ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第196話: 陰謀渦巻くアメリカよりも、千賀子にとっては名前の方が大事

 

 

 ──1979年(昭和54年)というのは、これまでと同じく日本のみならず、世界的にも波乱万丈の1年と言っても過言ではない年である。

 

 

 まず、日本では、前年に続いて『インベーダーゲーム』は大流行の一言。

 

 作っても作っても足りず、出した傍から右から左に売れる流れるように売り切れが続出し、値段を倍に挙げてもすぐさま売り切れるほどの盛況っぷりであった。

 

 まあ、それも致し方ない。

 

 これまで、大多数の人達にとって、コンピューターというのは未知の領域でり、コンピューターゲームに至っては未来の世界であった。

 

 広義に解釈するなら家電もコンピューターの一種なのだが、コンピューターゲームという分野そのものが未知過ぎて、誰もが度肝を抜かれてしまった。

 

 有り体にいえば、大阪万博でしか見られなかった未来の世界が、すぐ間近に現れたようなものだ。

 

 それゆえに、ハマったのは子供だけではない。

 

 大人も例外ではなく、硬貨の束を常備する者が続出し、仕事をサボってゲームセンターに入り浸る者が続出した。

 

 現代では信じられないが、この頃は携帯電話はおろか、GPSなんてものはなく、一度社外に出てしまえば、社内の人に素行が気付かれるなんて事はそうなかった。

 

 

 もちろん、バレる時はバレる。

 

 

 現代とは違い、『プライバシー? 食い物?』みたいな頃なので、思いもよらない方向からバレてしまって……ってのがそれなりにあった。

 

 今では滅多に見られなくなったが、この頃は外回りの営業職が喫茶店でサボっていたり、タクシー運転手が公園傍にて車内お昼寝をしていたり、そういう姿がそれなりに見られていた。

 

 言い換えれば、そういう者が仕事をサボってゲームセンターに突入しているわけで……とにかく、後に行政が動き出すほどの盛況なのであった。

 

 

 さて、話はそれだけではない。

 

 

 1月、群馬県~新潟県を繋ぐ上越新幹線のトンネルが貫通した。開通ではない、貫通である。

 

 線路を敷いたり諸々の全てが終わって運行が始まるにはまだ月日を必要したが、この貫通まで約8年の月日が掛かって大勢の死傷者を出したのだが、それでも貫通させることに成功させた。

 

 また、同月には大阪の三菱銀行にて猟銃を用いた人質立てこもり事件が発生。

 

 警官2名、職員4名を射殺し、最終的には犯人も射殺されることになるシリアルキラーであり、後に別の強盗事件を起こしていたことがわかった。

 

 4月、富山県にて大規模火災が発生。

 

 強風に加え、火元が木造住宅が密集していたこともあって瞬く間に延焼してしまい、最終的には被害額が10億を超える、明治以来の大火となった。

 

 7月、静岡県と焼津市(やいづし)をまたぐ東名高速道路のトンネルにて火災が発生。

 

 原因は多重衝突事故による車両火災であり、ガソリンや積荷の引火、通報の遅延、消防隊到着の遅延、貯水槽の不足など様々な要因が重なり、死者7名、車両全焼170台以上、鎮火まで60時間以上を要する大事故となった。

 

 10月、観測史上において非常に低い気圧(870hPa)を記録した台風20号(国際名:チップ)が日本列島を通過し、北海道に相当な被害をもたらした。

 

 ちなみに、この台風はカテゴリー5。風の強度を表わす1~5段階の基準の中で、最大値である5をマークしたのだから、いかにとてつもない台風だったかが窺い知れるだろう。

 

 他にも、11月には北九州市においてバラバラ殺人事件が発生するなど……とにかく、いつもの事ながら平穏とは言い難い年でもあった。

 

 

 なお、日本がこうなのだから、世界は世界で色々あった。

 

 

 たとえば、3月にはアメリカ合衆国ペンシルベニア州にある

 

 スリーマイル島原子力発電所で発生した重大な原子力事故(メルトダウン)。

 

 5月にはヨーロッパ及び先進国初となる女性首相が誕生し、その保守的かつ強硬な政治姿勢から『鉄の女』という異名が生まれた。

 

