ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第193話: 忘れてはいけない、こいつは基本脳筋タイプ

 

 

 

「え? 拙者? デュフフ、そうですとも。某、『王』と呼ばれていたヤングな過去を持つ、一般人でござるよ」

 

 

 あの後、なにやらドッタンバッタンと討論は踊り、おまえら喧嘩しに来ているのかマウントを取りに来ているのかと思うような批評会兼即売会が終わった後。

 

 千賀子は、彼にだけ分かるようこっそり信号を送った。

 

 彼もちゃんと察したようで、「あいスマヌ、今日は外せぬ急用ゆえ、これにて失礼! いざ鎌倉!」とわざとらしく敬礼して、その場を離れ。

 

 そうして……事前に、ロボ子が手配してくれていた、とある古びたアパートの一室にて、千賀子と彼は会いまみえたのであった。

 

 

 時刻は、夕方。

 

 

 今日の天気は一日を通して青天だったからか、真っ赤な夕日が窓から差し込み、照明を点けているというのに、どうにも部屋の中は薄暗かった。

 

 そこは、あくまでもカモフラージュのために用意しただけの場所である。なので、置かれている家具や家電もそれっぽいだけだ。

 

 具体的には、ちゃぶ台はあるが、湯呑などの食器は無い。冷蔵庫はあるけどコンセントは差し込まれていないし、古びた布団は置かれているけど、よく見れば埃が積もっている。

 

 なんでかって、元々部屋に放置されていただけの物と、ロボ子が別に用意した物が混在しているからで……ん? 

 

 なんで、わざわざカモフラージュしているのかって? 

 

 なんでも、ロボ子曰く『テレビで、密会をするにはこういう場所だと……』という事らしいが……あいつ、時々だけど変な事をするよな、まるで千賀子みたいだ。

 

 で、話が逸れそうなので戻し……とにかく、ちゃぶ台越しに向かい合った千賀子と王は、居住まいを正した。

 

 

「改めまして、秋山千賀子です」

「こちらこそ改めまして。名は有ったのですが、長い年月で失われまして……便宜上《べんぎじょう》、『王』と呼ばれておりました。特にこだわりはないので、お好きなように呼んでもらってけっこうです」

「そうですか、では、王と呼びますので」

 

 

 一つ、頷いた千賀子は、話を続ける。

 

 

「私は、地主兼、馬主兼、牧場経営者兼、春木競馬場オーナー兼、相撲部屋個人後援兼、篤志家兼、宗教組織代表兼、とある『神社』の巫女をやらさせていただいております。この度は、あなたの目的を──」

「ちょ、ちょっと待ってくだされ?」

 

 

 けれども、すぐに遮られた。

 

 いったい何が……首を傾げる千賀子に、王は……非常に、それはもう『え、拙者がおかしいの?』といった様子で、実に困惑していた。

 

 

「その、地主さんでござりまするよな?」

「うん」

 

「馬主さん?」

「うん」

 

「牧場経営、競馬場オーナー、相撲部屋後援?」

「うん」

 

「篤志家で宗教組織代表で神社の巫女さんも務めている……で、ありますかな?」

「うん」

 

「……世界は広いでござるなあ。この世界に実体を移動させたのは最近でござりまするが、つくづく感心したでござるよ……」

 

 

 しみじみと、それでいて深々と頷いた王は……パシンと手を膝を叩いて、先ほどの千賀子の説明に応えた。

 

 

「結論から言いますれば、拙者には特にコレといった目的はありませぬ」

「そうなの?」

「強いて挙げるなら、拙者はそう……『モエ』を見るために居ると思ってくださってけっこうでござる」

「もえ?」

「左様! ちょっと発音に違いがござりまするが、拙者はモエを……新たなモエを求め続ける探求者でござる!」

 

 

 手で、分厚い眼鏡の位置をクイッと直した王は、きらりと眼鏡を光らせながら、告げた。

 

 

 ──『モエ』。

 

 

 それは、王が自分で作った独自の言葉であり、その意味は多岐に渡るが、あえて定めるならば、心を震わせるナニカである。

 

 ここで初めて知ったのだが、どうやら王は今よりもずっと前から、この世界に分身を飛ばして姿を見せていたらしい。

 

 その目的は、『モエ』を見るため。

 

 モエには、決まった形は無い。しかし、決まっていないからこそ、どんなモノであろうとも、それは人々の心を震わせることができる。

 

