ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第194話: なお、何事も既に地球の言葉で思考するようになった模様

 

 

 グイーッと、コップのふちギリギリまであった清酒を一気飲みした宇宙人の彼は……酒臭い息を吐きながら、ガンっとコップをちゃぶ台に叩きつけた。

 

 

「ほんと、やってらんねーっすよ!」

「お、おう……君も大変だったんだね」

「そうなんすよ、本当に大変なんすよ、本隊のやつらは頭でっかちでバカなんすよ!」

「ま、まあまあ、おつまみもあるから、ね?」

 

 

 初見時はよく見ていなかったので気付かなかったが、部屋の隅に転がっている一升瓶の数に視線が止まったのは、30分ほど前。

 

 泣き喚く彼の様子に違和感を覚えた千賀子は、そのままなし崩し的な流れでお酌する形になり……うん、まあ、アレだ。

 

 

 ──結論から言おう。

 

 

 『The・宇宙人』みたいな見た目をした全身銀色で黒い目がパッチリで、なんか両脇抱えられている写真が撮られていそうな彼は、けっこう微妙な立場にあった。

 

 有り体にいえば、名ばかりの役員みたいなものだ。

 

 人間の感覚で表すと、僻地に勤めている、役職は所長だけど、いっこうに本社からUターン辞令が来ない、名ばかりの役職持ちであった。

 

 

 その経緯がまた、涙を誘う。

 

 

 彼の種族は、生物としては極々ありふれた侵略性の種族である。

 

 生存競争に勝利し、様々な資源を得て、発展し、また次を……という感じで、そこだけを見れば人間と大差が無い種族だ。

 

 違うのは、文明の発展度とか生態とかだが、とにかく社会構造としてはそこまで特異なモノではない。

 

 で、そんな彼らの種族は、繁栄するために手頃な星を見つけては、採算が黒字になりそうなら侵略していたわけだが……当然ながら、そんな都合の良い星が次々に見つかるかと言えば、そんなわけがない。

 

 宇宙というのはとんでもなく広大であり、地球の約109倍の大きさがある太陽ですらも、宇宙全体から見れば砂粒よりもはるかに小さい。

 

 その小さい太陽よりもはるかに小さい星、その中でも資源が豊富かつ危険性が低い星ともなれば、それはもう宝くじの1等を当てるよりも低確率である。

 

 しかも、そういう星は人気がある。

 

 様々な方法で宇宙を自由に行き来しているのは、なにも彼の種族の専売特許ではない。当然ながら、全ての大原則、早い者勝ちなのだ。

 

 

 では、どうするか? 

 

 

 答えは、先んじての場所取り、である。

 

 もちろん、後先考えずにそんな事をすれば、採算どころの話ではない。

 

 本隊や母星から離れ過ぎているような場所に在れば、そこに向かうだけでもコストは掛かるし、万が一敵対勢力とぶつかってしまえば、大損どころの話ではない。

 

 では、どうするかと言うと……少数名を先んじて派遣するのだ。

 

 周辺に敵対勢力の影があるか、現地生物の発展度合いはどうか、大気や気候の問題はあるか……等々など。

 

 つまり、現地の事前調査であり、要は先に唾だけでも付けとけ、というやつだ。

 

 まるっきり放置するわけでもなく、かといって、本腰を入れてやるわけでもない……そういう任務であり、とても重要な任務でもあった。

 

 ……が、しかし、そういう仕事(あるいは、任務)は人間社会と同じく、だいたい人気が無い。

 

 なんでかって、それはだいたい長期に渡る仕事でありながら、何時終わるのかが分からない場合が多いからだ。

 

 昭和のこの頃にも、『長期出張=出世』というのは有ったわけだけれども、本社の状況によっては事前に聞いていた話が変わって先送りにされてしまう……というのも、けして珍しくはなかった。

 

 ましてや、彼らの種族は寿命が長い。

 

 そんなわけだから、出張期間は平気に50年でも100年でも伸ばされてしまう時があり……千賀子の眼前にて、くだを巻いている宇宙人の彼も、そうだった。

 

 最初は、我慢すれば出世して……という感覚でこの辞令を受けたはいいが、そこからが悪かった。

 

 引き伸ばし、先送り、言葉は色々あるけど、内容は同じ。

 

