ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第1話: なお、両親からも饅頭を貰う予定である

 

 

 

『ガチャ』における『デイリークエスト』というのは、千賀子が把握している限り、難易度は高くない。

 

 まあ、そりゃあ、そうだ。

 

 デイリーと名付けているのに、デイリーでクリアが至難となれば、本末転倒もいいところだろう。

 

 

 ……さて、そんなデイリークエストだが、未だに初体験なのもあるが、比較的多いのが『掃除系』である。

 

 

 内容はその名の通り、掃除に関するクエストだ。

 

 場所や時間の指定により達成が難しい場合(時期的に難しい場合もある)もあるが、だいたいは達成出来るので、クエストの中では当たりである。

 

 

 ……場所はともかく、時間なら幾らか誤魔化せるのではないかって? 

 

 

 いくら緩い昭和の空気だからって、夜の22時に掃除をし始めたら、孝行娘を通り越して奇行扱いだろう。

 

 少なくとも、千賀子の感覚では、まだ9歳の娘がいきなりそんな事をしだしたら、精神的な不調を疑って医者の下を尋ねるような話であった。

 

 それに、前世の現代とは違って、昭和というのは街灯はおろか、室内の明かりの数も乏しく、夜は普通に暗い。

 

 大人であっても23時になれば床に就いているのが当たり前なぐらいだから、掃除が出来るタイミングがあっても、暗がりでの作業は危ない。

 

 

 少なくとも、子供の身体でそれをやろうとは思わなかった。

 

 

 だって、昭和の時代なんて、現代に比べたら医学だって進んでいない。

 

 現代なら『迷信&ほとんど意味なし』なトンデモ治療法として失笑されるやり方が、効果があると本気で信じられて実践されたりするのだ。

 

 

 例えば、『ウサギ跳び』だ。

 

 

 ウサギ跳びとは、昭和の時代に広く行われていた筋力トレーニングの一つ。

 

 内容は、しゃがんだ体勢で踵を上げ、ウサギのようにピョンピョン飛ぶ……というものだが、現代(昭和末期、平成以降)では完全に廃れている。

 

 理由は、スポーツ工学などの発展により、『ウサギ跳び』にはトレーニング効果がほとんど無く、それに比べて故障リスクが高過ぎることが判明したからである。

 

 言うなれば、百害あって一利なしというトレーニングなのだ。

 

 ゆえに、現代では『ウサギ跳び』をさせるという行為自体がある種の虐待でしかなく、万が一にもさせるような指導者が居たなら、即座に解雇されるぐらいとなっている。

 

 

 しかし、昭和の時代は違う。

 

 

 それが判明するまでは、1に根性2に根性、3も4も根性で、5に根性と言われるぐらい、とにかくキツクて辛いトレーニングをすれば強くなれるという信仰すらあった時代だ。

 

 そんな時代に、現代に比べて医学もまだまだ未発達な時代に、万が一怪我でもしてみなさい。

 

 現代ならば十分に回復可能な怪我ですら、間違ったやり方によって悪化しかねない。

 

 しかも、それで悪化したとしても、今の常識では正しいやり方なので、『身体が弱い千賀子に原因がある』と思われても、なんら理不尽な話ではないのだ。

 

 

 そんな状況で、前世の記憶がある千賀子が、必要でもないリスクを取るだろうか……いや、取らない。

 

 

 デイリークリアで手に入るガチャコインは惜しいが、毎日デイリークエストは更新されるのだ。

 

 今までにもあえて取らない日もあったし、今さらリスクを背負ってまでデイリーを狙おうとは思わなかった。

 

 ……とまあ、そんな感じで、ある意味ゆる~い昭和の空気の中ですくすくと日々を送り……ある日。

 

 

「誕生日おめでとう、千賀子や。饅頭を買うて来たから、一緒に食おうや」

「饅頭! ありがとう、お爺ちゃん!」

「しかし、ええんか? 遠慮せんと、玩具とか服とか、言ってくれてええんやぞ」

「遠慮してないよ? こっちの方が好きだから、こっちをお願いしただけ」

「ほうか、千賀子はまだ色気よりも食い気か。たんと食え、ただ、ちゃんと食べ終わったら歯を磨くんだぞ」

「うん!」

 

 

 祝・10歳の誕生日を迎えた千賀子は、祖父より特別に用意してもらった大量の饅頭に舌鼓したつづみを打っていた。

 

 

 ……ケーキじゃないのかって? 

