ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
あるいは、開幕の話
実は、1978年(諸説ある)は、ディスコブームが起こり始めた年でもある。
これがどれぐらいの人気だったかと言えば、とにかくディスコハウスを作るだけで若者が集まって儲けが出たぐらい……と聞けば、想像出来やすいだろうか。
で、どうしてそんなブームが生まれたのかと言うと色々あるが、一番のキッカケは、同年にて日本でも公開された、アメリカ映画の『サタデー・ナイト・フィーバー』である。
この映画は、見たことが無い人でも主人公のキメポーズを見て『あ、なんかソレは見た事あるかも』と思ってしまうぐらいに有名な映画ではあるのだが。
実は、きらびやかなポスターのイメージとは裏腹に、けっこう暗い……というより、重苦しい空気が漂う青春映画である。
そう、この映画は当時のアメリカの世相……格差や貧困や歪な家庭環境をたっぷり盛り込んだ、鬱屈し、将来が暗く、行き場の無い思いを抱えて日常を送っていた若者が主人公の話である。
これがまあ、当時の日本人(若者)の心にもよく響いた。
というのも、当時(1970年代)の若者の教育は、いわゆる『詰め込み教育』というものであり、とにかく暗記&暗記&暗記であり、様々な弊害を生み出した。
勉強に対して拒否反応を起こして不登校になったり、ノイローゼになってしまったり、精神的な不調を起こして事件を起こしてしまう子が続出したのだ。
文字通り、起きている間はずっと勉強机にて朝から晩まで……という教育方針の子がノイローゼとなり……という話が他人ごとではなかったと言えば、いかに凄まじかったかが伺い知れるだろう。
しかも、それだけではない。
今では不登校という表現になっているが、当時は登校拒否児童、学校恐怖症、そんな名で呼ばれると同時に、児童や生徒にその責任があると言われた時代なのだ。
不登校になるのも学校を嫌がるのも、本人が弛んで怠けているから。
勉強に付いてこられないのは本人の素養に問題があり、根性が足りていない甘ったれだから。
全てが本人の問題であると断言され、落ちこぼれになるのも全ては本人にやる気が無いからだと言われていた。
そこに加えて、この頃の教育方針は『管理教育』という考え方であった。
これは言葉通りの意味で、学校(つまり、教員)が児童・生徒の在り方を一方的に決定し、これに従うよう厳しく教育するというもの。
なんともまあ、矛盾した話であろうか。
学校より言われるがままに従い、良い成績を残せなければ全て当人のみの責任。反抗すれば一方的に『不良』のレッテルを張られ、それでおしまい。
そのフラストレーションは言葉で言い表せられるものではなく、この頃は社会問題化として取り扱われるほどに『校内暴力』が日常的に行われていた。
──もちろん、全ての学校がそうではないし、教育側が全て悪いわけではない。
そう、一部の生徒たちだけの話であり、その生徒たち自身にも相応の責任はあった、極悪非道の加害者である。
実際、当時の生徒の中には様々な犯罪に手を染めていたのは事実であり、死者もそうだし、強姦事件もそうだし、組織的に売春を行っていたグループだっていた。
そんな若者たちにとっても、もしかしたら『サタデー・ナイト・フィーバー』の光景は、あまりにも強く心に響いたのかもしれない。
……そんな中で、だ。
ディスコブームが生まれようとしていたこの年、とあるグループが発足……いや、それをグループと称するには誤解を招くが、とにかく、とある名を付けられた集団が発足し始めた年でもある。
それは、『竹の子族』、と後に名付けられた集団である。
竹の子族というのは、独特の派手な衣装を着て、野外にてディスコサウンドに合わせてステップダンスを踊る……という行為を行っていた集団のことである。
『竹の子』と呼ばれた由来は諸説あるが、有力視されているのは、当時より原宿にあった『ブティック竹の子』という店のファッションに身を包み、歩行者天国で踊ったことから。
