ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
インベーダーゲームの人気は、爆発的としか言い表しようがないぐらいの勢いであった。
なにせ、あまりに一気に来た受注のあまり、『嫌ではあるけどどうにもならない』と苦言を呈するぐらいに手が回らず、違法なコピー品が出回ったのだ。
しかし、そうなるのも致し方ないのだろう。
なにせ、現代価格で100万を超える(諸経費込みならもっと掛かる)初期投資費用が、たった1,2ヶ月で回収できてしまうばかりか。
あまりにも人気が白熱し過ぎた結果、なんと市場から100円玉が枯渇するなんて事態が発生し、急遽日本銀行は倍以上の100円玉を市場に流したというのだ。
伊達に、『インベーダーハウス』なる、インベーダーゲーム専用ゲームセンターが作られたわけではない、というわけだ。
しかし、なんとも悲しい話だが、実はこのインベーダー人気もそう長くは続かなかった。
何故かと言うと、まずゲーム機本体(いわゆる、テーブル型なので)が巨大であり、家庭用として置くには大き過ぎて、なおかつ個人所有するには高すぎたこと。
次に、あまりにも盛況過ぎたことで、大人のみならず学生たちもこぞってやろうとした結果、学校を休んででもゲーム機が置かれている店に行こうとする者が続出したから。
次に、当時のゲームセンターなどは今よりも治安が悪く、青少年が通うのをあまり良しとはしない空気があって、国会などでも取り上げられたから。
現在ではアミューズメント施設としての認識になってきているゲームセンターだが、この頃のゲームセンターはそんな生易しい空間ではなかった。
喫煙OK飲食OKは当たり前、不良のたまり場になっていて、灰皿も普通に置かれていた。
不良グループでゲーム機を独占するのも半ば黙認状態で、順番待ちなんて有って無いような場所も珍しくはなく、知らずに入った学生を恐喝して巻き上げるなんてトラブルが続出した。
店からしたら、金さえ払えばそれで良かったし、警察沙汰を嫌って見て見ぬふりが横行しており……そりゃあ、子供は行くなと国会で言われてもしょうがない。
その結果、続々と条例や規制を掛けるべきではという機運が高まった結果、実際に禁止したところ以外でも、自主規制を掛ける店が続出した。
これ自体がキッカケというには暴論だが、こういった事が積み重なった結果、青少年保護育成条例への機運もまた高まっていったのだが……話がそれたので、戻そう。
とにかく、国会が動いたことで、白熱したブームに一定のブレーキが掛かったのは事実である。
その結果、インベーダー人気は約1,2年程度で収束してしまい、問屋などでは大量の在庫を抱えて失踪する者が出たらしいが……悲しいかな、それもまた商売というやつなのだろう
しかし、この頃を生きる者たちはまだ知る由もないことだが、これは始まりに過ぎなかった。
ゲーム……すなわち、『コンピューターゲーム』という分野が拡大してゆくのは、これからでしかなくて。
今より5年後のの1983年……とある会社が発表する家庭用ゲーム機『ファミリーコンピュータ』の登場により、外国に少し遅れて第一次ゲームハード戦争が日本で開かれるのだが……それはまあ、後々の話である。
……。
……。
…………さて、どうしてこのような前置きをしたかと言うと、それは他でもない。
「マスター。宇宙からの侵略者の件ですが、どうもインベーダーゲームを見て、『地球人は徹底抗戦の構えあり』と誤解した可能性があるようでして」
「はい?」
「今は怪獣を先兵として送りつけてきていますが、そのうち本隊がドッと押し寄せてくると思われます──というか、既に太陽系に偵察隊と思われる軍艦が確認できております」
「はぁ?」
──実質200回記念ガチャとかいう、女神様の邪悪な催しも終わり。
「それと、異次元からの侵略者なのですが、世界中に設置してある観測機からの追加データが入りました。どうやら、異次元侵略者たちを統括する、『王』とも言えるような存在かと思われます」
「はい?」
「あくまでも推測でしかありませんが、推定エネルギー量はこれまで戦ってきた異次元侵略者たちとは比べ物になりません。おそらく、生半可な『うわキツ』では倒せないかと」