 

 

 そんな上等なモノ、この家には無い。いや、まあ、けっこう遠出すれば買えるが、ケーキではなく饅頭になる理由はある。

 

 まず、現代とは違って保冷剤のように安価で冷やせる小道具がないので、持って帰る途中でクリームが溶けてしまうから。

 

 次に、現代よりも、ケーキ一個の値段が高いから。

 

 さすがに今の給料平均がどうなっているかは千賀子も知らないが、前世と似たような感じであるならば、かなり割高だ。

 

 現代に比べて物価も何もかもが異なるうえに、大学出の平均月収が5万とか言っている時代に、滅多に食べられなかったデザートと言えば、想像しやすいだろうか。

 

 まあ、昭和時代なんて毎年激動しまくっていたから、そこらへんを考えると頭おかしくなってヤバいので、そういうものだと思ってくれたらいい。

 

 また、値段を抑えたうえに比較的常温でも大丈夫な、生クリームの代わりにバター(現代のバターとは違う)を大量に使ったバターケーキなるものがあったりする。

 

 が、しかし、現代とは違って、そこらへんの基準が曖昧というか緩かったので、こう……独特の味と香りがする場合が多い。

 

 不味いわけではない。むしろ、そっちの方が好きで、現代でもわざわざそっちの作り方をしているケーキを買う者は多い。

 

 不幸というべきか、千賀子は前者であった。正確には、バターケーキを好みとは思えない味覚を持って生まれただけなのだが。

 

 

(美味い……久しぶりの甘味が五臓六腑に沁み渡る……!!)

 

 

 ケーキより饅頭の方が安価に手に入るとはいえ、それでも現代に比べたら気軽に買える食べ物ではない。

 

 そのうえ、祖父が買ってきてくれた饅頭は、他とは違っていくらかお高めで、数だって多い。

 

 実質、ケーキを買うより高くついているが……それは互いに言うことではないし、祖父も、あえてそれを言うような男ではなかった。

 

 

 で、だ。

 

 

 祖父より与えられた饅頭を大事に大事に噛み締めるように食べながら、やはり、日頃から家族サービスを率先してやるべきだなと内心にて頷いていた。

 

 

 ……何をしていたのかって? 

 

 

 別に、大げさな事は何もしていない。

 

 言われずとも率先して店先の掃き掃除をしたり、軽い物ならお使いをしたり、家の中を掃除したり、商品の並びを整頓したり、お使いをしたり、それぐらいだ。

 

 中身が見た目通りならともかく、前世ではちゃんと成人を迎えていたし、1人暮らしだってしていた。なんなら、親の有難みも理解していた。

 

 だからこそ、デイリークエストとは関係なく、だ。

 

 別に嫌なわけでもないし、学校などがあるときは別に、手が空いている時ぐらいは手伝いをしておくべきだろう……と、普段から考えて動いているわけである。

 

 傍からは、文句ひとつ言わずに率先して手伝いをしてくれる孝行娘にしか見えないわけで……そのおかげで、家族からの評価はそれなりに高かった。

 

 

 ……とはいえ、おまえ掃除とお使いばっかりだなと言われそうだが、仕方がない。

 

 

 人知れず、齢10歳にして『ガチャ』によって見た目とは裏腹なフィジカルを得ているとはいえ、ボディは10歳の子供だ。

 

 要は使用される燃料が多くても、エンジンが小さければパワーが出ないのと同じ事。

 

 現代に比べて栄養バランスが欠けやすいから、背も小さく華奢だ。家族の贔屓目で見ても、まだそこまで任せられない……といた感じなのだろう。

 

 実際、重い物はまだ持てないし……そうして、最後の一口を心より惜しみながらも、モシャモシャと噛み締めて……ごくりと、音を立てて呑み込んだ千賀子は。

 

 

「爺ちゃん、釣りに行こう」

 

 

 既に自分の分を食べ終えて、スパーっと煙草を吹かしている祖父に、お願いをしたのであった。

 

 

「今からか?」

 

 

 首を傾げると、祖父は壁時計と窓の外を交互に見上げる。

 

 ちょうど今はオヤツ時より前で、近くの川なら……まあ、小一時間ぐらいは滞在出来る時間帯である。

 

 

「俺は構わねえけど、宿題は済ませたのか?」

「帰ってすぐに済ませたから、大丈夫」

 

 

 もちろん、抜かりはない。

 

 

「ほうか、なら、ちょっと休憩してから行こうや」

 

 

