ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第197話: 秘書「お労しや……」

 

 

 さて、1979年にて新たに子育ての年を迎える(というか、始まり?)千賀子だが、世界というのは何時だって、千賀子の都合など考えずに動くものである。

 

 

『──と、いうわけなんだ』

 

 

 今回の始まりは、珍しく(というか、始めて?)総理(名前が違うのだ)の方から千賀子が住む『神社』へと電話が掛かってきた事からだった。

 

 秘書でも側近でもなく、田中総理直々のお電話である。

 

 この頃にはもう、一般家庭でも固定電話を置く家が多くなっており、共同スペースを使う下宿などを除けば、だいたいの家には固定電話が置かれていた。

 

 各家庭に1台というレベルにまで普及したのは1980年代に入ってからであり、『神社』にも電話が置かれていた。

 

 なお、電話線の類は一切繋がっていない。繋がってはいないのだが、どういうわけか世界中のあらゆる場所と通話が可能(逆探知不可)とかいう、考え出すと怖くなる仕様である。

 

 ちなみに、実は現代では当たり前になったコードレスホンのれレンタルが始まったのも、1979年だったりする。

 

 1970年の大阪万博でお披露目された『コードレスホン』が、10年と経たないうちに一般家庭へと……いかに、当時の日本が目覚ましく成長していたのかが窺い知れるだろう。

 

 

「……え~っと、つまり」

 

 

 けれども、そんな日本の成長をググッと、頭からハンマーで叩くような……大問題が、この年には起こっていた。

 

 

「第二次、オイルショックが起こる可能性がある、と?」

『──というより、もう起きていると考えていいね』

 

 

 電話口より聞こえる、どこかとぼけた感じの総理の声に、千賀子は……深々と、溜め息をこぼした。

 

 そう、オイルショックと言えば、だ。

 

 一部の庶民がトイレットペーパーを求めて行列を作った1973年の頃を想像するだろうが、実はオイルショックは二度起こっていた。

 

 一度目が1973年ならば、二度目が1979年である。

 

 まあ、より詳しく言うと、前年の1978年の時点でそうなる可能性があったのだが、明確にそれが表に出て来たのが翌年の1979年である。

 

 千賀子の前世の世界において、二度目となるオイルショックの時も、日本経済は打撃を受けた。

 

 ただし、一度目よりも景気の落ち込みは軽微で済んだ。いや、それでも大打撃なのだが、一度目のようなパニックには陥らなかった。

 

 

 理由は、色々とある。

 

 

 第一次オイルショックの影響により減量経営(人を減らす、生産を減らす、など)や、省エネ対策などの浸透により、第一次の時よりも影響が抑えられたからだ。

 

 これは、日銀がいち早く対応に動き、労働組合と企業も協調路線で動いたことで事態を乗り切ることができた……とも言われている。

 

 とはいえ、それでも、だ。

 

 この第二次オイルショックでも第一次の時と同様に、深夜のテレビ番組放送の自粛や、ガソリンスタンドなどの日曜祝日休業などが1983年(昭和58年)まで続き。

 

 第一次の時と同じく、灯油などのオイルを横流ししたり結託して値段を吊り上げようとしたりなどが行われたらしいのだが……まあ、おおむね、第一次よりもダメージは抑えられたのであった。

 

 

「……それで?」

 

 

 しかし、それは千賀子の前世の世界の話。

 

 今生では、千賀子が『スタンド』による積極的努力によって、前世の世界にはなかった余裕がある。

 

 具体的には、オイルとか。

 

 さすがにこれまでと変わらず平常運転できる……とまではいかなくとも、前世の第二次よりもはるかにダメージを軽減できる状態にあった……はずなのだが。

 

 

『──その、出来るならばのお願いなのだが、もう少し……融通できないかな?』

「えぇ……なんでまた?」

『──去年、いや、今年もまだ続いている九州福岡の水不足のニュースは知っているかね?』

「あぁ、アレね」

 

 

 言われて、千賀子は軽く思い出す。

 

 総理の言っているのは、去年より九州の方で続いている福岡大渇水の事である。

 

 昭和53年の福岡地方は異常に雨量が少ない傾向にあり、平均の半分以下、5月に入った時点でダムの貯水率が約19%ほどしかなかった。

 

 これにより、福岡市は5月半ばを過ぎてから給水制限を開始、6月に入ってからさらに締め付けが強化され、完全に断水される世帯もでてきた。

 

 断続的に雨は降ったが全体的に雨量が少ないせいで改善には至らず、断水が解除されるようになるのは1979年の3月頃……実に、約10ヶ月近くも水不足が続いたのであった。