 権力の勢力図が入れ替わったりナニカ事が起こるたび、母星より遠く遠く遠く離れている彼は……言ってはなんだが、戻っても扱いに困る立場だから、あの手この手で放置されっぱなしであった。

 

 

 これには、彼もけっこう腐ってしまった。

 

 

 せめて、定期的な補給が成されていたらまだ気力を保てたのだが、最後に補給を受け取れたのは120年も前のこと。

 

 この手の任務における通常の補給は、だいたい30日に一度。その前から途絶えがちだったところにコレだから、そりゃあもう彼の心境は言葉で表せられるものではない。

 

 通信で文句を言おうにも、『緊急時以外の通信使用は軍事法廷に掛ける!』と脅された挙句、回線を閉じられてしまったので、向こうからの通信しか受診できなくなった。

 

 

 これには頭に来たのだが……けれども、彼には何もできなかった。

 

 

 母星に戻ろうにも、『地球』はあまりにも離れ過ぎていて戻るための宇宙船が無い。

 

 この星に着た時に使った船はあるのだけど、さすがに年月が経ち過ぎていて、そこまでの長距離移動に耐えられるかが不安である。

 

 多少なりメンテナンスはしていたが、専用の設備など無いうえに、この星の科学力ではどう足掻いても作れないので……結果、彼は帰還を諦めてこの星に骨を埋めるしかなくなったのである。

 

 

「最初の頃は、色々ありましたけど……気付けば、けっこうこの星にも愛着が湧いてきちゃって……」

「星だけ?」

「人間は良いやつも居れば悪いやつも居るっすからね。俺を見た瞬間化け物だと襲ってきたやつも居ましたけど、孤独な俺を憐れんでパンや握り飯を持って来たのも、同じ人なんすよね」

「う~ん、あまり否定はできない」

「実は、このアパート自体がカモフラージュした宇宙船なんすよ。とにかく隠れるのに特化しているんで、おたくのロボ子さんとやらが見付けられなかったのも仕方ないっす」

「なるほど……」

 

 

 そうして、時は流れ……彼はすっかり、地球在住の宇宙人として、人間社会に紛れてひっそりと暮らすようになっていた。

 

 なにせ、向こうがこっちを捨て置いたのだ。

 

 なら、こっちが向こうを捨て置いて何が悪い、というやつで。

 

 ぶっちゃけると、開き直りでしかないが……とにかく、なんだかんだと諦め受け入れた彼は、あちらこちらに流れたり、しばらく腰を落ち着けたりしながら、その日暮らしを送っていたのであった。

 

 彼自身の気質もあるが、住めば都という言葉があるように、彼はすっかり地球の暮らしに身を浸していた。

 

 彼が知る科学力からすれば、あまりにも全てが原始的……しかし、そこにある種の『侘《わ》び寂《さ》び』を見出していた彼にとって、まさしく住めば都であった。

 

 何もかもが非効率、だからこそ良いのだと……そういう心境に至っていた彼にとって、もはやここは第二の故郷になっていた。

 

 

 ……そんな時であった。本隊より、通信が届いたのは。

 

 

 最初、彼はそれがなんなのか思い出せなかった。

 

 なにせ、最後にその装置が動いたのは100年以上も前だ。いくら寿命が長い種族とはいえ、嫌な思いもあったから、忘れてしまって当たり前である。

 

 で、色々な意味で四苦八苦しつつ、本隊より届いた罵声と怒声混じりの辞令を聞いた彼は……それはもう、仰天した。

 

 なんでかって、彼はもうすっかり自分を地球在住の宇宙人という認識で、本来の任務をきれいさっぱり忘れてしまっていたからだ。

 

 

 と、同時に、彼は困り果てた。

 

 

 何故ならば、辞令の内容は『地球の詳細な状況を迅速に報告せよ』というもので、今さらそんな事を言われた理由は、『資源回収が急務』以外にないからだ。

 

 おそらく、母星や本隊は敵対勢力の攻撃なり何なりを受けて手痛いダメージを負ったのだろう。

 

 そのダメージを回復するために、とにかく片っ端から資源を回収しようとして……たまたま、100年以上も放置しっぱなしのこの星を思い出し、現地に派遣してある己を思い出して、連絡してきた……という話である。

 

 当然ながら……彼は、そんな辞令を素直に受けるつもりはなかった。

 

 本隊が到着すれば、彼が愛したこの星は、滅茶苦茶になる。思い出の地も、思い出の人達も、何もかもが根こそぎ奪われ……後には、荒廃した大地しか残らないのは明白であった。