 そして、祖父も千賀子がその手の嘘をつくような子ではないと分かっていたので、拒否はしなかった。

 

 

「あと、歯は磨くんだぞ」

「あ、はい」

 

 

 でも、〆るところはちゃんと〆る人でもあった。

 

 

 

 昭和(にしか、思えない)の時代に生まれ落ちた千賀子にとって、物心付いた時からの最大の苦痛は『退屈』、である。

 

 別に比喩でもなんでもなく、そのまんまの意味だ。とはいえ、この世界に娯楽が無いかと言えば、そんなわけもない。

 

 単純に、千賀子を満足させる娯楽が少ないのだ。まあ、千賀子が不満に思うのも、致し方ないことだろう。

 

 なにせ、千賀子の基準は、逆に選別しなければならない現代だ。

 

 金銭を考えなければ、一日が48時間で余暇時間を3倍にも4倍にしてもなお、溢れかえる娯楽を消費しきれないと揶揄されている現代だ。

 

 そりゃあ、退屈に思って当然である。

 

 スマホが手元に無い環境には慣れたが、それでも、息を吸う程度の感覚でネットを通じて娯楽に浸れる日常を知っているからこそ、余計に千賀子は退屈が嫌いであった。

 

 なので、千賀子がお手伝いなり何なりに精を出すのは、デイリークエストとは別に、暇潰しの側面もあったりするが……話を戻そう。

 

 

 ──実家である『秋山商店』より、自転車(後ろに、千賀子を乗せて)で山の方へしばらく。

 

 

 なだらかな山道を登って下りれば、砂利やら小石やらが境界線みたいになっている、かなり幅広い小川に到着する。

 

 小川なのに幅広いのかと不思議に思うだろうが、これには経緯があるらしい。

 

 なんでも、かなり昔……切った切られたな戦国時代に、この地を治めていたお殿様が、自分の城のすぐ近くを流れる川を大川と呼んで、それ以外を小川と呼ぶよう定めたのが始まりらしい。

 

 なので、いちおうは正式な名前があるらしいのだが、そこ以外は今も『小川』で呼ぶのが残ったのだとか……閑話休題。

 

 夕方と呼ぶには早い時間帯なのもあって、河川敷には釣竿を垂らした数名の先客が居た。

 

 比較的上流な位置にあるからか、川の水は綺麗だ。

 

 臭いもほとんど無く、少し泥抜きをするだけで味が良くなることもあって、御飯のオカズを求めて地元の人がよくやってくる、地元民には有名な穴場である。

 

 まあ、その分だけ魚も慣れてしまっているので警戒心が強くなっているらしく、穴場なのに釣り難いらしいが……さて、と。

 

 

「何時ものように、ワシが投げてもええんか?」

「うん、お願い」

 

 

 特にトラブルなど起こらずに到着した千賀子は、釣竿に餌を付けている祖父に、そう頼んだ。

 

 理由は言うまでもなく、今の千賀子では、小川の中ほどまで飛ばすだけの……具体的には、身長と体重が足りないからだ。

 

 残念ながら、昭和の時代には『子供用の釣竿』など無い。

 

 有っても庶民には手の届かぬ高級品(大量生産出来ないので)という扱いであり、さすがに、大人用しか家には無いのだ。

 

 

「よっしゃ、離れていろよ」

 

 

 促されるがまま、離れる。

 

 直後、ひゅん、と釣竿がしなって空気を割る音と共に、先端の針(餌付き)と重しが……とぽん、と小川の中ほどに落ちた。

 

 

「ほれ、これでええか?」

「ありがとう、お爺ちゃん」

 

 

 釣竿を受け取った千賀子は、ふんすと気合を入れて……ゆっくりと、リール(釣竿の、糸を巻くアレ)を巻き始める。

 

 

(ヨシッ! ここだ、スキル発動!)

 

『N:20分だけ、魚釣りが上手くなる』

 

 

 その際、千賀子は……今朝に得られた『ガチャ』の成果を、ここで発動させた。

 

 そう、千賀子が魚釣りに連れて行ってとお願いした理由は、これを引いたからである。

 

 たった20分間、踏ん張りが弱い子供の身体とはいえ、以前からこの当たりを引く度に来ているので、ここで釣れる魚は既に分かっている。

 

 

(う~ん……なんとなく、チョンチョンと魚が突いているみたいな感覚はあるけど……正直、何がどう上手くなっているのかサッパリ分からん!)