だから、『竹の子』+『若者集団』という感じで、『竹の子族』という名が生まれた……という話である。
ちなみに、竹の子族の全盛期は1980年代に入ってからなので、この頃はまだまだごく一部の事でしかなかったりする。
この竹の子族だが、最初の頃は歩行者の邪魔をする迷惑な若者たち、身勝手な若者今日も我が道を行く……といったように、始まった当初は悪く言う者がチラホラ居たらしい。
それで、だ。
全盛期へと差し掛かるにつれて、竹の子族という名は全国へと広まり……サブカルチャーのみならず、様々な分野へ影響を与えることになる。
ファッションもそうだが、いわゆるアイドルを始めとした芸能界や、音楽界隈、ファッション界隈だけでない。
当時はあくまでもただの歩行者天国でしかなかった、原宿代々木公園横の歩行者天国……そこで竹の子族が集まって踊っていたことから『聖地』になり。
後に全国から見物客が集まるほどにまで注目が集まったという、ある意味では観光地とまで言われるようになった……と言えば、いかに各界隈に与えた影響が大きかったかが窺い知れるだろう。
実際、竹の子族からそういった方面にデビューしていった者もいるのだから、それはもう言葉では説明出来ないぐらいのパワーがそこにはあった。
というのも、だ。
この頃は日本もようやくオイルショックから脱し、経済全体が回復局面に入っていた時期で、人々の意識にも少しずつ景気が良くなってきているという感覚が芽生え始めていた時期である。
しかし、全ての人々がそうであったかと言えば、そうではない。
高度経済成長期でもそうだったが、やはり、その恩恵を受けられなかった業界は相応にあり、それは千賀子の生きる今生の世界でも変わらない。
また、新たに生じた社会問題や、文化的な
そんな、言葉では言い表せられない閉塞感が、もしかしたら『竹の子族』を生み出す原動力になったのかもしれない……と、穿った考えか。
……。
……。
…………さて、どうしてそんな長々とした前置きをしたかと言えば、だ。
場所は、『神社』。
1978年(昭和53年)、観測史上稀な、記録的な猛暑が続いている8月。
あまりの暑さに熱中症からの幻覚幻聴の末、そのまま死亡した者がちらほら……というニュースが流れるぐらいの、蒸し暑い日々が続いている。
ゆえに、さすがの『春木競馬場』でも一時的にレースを中止している。
現代基準でも白目を向けられるぐらいに頭おかしいハイテク設備な春木競馬場だが、それでも、限度というものがある。
やろうと思えばやれないわけではないが、当の千賀子が『こんな暑い中でやるの、嫌です』と真顔で宣言した事から、そうなった。
ちなみに、中止するのは単純に競馬関係者(競走馬含む)の安全だけでなく、千賀子の方でちょっと理由があったから。
暑いから嫌というわけではない。千賀子だけならば、その程度の暑さなど余裕である……で、だ。
「……どうにかできないかなって、最近考えるんだよね」
場所を『神社』に戻し、自室にて。
スヤスヤと寝息を立てているエマの寝顔をチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラと見つつ、本題に入れと分身から頭を叩かれて……ようやく発したのが、その言葉であった。
「いちおう聞いておくけど、それって何を指しているのかしら、本体の私?」
「そりゃあ、『恐怖の大王』だよ」
分身たちの質問に、千賀子はハッキリ答えた。
「異次元や宇宙からの侵略者は、正直な気持ち、問題はないかなって」
「そうなの?」
「宇宙からのやつは、なんか私が巨大化して裸になるたび勝手に血を吐いて死んじゃうし、異次元からのやつは……なんか、気付いたら『うわキツ』って呟いて消えていくし」
「冷静に考えたら、まるで意味が分からない話ね、本体の私」
「本当だよ……で、まあ、そうして改めて考えるとね……私がどうにかしなきゃならん最大の障害って、やっぱり『恐怖の大王』なわけよ」
ロボ子よりソッと差し出されたお茶(冷えた緑茶)を一口……それから、改めて千賀子は分身たちに意見を述べた。
