
女神様が用意した箱庭へと案内された『魂』が、新しく生まれ変わるまでに見る夢
その夢の中身は、様々な人生
苦難に満ちた夢もあれば、幸福で穏やかな夢もあり、あるいは悲劇的な物語に満ちた夢もある
共通しているのは、必ず最後は幸福の中で終わること
たとえば、家族であったり、恋人であったり、血を分けた子供であったり、あるいは気の置けない友人だったり
そういう者たちに看取られながら、『ああ、私の人生は色々あったけど、幸福な日々だったなぁ』と、己の生涯を満足して終える──という、最後で終わる
もちろん──夢である。そう、胡蝶の夢。夢は、必ず覚めるもの
夢から覚めた『魂』が待っているのは、全てが作り物だと分かる箱庭の世界
そこで、『魂』は気付くのだ、思い出すのだ、理解するのだ
──己が送ってきた人生は全て、『己が生み出した妄想』である、と
友人たちの思い出も、家族との思い出も、恋人との思い出も、妻との思い出も、積み重ねてきた全ての思い出は……初めから存在せず、妄想の産物でしかないことに
そして、同時に、『魂』は思い出す
それは、一度ではない
何千、何万、何億、ただただひたすらに妄想の人生を送っているだけで、『魂』である己は何一つ変わっていないのだと
そして──『魂』は思い出す
覚えている妄想を完全に忘れ去るまで、この何もない空間から動けないことに
狂うことは許されず、言葉一つ発せず、ただただ時の流れに任せて、自然に忘却する、その時まで
それまで、積み重ねた妄想が協力してくれる
俺は、おまえが生み出した妄想だと
私は、おまえが生み出した妄想だと
両親の愛情も、好物だった手料理も、友人とのたわいない思い出も、恋人との情熱的な一夜も、愛する者との間に生まれた我が子も、時を経て生まれた孫たちも
全て、ただの妄想であると。
妄想だから、最後は都合よく幸せな最後になっただろう、と
1人1人、記憶の片隅にすら残っていなかった者たちからすらも、徹底的に自分たちは都合の良い妄想の産物でしかないことを親切で教えてくれる
そうして……全てを忘れ、己がどんな存在であるかも忘れた頃……再び『魂』は妄想の世界に入る
今度の胡蝶の夢は、反転する
『魂』が積み重ねてきた愛しき妄想たちを、今度は徹底的に凌辱し続ける人生が始まる
そう、傷付け、辱め、人が思いつくあらゆる方法で、『魂』が思いつくあらゆる方法で尊厳という尊厳を穢しつくし
そして、不可逆に至るまで徹底的に全てを終えた後で……『魂』は、思い出すのだ
己が、何をしていたのかを
愛していた者たちに、己がこれまで何をしていたのかを
そして、再び膨大な時間を罪の意識に苛まれ……全てが漂白された時、また、繰り返すのだ
新たな胡蝶の夢を、現実のものであると思いながら……
──競馬というのは世界中で行われているスポーツではあるが、実は国ごとに区分(つまり、レベル分け)されていたりする。
その理由としては、競馬もスポーツなので、レベルの高い国、レベルの低い国が生まれるので、そこらへんを管理するためである。
いわゆる、『国際競馬統括機関連盟:IFHA』というやつだ。
まあ、そこらへんは話が逸れすぎるので省くが、要は国際的な基準を満たしているかどうかで、パートⅠからパートⅣまで区分がある。
で、だ。
実は、この区分には馬の生育環境は含まれていない。
国際基準……外国調教場の出走などが開放され、国際的なレースレーティング基準を満たし、競争実績の他に格付け(グレード表記)を持つ競争とそれ以外を分ける、運営が正常に行われている……などで。
ぶっちゃけてしまうと、どれだけ劣悪な環境に競走馬を置いても、それ自体には区分には影響しないのである。
もちろん、そんな環境においた競走馬では国際レース(特に、賞金の高いレース)ではまず勝てないし、国内だけでもどんどん質が下がってゆくのだが……しかし、その基準はそこまで厳格ではない。
ぶっちゃけ(Part.2)てしまうなら、この頃のアメリカ競馬……いや、かなり後においても変わらないのだが、とにかくこの頃のアメリカ競馬はドーピングが当たり前のように行われていた。
もちろん、全てではないのだろう。
しかし、上位にいる馬はほぼドーピングが行われていたと言われてしまうぐらいに緩く、このドーピングの基準も州によってバラバラであった。
また、この頃のアメリカ競馬規模は日本の比ではないぐらいに大きかったが、日本のように統一された競馬学校などがあるわけでもなく、国土の広さに対して非常に閉鎖的な部分があって。
速く走れない馬への虐待もそうだが、言う事を聞かせるために(あるいは、闘争心を持たせるために)有望な馬にも苛烈な調教を行うのが日常的に行われていた。
日本も例外ではないが、勝てない馬と判断された馬はあっさり殺処分され、食肉として損失の補てんに回されるのが毎日のように行われていた。
