ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──二度とは起こらない、伝説の三つ巴レースが生まれ、世間を賑わせていた……その最中。
光が生まれたら、闇が生まれるように。
世界のどこかで幸福が生まれたら、世界のどこかで不幸が起こるように、それは等しく例外なく人々の下に訪れる。
「この度は、お悔やみ申し上げます」
「お気遣いありがとうございます」
「この前までお元気だったのに……よう看病頑張りましたな」
「そう言っていただけると、気も安らぎます」
たとえ、女神に愛された娘であろうとも、不幸は平等に訪れ、起こる悲しみに違いなどありはしなかった。
まあ、その女神は、悲しむ愛し子の姿を見て『(=^ω^=)コンナ、カナシンデイルスガタモカワイイダナンテ……』といった感じで恍惚を隠しもせずにいるあたり、ろくな女神でないのは確定的に明らかだけれども。
とにかく、その日、女神に愛されている千賀子の実家では、先日亡くなった祖母の葬儀が執り行われていた。
この時代、寝たきりになった者(特に、老人は)はそう長くは生きられなかった。
意外に思う人がいるかもしれないが、実は昭和はおろか平成に入った頃でも、これはあまり変わってはいなかった。
特に、1970年代のこの頃はまだ現代のような経口栄養剤や高カロリー食なんてものが流通していなかったので、布団から自力で出られなくなった者はそのまま……というのも珍しくはなかった。
現代では当たり前になっている介護制度が生まれたのも平成になってからであり、この頃は各家庭の自助努力のみが当たり前で、寝たきりになると自ずと周囲より『あの人も、もう長くは……』と判断されるのも普通な事であった。
……そう考えると、だ。
体調を崩しがちになって布団に入っている時間が増していたとはいえ、約1年間近くを入院せずに生き続け。
そして、亡くなる2週間前までは自分の事を自分でやれていた祖母は、本当に大した者である。
実際、その1年間があったからこそ、千賀子を始めとして、周囲の者たちは心構えをする事が……いや、違うかもしれない。
心構えというよりは諦観、いずれ訪れる結末を前に、その後を想像する時間が長かった分だけ、柔らかく受け止めることができた。
そう、千賀子に限らず、父も母も、緩やかではあるが、確かに想像していた。
祖母が亡くなる、その時を。
祖母が亡くなった後の日々を、これまでの思い出と共に……その準備期間が長かった分だけ、千賀子は祖母の死を受け止めることができた。
むしろ、千賀子よりも、両親の悲しみようが酷かったぐらいだけど……まあ、それは、千賀子より長く接する時間が長かった、両親と祖母との関係性が理由なのだろうけど。
それは、想像すらしないままいきなり突き付けられた、祖父の事がクッションになったおかげなのかもしれないが……まあ、それはそれとして。
「千賀子、お寿司の手配は?」
「確認したよ、12時頃には届く予定だって」
「事前に話を通していた人たちは、もう全員来ている?」
「まだ後2組来てない。もうちょっとしたらバス停のところに様子を見に行くから」
「お~い、座布団はまだあるか?」
「お寺さんから借りてきているやつが、私の部屋にまとめて置いてあるから持って行って!」
「親父、婆ちゃんの友達の富メさんが来たぞ」
「隣町から来てくれたのか、それじゃあ挨拶に行くから」
「ごめんね──飲み物はもう、届いているかしら?」
「それならさっき届いて、超特急で冷やしたから──」
祖父の時は泣きに泣いていたせいで手配その他諸々は全て周りがしてくれた(あと、当時の千賀子はまだ高校生だったし)が、今は違う。
さすがに、今回も両親に任せっぱなしというわけには行かないし、それで平気な顔をできるほど千賀子は図太くはなかったので、今回はちゃんと手伝いをしたわけ……なのだが。
これがまあ、忙しい。
悲しむ暇も無いと思ってしまうぐらいに、次から次にやることが出てきて、朝から晩まで千賀子も走りっぱなしであった。
いったい、どうしてか。
それは、その、身も蓋もない話だが、早く葬儀を済ませて火葬まで進めないと遺体の腐敗が始まってしまうからだ。
と、いうのも、だ。
人間の身体というのは、言ってしまえば雑菌の塊である。