 11月には、イランにてアメリカ大使館が人質事件が発生。12月にはソビエト連邦がアフガニスタンに侵攻するという戦争が始まった。

 

 他にも、様々な場所で立てこもり、占拠、テロ、その他いろいろな事件が発生したが、とにかく、けして平穏とは言い難い年であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、しかし。

 

 それらはあくまでも、千賀子の前世の話。

 

 

 今生の世界では既にソビエトは色々あってロシアになり、アメリカだって女神的不思議出来事により何故かベトナム戦争が終結しているのに終結していないようなダメージを負い。

 

 他にも、千賀子の前世では起きていなかった変化によって、色々なところが変わっているのだが……話の流れには関係なので、詳細な説明は省く。

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 結局、親が名乗り出ることがなく、そのまま養子手続きを取る事になって家族が増えた……ので、そちらに目を向ける暇なんてあるわけもなく。

 

 

「ふぇ、ふぅぇ……(涙チャージ)」

「お~、よちよち。どうちまちたか、エマは寝ちゃってまちゅからね~、声は静かにね~(声を潜め、音を立てず素早く境内へ)」

「びぇ、え~ん、え~ん」

「元気に泣きまちゅね~、何かにビックリしちゃったんだね~……分身たちが居なかったらノイローゼになるね、これ……(あやしながら、軽く苦笑する)」

 

 

 時刻は、深夜3時。

 

 いくら意気込んでいるとはいえ、エマはまだ小学2年生。

 

 さすがに夜泣きする赤子の世話は無理で、母親としてそんな無理をエマにさせられるかと思っているので、夜泣きは千賀子たちが対応している。

 

 意気込みは買うけど、冷静に考えて年齢一桁の子供に夜泣き対応しろってのは無理でしかない。

 

 エマがやる事は、手が空いている時にオシメの取り換えや、を抱っこしたりして落ち着かせたり、そういうこと。

 

 

 それで、十分なのだ。

 

 別に、失敗しても良いのだ。

 

 

 布オムツの巻き方が甘くてオシッコが漏れだしたり、なんなら引っかけられたり、あやそうとして逆に泣かせたり、それもまた経験である。

 

 誰だって、いきなり常に正解だけを選び続けられるわけがない。

 

 どれだけベテランな保育士であろうが、どれだけベテランな職人であろうが、失敗する時は失敗するし、間違ってしまう時は間違ってしまう。

 

 違うのは、『まあ、そういう時もあるよね』、という、ある種の諦めの境地である。

 

 どれだけ神経を注いだところで、相手は生き物。それも、繊細極まりない赤子である。

 

 どこかでミスは必ず起こるし、それを止める手立てはない。それこそ、因果を操るような存在でなければ。

 

 極論を言うなれば、事故を未然に100万回防いだところで、100万1回目の対処が間に合わなかった……という当たり前が起こってしまうものなのだ。

 

 実際、千賀子にとって初めての子育てであるエマに対しても、失敗談はいっぱいある。

 

 

 たとえば、授乳中に瞬間的に寝落ちしてしまい、ゲップを出させるタイミングを逃してゲロッと母乳を吐き出させてしまったり。

 

 たとえば、オムツの交換が終わった時に片付けようとした際、ポロッと隙間からうん○が落ちて、エマの顔面に……とか。

 

 たとえば、夜泣きが酷くていっこうに泣き止まず、どうしたものかと困っている時にツルッと足を滑らせ……尻餅をついて、激痛に悶絶したり。

 

 たとえば、ちょっと目を放した一瞬の隙にお風呂へと突入し、ダイナミックダイブを決行しようとしたところをスライディングキャッチしたり……とか。

 

 たとえば、夜中に唐突に『ひゅう……』という声が聞こえ、まさか寝返りで窒息かと飛び起きたら、ただ唇をすぼませていただけとか。

 

 

 とにかく、思い返せばあの時はこうやって気を付けた方が良かったなあ……という点が後から後から出てくるのが育児であり。

 