 

 これの何が皮肉って、それだけ長く水不足が続いて危機的状況が続いたと思ったら、6月には愛媛県の方で集中豪雨が発生し、河川の結界や水田の氾濫などが起こった、という点だろうか。

 

 なお、この水不足が今年の3月まで続いたというのは前世の世界での話だが、この世界でもおそらくは同じぐらいになる可能性は高い。

 

 

「……ロボ子、どうなの?」

 

 

 ちょっと失礼──その言葉と共に受話器を手で覆った千賀子の問いに、傍に控えているロボ子は無表情のままに答える。

 

 

「──観測衛星によるデータを見る限り、3月ぐらいまでは完全復旧にはならないかと」

「あ~、やっぱり?」

「無理やり降らせるのは、あまり得策ではありません。その影響は最低でも15年先まで残りますので」

「う~ん、そっか……」

 

 

 さすがに千賀子もそんな事を覚えてはいなかったが、ロボ子からの情報で、この世界の誰よりも先に未来の天気の情報を仕入れていた千賀子は……一つ頷くと、再び受話器を耳に宛がう。

 

 

「岩手に作る予定のダムのこと?」

『──え?』

 

 

 向こうから伝わる、困惑の声。

 

 

「貴女のところの、おざ……いえ、大沢(おおさわ)さんでしたっけ? 岩手の方の、ダムを作る予定だから、その為の工事とかに必要な経費が莫大なのでしょう?」

『…………』

「既に第二次オイルショックが起こっているということは、これから先、再び失業者がドカンと出てくるというわけね?」

『…………』

「なるほど、治水工事というだけでなく、雇用を生み出す意味でも、ここで工事費用が上がるとその分だけ効果も薄まるわけね」

『…………』

 

 

 返事は、すぐには無かった。というか、迂闊に答えられない、といった感じか。

 

 

『……あ、すみません、お電話変わりました、秘書の者です』

「ん? どうかしたの?」

 

 

 と、思ったら、違う人が電話に出た。聞き覚えはないが、秘書の人らしい。

 

 

『それが、急を要する報告がありまして……すみません、終わり次第すぐにお電話を変わりますので、お手数をかけて申し訳ありません』

「いやいや、気にしなくていいわよ」

 

 

 言葉通り、千賀子はまったく気にしていなかった。

 

 総理ともなれば、忙しいのが当たり前だ。

 

 たかが地方に住まう女1人に長々と電話をしている暇など、本来は無いと……千賀子は本気で思っていたから、気分などまったく害してはいなかった。

 

 だが、しかし……そんな千賀子だが、いや、そんな千賀子だからこそ、想像すらしていなかった。

 

 

 この時……総理は、反射的に生じた、きゅ~っとした胃の痛みに、思わず堪えて受話器を離してしまったことに。

 

 

 千賀子が首を傾げている間、総理は……いや、総理の秘書たちの動きは速かった。

 

 穏やかに流れる流水のごとく受話器を手に取り、応対を再開した者……つまり、千賀子との電話口に出た者。

 

 速やかに事前に処方してある胃薬と飲み水を用意し、震える総理を介抱しつつ飲ませる者。

 

 素早くネクタイを緩め、タイミングを見て冷や汗やら脂汗やら掻いている総理を扇子や団扇で仰ぐ者。

 

 実に、その動きはスムーズで、一朝一夕で身に付くようなモノではなかった……御労しや、総理(涙)……!! 

 

 

 ちなみに、だ。

 

 

 総理が急に胃の痛みを覚えたのは、先ほどの千賀子の発言……極秘も極秘な、ごく一部の者たちしか知らない情報だったからだ。

 

 いちおう、岩手の方にダム建設が行われる……かもしれない。

 

 そういった情報は、ニュースでも断片的には流れていた。

 

 だから、目敏く政界や不動産関係、あるいは土木関係へアンテナを張り巡らせていたら、気付くことは可能だっただろう。

 

 ただし、事前の話題が岩手に関してだったなら。

 

 いったい、どういう思考の果てに、福岡の渇水から岩手のダムに思考を飛ばせたのか……そのうえ、そこに大沢の名を出すのは、並大抵の話ではない。

 

 なにせ、大沢はまだまだ政界においては無名。

 

 少なくとも、ニュースで大沢の名が流れた……なんてのは、ほとんど聞いた覚えがない……それを、秋山千賀子という女は一発で秘密を引き当てた。

 

 例えるなら、懐の奥深くに隠しに隠していたジョーカーの中身を、初見の挨拶と共にいきなり暴露されたようなものだ。

 

 あまりにも、心臓に悪い。

 