無害有害問わず、絶えず活動し続ける体内の免疫機能によって、雑菌による浸食や繁殖を未然に防いでいるというわけだ。
しかし、生命活動が停止し、死亡した身体にて免疫機能が働かなくなると……それまで抑えられていた様々な雑菌の侵食が始まる。
ぶっちゃけてしまえば、生命活動が停止して免疫機能が働かなくなった死体というのは、様々な雑菌にとっては天国にも等しい環境なのだ。
外気による乾燥が抑えられ、残った体温のおかげで温度が保たれ、そして、栄養が豊富に含まれた水分や組織が大量にある。
そんな環境で、雑菌が繁殖しないわけがない。だからこそ、少しでも腐敗を防ぐために遺体は速やかに冷却される。
氷嚢であったり、ドライアイスであったり、霊安室であったり、道具や場所が変わっても、やる事は同じ……とにかく遺体を冷やすわけだ。
……ちなみに、1977年のこの頃にはもう日本でもエンバーミングと呼ばれる手法が導入されていたりする。
エンバーミングとは、別名では死体防腐処理とも呼ばれ、遺体に外科的な処置を行い、血管を通じて全身に薬品を循環させることで長期保全を可能とする処置の……話が逸れたので戻そう。
とにかく、葬儀というのは猶予無しの待った無し。
現代ならば核家族が半ば当たり前になりつつあり、身内のみで行う家族葬も一般的になってきていたが……昭和のこの頃はまた、少し違う。
この頃でも親族との交流が途絶えてひっそり行う家も多かったが、現代に比べると関係性が密だったところが多い。
結婚して離れた義理の親族が弔問に来るぐらいは当然な感じで、時には大勢の人が
『個人』が当たり前になって久しい現代の若者にはいまいちピンと来ないかもしれないが、昭和のこの頃は……関係性にもよるが、所属している会社や組織の関係者が葬儀に来るなんてのもあった。
会社の部下の身内に不幸があったから、上司が葬儀に弔問に来たり、あるいは、取引先の関係者などが続々とお悔やみの連絡をしてくる……というのも、そこまで珍しい話ではなかったのだ。
これがまあ、大変である。
現代ならば各個人が連絡用のツール(要は、スマホ)を持っているので容易く取れるが、この頃にはそんな者はなく、せいぜいが公衆電話ぐらい。
駆け付けたは良いが土地勘が無いので道に迷い、公衆電話から連絡してきて……迎えに行くというのがちょくちょく起こる。
これに合わせて、人数が多ければ車の手配もある。
まあ、自家用車で来ている人も多いし、有名人でもないので、そんなに台数はいらないけど。
他には、先述のとおり食事の手配もそうだし、1人1人への挨拶回りもそうだし、そもそも、役所への手続きとかも色々ある。
まあ、事情が事情なので待ってくれる場合が多いけど……これまた先述したが、葬儀の最中は悲しむ暇がないという理由の一つでもあった。
とはいえ、今回のコレはまだマシな方である。
というのも、どうやら生前の祖母は自分の死期を悟っていたから、生きているうちに知り合い関係に話をしていたようで。
遠方過ぎて行くことができない者などは手紙等を送ってくるとのことで、近場の者は既に準備を済ませていたのか、誰も彼もが慌てた様子も驚いた様子もなかった。
……。
……。
…………まあ、そのかわりと言ってはなんだけど。
『──秋山さん、この度は御不幸お悔やみ申し上げます。せめて一言ご挨拶にと……いえいえ、葬儀は身内の皆さまだけで、それではこれで──』
と、いった感じで続々と挨拶だけして帰ってゆく……千賀子の関係者がとにかく多く、その事に驚いて目を丸くしている者が多かったりしたのは、まあ、うん。
これはまあ、致し方ない事ではある。
なにせ、千賀子は……改めて言うのはなんだけど、社会的立場がとんでもねえ人物である。
競馬関係者のみならず、地主関係からの電報なり電話なりも、そう。わざわざ連絡したわけではないが、政界からもチラホラそういうのが届いているし、来ている。
もちろん、千賀子は事前に関係者に伝えてはいるのだ。
実家の周辺はけして広い場所ではなく、実家は豪邸でもないし、大きな家でもないし、車を置く場所だって多くはない。
祖母の知り合いが来るだけでも手狭になるというのに、そこに普段はすっかり遠縁になっていた親戚の人や、兄の和広の義理家族の方が挨拶に来て、千賀子の友人たちが挨拶に来た時点で、もはやパンク寸前。
そんな場所に、千賀子の仕事関係の人達が押し寄せたら……困るを通り越して近所迷惑にしかならないだろう……っと。