 一瞬の不注意で取り返しのつかない事になるのが育児だけど、同時に、意外と大雑把なやり方でもなんとかなるのが育児なんだな……ということを身に染みて実感するのもまた、育児である。

 

 

 ……ちなみに、最後の話だが。

 

 

 勢い余ってベビーベッドに頭から突っ込み、驚いて泣き出したエマを、流血しながらあやす(なお、血のせいで目が開けられない)という、すごい絵面になったが……まあ、それはまだエマは知らなくていい話である。

 

 とにかく、だ。

 

 常に分身たちが目を光らせているが、100%安全な無菌室の中でなければ生きられないわけではない。

 

 だからこそ、教育も兼ねて、千賀子はエマにも出来る範囲で育児に参加させ、経験を積ませているわけであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………もちろん、忘れてはいけない事がある。とても、大事な事だ。

 

 

「……ねえ、ママ」

 

 

 タイミング良く、赤子が寝ているうちにエマが起きてきたので、手早く朝食を済ませた後。

 

 まるで見計らったかのように起き出してすぐお乳の催促を始めた、その小さな口に乳首を押し込んだあたりで……ポツリと、エマが話し掛けてきた。

 

 

「私も、赤ちゃんのお乳って出る?」

「ん~、大人にならないと出ないかな」

「そうなの? おっぱい吸わせたら出てきたりしないの?」

「出ないのだよ、それが……」

「出ないのか~」

「出ないのだ~」

 

 

 残念そうに、両手両足を丸めて香箱座りをするかのような体勢で畳に額を埋めたエマは……むくりと、顔をあげた。

 

 

「ねえ、ママ」

「なぁに?」

「ママは、お世話大変じゃないの?」

「ん?」

 

 

 言わんとしている事が分からず首を傾げる千賀子に、エマは……どこか気まずそうに顔を伏せた。

 

 

「ママ、いつも私より早く起きているでしょ?」

「そうだね」

「夜だって、私より遅く起きているでしょ?」

「そうだね」

「ご飯だって作るし、一緒にお風呂に入るし、オヤツも作るでしょ?」

「そうだね」

「ママは、いつ遊びに行くのかなって。いつお休みするのかなって。嫌だなぁ、やめたいなぁって、思わないの?」

「ん~、大変だなぁって思う時はあるけど、辞めたいって思った事は一度もないよ」

「……どうして?」

「だって、幸せなんだもの」

 

 

 心底不思議そうに首を傾げるエマに……千賀子は、にっこりと満面の笑みを浮かべた。

 

 

「エマが居るから、いつもママはエマより早く起きる」

「うん」

「夜だって、エマより遅く起きているのも、赤ちゃんのお世話があるから」

「うん」

「エマのためにご飯を作るし、エマがもうちょっと大きくなるまでは危ないから一緒にお風呂に入るし、オヤツだって用意する」

「うん」

 

 

 そこまで頷いたのを見て、「もしも、エマが居なかったら……」千賀子は言葉を変える。

 

 

「ママは、早起きしなくてもいい」

「うん」

「夜だって、早く寝てもいいし、テレビを見て起きていてもいい、いつ寝てもいい」

「うん」

「ママが食べたい好きなモノを好きなだけ作ってもいいし、好きな時間にお風呂に入ってもいいし、オヤツだって好きなモノを用意してもいい」

「……うん」

 

 

 ちょっと、ショボンと気落ちし始める愛娘(エマ)の頭を。

 

 

「でも、ママはそんな毎日は幸せじゃないんだよ」

 

 

 千賀子は、そっと撫でた。

 

 

「エマが居るとね、できないこともあるし、我慢しなきゃならないこともある。でも、それが幸せなんだよ」

「……? 我慢するのに、幸せなの?」

「そう、幸せなの。そういう我慢の日々がね、幸せだと思えるようになったのは、エマのおかげなんだよ」

「ふ~ん……どういたしまして?」

 

 

 くすぐったそうにしつつも、よく分からないと首を傾げるエマに。

 

 

「エマも、何時か分かる日が来るよ」

「そうかな?」

「そうだよ、ママはお見通しだからね」

 

 

 千賀子は、もう一度笑みを向けたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 表向きの記録では何もないとされている、アメリカ国内の、とある森の中に作られた研究施設。