「最初の頃は、私が死んだ後の事までさすがに面倒みられるかって思っていたけど……」
その言葉と共に、チラリと……千賀子の視線が、寝息を立てているエマへと改めて向けられた。
「……それに、エマだけじゃない。私が死んだ後も、生きていてほしい人たちがいる」
「だから、『恐怖の大王』だけでもなんとかしておきたい……ってわけ?」
2号のその言葉に、千賀子は頷いた。
そんな千賀子に、2号は……迷うかのように、しばし唇を噛んだ後で……おもむろに、既に分かっていることを改めて尋ねた。
「本体の私、まさか忘れたわけではないよね? 『恐怖の大王』は、倒す倒さない、殺す殺さない、そういう存在ではないってことを」
「もちろん、覚えておりますとも」
千賀子は、苦笑と共に頷いた。
そう、2号の言う通り、『恐怖の大王』は、生物ではない。人々の負の念……様々な思いが凝縮し、誕生する……言うなれば、集合的な思念の塊である。
ゆえに、物理的な火力では殺せない。
通じるのは、あくまでも超常的なエネルギー……現時点で有効なのは、千賀子が持つ巫女的パワーによる攻撃だけである。
他の世界線での千賀子がどうしているかは、知らない。少なくとも、この世界での千賀子は、この方法しか知らない。
しかし、それで倒したところで、それはあくまでも表に出てきた部分を掃除しただけ。
大本であり、ある意味では本体でもある、人々の心……その心の奥底、深き場所より滲み出る闇の一面、それが凝縮されて誕生するのが、『恐怖の大王』である。
つまり、人間が人間として存在する限り、『恐怖の大王』は必ず生まれる。それは、千賀子とてどうすることもできない。
「なら、どうするつもり? 地球上から人を減らすのかしら?」
「人を減らしたところで、出現が遅くなるだけだよ。言うなれば、コップの水が溢れる寸前なのが今なのだから」
冷徹な2号の問い掛けに、千賀子は首を横に振った。
そう、既に手遅れなのである。
これまで『恐怖の大王』が出現しなかったのは、例えるならば、コップのふちまで負の念が達していなかったから。
しかし、1950年頃……この時に起こった世界的な人口爆発によって、タイムリミットは一気に加速した。
皮肉なことに、大勢の人々を救った医療技術の進歩との業技術の発展が、『恐怖の大王』が生まれるまでの猶予を一気に奪い去ってしまった。
既に、限界に達しているのだ。
千賀子がやっているのは、溢れた負の念を掃除しているにすぎず……その間隔も、時を経て、世界人口が右肩上がりになり、世界経済が密接になるに従って、短くなってゆくだろう。
これを抑えるには、2号の言うとおり、あるいは、かつて女神様が話していたとおり、人間の数を物理的に減らすしかない。
けれども、そうやってもなお、せいぜいが時間稼ぎに過ぎない。
そして、そんな事をすれば待っているのは……最悪は第三次世界大戦で……まさしく、本末転倒でしかなくなってしまう。
だからこそ、人間が人間で在り続ける限りは……という話になてしまうわけ……なのだけど。
「だから──私は考えたの。人の心の闇より生まれるのであれば、私がそこの守り人になるしかないのでは、と」
「……どういうこと?」
意味が分からず首を傾げる分身たち(ロボ子含む)に、千賀子は説明をする。
……千賀子曰く、だ。
『ジョブ:巫女』によって、人々の心を感じ取り、思考や感情をも読み取れるようになっているわけだが……最近になって、とある疑念を抱くようになった。
それは、人々の心が、千賀子でも感じ取れない奥底にて……一つに繋がっているのではないか……という、疑念である。
もちろん、根拠はある。それは、『恐怖の大王』だ。
『恐怖の大王』は、人々の心が生み出す負の念が凝縮されることによって生まれるわけだが……ここで一つ、疑問が生じる。
それは、どうやって負の念が凝縮されるか、である。
表に出て、どこかへ集まって凝縮されるのであれば、千賀子はすぐにそれを感知できる。それこそ、『恐怖の大王』に成る前の段階での対処も可能だ。