でも、だからといって、完全にシャットアウトするわけにはいかない。ここらへんは、現代とは考え方というか、感性が違う。
本当にお悔やみを伝えるだけ……それだけをして帰るというのを突き返すのは失礼だし、わざわざ来てくれたのだから……という考え方がこの頃にはあった。
なので、千賀子も『来るな』とは真正面から言えず……実際、誰も彼もが数珠を手にして頭を下げ、一言二言千賀子に挨拶をして帰っていくので、無下にはできなかったのであった。
……。
……。
…………そうして、次から次にやってくる人たちの相手をしつつ、喪服姿でやってきた明美と道子たちと少しばかり雑談を挟みつつ葬儀は進み、食事へ。
「子供用のわざび抜きは、ガリが一つだけしか入っていない方だからね、子供が食べないよう気を付けてね」
「退屈だよね、もうちょっと頑張ってね。オレンジジュースは呑んでいいけど、ちゃんとトイレには行くんだよ」
「ビール飲めない人は、お茶があるからね」
食事時もまあ、騒がしい。
大人ばかりならともかく、子供連れで来ている者もいる。祖母はかなり交友関係が広かったようだが、幸いにも、足りないなんて事はなかった。
ただ、これがまあ、子供たちの視線は分かりやすいもので、寿司とジュースで、親御さんたちは恥ずかしそうに子供の頭を叩いていたが、千賀子たちは誰一人として気にしてはいなかった。
その点についてはスポンサーである千賀子が居るので不安視はされなかったし、
5歳、6歳の子に、顔はおろか名前すらろくに知らない、自分たちの両親より上の世代と仲が良かった人の葬式に親身になれ、というのが無理な話で。
むしろ、食欲を満たした後で、退屈を持て余して悪さをしないだけ、変な事を始めないだけ、危ない事をしないだけ万々歳。
そんな感じであり、多少なりドタバタ走り回っても、誰も気に止めてはいなかった。
──なお。
1人にはさせておけないし、祖母の葬式にはとエマも来ているが、エマはエマで葬式の時に緊張したのか、寿司を食べたらそのままコテンと寝息を立て始めていた。
……。
……。
…………さて、子供たちは置いといて、ポツポツと始まるのは老人世代……つまり、祖母と同世代の人たちの昔話である。
祖父の時もそうだったが、やはり話の中身は千賀子が知る、年老いてからの祖父の話……ではなく、もっと若い頃。
言うなれば、親たちすら知らない時代の事が多く、ちょっと一息と休憩していた千賀子たちも、思わず興味を引かれるモノが多かった。
「──お~、そうだ。すっかり忘れとぅた。千賀子ちゃんや、おまぁもこれ見てみぃ」
そんな中で、祖母だけでなく祖父とも古くからの友人関係にあり、祖父の葬式にも駆けつけてくれた……隣の県に住むオジサンが、古びた写真の束を見せてくれた。
それは、祖父と祖母が映った、若い頃の写真である。
現在のようなカラー技術はなく白黒で、今よりもぼやけていたり、日焼けして色が変わっていたり、2人以外の他人も映っていたり、小さかったりしたが……そこには確かに、若い頃の二人が映っていた。
これには、千賀子のみならず、父と母も興味深そうに写真を手に取っていて……千賀子も、思わずといった調子で一枚ずつ確認していった。
「これが、お婆ちゃん?」
千賀子の指差した場所には、スッと切れ長の目をした、和装の綺麗な顔立ちの女性が居て、その女性を中心に数人ほど映っていた。
「おぅ、そうだ。別嬪さんだろぉ? 若い頃は、そりゃあもうモテてなぁ、是非ともおらぁんとこに嫁に来てくれってやつが多かったんだぞ」
「はぁ、なるほど……これは、男が放っておかないね」
言われて、千賀子は納得する。
この頃の祖母は綺麗系な感じであり、ツンと鼻も高く、どことなく勝気な雰囲気を、写真越しにも感じ取れた。
「たしかにコレは……ん? この奥に居る、微妙にカメラ目線になっているっぽい男の人は?」
千賀子が指差したのは、若い頃の祖母たちの後ろ……ともすれば、偶然カメラの範囲に収まっただけの通行人っぽい感じの男。
カメラ目線とは言ったが、日焼けのせいで変色しているうえに、距離があるからうっすらぼやけているし、和服に帽子をかぶっていて、ちょっと変な恰好に見えた……のだけど。
「あぁ、そいつはおまえの爺ちゃんだ」
「えぇ!?」