「え、なにそれは……???」
──チラホラテレビでも取り上げられ始めたインベーダー人気を見て、エマが行きたがるのではないかと冷や冷やしている、そんな時に。
「──千賀子殿!! 今年も出来の良い突きたて餅が出来上がりました! 是非とも、御家族でご賞味あれ!!」
「河童……とりあえず、生臭い身体を洗ってから出直せ」
「──お姉さま! 今年も美しい満月が夜空に浮かぼうとしております! 私たちと一緒に、穏やかで艶やかな夜を楽しみませんこと!?」
「花子……せめて、鼻血を拭きとって綺麗な顔で来い」
「──ウキャー! ──ウキャー!!」
「ヒバゴン……エマのトイレを覗いたら殺すぞ」
──なんか、忘れかけた頃に襲来するUMAたちを蹴散らしつつ……。
『 うわキツ (今年の夏は暑かったよな、暑さのあまり乳が見えても気にしてられない人もいたし)』
『 うわキツ (そうだな、来年はもっと濃厚なうわキツを……あ、この餅美味しいなぁ)』
『 うわキツ (気が早いな、まだ秋だぞ。ところで、王様が来るっぽいらしいけど、どうしよっか?)』
『 うわキツ (王もまた、うわキツを求めてさ迷う戦士……その生き様を見届けるしかあるまい)』
『 うわキツ (うむ、うわキツは一日してならず、至高のうわキツはまこと遠き頂きよ……)』
「あの、そこの糞ボケ化け物ども、当たり前のように境内で焼き芋とか餅とか焼いて食べるのは構わないけど、掃除しないと後でぶっ殺すからね」
いつの間にか、なんか当たり前の顔をして境内で焚き火をしている異次元の侵略者たちに注意……こいつ、マジで忙しいなあ。
ていうか、いつの間にかUMAと異次元侵略者たちが仲良くなって……止めよう、この話は。
とまあ、そういう感じに侵略者どもが本腰を上げて攻め込もうとしているという話を聞いた千賀子は、堪らず嫌そうに顔をしかめたのであった。
……。
……。
…………そんな中で、だ。
「まあ、それはそれとしてさ、我が分身たちよ……私、ちょっと以前より考えていた事がありまして」
「なによ、藪から棒に」
「いや、藪から棒ってわけじゃないんだよね。ただ、女神様が邪悪な催しを唐突に開催したからで……」
「止めましょう、この話は……で?」
「実はですね、秋山千賀子29歳、そろそろ馬主業をセーブというか、買い付けをセーブしようかなと思いまして……」
「え? なんでまた?」
「それはですな……」
かねてよりこっそり考えていた事だが、千賀子は一つの決断を下す事にした。
それは、事業縮小で……いや、春木競馬場を潰すとか、相撲部屋への支援を減らすとか、双の葉牧場への委託料を減らすとか、そういう事ではない。
単純に、もういっぱい馬を所有しているから、そろそろ馬主としての競走馬買い付けをセーブしようかな……と、思ったわけである。
唐突に、いったいどうしてそう思ったのか?
実は、千賀子にとっては唐突ではない。
以前から考えてはいたことなのだが、最近になって特に考えるようになってきたのだ……そう、馬主としての己の評判があまりに上がり過ぎているのではないか、という客観的事実によって。
というのも、だ。
千賀子はこれまで直感的に選んだ競走馬のどれもが大成し、産駒の評判も上々で、様々な牧場から『馬を買いませんか?』とセールスされるが……客観的に考えれば、とんでもない事である。
常識的に考えて、というか、統計的に考えても、だ。
自分が買った馬が勝利をして競走馬としてデビューすること自体が、実はけっこう狭き門だったりする。
どうしてかといえば、そもそも競馬場にて走っている馬というのは、生まれた時から厳しい選別を潜り抜けたエリートなのである。
……。
……。
…………少々話を逸れるが、説明しよう。
一般的にはあまり知られていないし誤解されがちだが、競走馬というのは全ての馬がそうなれるわけではない。
まず、生まれた段階で致命的な障害が見つかれば相応の対応が取られ、その後の成長に合わせて、どうにもならない病気や体質などが見つかった場合も同様である。
無事に1歳を迎えてもまだ、安心ではない。そこから始まるのは、競走馬に成るまでの準備段階だ。