 

「もうだいぶ昔になりまするが、葛飾北斎の絵を見た時は震えましたぞ。そりゃあもう、何日も何日もその絵に見惚れ続けましてな……世話係として頼みこんで、同居させてもらったこともありますね……デュフフフ!!」

「葛飾北斎……名前ぐらいは聞いた事あるね」

「機会があれば、是非とも見てくだされ。他にも、ロダンの『考える人』も見ましてな、あまりの芸術性っぷりに、拙者、しばしの間それしか考えられませんでした」

「……それも、頼みこんで住み込んだの? 男なのに、よく出来たね」

 

 

 思い出しているのか、デュフフフコポォっと変な笑い方をしている王にそう尋ねれば……王は、キョトンとした顔で……ああ、っと手を叩いた。

 

 

「誤解があるようですな」

「え?」

「拙者のこの姿は、あくまでも世を忍ぶ仮初めの姿。無用な警戒心を生まないためにあえて人の姿をしてはおりますが、特に定まっている姿はありませぬ」

 

 

 クイッと、再び眼鏡を……じゃあ、葛飾北斎に会った時は? 

 

 

「ソレならば、ほれ、このとおり」

 

 

 そう尋ねれば、王の姿がいきなりゲル状にドロッと溶けた。

 

 身体だけではない、着ているシャツも、眼鏡も、何もかもが一塊のスライムへと姿を変えた。

 

 突然のことにギョッと目を見開く千賀子を他所に、スライムはグニグニと不規則に蠢いたかと思えば、あっという間に形が定まっていき……後には、和風美少女といった裸体の女が居た。

 

 そう、その姿は、誰が見ても美少女だと断言する風貌であった。

 

 艶やかな黒髪は腰の辺りまで長く、掌よりこぼれる程度に大きな乳房に、くびれた腰回り。クイッと逆ハート型のお尻の位置は高く、『職業:アイドル』と称すれば誰もが信じる……そんな姿をしていた。

 

 

「この姿に化けましてな。ちょろっとお世話を申し出れば、色よい返事をもらえましたぞ」

 

 

 声も、先ほどまでのちょっと早口かつ独特なモノではなく、鈴を鳴らしたかのようなカラッとした可愛らしいものになっていた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え? 

 

 

「……お世話って、平気なの?」

「拙者に限らず、某共は性別なんて何の意味もありませんからな。当然ながら、スケベに関しても思うところは何もありませぬ」

「……え、じゃあ、どっちもイケるの?」

「ノンノン、正確には、どっちでも拙者は対応できるだけでござるよ。ほれ、このとおり……」

 

 

 そう言うと、少しばかり王の姿は変わり……後には、まさしく美少年としか言い表しようがない姿になっていた。

 

 

「拙者にとって、服を着替えたり髪型を変えたり、その程度の感覚ですからな。スケベとて、拙者にとっては同じ事でござる」

「そ、そう……」

 

 

 それ以上は何も言えないでいる千賀子を尻目に、王は再びぐにょぐにょと形が変わり……先ほどの、眼鏡を付けたヲタクな姿になった。

 

 

 ……で、話を戻すと、だ。

 

 

 王の目的は、『モエ』の追求。すなわち、自らの止まっていた心を動かす情熱であり、人々が生み出すモノにこそある。

 

 それは、本当に何でも良いのだ。

 

 人が限界を超えるために100mを速く走る姿を見るだけでも、新たな表現を模索している漫画家の姿を見るだけでも、新たな技法を生み出そうとしている映画監督を見るだけでも。

 

 王にとって、『限界へと挑戦する、その姿』だけでも満点であり、試行錯誤しながら喘いでいる姿だけでも十分過ぎる。

 

 ましてや、その果てに『作品』を見られるのであれば……というわけで。

 

 

「今は正しく、サブカルチャーが花開こうとしている時期でござる! 既存の常識には囚われない、新しい世界を生み出そうとしているのでござる!!」

 

 

 ズビシッと、王は天井を指差した。

 

 

「他の者たちは『うわキツ』で満足したでござろうが、拙者は貪欲であります! 人々がそこに在る限り、『モエ』は形を変えて乱し続けられるのであります!」

「お、おお……?」

「それを見届けるまでは、拙者は死んでも死にきれぬでござるよ! そう、全てはall is moe! モエは地球を救うでござるよ!!!」

「お、おう……」

 