言うなれば、『競馬はビジネス』という事に思い至った者たちが増えて参戦したことで、それまで以上の競争が生じたからだとされている。
そこに加えて、オイルショックによる燃料費や肥料の価格押し上げが発生し。
これにより閉鎖を余儀なくされた零細牧場などでは夜逃げや失踪が相次いだとされ、食肉としても売れなかった馬は馬房に繋がれたまま餓死したり、牧場主の手で射殺されたり……盛り上がる競馬界とは裏腹に、けして華やかな部分だけではなかった。
……。
……。
…………という話を、だ。
「アメリカの競馬ってさ、はっきり言っちゃうと、ものすご~く規模の大きい地方競馬がいくつもあるって感じなのよ」
「へえ、アメリカだから、もっと華やかなモノだとばかり思っていたけど、違うんだね」
「華やかではあるよ。ただ、日本人の想像する華やかさとは系統が違うというか……あと、アメリカは日本とは逆で、ダート競争が主流らしい」
「まあ、芝の維持って大変だものね」
「そうそう、こっちみたいに国営で管理するならともかく、地方自治体が芝の管理なんてしようものなら、今の黒字経営が続けられている競馬場も軒並み赤字に転落するぐらいには金食い虫だし」
「そう考えると、『春木競馬場』ってえげつないわよね」
3号より一通り聞いた千賀子は、そう話を締めくくり──それから、そういえば、と千賀子は首を傾げた。
「3号の買ったバハマの競馬場って、どこなの?」
「ん? あ、いや、買ったのはバハマの方じゃないよ」
「え?」
意味が分からず首を傾げた千賀子に、3号は「ごめん、言い方が悪かったね」カリカリと頭を掻いた。
「正確には、買い上げたのはテキサス州の競馬場。バハマで馬を買ったのはそうだけど、もうちょっと体力が回復するまではって話」
「あ、そうなんだ……で、そのテキサス州の競馬場って、どんなの?」
「買ったやつは、競馬場の名を借りた、柵でコースをグルリと作っただけのチャチなものだったよ」
「……それ、競馬場なの?」
「ぶっちゃけると、地元でひっそり行われていた程度の規模で、私が買うと話を持って行った時も、もう採算がまったく取れなくてレースを開催できない有様だった」
「ああ……事実上閉鎖している、不良債権状態だったわけね」
「そう、周辺一帯の土地代含めその他諸々、一から建築するための材料比、あとは道路を新たに整備するための分も入れて全部で50億ドル」
「ふ~ん」
我が分身ながら、やる事がすごいなあ……そんな目で分身を見やる千賀子に、ロボ子がこそっと説明を補足してくれた。
──曰く、裏稼業の人達への脅しも兼ねている、とのこと。
要は、『これだけの資金を出せるうちらに喧嘩を売る覚悟があるなら……』という意味らしく。
既に見せしめとして、一夜でマフィアグループを14、サラシ首にして広場に並べるといった脅しも行い。
次に、酒場などで秘密裏に陰口を叩いていた者たちの自宅や女のところに即日『陰口までなら許してやる』という旨の手紙を送った。
それは汚職に手を染めていた警察官を始めとした綺麗な仕事に勤めている者たちも含まれていて。
中には、公権力を使って合法的かつ正義的に動こうとした者がいたけど、その人たちは特に念入りに見せしめを行った……とのこと。
(知らなかった、3号って怒ったらここまで過激になるんだなあ)
それを聞いた千賀子、内心にてちょっと引いていた。
ただ、客観的に見たら、『キレた時はお前の方が怖いやろがい!』と総ツッコミを入れられそうだが……幸いにも、知られているのは『(=^ω^=)←コイツ』だけなので、露見する事はなかった。
……ちなみに。
仮に千賀子が3号の代わりに同じ状況に直面していたら、関係者一同が初めから存在していなかった(存在していないわけではない)という感じになっていたから、本当に3号の方がマシである。
……で、だ。
「それで、いつごろ完成予定なの?」
それは、当然の質問である。
なにせ、『春木競馬場』だってロボ子協力の下で4日も掛かったのだ。
広さはこっちの比ではないとはいえ、その分だけ時間も掛かるだろう……と、千賀子が思うのは当然であった。
「もう完成している」
「え?」
「もう、完成してレースが開催されているんだ」
「えぇ……???」
だが、そんな千賀子とはいえ。
「今年、開催10周年記念レースが開かれる予定なんだ」
「はぁ??????」
「実は、ロボ子の協力の下、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通して、既に競馬場は完成しているんだよ」
「待って、時系列が分からないんだけど???」
「どういうわけか、私の記憶では少し前に工事を初めて、つい先日完成したばかりだというのに、もう10年前には完成していて、多くの人達がそこで働いていることになっているんだよね」
「ワケが分からないよ……!!!!」