人の指示に従うよう教育したり、ハミ(手綱と繋がり、騎手が馬を操るための金具)を取り付けて慣れさせたり、鞍(くら)(騎手が乗るために馬の背中に取り付ける)に慣れさせたり。
勝気・負けん気が強いの裏返しの場合が多いことから、この頃の競走馬は気性が荒いほど好まれ(ただし、限度がある……)る傾向にあったが、人の操作を受け付けないぐらいに気性が荒すぎれば、それはそれで問題になる。
そして、そういった前段階を終えたら、次は人を乗せる訓練と、ゲートの訓練である。ゲートとは、競走馬がスタートする時に入っている、アレだ。
なんでコレの訓練が必要かと言うと、馬というのは基本的に臆病であり、ゲートのような狭い場所に入るのを嫌がる傾向にある。
中には図太く気にしない馬もいるが、だいたいは嫌がる。しかし、このゲートに入れなければレースへの参加はできない。
ゲートが開かれる音にビックリして他の馬を噛んだりゲートを蹴ったりするのも危ないので、これをクリアするのが絶対条件である。
ちなみに、時代劇などでけっこう誤解されがちなのだが、馬に人や物を乗せるというのは、実はけっこうすごい事である。
人間だって、言葉も通じない人からいきなりわけも分からず数十kgの重りを背負わされたら、反射的に下ろそうとするだろう。
馬だって同じであり、人や物を乗せたうえで、指示に従って歩かせたり走らせたりするのは、相応に訓練なり慣れさせたりする必要があるわけだ。
そして、それが終われば……今度は競走馬として走らせるための訓練……すなわち、専門施設へ移送してからの『調教』が始まる。
これまでは牧場などでの、馬にとっては気が休んで安心できる環境での訓練だったが、実際にレースを走らせるとなれば、その難易度は大きく跳ね上がる。
見知らぬ他人、見知らぬ場所、見知らぬ環境、そんな中で全力を出して走るということを覚えなければならないわけだ。
これは人間でも同じだが、生物にとって『全速力で走る』という行為は本来、非常時にしか行われないイレギュラーな事である。
それをコントロールしながら意図的に行わせるのだ。この時点で、どれだけ狭き門なのかが窺い知れるだろう。
実際、これは後々の統計になるのだが。
生まれた競走馬のうち、専門施設での『調教』を受けられるのが約70%。すなわち、この時点で約30%が脱落するわけだ。
そこからさらに、実際にデビューできるまでに約5%が脱落する。つまり、デビューするまでに3割以上が脱落する。
そこから、約3割が1勝もできない(規定日まで1勝する必要がある)まま、競走馬としての生涯を終える。
なので、仮に10000頭の競走馬が居たとして、最終的に1勝して無事にデビューを果たせるのは、約4000頭ぐらいになるわけで。
そこから、名のあるレースに出走して勝利できるのは、全体の約3%ぐらい。
つまり、100頭強ぐらいで……そこから、いわゆるG1レースと後に呼ばれるようになるレースで栄光を掴めるのは、1%未満。
すなわち、約4000頭のエリートの中でも、10~20頭ぐらいになるわけで。
そんなエリート中のエリートを何頭も……その中で、『1国の大統領になるより難しい』とも言われる、日本ダービー馬を何頭も所有しているときたら……普通は、『そんな漫画みたいな話があるか(笑)』と言われてお終いである。
しかし、漫画ではない。
現実として、客観的に見て、千賀子は何頭ものダービー馬だけでなく、G1レースを勝利している馬を何頭も所有している、日本でも有数の馬主である。
しかも、何十頭も馬を買ってきた末の馬主でもなければ、何十年と馬主の世界に居たわけでもない。
初めて馬主として競馬の世界に入ってから今に至るまで、購入した全ての馬が1%未満の狭き門を潜り抜けたG1馬である。
宝くじに例えるなら、何気なく購入したくじが全て1等~3等のどれかだった……それぐらいの話なのだ。
「ぶっちゃけてしまうと、最近だと『私が買う馬=大成する馬』という目で見られるようになりまして……これ、今はまだ良いけど、後々なにかしらの問題を引き起こすんじゃないかな~って、思ってきたわけですよ」
「あ~……まあ、他人から見たら、偉業を通り越して異常な光景だものね」
「そうなんだよ……他所様から見たら、八百長を疑われてもしょうがないぐらいの話なのよ……」