 

 あまりの気迫を前に、思わず千賀子は手を叩いて拍手する。その熱意には、なんとなく覚えがあった。

 

 具田的には、土師田のやつだ。

 

 方向性は違うが、こいつは土師田と同類なのだろう。

 

 何がどう方向性が違うのかと言えば、土師田は自らの手で作り出すことに固執しているが、こいつはそうではない。

 

 並々ならぬ情熱を注いではいるけど、そこが違う。

 

 他力本願というわけではないが、『王《こいつ》』は、そういう情熱を持った者たちの姿を、まるで壮大な映画を見る様な感覚で認識しているようだ。

 

 

 ……そう考えれば、こいつらが『うわキツ』どものボス的立場なのも、なんとなく理解出来る。

 

 

 好みが違うだけで、こいつも立派な『異次元の侵略者』であり、破壊行為や敵対行為こそしないけど、その本質はあまり違いがないようだ。

 

 実際、ちょっと詳しく話を聞けば、こいつ……はるか昔、前田利益(まえだ・とします:前田慶次のこと)と一緒に行動して傾奇してたようなので、骨の髄まで本物である。

 

 

「えっと、それじゃあ、あんたは人類に危害を加えないし、今後もそういった事は一切しない……と、女神様に誓えるわけね?」

「拙者が動くのは、自由な表現を妨げる者が出た時ぐらいでござる。とりあえず、往来のど真ん中でいきなりセックスパーティを開催したりシャブ打ち大会開いたりとか、そんな馬鹿な事以外での規制をするやつは許さん、それだけでござるよ」

「……それって、女性の小便を見たくて草むらからヘッドスライディングしてきたり、女の匂いに血を吐くけど少年同士の相撲(意味深)に心血を注いだり、毛はいらぬとロリコン拗らせたレズだったりは、許す方向?」

「え、なにそれは……Yesロリータ・Noタッチの精神でござるよ。拙者、リアルとフィクションの区別は付いているでござるし、そこまで外道に成り下がったつもりはないでござる……」

 

 

 傍目にも分かるぐらいにドン引きする王の姿に、千賀子は──

 

 

「……なんだろう、私は感動している。数少ない、まともな人外に接したからなのかもしれない……」

 

 

 思わず、ポロポロと涙がこぼれる。反射的に指先を当てれば、しっとりと涙が溢れた。

 

 『うわキツ』どものあまりの無法っぷりにドン引きすること、数知れず。

 

 なんか上から目線でレビューしてきた時には、こいつら踏み潰したろうかと内心キレ散らかしたこと、数知れず。

 

 放置したら何を仕出かすか分からないから、羞恥心に蓋をして、魔法少女《うわキツ》になったこと、数知れず。

 

 

「え、涙? お、落ち着きなされ、これで涙をば……」

「(ぶわっ……)」

「おひょ!? せ、拙者ナニカしでかしまたかな!?」

「な、何もしておりませんとも……紳士的な考え方に、思わず感動してしまっただけですから……(ポロポロ)」

 

 

 それに比べたら、『王』のなんと常識的な考え方か。

 

 人外特有の感覚があるにせよ、あまりにも常識的な考え方と感性(?)に、感謝のキスの一つや二つはしてやりたいぐらいに、千賀子は心から感動したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、しばしの間流していた涙も止まり、危険性が無ければ放置しても良いのでは……と、思い始めていた、その時であった。

 

 

「そういえば、千賀子殿。このアパートには、宇宙人と呼ばれる者が潜伏しておりますが、それは御承知のうえでござるかな?」

「え?」

「おや、御存じではない? 隣の隣でござりまするよ」

 

 

 寝耳に水のような話に、思わずギクッと身体を硬直させた千賀子は、『──確認致します』ロボ子からの通信を受けて、静かに肩の力を抜いた。

 

 このアパートは、あくまでも部屋を1室借りているだけ。

 

 アパート自体が古く、改装なども行っていないのでボロボロ、全ての部屋が空室のままなのは事前にロボ子が調査をしている。

 

 当然、不審なモノは確認されなかったはずだが……まさか、ロボ子の監視を掻い潜るほどの存在が? 