「私だってワケ分からんのよ……!!!! なんで、そこで働いている人たちの中に結婚して子供が生まれているの……???」
「私に聞かれても困るよ……」
「そうだよね……」
本当に、冷静に考えるとまるで意味が分からない話である。
工事を始めたのが少し前で、とんでもない速さでつい先日完成した競馬場では10周年記念レースが開催される予定で、そこには10年前から働いている人たちが居るという。
『春木競馬場』ですら存在しない記憶だというのに、テキサス州の競馬場では、存在しない記憶どころか、時系列が意味不明な状況で子供まで生まれているときた。
そりゃあもう、頭がおかしくなりそうになる話である。
ていうか、冷静に考えたら気が狂いかねないので、千賀子も3号もそれ以上を触れようとはしなかった。
というか、これ以上話を広げたくないと思った千賀子は、とりあえず、この話はここでいったん打ち切りとし、テキサス州の競馬場は3号(あと、Roboko)に任せることにしたのであった。
……。
……
…………まあ、そんな事をしても、だ。
「……あれ? そんな3号がどうして襲われたの? 3号が死んだら、競馬場一つ無くなっちゃうのに」
「あ、それは競馬場の名義は本体の私になっているからだよ」
「え?」
「私はあくまでもシアトルスルーの馬主であって、テキサス州の競馬場のオーナーは本体の私になっているから」
「なんで?」
「なんでって、私は分身だし……そりゃあ、そうでしょう」
「 」
また、どう足掻いても。
『(=^ω^=)コウイウコトモアロウカト……シロメノイトシゴモカワイイヤッター』
女神様からの寵愛から逃れる術など、ないのであった。
……。
……。
…………そんなこんなで、色々な事がうやむやになって一部関係者が女神様の『人形遊び』でコネコネされている中で……ついに、その時が来た。
『千賀子特別日米対決記念』、開催日である。
3歳以上 ダート1800m(右)
本賞金:1着1億円
2着5500万円
3着2300万円
4着1400万円
5着700万円
その他、出訴奨励金や出走手当・計5200万円。
それまで国内で開かれていたレースの中でも、断トツの賞金額。並びに、日本一と表に裏に囁かれている『春木競馬場』での開催とあって、この日の盛況具合は平日の比ではなかった。
なにせ、普段からオーナーより『子供も馬という生き物に触れてほしい』という思いから、様々な催しが開かれているぐらいだ。
鉄火場とは言っても、普段からイメージ戦略的な事をしているおかげか、子供連れも多い。
一生に一度見られるかどうかのビッグネームの三つ巴レースとあっては、会社を休んででも来るという者だって多かった。
と、なれば、普通は起こる……様々な設備の混雑。
しかし、ナメてはいけない、ここは女神ぱぅわぁが介入した『ニュー・春木競馬場』である。
そう、賢明な読者なら既にお気付きかもしれないが、『ニュー・春木競馬場』はロボ子の手が入るのとは別に、独自に成長するのだ!
何時までも、同じ場所で足踏みをする競馬場ではないというわけだ。
通路は広く、密かに空調設備が拡張されているだけでなく、消臭機能もいつの間にか追加され。トイレに限らず、水道設備全般は現代をも軽く凌駕する機能を有している。
当然、臨時出店している店もその恩恵を受けている。
さすがに無制限に広いわけではないが、広々とした調理場は実に調理しやすく、『うちもこれだけ広かったらなあ……』と羨む店主がちらほら。
変装した『Roboko』による、世界各国のお酒が臨時販売され、子供にはチョコレートが配られ、それ以外の者には甘酒が振る舞われた。
……さて、話が逸れて来たので、戻そう。
それだけ力を入れているだけあって、賑わいも相当なモノで。
これまたいつの間にかさらに拡張されていた(ロボ子も知らなかった)駐車場が満員になり、電車もバスも満員になり、近隣の商店街ではついでにとお土産を買う人たちで混雑していた。
そう、『特別記念レース』が開かれる時は、商店街にとっても掻き入れ時でもある。
そして、競馬場が盛況となれば、その利益の一部が地域に還ってくる。
おかげで、他の街に比べて街路樹の整備や道路の整備、公衆トイレなどのインフラ設備も重点的に行われていて、他県から来た者は口を揃えて『綺麗な街ね』と同じ感想を零すのだとか。
もちろん、良い話ばかりではない。
そりゃあ中には酷い客もいるが、所詮は一過性のモノでしかなく、あまり騒ぐと次から次にやってくる他の客たちによって袋叩きにされるから、そこまで問題ではなくなっていた。
……。
……。
…………そうして、だ。
ついに、その時がやって来た。
『春木競馬場』の特別レースにのみ演奏されるファンファーレ。
鳴り響く拍手に送り出された優駿たちが……ついに開かれたゲートに合わせ、2分にも満たない激闘のために飛び出したのであった。