「最初は環境保護と不況対策のために『賽銭箱』の金をばら撒いているような状態だったのに、気付けば日本有数の馬主だものね」
「ほんと、そう……世の馬主さんたちには申しわけないけどね、最近はこう……なんか、違うよなあって」
分身たちの言葉に、千賀子は力無く頷いた。
「最初のうちは寂しさっていうか、ロウシが寂しくないようにって思いもあったけど……そのロウシは亡くなっているし、今では両手の指では足りない数の馬が居るでしょ?」
「そうね、普通の馬主だったら、毎月の維持費だけでも色々と考えなければならない出費だものね」
「出費はどうでもいいの……とにかく、もう私はそれだけ所有しているわけよ」
一つ、千賀子はため息を吐いた。
「いちおう付き合いはあるし、いきなり0にするわけじゃないけど……買うにしても、ちょっと間を開けて理由を付けようかなって」
「理由?」
「私が選んでも外れるとか、そもそも走らせるつもりはあまりないとか、そんな感じのやつなら、もうそこまで売り込みにくる人も減るかなって……」
「ふ~ん……たとえば?」
言われて、千賀子は……う~ん、と唸ったあとで……一つ、頷いた。
「小柄で可愛くて、そうだね。
チラッと、ロボ子を見やれば、ロボ子は……しばしの沈黙の後で、答えた。
「そうですね、『葦毛の馬は走らない』というジンクスがあるようですし、小柄で可愛いと付ければ、仮にレースに出しても『秋山馬主も絶対ではないのだろう』と、周りが判断する可能性はあると思います」
ちなみに、『葦毛の馬は走らない』というジンクスは実際にあったらしい。
当然ながら根拠は無く、単純に葦毛自体が少ないし、前述した通りの狭き門なので、そう思われていただけだったりするけど。
「そこまで言うってことは、既にアテはあるの?」
「ふっふっふ……実はもう、話を通してあるのだよ、3号くん」
モクモクと、興味なさそうな様子で羊羹を食べていた3号の言葉に、千賀子はニヤッと勝ち誇った笑みを浮かべた。
そう、実は千賀子の言う通り、既に話は通してある。
向こうも最初は驚いていたが、千賀子から『小柄で葦毛の馬の子を……』という話を聞いて、『万が一生まれた子が葦毛でなくても責任をもって購入する』ということで、既に約束してあったりする。
「親になるその馬はまだ現役の競走馬だからね。時期にもよるけど、私のところにその馬の子が来るのは今から5年後以降になると思う」
「へえ、まあ本体の私の好きにしたらいいんじゃないかしら……ところで、その馬の名前ってなんなの?」
「『シービークロス』って馬だよ。ちなみに、もうその馬の子の名前は決めてある」
「気が早いわね、なんて名前なのよ」
「『タマモクロス』って名付ける予定。ちょうど、お稲荷さんを食べている時に思いついた」
むふん、と胸を張る千賀子に、分身たちは興味無い様子で頷き……そこで、ふと、ロボ子が尋ねてきた。
「マスター、間を置くのは構わないのですが、いきなり5年以上も買わないとなると、周りから少々不安視されたりする可能性があります」
「ん? そう?」
首を傾げる千賀子に、ロボ子は静かに頷いた。
「もう競走馬は十分と周りに伝えつつ、1頭購入したらしばらくは……といった具合にしてみてはどうでしょうか?」
「ふむ……たとえば?」
「ちょうど、牧場関係から話がありまして。今年外国から輸入された馬の中に、血統的には大変人気があるのですが、その馬自身の成績はパッとせず……その子供になりますが、どうでしょうか、といった感じです」
「あ~……そうだね、いきなりスパッと止めちゃうと変な噂出そうだし、1頭だけ購入してみようか」
「その方がよろしいかと。ちなみに、その馬の名前は『ボイズィーボーイ』です。お相手はこれからになりますが、早くても来年の冬以降になるかと思われます」
「まあ、そうなるだろうね。それじゃあ、お願いするよ」
「分かりました。ちなみに、名前は先に決めておきますか? それとも、生まれてから決めますか?」
尋ねられて、う~ん……と、しばらく考えた千賀子は、顔をあげると。
「ピーン、と来た。『カツラギエース』って名前にしよう」
そう、決めたのであった。
※ ちなみに、人気がヒートアップしていた時は、5倍でも10倍でも値を釣り上げても売れるってぐらいだったらしいぞ