 

 

「ふむ……後から来たのであれば秘匿は不可能でも、調査をされる前の段階で秘匿に特化していたのであれば、見過ごすのも致し方ないでござるな」

「……あ~、なるほど」

 

 

 千賀子の様子を見て察した王のその仮説に、千賀子は納得せざるを得なかった。

 

 有り体にいえば、その宇宙人はどうやらロボ子が稼働始める前から隠れ潜んでいた存在だったらしい。

 

 それなら、見つからなくても致し方ない。

 

 なにせ、ロボ子の科学力は人類のはるか彼方を行く。

 

 そのロボ子の調査をやり過ごせるほどの科学力を持った宇宙人が、はるかに文明が劣ったこの星で何もしないままおとなしくしている。

 

 事実として、よほど注意深く重点的にピンポイントでの調査を行わなければ分からないぐらいに綿密なカモフラージュが成されていたのだ。

 

 ……理屈としては、意味が分からないだろう

 

 

『私のミスです、お叱りは後ほど……』

「いやいや、相手の方が一枚上手だっただけだよ」

 

 

 とりあえず、珍しく落ち込んでいるロボ子を通信越しに慰めながら……千賀子は、王の話を聞いて、その部屋の扉の前に立つ。

 

 ……確かに、中から気配がある。

 

 巫女的パワーで注意深く感じ取らなければ……少なくとも、このアパートに誰もいないという先入観のままだったら、気付けないぐらいの違和感だ。

 

 

「ロボ子、中に居る宇宙人って、どんなの?」

『……可能性としては、宇宙からの侵略者たちの現地潜入員の類かと』

「根拠は?」

『私の目を掻い潜れるほどともなれば、かなり絞れます。少なくとも、一個人でこれほどのカモフラージュを行うとなれば……よほど露見したくないのだと推測できますので』

「ふむ……ヨシ、わかった」

 

 

 ロボ子の通信を聞いて、一つ頷いた千賀子は……大きく息を吸うと。

 

 

「──開けろ! 女神様の巫女だ!!」

 

 

 巫女的パワーを持って、扉を蹴った。

 

 本来であれば核ミサイルの直撃を受けても無傷のまま終わったはずの扉は、拍子抜けするほど呆気なく開き……先手必勝とばかりドカドカと乗り込んだ千賀子を出迎えたのは。

 

 

「──待っていましたよ、女神の巫女」

 

 

 なんか、どこかで見た事あるような『The・宇宙人』みたいな全身銀色のやつだった。

 

 

「歓迎しますよ。なんなら、お仲間を呼んでもらってもいい」

 

 

 なにやらブツブツと言っているが、無視して千賀子は『力』を貯める。

 

 巫女的パワーは攻撃には向いていないが、そんなのはエネルギーを充填すれば関係ない事だ。

 

 

「心配しなくていい、我々は貴女と事を争うつもりはない。人類はずいぶんと挑発的なゲームを作ったようだが、あくまでも平和的に動いているに過ぎない」

 

 

 ギュンギュンギュン……千賀子の眼前に出現する、念動力。それは、直撃すれば、宇宙船の母艦すら無事では済まない。

 

 

「我々は、この星の人間の事を調査していた。貴女に差し向けられた怪獣たちよりも、ずっと前から。そして、分かったのだ。我々が手を下さなくとも、いずれは勝手に自滅するということに」

 

 

 加えて、千賀子の『力』は……眼前の宇宙人だけでなく、その宇宙人が所属する宇宙艦隊へと向けられる。

 

 そこに、距離は関係ない。既に、一度は似たような事を経験している……しばらく寝込むだろうが、やりようは、ある。

 

 

「ゆえに、我々は何もしない。貴女が寿命を迎えてから100年ほど待てば、勝手に……あの、聞いてます?」

 

「言いましたよね? 我々は何もしないと。挑発されているのに、何もしないと……あの、ねえ、信じて?」

 

「頼む! 頼みます! 何もしませんから! 誰かを傷付ける予定はありませんから、それを仕舞ってください!」

 

「お願いだ、信じてくれ、巫女殿! 我々を信じてくれ!!!」

 

 

 なにやら、土下座まで始めた……それでも構うことなく『力』をギュンギュン貯めていると。

 

 

「ち、千賀子殿、ここは穏便に! 白旗を上げている相手への追い討ちは、紳士淑女ではござりまするぞ!」

 

 

 どういうわけか、王からも懇願されてしまったため。

 

 

「……命拾いしたな」

 

 

 ひとまず、千賀子は『呪い』へと形を変えようとしていた『力』を解除して、納めたのであった。

 

 

 

 

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