 

 

「……それで、嘘の報告書を提出したの?」

「そうっす。幸いにも距離だけはありますんで、それっぽい報告書を提出すれば諦めるだろうなと思って……」

「……信じてもらえなかった?」

「そうっす。いや、捨て置かれた身っすけど、さすがに生まれ故郷の事なんぞ知らん……っていうほどではなかったんで、真面目に『ここに侵略するのはヤバいぞ』って何度も念押ししたんすよ」

 

 

 グイーッと、昔話を初めてから15杯目となる清酒に喉を鳴らした彼は……チラリと、部屋の隅でニヨニヨ笑っている『女神様』を見て、ブルブルッと背筋を震わせた。

 

 そう、いくら愛想を尽かしたとはいえ、生まれ故郷。

 

 さすがにそこまでの恨みがなかった彼は、真面目に報告書を提出したのだ。

 

 

 曰く、『絶対にここに攻め入るな、我ら種族が全滅するぞ!』、と。

 

 

 どうやら、彼らの間では、女神様のような存在を『絶対的上位存在』というような言葉であらわすらしく、彼はちゃんとその事を伝えた。

 

 曰く、『初めてあの御方の存在を確認した時、冗談抜きで俺は腰抜かした挙句、小便と大便垂れ流したっすよ』、とのことらしく。

 

 とにかく、女神様がこの星に居る時点でどう足掻いても勝ち目なんてないわけだから、諦めて他を探せ……という内容を、実に畏まった調子で報告したわけである。

 

 

 ……のだけど、事は彼が思っていたようには進まなかった。

 

 

 結論から言えば、本隊や母星は彼の報告を欠片も信じなかった。

 

 それどころか、任務放棄で遊んでいるのかと逆に問い詰められたぐらいで、軍務法廷に掛けるとかいうバカみたいな話に発展したのだ。

 

 そこに、『お前は信用ならん!』と鼻息荒く送られてきた先発調査隊が……最近日本で大流行の『インベーダーゲーム』を発見し、激昂。

 

 

 ──『彼は既に敵の術中にある! 速やかに侵略すべし!』

 

 

 と、何を思ったかそのような報告が成されたようで。

 

 彼の報告は全て『敵のフェイクだ!』という認識になってしまい、もうどうにもならなくなっていた……というのが、彼が語った今に至るまでの経緯であった。

 

 

 ……一つだけ擁護するのであれば、母星や本隊が彼の報告を信じなかったのも、致し方ない理由がある。

 

 

 というのも、『絶対的上位存在』というのは、狙って会える存在ではない。

 

 それこそ、彼の母星でも前回接触できたのは約3700年も前のことで、その時ですら、本当に偶発的に遭遇しただけで、一べつしただけで会話すらされなかった。

 

 唯一分かっているのは、『絶対的上位存在』は、あらゆる物理法則の外側に居る、ということだけ。

 

 だから、彼の種族に限らず、宇宙に生存圏を広げた種族の中で、その存在を感知出来た者は、例外なくソレを『触るな危険!』として扱い、近寄ってはならぬモノとしてきた……まあ、つまり、だ。

 

 身も蓋もない事を言っちゃうと、そんなの映像装置の故障かナニカじゃん、と考える者が出てくるわけで……残念ながら、彼の母星や本隊の大多数は、そのような考えになってしまったわけであった。

 

 

「もう俺にはどうにもできないし、人間たちにこの事を伝えたところで、勝ち目なんて0%だし……だからまあ、こうしてヤケ酒していたわけなんすよ……」

「ふ~ん……それなら、最初のアレはなに?」

 

 

 最初のアレとは、部屋に押し入った千賀子に対しての口上である。

 

 

「あぁ、それならマニュアルっすよ。こういう時には、こういう言い方で主導権を握りましょうってのがあるんすよ」

 

 

 尋ねたら、彼は振り返り……部屋の隅にまとめて置かれている、『ねじねじクロワッサン』という雑誌の下から、一冊の本を取りだし、千賀子へと差し出した。

 

 

「……『絵で解説・正しい侵略応答術!』……え、なにこれ?」

 

 

 それは、日本語で書かれた本であり、中にはイラストもたっぷり描かれていた。

 

 