 

 それは、極秘に作られた施設でありながら、アメリカ内の科学力……すなわち、アメリカの資金がたっぷり注ぎ込まれた場所である。

 

 人的にも、機械的にも。

 

 注ぎ込まれた金額は、億ドル単位。

 

 集められているメンバーは、様々な組織においてNo.1を務められる頭脳を持った天才たちで……ひとたび講演を開けば、あっという間に席が埋まる著名な者たちばかりである。

 

 そんな者たちが、一堂に会している。

 

 分かる者が見たら、いったい何の集まりかと目を見開いていただろう。しかも、集まっているのは学者だけでなく……政府高官や、軍部の上官も混ざっていた。

 

 いったい、どうしてか? 

 

 それは、この施設が『とある目的』のために作られたからで、そこには政府の息が掛かっている。そしてそれには軍事的な話も絡んでくる以上、軍部もまた出席しているわけである。

 

 

「……まだ時間には早いですが、御集まりいただきましたので、予定通り始めたいと思います」

 

 

 その中で、施設代表を務める(つまり、所長)、立派な顎ヒゲを生やした老人の宣言に合わせて、パッとスポットライトが集中する。

 

 それは、テーブルに置かれたガラスケース。その中には、植木鉢が一つ。

 

 鉢に刺さっているのは、スルリと伸びた枝葉で……だが、ただの枝葉ではない。

 

 注意深く見れば、その枝葉は植物ではなく、金属で出来ているのが分かるだろう。

 

 つまり、その外見は、『金属で作られた枝葉が植えられた鉢』である。何も知らない者からしたら、独創的なアートの一種かと思われるだろう。

 

 

「──結論から述べましょう」

 

 

 だが、違う。

 

 そして、これこそが、この施設が作られた理由なのだ。

 

 

「月より持ち帰ったこの『金属の植物』、通称『シャイニング』は、生きています。今もごくわずかではありますが、成長しているのが確認されました」

 

 

 そう、かつて計画され実行され、現在では終了している『アポロ計画』にて、『Moon-X』への接触にて偶発的に手に入れた……人類にとって、この地球にとって、未知の物質であり植物。

 

 この施設では、いや、アメリカは、暗い中でも輝いているように見えるその姿から、この植物を『シャイニング』と名付けた。

 

 

「年単位の観察期間を経て、これが観測機器の故障や誤差の範囲ではない、明確に生きている金属であることは確認されました」

「既に報告書に目を通されているという前提で話を進めますが、先日、『シャイニング』より実が一つ落ちました」

「熟して実ったというよりは、発育不良のため未熟な状態で身が一つ落ちた……という可能性が高い。しかし、これまで枯れる可能性を恐れた我々は、手出し出来なかったこの『シャイニング』の一端に初めて触れました」

「そして、分かった事が二つ」

 

「──一つ」

「『シャイニング』の実は、ただの金属ではない。この地球上では確認されていない未知の物質……それも、無限の可能性を秘めた金属だったこと」

「──二つ」

「現状、『シャイニング』に類似した植物は、この地球上では見つかっていないということ。何故ならば、『シャイニング』の群生地が見つかっていたならば……人類の科学力は、今の50年、100年は先に進んでいてもおかしくないからです」

 

「はたして、『シャイニング』は月面固有のモノなのか、あるいは『プリンセス』だけが所持しているモノなのか……それは、現時点ではわかりません」

「しかし……これだけは、確証を持って言えます」

 

 

 所長は、緊張を解すかのように顎ヒゲを撫でながら……ポツリと、結論を述べた。

 

 

「『シャイニング』の群生地を見つけ、その独占に成功し、栽培を可能にした先には……我がアメリカは、今後500年に渡って絶対的なリードが崩れることはないでしょう」

 

 

 そして、その指先が……ガラスケースの隣に置かれた一枚の写真……『月』を写したそれを指差した。

 

 

「目指すは、月です。もう一度、あの『プリンセス』との接触をしなければなりません」

 

 

 その場に居た、全員の視線が……その写真へと、向けられたのであった。

 

 

 

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