まさか、それが若い頃の祖父とは思わず、千賀子は目を瞬かせた。父と母も始めて見る写真のようで、へぇ~っと驚いた様子であった。
「わけぇ頃のアイツは、そりゃあもう口下手で意地っ張りでな。おまえの婆ちゃんを誘いてぇのに、後ろの方でジッと地蔵みてえに……これは、そんときの写真だよ」
「お爺ちゃん……」
「ちなみに、この時のアイツのコレはバレバレだったらしくてな。俺も人伝でしか聞いてねぇけど『早く誘え、意気地なし!』って、おまえの婆ちゃんもヤキモキしてたんだと」
「お、お爺ちゃん……」
「周りから見ても、相思相愛って感じでよ、はよぅくっつけやってみんな思っとったんよ、俺らもヤキモキしたもんさ」
「お婆ちゃんも、たいがい意地っ張りだったわけね……」
死後になって暴露される、祖父と祖母の青春時代の話……それもまた、葬式ならではな光景なのかもしれない。
……。
……。
…………ちなみに、だ。
これは後になって分かったことなのだが、火葬場にて祖母が焼かれている時……こっそり、『魔性千賀子』が遠くより火葬場を見つめて涙を流していたらしいが……千賀子は、あえてそこには触れなかった。
──そうして、時は少しばかり流れ。
葬儀も終わり、諸々と手続きやら何やらも終わり、年末年始も過ぎ去り、エマの学年が一つ上がった、1978年(昭和53年)の4月。
ちょくちょく出現する異次元の気色悪いやつらを『うわ、キツ』で順当に仕留めつつ、結局まるで役に立たない女神様ステッキの存在意義を疑い始めている……そんな頃であった。
エマが小学2年生になったし、そろそろ小学2年生記念パレードでも開こうかと提案して。
その結果、分身たちからボロクソに否定されて、いじけていた……そんな時に、『──マスター、報告しておくことがあります』と、ロボ子より報告があったのは。
その内容は──簡潔に述べるなら、『宇宙からの飛来物』があったというもの。
それだけならば、特に気にすることではない。
さすがに地図が書き換わるぐらいの巨大な物質ならば、その前にロボ子が動いているからだ。
では、いったいどのような?
「結論から述べますと、飛来してきたのは観測装置です。全長1m前後、距離にして……まあ、ザッと数万光年ぐらい彼方からのです」
「はぁ、ずいぶんと遠いところから……ん? 観測装置ってことは、ナニカを観測するためにこっちに飛ばしてきたってこと? もしかして、パイロットとか乗っていたとか?」
「いえ、パイロットが乗るには小さすぎます。それに、装置そののものが小型だったことに加え、どうやら途中で故障していたようで……」
「ふ~ん、それで、それがなに?」
首を傾げる千賀子に、ロボ子は……少し間を置いてから、キッパリと告げた。
「問題なのは、その観測装置を作った製造元です」
「製造元?」
「私に搭載されている情報データ通りならば、アレは……他の種族に対して非常に侵略意識が高い宇宙生命体が生み出した可能性が極めて高いのです」
「それで?」
「気になって調べたところ、おおよそ今より30年ぐらい前、ニューメキシコ州ロズウェルにも、同じタイプと思われる観測機が飛来しているのが確認できました」
「……つまり?」
「あくまでも予測ですが、一度目は偶然で、二度目はこの星の調査です。30年経って、どれだけ文明が発達しているか……その確認でしょう」
「……あ~、その、なんか嫌な予感がしてきたんだけど?」
「マスター、現実逃避したところで自体が好転することはほぼありません」
外れていてほしいなあ……そんな千賀子の想いは、残念ながら届くことはなく。
「私の予測通りに行くならば、3度目は侵略用の宇宙艦隊が来るはずです……どういたしましょうか?」
「……ちょっと待って」
判断を求められた千賀子は、一つ、二つ、深呼吸をした後で……おもむろに、傍でなんか太くなっている女神様をバシンと叩いた。
「女神様??? これ、もしかして『意図せぬハプニング』とか発動してません???」
『──いいえ、発動はしていませんよ』
「なに? またなの? また『来たれ! わたし!』を使わないと駄目なやつなの???」
「マスター、落ち着いてください。そうならないよう、対策を考えましょう」
「止めてよ、タダでさえうわキツ侵略者がうっとうしいというのに……!!!」
桜が舞い散る季節……そんな中で、千賀子は再び地球の存亡を賭けた戦いに挑む事となった。