 そりゃあ、これまで幾度となく超常的な予言(当人曰く、思いついただけ)を聞いてはいたが……道理で、秘書が涙ながらに辞めるわけだと、改めて総理は理解したのであった。

 

 

『……すまない、急な来客みたいなものでね。えっと、なんの話だったかな?』

「ん~、大沢さんって色々マスコミとかから突かれるけど、それはそれとして政治手腕は大したものって話かな」

『……そ、そうだね、彼はやる男だと思っているよ』

「あ、それと、10月ぐらいかな、日本列島を横断する台風が来るから。おそらく、死者が100名を超えるかもしれないから、ちょっと頭の片隅にでも覚えといても損はないかもよ」

『………………』

「ん? どうしたの? もしもし?」

『……お電話変わりました、秘書です。すみません、度々何度も、急を要する報告が……』

「あ、そう? 忙しそうなら、とりあえず伝言を幾つか伝え──」

『す、すぐに変わりますので、はい!!!』

 

 

 そして、また沈黙。

 

 この時、総理はわずか3分と間を置かずに二度目の胃薬を胃袋へシュゥゥーー!!!、してから、脂汗と冷や汗を流し、ちょっと涙目で受話器を手に取って──それから。

 

 

『と、とにかく、なんとかできないかね? 第一次に比べたら抑えられてはいるが、それでも失業者が急増するのは防ぎようがないのだ』

「う~ん……さすがに、今以上は無理かな」

 

 

 率直に、千賀子は首を横に振った。

 

 だって、『スタンド』を使うってことは、そういうことなわけで。今は赤子の世話と、まだまだ甘えた盛りのエマを注視しなければならない時期だ。

 

 しかも、千賀子には……個人的な話だが、非常に重大な問題に直面していた。

 

 マクロの目で見たら取るに足らない問題だが、ミクロの目で見たら……少なくとも、千賀子の目で見たら、それはとんでもなく重大な問題で。

 

 

「元気な家族が増えましてね、名前を考えなくちゃあならんのですよ」

『──な、名前かい?』

 

 

 受話器の向こうより伝わってくる困惑の声に、千賀子は朗らかに答えた。

 

 

「はい、両親にも相談していますが、どんな名前が良いかと、わざわざ姓名鑑定をやっているところに相談に行っているみたいでしてね」

『──ほう?』

 

 

 ちょっと、声色が変わった。

 

 それは怒りというよりは、喜ばしい話を聞いて思わず……といった変化であった。

 

 

「娘の時は私が先走っちゃって名前を付けましたけど、息子は両親にも相談しまして……けっこう、張りきっちゃっているみたいでして」

『──それはめでたい話だ。君のところは家族で考えて名付けるのかい?』

「そういうわけじゃないけど、子にとって、私だけが家族の繋がりではないでしょ? この子にとってはお爺ちゃんにお婆ちゃん、両親にとっては孫ですから……もちろん、私も色々と考えていますが」

『──ははは、そうだね。家族仲良好、これに勝る宝無しだよ』

 

 

 そう、ひとしきり笑い声をあげた総理は……そこで、『──そうだね、頼り過ぎも良くないね』ポツリと告げた。

 

 

『──国家の危機に、1人の助力に頼ろうとするのが間違いだった。君はもう既に十分すぎるぐらい頑張っている、これ以上は欲張りというものだ』

「本当に困っている時は、後ろ暗い事がなければ手を貸しはしますよ」

『──ははは、気持ちだけ受け取っておくよ。それじゃあ、これで電話を切らさせてもらうが、いちおう他に伝言はあるかね?』

「そうね、私としては特に何も。ああ、でも、さっき話した大沢さんだけど、煙草やお酒を控えて、散歩とかして運動するように心がけるようにって伝えといてね」

『──え?』

「たぶんだけど、49歳頃に心臓になにか出てくるだろうからって……まあ、起こらないかもしれないし、深く考えなくていいわよ」

『……か、必ず伝えるから』

 

 

 その言葉を最後に、プツッと通話が切られたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、それより一週間後。

 

 

「……えっと、わざわざ、ここまで新幹線と車で??? 3人掛かりで、保冷剤をここまでして????」

 

 

 大沢の秘書と名乗る者より、『ルピナス』の名が入った箱をお礼として手渡されたのであった。

 

 ちなみに、中はケーキであり。

 

 千賀子よりもエマのテンションが爆上がりし過ぎて、『ずんちゃ・ずんちゃ』と何時ぞやの踊りを披露されたので、千賀子の中では彼に対する印象はかなり良くなったりしたのであった。

 

 

 

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