しかし、今に至るまで、千賀子は一度としてソレを見つけたことはない。
いつも、出現してから。あるいは、出現するギリギリ、既に9割9分出現しかけている、そんな段階にいたってようやく、である。
この事に対して、千賀子は……月日を経るにつれて、不思議に思うようになっていた。
女神様に聞いたところで、というか、実際に聞いてみたけど、『負の念が集まっている』という感じの返答しかされないから、そっちから知るのは諦めた。
おそらく、女神様の感覚からしたら『なんで私を愛するの?』という質問みたいなもので、質問の内容が上手く理解出来ない類に当たるのだろう。
なので、千賀子は考え……つい先日、一つの仮説を立てた。
それは、『人々の心の奥底には、ある種の回線のようなモノで繋がっていて、負の念はそこを通って……偶発的に集中した結果、それが恐怖の大王として形作られるのではないか?』というモノだ。
これならばまあ、人間の数が増えれば増えるほどに出現するまでのサイクルが早まるのも説明がつく。
それに、これまで『恐怖の大王』が誕生しなかったのもまた、ある程度の説明が付く。
文明が発達し、人々はより遠く離れた場所、それこそ海の彼方の大陸の彼方にまで、これまで知ることすらしなかった人々の存在を身近に感じるようになった。
その結果、人々の心の奥底にある回線の距離も以前より短くなっているのではないか……というのが、だ。
「──以上が、私が現時点で考える『恐怖の大王』のこと」
千賀子が立てた、『恐怖の大王』に関する仮説である。
「つまり、根本的な対処法としては、とにかく負の念が凝縮されて実体化させない……と、いうわけですね?」
「そのとおり。でも、問題なのは、どうやって負の念を凝縮させないようにするか……ってことよ」
「それに加えて、そもそも仮定の話が事実だとして、まずは心の奥底にある回線とやらを感じ取れるようにならないと駄目じゃないの、本体の私」
「おっしゃるとおり、まずはそこをクリアしないと始まらないのがねえ」
これまでの説明を簡潔にまとめたロボ子と、続けられた2号の言葉に、千賀子は力強く頷き……次いで、困ったように溜息をこぼした。
そう、問題はソコである。
千賀子が提唱した仮説が全て正しかったとして。
まず、前提として、人々の心の奥底にて互いを繋げている回線とやらを、千賀子自身が見付けられるようにならなければならない。
それが出来なければ、『恐怖の大王』が発生する前に抑えるのなんて、不可能。全ては、それを突破してからの話である。
「どうするの? 久しぶりに座禅でも組んで精神集中するの?」
「悪くはないけど、今ではもう効率が悪いわ」
尋ねられた千賀子は、静かに首を横に振る。
おろそかにするわけではないが、その方法だとあまりにも時間が掛かり過ぎる。
もっと効率的に、巫女的シックスセンス……感知能力を磨く必要があり……そして、実は千賀子、その方法は既に分かっていた。
それは、より多くの人に接し、より多くの人の心に触れること。
より正確に言い直すのであれば、多くの人々の『心への接点』を付けること。
1人ひとりの心の奥深くまで触れていたら、さすがの千賀子とて人間不信……あるいは、重度の人間嫌いになるのが確定している。
あくまでも、表面上だけ。
広く、薄く……つまるところ、それは──
「……え、まさか、その年でアイドルを? 25歳過ぎてからアイドル目指すの……(震え声)」
「さすがに、そこまではやらないわよ! ただ、これまでよりもほんの僅かだけ……本当にちょっとだけ、『抑え』を緩めるだけよ」
──巫女としての、本来の役割。
それは、神の代理人、あるいは、人々が求める神への偶像……現代の言葉であえて言い表すならば。
「アイドルになるつもりはないけど、アイドルの真似事ぐらいはしないと……はあ、やれやれ、やる事がまた増えたわね」
そう、アイドルとしての側面も、あるわけであった。
ついに役に立つのか
SSR:天使の残り香(エターナルメモリー)
要約:見た者の心に貴女が残り続ける