「だから、マニュアルっすよ。マジで焦ったっすよ、マニュアル通りにやっているのに、問答無用で来られたっすから……」

「いや、そりゃあ、そうなるでしょう」

「俺もそりゃあ訓練は受けましたけど、もう遠い昔の事ですし……正直、階級は下から数えた方が早かったんすよ」

「なんでこんな任務を受けたのよ」

「だって、この任務を終えたら4階級特進っすよ。4階級も上がれば軍属年金も桁が違いますし、退職金も新築を建てられるぐらいっすから……我慢した後は、田舎の方に家を建てて、のんびりスローライフでも送ろうかなって……」

 

 

 ──まあ、結果的には今がスローライフみたいなもんっすけど。

 

 

 苦笑と共にそうこぼした彼は、コップに残った清酒を飲み欲し……さて、と背筋を伸ばすと、千賀子へと向き直った。

 

 

「なんで、申しわけないっすけど、俺ではどうにもできません。滅ぼすんなら、滅ぼしてやってください。俺は見て見ぬふりをしますんで」

「私はそれで構わないけど、良いの?」

「いいっすよ。もう義理は果たしましたし、もう気持ちはこっちにあるんで。俺自身は低階級の生まれなんで、正直ろくな思い出もないっすから」

「そっか……うん、わかった」

 

 

 一つ、頷いた千賀子は……それから、改めて千賀子の方からも尋ねた。

 

 

「ところで、長くこの星に居るってことは、彼女とか彼氏とか伴侶は作ったの?」

「ん? 作ったっすけど、なんか駄目だったっすか? 俺っちの種族、基本的に無性なんで、任意でどっちの性にもなれますし、姿もある程度は自由自在っすよ」

 

 

 無性……と言われて、千賀子は彼の全身を見やり、頷いた。

 

 

「いえ、別にそれはあなたの自由だから何も言わないわ。ただ、年齢差とか色々あるでしょ?」

 

 

 変身してみせようとする彼を抑えつつ、そう尋ねれば……彼はしばしの間困惑した後に、「あ、そういう事っすか」納得した様子で手を叩いた。

 

 

「心配ご無用っすよ。俺っちたちの感覚だと、人間はあまりに若すぎてそんな気にならないっすから」

「若い?」

「はっきり言えば、70歳以下は若すぎて……その、こっちの方が立たないし濡れないしで、そんな気にならないっす」

「……そうなの?」

「そうっすよ。いや、俺っちが言うのもなんすけど、俺自身は若い子好きというか、そういう性癖っすよ。それでも70歳以下は……こう、なんと言いますか、いくらなんでも若すぎると言いますか……」

「そ、そうなんだ……」

「先日亡くなりましたけど、近所に住んでいた80歳のお爺さんは可愛かったっすよ。一緒の布団に入りやすと、抱き着いて胸を吸って来るのが赤子みたいで特に可愛かったっすね」

 

 

 そう朗らかに笑う彼……いや、彼女か? 

 

 とにかく、言動にも内心にも、本当に偽り無い。

 

 まあ、任務の50年100年の延長を我慢できる時間として認識するあたり、人間の50歳60歳は、子供にしか思えないのだろうが……。

 

 

「俺っちとしては、本当に侵略とかそんなの過去の話なんすよね。せっかく、ここ最近はドラマも漫画もアニメも次々面白いのが出てくるから、余計にそう思うっすよ」

「──なんと! 某もそう思うでござるか!?」

「ん? お~、あんたもそう思う? いやぁ、ここ最近はこれまでになかった作品が続々と出てきて、まさにこれからって時に侵略がどうとかっす、そりゃあヤケ酒もするっすよ」

「分かるでござるよ~!! まさに今が旬! 脂がノリにノッて、これからどんどん発展していきますぞ~って時に、出足を挫かれたも同然ですからな!」

「そう! そうなんだよ……本当にこれからって時なのによ~……!!!」

 

 

 とりあえずは、だ。

 

 なにやら気が合うのか、あっという間に仲良くなっている、『宇宙からの侵略者』と『異次元からの侵略者』を横目で見やりながら。

 

 

(どんな場所でも、人種どころか種族が違っていても、友情の華は生まれるのだな……)

 

 

 そう、千賀子は心の中で、2人(?)の友情が続くのを祈りつつ。

 

 

(と、なると、敵は宇宙からやってくる本隊だけか……)

 

 

 チラリと、意識を……空の彼方へと向けたのであった。

 

 

 

 

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