 

 

 体感的には本当に分からない。でも、上手くなると断言しているだけあって、クルクルとリードを巻き続け、先端が河川敷へと近付けば。

 

 

「おう、食いついておる。千賀子は本当に、釣りが上手だの」

 

 

 5つある釣り針のうち、3つに魚が食いついていた。

 

 

「ふむ、コレとコレは戻すぞ」

「食べられないの?」

「食べられんことはないが、骨ばかりで食い辛いし、泥臭くてかなわん……焼いても臭いから、出来るなら食わん方がええ」

 

 

 しかし、食べられるのは1つだけだったようだ。

 

 祖父は慣れた手付きで食えない魚を針から外して川に投げ入れ、食えるやつは竿と一緒に持って来たプラスチック容器に入れた。

 

 これが、ガチャの効果である。

 

 あくまでも、魚を釣る事が上手くなるだけで、必ずしも食える魚が釣れるわけではない。時には、迂闊に触ると有害な魚を釣ることもある。

 

 毎回、祖父に連れて来てもらう理由がコレである。

 

 まあ、魚の知識があったとしても、道具一式を持っては動けない(かさ張るし、時間が掛かりすぎる)のは一緒だが……で、だ。

 

 一回目と同じく、餌を付け直した張りが小川の中ほどへ……これまた一回目と同じく竿を受け取った千賀子は、リールをクルクルと回し……手元にまで巻き取れば。

 

 

「おう、今度も3匹……やったな、小ぶりだが、全部食えるやつが付いておる」

「お~!」

 

 

 思わず、千賀子は手を叩いた。

 

 なにせ、制限時間は20分。のんびりしていると、あっという間に時間切れだ。

 

 

「この調子で、もうちょっと釣ってくれたら晩酌にも回せるから、頑張ってくれよ」

「任せなさい!」

 

 

 言われるまでもなく、先ほどと同じく釣竿を受け取った千賀子は、再びクルクルとリードを回し……っと。

 

 

「前から思っておったが、千賀子は本当に釣りが上手だな」

 

 

 いつの間にか取り出した煙草をスパーッと呑みながら……ふと、祖父はポツリと呟いた。

 

 

「ワシも昔は暇さえあれば釣竿片手に頑張ったものだが、千賀子ほど上手いやつはおらんかったぞ」

「やっぱり、そう見える?」

「おう、見えるぞ。天性のモノだ……お古で良ければ、知り合いに釣竿を譲ってもらうことも出来るが、どうする?」

「ん~……いらないかな」

 

 

 少しばかり悩んだが、千賀子はキッパリと首を横に振った。

 

 細かい理由があるけど、一番の理由はガチャだ。

 

 魚釣りは好きな方だが、それは釣れるから好きなだけ。

 

 下手に釣竿なんて与えられてしまえば、日常的にこれを求められる可能性が極めて高い。

 

 千賀子は、己の実力をよく知っている。効果が発動中の爆釣れ状態ならまだしも、本来の実力でやろうとは思わなかった。

 

 

「ほうか……前に話していたのが理由か?」

「うん、『今日は釣れる!』って思った時じゃないと、駄目。何時あるか分からないから」

 

 

 現代ならともかく、昭和の世界で、『ガチャ』の話をしたところで、頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。

 

 なので、祖父には『今日は釣れるぞ!』みたいな感じがした時しか釣れないと事前に伝えていた。

 

 なんじゃそりゃあと言われそうだが、昭和はまだまだ信心深い者が多かった時代だ。

 

 祖母曰く、『理屈で考える方よ』と言われている祖父も、そういう不思議な直感があると言えば、そういうものかと納得して受け入れてくれていた。

 

 まあ、本当にそれ以外の時にやればまず釣れないし、実際に一度だけ試した時はボウズに終わったのを見ているからこそ、なのだが。

 

 

「──おお、お爺ちゃん、重いの来た」

「よし、デカいのが来たか? 身体ごと引っ張った方がええか?」

「一緒に、リールを回して」

「頑張れよ、美味くて大きいのが釣れたら母ちゃん喜ぶぞ」

「うん、頑張る」

 

 

 さて、そうこうしているうちに大物の手応えを感じ取った千賀子は、祖父に応援を要請する。

 

 兎にも角にも、今は目の前の魚……引いては、今日の晩飯の品を増やすために、千賀子は全力を注ぐのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 この日、滅多に釣れない大物(めちゃ美味い)が釣れたことで、両親の機嫌が滅茶苦茶良くなったのは……まあ、嬉しい限りであった。

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